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16-5  回想:一時の別れ

今回の軍事衝突で、主だった戦闘はほぼ半日で終結した。

結果的にロンウェオゥ=ビガズギ連合軍側の戦死者・行方不明者は1152人、

対する”ヤマトクニ”側は0人というほぼ完全な一方的戦闘パーフェクトゲームだった。




その後、今回の軍事衝突によって大きなペナルティを背負ったロンウェオゥ=ビガズギ連合軍は、星間司法調停機構と”ヤマトクニ”天体軍の平和維持部隊が改めて設置し直した和平交渉のテーブルへ本格的に付かざるを得ず、それから1標準年経った頃にソビル25-6星系における惑星間同盟の発足とその惑星間同盟の”宇宙日本人類文明体”への傘下入りが宣言された。


アルウィオネとシアラは、あの戦いから2ヶ月後にそれぞれまた別の任地へと赴く事が決まった。


そして駐屯地での最終日、二人は酒保にあるサロンでささやかながらお別れの会を開いた。


 


「アルウィオネ様、貴方に会えて本当に良かった。

 貴方がいなかったら、私は今頃退屈で死に掛けてました」

「おいおい…余はシアラにとって退屈しのぎの玩具か何かなのかの」

カクテルに似たエタノール飲料を口に含みながらアルウィオネが苦笑した。


「まぁ余も似たようなもんじゃったわい。

 シアラがいなければ、きっと今頃余は軍を抜けていたやも知れぬ」

「アルウィオネ様、まさかそんな事は」

「いやいや、正直余も自分がワガママじゃと言うのは自覚しておるからの。

 きっとその身勝手な性分をもっと拗らせていたに違いないて」


シアラは、ややあってグラスを少し傾けながら、ゆっくりと首を振った。

「…そんな事はありませんよ。

 アルウィオネ様はいつだって自らを律して、気高く美しくあられていますから」

「ふん、おべっかはここでは不要じゃ。

 それで本当はどう思っておるんじゃ?」


「正直ワガママ過ぎます。一緒にいてめっちゃ迷惑してました」

「なっ!?」




しばらく二人とも黙り込んでいたが、やがてお互いにクスクスと笑い始め、

すぐに大爆笑に変わった。


「ははははは!!

 あぁ全くシアラと言う奴は、本当にどうしようもないのう」

「その言葉、すっぱりと全部貴方にお返しいたしますよ。アルウィオネ様」


「全く…お主がおらぬと、つまらなくなるのう」

「ええ、私もアルウィオネ様が居なければ、この先の軍務が退屈なものになるでしょうね」

「まあ仕方あるまいて。ヒラ兵士としては命令に従わざるを得まいな」

「アルウィオネ様なら、皇族権限でどこにでも赴けるでしょうに」

「ふん、余はそういう七光りは嫌いじゃ。

 いつだって何事も、実力で切り開いてみせるものよ」

「ははは、それじゃあ仕方ありませんね。アルウィオネ様ならそう言うと思ってましたし」


少し寂しそうな表情を浮かべるシアラに、アルウィオネが優しく言った。

「じゃからな…まあ軍務上では会う機会はもう無いやも知れぬが

 プライベートではまたいつでも会う機会を設けようぞ」


そう言ってアルウィオネは、掌の上にとある情報を3D表示させた。

「ほれ、シアラもとっとと見せい」

「っていうか、それは皇族専用の個人認証情報アカウントじゃないですか。

 私にお見せしても宜しいのですか」

「かーっ!なーにを今更言っておるのかシアラは!

 もう良い!余とお主の仲じゃ!!じゃからお主のもとっとと見せんか!

 個人認証情報アカウントを交換出来んでは無いか」


半ば無理やりシアラの個人認証情報アカウントを提示させたアルウィオネは

シアラと情報を交換させ、共有リンクが確立出来ることを確認した。

そのまま電脳空間上で友人登録を行う。


「ふふん、これでいつでもシアラと連絡ができると言うものじゃ」

「あぁついに枷を掛けられてしまいました…」

よよよとばかりに泣き真似をするシアラをアルウィオネがジト目で見やった。

「ふん、この程度の事を枷と言うなら、そもそも枷だらけの軍に入らなければ良かろうものよ」


「それでは私からも。

 あの時に返された例のお守りですが、やっぱりアルウィオネ様に差し上げます」

シアラは、懐からあの星型をした琥珀色の結晶、その半分を取り出した。

「いずれまた近くに寄った時に、これが最初の挨拶代わりとなりましょう」

「やれやれ、余もまた枷をはめられたと言うわけかの」

「言ってくれますね」

「お主もな」

二人はまた笑いながら、お互いに手にした結晶を懐にしまった。




「それじゃ、元気での。シアラよ」

「アルウィオネ様も、いつまでもご壮健で」


再びグラスを合わせたアルウィオネとシアラは、互いに杯の酒を飲み干してからめいめいに自室へと戻っていった。


そして、その後再び駐屯地内で顔を合わせる事は無かった。



 * * * * *



「…とまあ、こんな感じで最初の出会いは終わりを告げたわけじゃがの。

 それから数年して、別の赴任地で再び相見えることになったのじゃ」


アルウィオネは竜司達に、これまでの話を滔々と語っていた。

話の中に出てきた駐屯地や線虫やらの映像なども、補足資料として時折空間投影する。


「…アルウィオネ様。

 なーんか時々あちこちで誇張が含まれている気がするんですけど」

自慢げに話すアルウィオネに、シアラがジト目を向けた。


「例えば一番最初に出会った時、線虫を一番多く倒していたのは私でしたからね。

 私が11頭でアルウィオネ様が4頭です。ちゃんと数を数えてましたし」

「いーやそんな事はないぞ!

 余が10頭でお主が5頭じゃ!ちゃんとトドメを刺したのは余じゃったからな!」


「それじゃ、ベレンヴェータムの急所はどこかご存知でしたか?

 頚椎の4番と5番の間を正確に刺し貫かないと完全には死なないんですよ?

 15頭目でアルウィオネ様が内臓の中に埋まってしまったのも、

 急所をちゃんと貫かなかったからでしょうに」

「何じゃとう!?

 お主はその情報を余にちゃんと伝えなかったではないか!!」

「いーや伝えました!

 殿下が話をちゃんと聞いていないからですよ!!」

「お主はそういう時だけ殿下呼ばわりしおってからに!!」




パン!!パン!!

と、浮遊力場フィールドがドーム状に張られたレストラン中に響き渡る大きな音が鳴り、シアラとアルウィオネがビクッとなって口を慌ててつぐんだ。


それから音の発振源である一人の少女の方へ恐る恐る振り向く。


「お し ず か に」


そう言ってにっこりと微笑む神崎の表情の奥に、氷点下の何かを感じて

二人とも震え上がった。


「宜しいですね?お二人とも」


神崎の言葉に、二人とも冷や汗を垂らしながらブンブンと首を縦に振った。


「おおぅ…やっぱりあやつは超常的な何かを持っているやも知れぬのぅ…」

「やっぱりアルウィオネ様もそうお思いですか…」

二人はこそこそと話していたが、それを見ている神崎の氷のような視線でまたも震え上がり、ややあって今一度居住まいを正した。




「あー、コホン。

 まぁ脱線してしもうたが、話を続けるとするかの。

 とにかく余とシアラは、その後も何度か別の赴任地でばったり出会ったり

 また一緒に仕事をする事があったわけじゃの」


アルウィオネは神崎の表情を横目で見つつ、話を続ける。

「まぁそれだけでなく、前にもちょっと話したやも知れぬが

 プライベートで二人旅をする事もあっての。

 それはもう波乱万丈の出来事が待ち受けておったわけじゃ」

「そうですねー。

 それはもう大変でしたよね、アルウィオネ様が」

「全くじゃの、シアラのお陰でな」


ぐぬぬ、とばかりにまたもお互いに睨んで毒舌を口にしようとするが

その度に神崎がコホンと咳払いして注意を向けさせ、二人をビクッとさせていた。


「大丈夫か?あの二人は」

「まあ、喧嘩するほど仲が良いとはよく言うわね」

神崎も、別に二人に対して怒っているわけではなくて

むしろこの状況を面白がって楽しんでいるようだ。


「それでの、これから赴くシアラの実家にも

 余は何遍かお邪魔した事もあるからの。

 そういえばご両親はご健勝かの?」

「ええ、それはもう未だに元気どころの騒ぎじゃないくらいですよ」

「そうか。それはお会いするのが楽しみじゃのう」




- - - - - - - - - -




アルウィオネの話はかなり長く続いていたが、竜司達はずっと聞きいっていた。

しかし貨客船の船内時間で夜もかなり更けてきたので、懇親会は一旦お開きにしてそれぞれ充てがわれた個室に戻ることにした。




「やぁー、赤羽ちゃん、こっちこっちー」


個室のシャワー設備(といっても水ではなくナノマシンが吹き出て皮膚を掃除するタイプ)でさっぱりした竜司は、スーツケースの中に持参したスウェットに着替えてから船内をぶらぶらしていると、船内ホテルのラウンジソファでくつろいでいる山科と東雲が手を振ってきた。


「何だ、お前らも外に出てたのか」

「だってさー、ここ温泉も無いし個室のシャワーじゃ何か物足りないじゃん?

 せっかく宿泊気分で来てるのにもったいなく無い?

 だから色々船内散策しようと思ってさー」

「うむ、まるでビジホのようであるからな。

 少し無味乾燥な感じもある」


「って東雲、お前ビジネスホテルとか泊まった事あんのかよ」

「ああ、以前に鉄オタOFF会の大阪遠征で一度パパホテルを使ったことがあるのでな」

「鉄オタOFF会って…そんな会があるのかよ…」

「うむ。今度ぜひサーミア女史にもお出で頂こうかと思っている次第でな」

「お前それ会が無茶苦茶になるから止めとけ…サークラどころの騒ぎじゃなくなると思うし」


東雲の言葉にため息をついた竜司だったが、ふと誰かが居ないことに気づいた。

「あれ?神崎は?」

「ありゃー?さっきまでココに居たけどなー?」

山科が首を傾げた。


「ふぅん、何か気になるものでも見つけたのかね」




神崎は、貨客船の甲板に出て外の空気を味わっていた。

と言っても、貨客船の周りは空気を閉じ込める力場フィールドで覆われており、その外側の空間は真空に近い世界なので、本来の意味での外の空気というわけでは無い。

しかし、それでも演出なのかそよ風程度の空気の流れもあるし、また甲板から見える人工次元世界の夜景は、まさに絶景と言えるほどの見応えだった。


神崎が甲板の手すりにそってしばらく船尾方向に向かって歩いていると

その先にアルウィオネらしき女性が手すりにもたれかかって佇んでいるのが見えたので、声を掛けようとした。


「あっ、アルウィオネさm…?」


アルウィオネの隣に誰かが立っている事に気づき、神崎は思わず口をつぐんでしまう。


(…?あれは誰かしら?どう見てもシアラさんでは無いわね)


神崎は、慌ててその二人に見えないようにして甲板中央付近の柱に身を隠すと

そこから二人の方をこっそり覗き込んだ。

(あれは若い男性?...のようね。

 まさか彼氏とかそういう訳ではなさそうだけれど、とすると従者の人かしら?)


神崎が耳をそばだてると、二人の会話が僅かながらに聞こえて来た。




「オプレシス、どうじゃ。

 何か分かったかの?」


「はい、昴之宮殿下」

オプレシスと呼ばれた男は180cm以上ありそうな背の高い青年風で

やや青みがかったくせのある髪で片目を半ば隠すようにし、

また裾が長い真っ黒のコートを羽織っている。


(やはり従者のようね…でも目立たないようにしているつもりで目立ってる感じだわ。まあ派手な見た目の人ばっかりの”帝国”なら、この位がちょうど良いのかも知れないわね)


神崎がクスッと微笑んでいると、その男が改めて口を開いた。


「この船内には皇宮管理局、帝国多重議会のいずれのエージェントも乗船しておりません。

 しかしアラマキ-7115市においては複数確認されております」

「そうか、やはり危機一髪じゃったの」

「はい、殿下」


「ケストラジウム星域の方はどうじゃ?余たちの目的地がバレてはおらぬかの?」

「それも現在のところ、問題はないと思われます」

「それなら良いのじゃ」




「あともう一つ、殿下」

「何じゃ?」

「”例のもの”ですが…ついに手がかりらしきものを発見しました」


「何と!?

 どこで!?どうやってじゃ!?」

「やはり”起源世界線”のほうです。

 イヴァゥト-86に潜伏させた我が方の秘密調査員が、その第一中央市にて先日開通したばかりの地球日本側とのインターネット回線を通じてイメージ検索を掛けたところ、それらしき痕跡を発見したと」


「ほうほう!!でかしたぞ!!

 して、その『インターネット』とやらは何なのじゃ?」

「はい。”帝国”での電脳空間網の、先祖のようなものです。

 先日に地球日本側のネット関連企業によって特殊な回線とアプリケーションを用いたものが、まずイヴァゥト-86の第一中央市に張り巡らされたばかりとの事です」

「ふむ…それもまた興味深いのう。

 ともあれ、引き続き調査を頼むぞ」


「はっ、昴之宮公アルウィオネ殿下。御心のままに」


そう言ってアルウィオネに深々と頭を下げたオプレシスは、

次の瞬間にはその姿が空中に溶け込むようにしてたちまち見えなくなった。




(”例のもの”?手掛かり?...一体、何の事なのかしら…)


神崎は、探しに来た竜司によって肩を叩かれるまで

柱の陰に隠れながら、ずっと甲板に佇むアルウィオネを見つめていた。

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