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18-1  緊急帰還

「ええと、これが今日食べる分のお弁当ね。

 それからこれは皆さんへのお土産よ。大事に持って行ってね」




シアラがオクウミからの緊急通信を受け取った翌日の朝、

オクウミが言っていた高速宇宙船が、惑星エレストラ地表にあるシアラ邸敷地内の宇宙船発着場に降り立っていた。


全長100mはある流線型の銀色をした船体は、いかにも超光速で推進しそうな雰囲気だ。

しかも表面は液体金属らしき物質でコーティングされているらしく、時折脈動するように波紋が浮かび上がっていた。


シアラ邸で朝食を摂った竜司達は、すぐに荷物をまとめて宇宙船前へと移動していた。

サリサとミアナも見送るために竜司やシアラ達に付いて来ている。


「いや、こんなに持たされても食べきれないんだけど…」

「えぇー、そうかしら?

 でも皆さん食べ盛りだから、きっとこの位はペロリと平らげちゃうわよ」

ミアナがシアラに持たせたのは、どう考えてもゆうに十人分はありそうな昼食用のランチボックスである。

竜司達が箱の中身を少し覗くと、中はいかにも美味しそうなサンドイッチやキッシュやミートパイや卵料理、その他のおかず等がふんだんに詰め込まれている。


「おぉー!これは何と美味しそうな!!

 ミアナお母様!感謝であります!!」

東雲が大仰な仕草でミアナにお礼を言った。

しかし東雲が素直な気持ちを表明している事は明らかだったし、その点については竜司達も同じ気持ちだった。

何しろ、あの後でミアナやサリサは残り少ない時間を使って可能な限り竜司達をもてなしてくれたのだ。

それにミアナの料理がこの旅において一番の楽しみであったのは間違いない。




「それではサリサ、ミアナ。

 次にお会いする時まで、壮健なれ」

アルウィオネが、いささか仰々しい言い方で二人に別れを告げた。


「はい、アルウィオネ様もお元気で」

ミアナがふんわりとアルウィオネの手を握る。


「どうせまたすぐに会うでしょーはははっ!!」

サリサはアルウィオネの肩をパシパシと叩いた。


「やれやれ、お主は相変わらずよの」

苦笑い混じりの溜息を吐きながらアルウィオネが二人に頷き返した。




「ミアナさん、本当にここまでして頂いて、感謝の言葉もありません。

 本当にありがとうございました」

神崎が深々と頭を下げて感謝の言葉を述べた。

竜司達も同じく頭を下げ、「ありがとうございました!」と声を合わせた。


「あらあら、私達こそこんな粗末なものばかりで本当にごめんなさいね。

 ちゃんとおもてなし出来なかったのが残念ですわ」

ミアナが、しゅんとしたような面持ちになる。


「い、いえいえ!!もう十分過ぎるほどもてなして頂きましたから!!」

竜司が慌てて首を横に振り、それからサリサの方に向いて言った。

「それに、農園の仕事も途中でほっぽりだすような形になってしまい、申し訳ありません」


「あー!そーんな事を気にしなくても良いよー!!

 こっちはもう十分過ぎるほど作業が捗ったし、凄い助かったんだよーー!!」

サリサが快活に笑いながら言った。


「でも、確か宇宙艇のパターン認識プログラミングも途中だったはずで…」

「ああ、その事についても心配要らないよ!

 実は初日の働きで君達の動作パターンは十分に解析出来てたし、問題ないよ!!」

サリサは竜司に向かってサムズアップした。

「そうですか、それならば良かったです」




「だけどちょっと心残りなのは、時間があれば

 私達が育ててる新しい品種改良品を色々と紹介したかったんだけどねーー!」


「品種改良品、ですか?」

少し興味を引いたのか、神崎が訊いてきた。

「うんうん、神崎さんとか特に興味を持ってくれると思ってたよーー!

 まぁそれは何かって言うとね、

 ちょっとした”バイオメカニカルプラント”なんだけどね!」


「バイオメカニカル…プラント?ですか?」

「そーそー!

 ほら、ウチの農園の第854角セクターに色々植わってるの、神崎さんも見たでしょー?」

そう言えば、と神崎は該当宙域にて植物とも機械ともつかぬ奇妙な構造体が群生していたのを思い出した。


「ああ、あれがもしかして…」

「そう!それ!!

 あれが君達に分かりやすく言えば”バイオメカニカルプラント”と言うカテゴリーの農産物でねー、

 そのうちの何種類かはこの農園で独自に品種改良して生まれたヤツなんだーー!!凄いでしょー!!」


「は、はぁ…」

そう言われても竜司などはあまりピンと来ず、曖昧に頷くばかりだったが

神崎とシアラ、それとなぜか山科が興味を惹いたようにサリサの話を聞いていた。


「そう言えば、前にファージが云々言っていた気がしたが、あれが完成したのか?」

シアラが訊いた。

「うん、そーそー!!」


「ファージって?」山科がシアラに問うた。

「ああ、確かどんな”バイオメカニカルプラント”にでも寄生して、

 遺伝情報などを速やかに吸収したり他の個体に伝達するというヤツだったか」


「ちっちっ!!甘いなスレナ!!」

サリサはシアラの本名を口にしながら、人差し指を立てて横に振った。

「我らがファージ君はそんなちゃちなもんじゃないぞーー!

 『どんな”バイオメカニカルプラント”』じゃなく、『どんな”機械”』だろうと寄生する事が出来るのさーー!」


「機械だって!?」

「そーそー!

 まあ厳密に言えば、電子システムを備えた機械だけどねー。

 そいつは言わば電子ケーブルで出来た触手を対象に絡みつかせて、電子システムへの接続を成立させてから、システム内部のソフトウェアを自在に読み込んだり書き換えたりするんだー!」

「その機械は、人間が作った機械だとかも含まれんのか?」

「もっちろん!でも一番適合しやすいのは機械生命体とかだけどねー!!」


「まるで生物のバクテリオファージみたいね。

 あれも寄生した細菌などの遺伝情報を勝手に書き換えるのだけれど、

 こちらもファージと言うからには、生物の方になぞらえていると言う事でしょうか?」

「おっ、神崎さん流石だねー!!その通りだよー!」

 

「へぇ?って事はー、

 例えばあの宇宙船にもそのファージとやらが引っ付けるってわけ?」

山科は高速宇宙船を指差した。

「もっちろん!!宇宙船だけじゃなくて、ロボットだろうが工作機械だろうが人工知性体だろうが、なーんにでも引っ付いて、ファージ君が持ってる情報を注入したり、逆に吸い出したり出来るんだーー!!」

「おぉー、すごい」


「あのファージ君の本当に凄い所はねー、

 ただ単にそういう事が出来るだけじゃないんだよねー!!」

「というと?」山科が訊いた。


「よく聞いてくれましたっ!

 あのファージ君は、まず物凄い勢いで”進化”する事が出来るんだよー!

 その”進化”というのはねっ、単に量子進化論に従って平行宇宙に無限に連なる遺伝子と相互連携して、最適な適応放散ルートを見出すだけじゃないんだよねー!

 あいつは更に、時間方向でも”振動”して、進化の適格性を”予知”しながら進化するんだよー!!」


「??」

サリサが専門用語を頻発させているお陰で、竜司達にとっては何を言っているのかが完全にチンプンカンプンだ。


「へ、へぇ…何がどう役に立つんだか立たないんだか分からないけど、まぁとりあえず凄そうっすね」

竜司が苦笑しつつ適当な感想を言う。


「いやいや、例の”バイオメカノイド”とかに何か効果ありそうじゃん?」

山科がちょっと小首を傾げつつ言った。

「まぁ、こっちで研究中の”バイオメカノイド”撃退用兵器と似てる感じだけど」




「それじゃ、行ってくる」


全員が高速宇宙船に搭乗し、殿しんがりになったシアラが

サリサとミアナの方に振り向いて告げた。


「おうー!頑張ってこいよー!!」

「気をつけていってらっしゃいね」

「うん」


大きく手を振る二人を背にして、シアラが船の中に入っていき

それから船のドアがパタンと閉じられた。


高速宇宙船は一瞬で浮かび上がったかと思うと、猛烈な速度で上昇を始めていき

みるみる間に成層圏を脱し、亜宇宙に到達した段階でワープドライブを起動させた。


そして、ワープドライブによる虹色の軌跡を付けながら

あっという間に船の影が空間に溶け、消えていった。




「…まったく、いつもの事ながら慌ただしいやっちゃなぁー」

サリサがミアナの肩を抱きながら、虹色の軌跡を見つめていた。


「仕方ありませんよ、そういう育て方を貴方がした訳ですからね」

「おやおや、子育ての責任放棄かなー?いただけませんなー」

「ふふっ、結局二人とも放任主義だったという事かしらねぇ」

「ま、しゃーない。本人の選択もあるだろーし」


そう言うと、サリサはくるっと身を翻した。

「さーさ。

 なーんとなく、予感がするからねー。

 例のプラント、ファージ君達の改良をとっとと済ませるとしますかー」


「確かに、あの子ったら何だかんだ言ってすぐに戻ってきそうですし。

 それじゃ、私も新しい料理の考案でもしましょう」

 



- - - - - - - - - -




同じ頃、アラマキ-7115市にある通称結節体ゲートワールド『イヴァゥト-86』に接続される七つの星門ゲートの手前にある空間において、

”ヤマトクニ”宙域軍所属の銀河外縁宇宙艦隊第278任務部隊が緊急集結していた。


既に部隊の再配置が済み、これから星門ゲートを潜って『イヴァゥト-86』を経由してから、”起源世界線”たる17=5-47-664-27-3=15世界の地球近傍空間へとワープを行う予定になっている。




「シルヴィオス提督。

 全ての準備が完了しました」


副官のトゥクリ=ヴァリ大佐が報告した。

「うむ、それでは往こうか。

 このアラマキ-7115市宇宙港を周辺宙域ごと、いつまでも占有しているわけにもいかぬからな」

艦隊を指揮するシルヴィオス中将が頷く。


この第278任務部隊は、7万2千隻余りに及ぶ一大宇宙艦隊である。

それも1隻1隻が数千mものサイズがあるので

差し渡し千キロはある小惑星をくり抜いて建造された、

このアラマキ-7115市の宇宙港内空間を完全に埋め尽くすばかりか、

艦隊の半分以上は宇宙港の外にまではみ出している。


更には、この第278任務部隊のすぐ後ろには

同じく”ヤマトクニ”天体軍所属の第55-12地表作戦部隊10個師団、

及び第71-36天体工作部隊7個師団が控えていた。


地表作戦部隊は文字通り、惑星や天体上での地上戦を任務とする部隊である。

と言っても、この”ヤマトクニ”では当然ながら普通歩兵科に至るまで完全機械化されており、兵士一人一人が装備する機動戦闘宇宙服は、その内の一着だけで少なくとも第二次世界大戦当時の一方の陣営を完膚なきまでに破壊出来る機能を持っていると言われている。

それは、かつてシアラやアルウィオネが従軍当時に使用していたものよりも強力であった。

更にはアルウィオネが考案し開発に尽力した『対地表モビルスーツ部隊』も5個師団分が配備されている。


また、天体工作部隊は主に陣地構築を専担する技術者達の部隊であり

彼らの手に掛かれば、1年足らずで火星をテラフォーミングしたりデススター並みの宇宙要塞を築き上げる事も可能である。


しかし、これら全ての部隊を一気に星門ゲートへ突入・通過させようとするのは、さすがに物理的に不可能だろう。

従って、星門に進入しやすい、細長い艦隊陣形に再編成する必要があった。


何よりもこの宇宙港を普段から使用する民間船にとっては大迷惑なので、

アラマキ-7115市管理局のニノンダル執政官からは、この宇宙港の使用をとっとと完了させてくれとの催促状の束が1時間ごとに艦隊司令部へと届いていた。




「しかし、何とも慌ただしいですね。

 確かに予知プリコグの内容が緊急を要するという事だったので、

 仕方ない点はありますが…」

トゥクリ=ヴァリ大佐がぼやくように言うと

シルヴィオス提督がたしなめた。

「まあ、そう言うな。

 何しろこの作戦は例の”起源世界線”の地球を初めて主体的に防衛する、初の任務なのだ。

 全宇宙が注目していると言う事もある」


事実だった。

少なくとも”日系人類銀河帝国”における、主要なメディア事業体やジャーナリストロイド達が、この一大作戦を全宇宙に向けて中継発信しようとアラマキ-7115市にスタンバイしていた。

それを複数の電脳空間網サイバースペースネットを経由して数十兆もの膨大な視聴者達がリアルタイムで観ており、また同時に”お喋り”レイヤー内でも活発な議論が行われている。


いずれにしても、発見されたばかりの”起源世界線”地球は

この宇宙日本人類文明体において、かけがえのない唯一の非常に貴重な存在として認識され始めたのである。




「それでは進入を開始せよ」

「はっ!

 第一分隊、第七星門より進入を開始し、

 『イヴァゥト-86』に到着し次第、すぐに地球外へのワープを行います」


シルヴィオス提督が発した号令に従って

第一分隊の約1000隻が、細長い隊列を組んで

星門を次々に潜り抜け始めた。


その壮大な光景を艦橋から眺めながら、提督がひとりごちた。

「やれやれ、昴之宮殿下がここに居なくて良かったわい…

 あのお方が此処に居られたら、絶対にこの司令室に陣取って動かなかったろうよ」

「そういえば、殿下は今頃どこに居られるのでしょう?」

「…ああ、あまり考えたくないな。

 ワシが聞いた限りでは、ごく最近にこのアラマキ-7115市を訪れたらしいという事じゃが...」


「そうなのですか?

 私が聞いた話だと、ここ最近は皇宮でほぼ軟禁状態にされているという話でしたが…」

「はっ!

 あの殿下が、皇宮で大人しく”御公務”をするだけなワケが無かろうて!

 全くあのお転婆ぶりは…一体誰に似たんだかの」

シルヴィオス提督は、その顎に蓄えた豊かなヒゲが吹き飛びそうになるくらい深い溜息を吐いた。


「それに、例の予知プリコグを行なった人物とは一体何者なのでしょう?」

「ああ、それについては素性は分かっておるぞ。

 ”起源世界線”の地球日本人で、とある事故か何かで予知プリコグ能力に目覚めたらしい」


「事故、ですか」

「まあ実際のところは、こちらの薬品を何かのキッカケで誤飲したようじゃの。

 それに、それ以外にも彼女には色々と調べなければならない事があって、

 従って最近までこの”帝国”と『イヴァゥト-86』などを行ったり来たりしておったそうじゃ。

 その中には、どうやらこの”帝国”いや”宇宙日本人類文明体”の起源に関わる重大事もあったとか」


「重大事ですか?」

「そうじゃの、最近もホラ、例の『テーチ』もおるじゃろう?

 彼女らとも密接な繋がりがあるとの事じゃし、やはりというか、

 その件にもどうやら昴之宮殿下が一枚噛んでおるらしいからの」


「あぁー…まあそれはそれで重大事ですね…」

「じゃろう?

 全く…参ったわい」




艦隊を率いる提督と副官が二人揃って溜息を吐きながら、

先遣分隊に続いて二人の乗る旗艦が星門ゲートに突入する壮大な光景を

艦橋の巨大スクリーン越しに見つめていた。

お久しぶりです。


前回の投稿よりだいぶん時間が経ってしまいまして申し訳ありません。

(別のサイトで、全然関係ないSSを書いてました...)


これからは、まあ無理のない範囲でぽつぽつと投稿していきます。

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