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17-3  実家での晩餐

「うはぁー、すげぇ美味しそうだなぁ!」




食卓に並べられた様々な料理を見回した竜司は、よだれを垂らさんばかりの勢いで前のめりになって叫んだ。


「こら!さすがに行儀がなってないわよ!」

「ぐぇ」

眉をひそめた神崎が、竜司の首根っこを掴んで後ろに引っ張ったので、竜司はまたしても首をキュッと鳴らした。


「んグェ」

竜司と似たような音がするので横を見やると、東雲がやっぱり同じような事をして山科に首を掴まれている。


「はっはっは!!

 そりゃもうウチが丹精込めて栽培した野菜をふんだんに使った自慢の家庭料理だからなー!

 見た目はまぁそれなりかも知れないけど、味の方は保障付きさね!

 君たち21世紀地球日本人の口にも合うと思うよ!!」

サリサが腕を組んでウンウンとしきりに頷いて言った。


「サリサはサラダを切って盛り付けただけだけどね」

台所の方から、新たな料理の大皿を持って行きながらミアナが告げた。


「おっと、これは失礼!ははははは!」

しかしサリサは全く動じずに大声で笑う。


「全く…サリサは食事前になるといっつもこんな感じなんで気にしないでくれ」

ややぐったりしたような表情で皿を並べながらシアラがこぼす。

「はっはは!!

 さぁさぁお客人達、準備も整ったのでおのおの席に座ってくれたまえよ」




着席した竜司達は、いざ料理を目の前にするとなぜか手が伸びなくなっている事に気づいた。


「それでは、いただきますだ!」

「頂きます」

「うむ、ご馳走になるぞ」

「さあさあ、皆さんもどんどん食べて下さいね」


ミアナに勧められるままに、とりあえず各自の皿に料理を取り分けたものの

竜司達はお互いに目を見合わせるだけで、なかなか口にしようという気にならない。


「ん?おやおや?

 お客人達、どうしたんだ?食欲が無いのかな?」

料理を口いっぱいに頬張りつつ、首を傾げながらサリサが問いかけた。

ミアナも怪訝な表情を浮かべる。


「…あ、そうか」

すると、シアラが何かに気づいたようにして顔をしかめた。


「おい赤羽達、この料理は大丈夫だぞ」

シアラが竜司達に向かって諭すように言った。

「こちらでも家庭料理なんていうものは、”帝国”での市販の食べ物と違ってごくごく普通だから問題ない。

 そもそもああいう食い物はだな、”帝国”人の偏った刺激欲求を満たすために提供されているようなものだからな。

 しかしありふれた家庭料理にまで余計な刺激を入るもんでもないし、とにかく大丈夫だ」


なかなか辛辣な事を言うシアラだが、だがそう言われるとそうかも知れない気がする。

「まぁ、確かに不安だろうけど、騙されたと思って一口でも良いから食べて見てくれ」

逡巡する竜司達に向かってシアラが畳み掛けた。




「そ、そうね…それに、せっかく作って頂いたミアナさん達に申し訳ないわ」

そう言うと神崎が、まずシチューらしき料理にスプーンで一さじ掬い取り、それを恐る恐る口に入れた。


「……」

「お…おい、どうした、神崎?」

口に入れるなり急に黙り込んだ神崎の顔を、竜司が心配そうに覗き込んだ。


「…これは…!

 なんて美味しいのかしら!!」

「えっ!?」


目を輝かせた神崎は、次に肉と野菜がふんだんに詰め込まれたキッシュのような料理を1口食べてみた。

「これも!!

 ミアナさん、この料理、どれも大変美味しいです!!」

じっくりと味わうように咀嚼しながら、神崎が賛辞の言葉を口にする。


「ま、マジかよ!?

 それじゃ、俺も一つ…んんん!!うめぇー!!」

「何これ、今まで食べた中で一番美味しいかも!!」

「おぉ!!このミートパイもマカロニグラタンもリゾットもミートチョップも大変素晴らしいであります!!」


四人全員が舌鼓を打ちながら料理を次々に食べ始めた。

「うむうむ、ミアナはまた料理の腕前を上げたのではないかの?

 これはもはや皇宮の料理にも劣らぬわい」

「あら、アルウィオネ様も相変わらずお世辞がお上手ですわ」

「いやいや、世辞などではないぞ。

 とかく最近はシアラの言う通り、妙な刺激物を入れた物ばかりか

 逆にマイルド過ぎて味もへったくれもない料理かの両極端になってしもうとるからのう」

骨つき肉を振り回しながらアルウィオネがやれやれとばかりに首を振った。


「まあ、そうだったのね。

 私達ったら、ここ数百年はこの星系に籠もってばかりだから世情に疎くっていけないわね」

ミアナがため息をつく。

「まぁそう言うな、私達だって色々な作物の品種改良をしたりするのに夢中だったからなぁ」

サリサも同意する。


「作物というと、あの宇宙空間に浮かんでいる森のようなもののことでしょうか?」

「ああ、そうだよ。神崎さんだったか?」

「はい。

 それでここに来る前にシアラ…スレナさんから聞きましたけど

 ええと…量子情報交換体、でしたか?そう言ったものを栽培しているという事ですが」


「おっ、スレナはもうそんな事を話したのかい?」

「まあ特に差し支え無いでしょうから」

シアラが澄ました顔で答えた。

「まーね。品種改良中のヤツは一応、企業秘密って事にしてあるから内緒だけど」


「企業秘密にしてる品種改良品があるんですか?」

「あら、ダメよ赤羽くん。そんなにがっついて聞いてはいけないわ。

 私の叔父一家も北海道で農場を経営しているけど、品種改良品に対しては特に外部漏洩に気をつけていたわね」

「へー、親戚である神崎が聞いてもダメなのか?」

「もちろんよ」


「ほうほう!神崎さんのご親戚の方も農場をお持ちなのか!!して、何を栽培されておられるのかな?」

「はい、主にジャガイモと玉ねぎ、それにトウモロコシです」

「…じゃ、ジャ…芋?たまね?それと、トウモ…コロシ?」


「…?もしかして、こちらではあまりご存じないのですか?」

「トウモコロシって…メイちゃんかな?」

「こらっ」


「は、はははははっ!!

 いやー流石に21世紀地球の農産物は中々聞き慣れないものでねぇ、勉強不足でスマン!!」


素直にペコリと頭を下げるサリサに、神崎が苦笑しつつ頷いた。

「いえ、お気になさらずに」

「地球の野菜とかって、こっちじゃもう忘れられた存在なのかよ」

「えぇーちょっとびっくり」

竜司達が呆れていると、それについてミアナが首を横に振る。


「皆さん、誤解が生じてはいけないので申し上げますけど、ジャガイモと玉ねぎとトウモロコシはこちらでもまだまだ現役ですわ。

 ただ単に、サリサが本当に勉強不足なだけなのよ」

ミアナはそう言いながら、頭をガシガシ掻きながら笑って誤魔化そうとするサリサを横目で睨んだ。


「サリサ、貴方はいつもロクに勉強もせず情報も検索せずに、いっつも「何事も経験だぁー!」って言って

 すぐに現場に飛び出して行ってしまうのは貴方の悪い癖だわ」

「たはは…」

ミアナに諌められる格好のサリサは、冷や汗をかきながら笑い顔を引きつらせている。


「それじゃ、私達の世界で一般的に栽培されている作物もこちらでも存在しているのですね」

「ええ、黎明期の時に地球日本からの移民が持参していた作物の種や株が、こちらでの野菜類の大元のご先祖ですわ」

「なるほど、そうすると今食べている野菜類なんかもそうなんですね」

「もちろんですわ。例えばそのスープの中に入っているカロタルやミーシュは地球での人参の子孫ですし、ガジャフ芋はジャガイモそのものと言っても良いですわね」


「そう言えば確かにこれってジャガイモじゃん!」

山科はシチューの中に入っている具材をスプーンで一匙掬ってしげしげと観察した。

「ふふっ、その中に入っているルマス玉葱も地球の玉葱と同じでしょう?

 あとそちらのカラマイルはブロッコリー、ジャジェンは蓮根の子孫ですね」

「なるほど…」


「と言うことは、お米や小麦に相当するものもあるんですね」

「ええ、こちらでも普通にご飯やパンを食べますわ」

「なんか旅行中は普通のご飯だのパンだのって見なかったんだけど…みんな合成っぽかったし」

「ああ、それは最近の”帝国”での主食がフスやササンにシフトしている影響だろうな」

「何それ?」


「行きの貨客船でのレストランで最初に出てきた極彩色のマーブル模様をした食べ物が出てきただろう」

「うぇ、あれかぁ…」

そう言えば、あの時最初に一口食べた東雲が即効でバッドトリップに陥っていた気がする。

「あれの原材料がフスだな。人間の精神に感応して様々な色に変化する」

「いやそんな性質は主食に必要ないと思うんだけど…」

竜司達、特にあれを食べた事のある東雲はあの味を思い出して顔をしかめた。


「まぁとにかく、食事なんてものはレプリケーターで幾らでも生成出来てしまうし、ここ最近の”帝国”人はあまりそういう事を気にしてこなかったのだ」

「とは言っても、私達のように自然食を追求する人達も割と居たりしますわね」

「そーだな!つまりは”帝国”人の嗜好は二分してしまっていると言うわけだ!ははは!」


「しかしだ、その状況に一石を投じたのが例の『テーチ』というわけだ」


「えっ?それってどういう事?」

「ああ、つまり『テーチ』のお陰で本物の地球日本文化に注目が集まった事で、

 本物の地球日本食、ひいては自然食にも再び脚光が集まりつつある状況になっているようだ」

「そうそう、私達のような農家にも最近急に問い合わせがいっぱい来るようになったわ」

「ああ!お陰で今度我々の所でも、家庭菜園規模じゃなくて本格的に芋や野菜を栽培しようかとミアナと話していた所なんだ!」


「まるでブームね」

「日本でも、健康番組でこの食べ物がイイ!なんて紹介された途端に翌日のスーパーでその食品が品切れになったりする事あるもんねー。

 カナダとかじゃそんな事全然なかったけど、やっぱ日本人特有なのかな?」

「まーそーじゃねーか?ある意味好奇心旺盛というか、流行に踊らされやすいっつーかさ」


「はっはっは!三つ子の魂百までもとは言うが、確かに君達の時代から数十万年経ったところで我々は何も変わっていないのかもな!!」

「まぁ、お陰で私達はまた忙しくなりそうですけど」

「それもまた楽し、だな!」




シアラの家族と竜司達はそんな会話を交わしながら、宴は夜更けになっても終わる気配はなかった。




- - - - - - - - - -




「気分はどうかな?」

ベッドの傍にある椅子に腰掛けていたオクウミが、ベッドから上半身を起こしている明日香に話しかけた。




「はい、今は大丈夫です…

 忙しいところ、わざわざ来て頂いてすいません」

未だに顔色の優れない明日香だったが、わざわざ来てもらったオクウミに謝意を示しつつペコリと頭を下げた。


「ああ、いいんだ。気にする事はないさ。

 こっちも会議がひと段落したところだし、そもそももうこんな夜遅くだしね。

 今日の会議を終わらすには丁度いいタイミングだ」

「あっ…」

その言葉で、明日香がベッド脇のテーブルにある立体表示ホログラム時刻表示に目を落とすと21:30を指していた。


「そう言えば、こんな時間でしたね…いけないわ私ったら…

 入院しているとなぜか分からないのですけど、何だか時間感覚がおかしくなるんです」

彼女は自らの思いの至らなさに目眩のような失意を覚え、

深くため息をついてから改めてオクウミに深々と頭を下げた。


「いや、それは恐らく君の”能力”の影響だろう。

 それも気にすることではないと思うよ」




「えっ…?

 の、能力…ですか?

 それって、まさか竜司達が獲得したというのと、同じものですか…?」

意外過ぎるオクウミの言葉に動揺し、大きく目を見開いてオクウミに問い返す。


「いや、まだ私の憶測でしかないから聞き流してくれ。

 ただ状況から言って、そうではないかと思っただけだ。

 詳しくは、後でまた検査を受けてもらって解析してからだろう」

「そうですか…」

明日香はややホッとしたような、だが少し残念なような複雑な気分を抱きながら頷いた。


「それよりも、その予知夢とやらの内容が気になる。

 もし、額面通りにそれが何らかの事象を予知するものであれば

 近い将来に、その”バイオメカノイド”の群体が太陽系と地球に襲来する事になる」

「…はい」


明日香の見たものが予知夢とするなら、正に人類や地球の存亡に関わる非常事態に間違いない。

何しろ”バイオメカノイド”は一度暴走すれば、地球人の”機関”が持つテクノロジーや兵力では一切太刀打ち出来ないし、時空探査局ですら手を焼くのは過去の経験からも明日香の身を以って知っている。

しかも今度はそれが群体となって襲来するとなれば、時空探査局単体では処理するのは困難だろう。

時空探査局としても”バイオメカノイド”に対抗する防御兵器カウンターウェポンを山科などの力を借りつつ開発中であるが、いささか心許ないのも実感としてあるのだ。


「もちろん、その事象自体も非常に重大であり、緊急で対応する必要がある。

 しかしもう一つ気になるのは、その事象が本当だと仮定すると

 それは我々の知る”起源世界線”の史実には存在しない筈なのだ」

「えっ!?」

「つまりだ、”起源世界線”たらしめる「正しい」歴史とは異なっているかも知れないという事だ」


「私には理解し兼ねるのですけど、それってどういう事なんでしょうか?」

「ふむ、一つには君達の世界線が、そもそも厳密にいって我々の想定する”起源世界線”では無いという場合だ。

 ただしこれは、我々が『スーサ』の各種固有識別連番と一致している事を確かめているので、可能性としては0に等しいだろう」

「ああ、『須佐之男』号ですね」

明日香は、かつて月面に居た時に自ら発見したロボット達の事を思い出して言った。

今は、皇宮の”正倉院”内にある資料との厳密な符合確認を行うために”黎明京アマルテミシア”にある時空探査局本部の研究施設に『須佐之男』号とその眷属16体が繋留保管されている。


「もう一つの可能性としては、”起源世界線”である事は間違い無いのだが

 ある時点から、何らかの我々が知り得ない要因によって、歴史の推移がズレ始めたという場合だ」

「知り得ない要因が発生したという事ですか?」

「うむ、そもそも歴史の推移がズレ始める事は我々にとっても想定内の事だった。

 何しろ、我々は来たる異星人種の地球侵攻から地球と日本を守る為に、日本社会を裏から手を加える予定であるからな。

 つまり「我々の想定通りに改変された歴史」を今後歩む筈だろうと考えて来た…」


「だけど、もし私の見た夢が予知夢なら…」

「ああ、そうだ。君が危惧する通り、何らかのアンコントロールな事態が進行しつつあるかも知れないという事だ」


しかし、ここまで一気に言った後にオクウミはゆっくりため息をついた。

「ふふっ、もちろんこれらの推測は、全て今後の検査結果によるだろうよ。

 だから、まぁ残念ながら君の退院予定はもう少し延期になる。

 覚悟しておきたまえよ」

オクウミは片目を瞑って笑いながら言った。




「はい、覚悟しておきます」

明日香は少し力無さげながらも、オクウミに合わせて微笑みながら返した。

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