16-4 回想:敵基地破壊
「中枢だって!?
おいお姫様よ、そりゃどういう事だ!?」
二人が同時に素っ頓狂な声を上げたので、アルウィオネはどっちがイディゴだかヴァムプだかが再び分からなくなった。
しかし、もうあまり気にしないようにしようとアルウィオネは思い直した。
「そうよの、お主らはそもそもなぜこの基地機能がまだ稼働しておるのか分からんかの?
事前の情報では、先発した無人戦闘部隊が敵戦闘部隊主力を壊滅させて、今は無人状態であるはずじゃと言うのに」
「…そういや、そうだな」
「確かにオレ達は、今まで敵部隊の一人として出くわしてねぇよな。
だからてっきり無人機どもが主力をぶっ潰したからだと思ってたけどよ…」
「そうなのよな。
そもそも無人機どもは、動き回る目標を優先的に攻撃して殲滅させるようプログラムされておるが、しかし入力指令の中には、恐らく基地機能の破壊までは含まれておらぬ。
司令部はこの基地機能を再利用でもしようと考えておるようじゃからの」
アルウィオネに促されて、フェタムジィ兄弟は改めて周囲を見渡す。
確かに先発隊によって攻撃され破壊された形跡は見当たらない。
「それに、先発した無人機どもは余たちと共に強襲揚陸艦に乗っていたはずで、
また彼らの攻撃は強襲揚陸艦が突入した後に行われたはずじゃ。
つまり余たちがこの基地に上陸するのとほぼ同じタイミングじゃったはずじゃろ。
なのに、主力を壊滅させたと報告してきよった時間は予想よりも遥かに早かった」
アルウィオネもまた周囲を見渡した。
「つまりじゃ、実際にはこの基地には元々ほとんど人員が居らんかったという事じゃ。
…その人員の代わりに、この基地を動かせる奴がおったからじゃろうの」
「…ってぇ事はよ」
「そうか!この基地自体が生きてやがるのか!!」
「その通りじゃ。
現に、この壁やら床やらから浸み出す液は、準惑星ジャムバーリの地下に住んでおる線虫ベレンヴェータムの血液とそっくりじゃろ?
恐らくは、ベレンヴェータムとこの基地を形作る巨大生物は同じ種族系統ではないかのう。
つまりこの太陽系内の惑星間宇宙を生息域とし、小惑星や準惑星の中に潜り込んで棲まう宇宙生物じゃな」
「何てこった、オレ達ぁ怪物の腹ん中に突入したのかよ」
「そうさのう、余たちはまんまと騙されて兵士達をこの小惑星内に送り込み、そして胎内で兵士達をそれぞれ引き離してバラバラにし、無力化してからゆっくりと怪物の養分にされる所じゃったろうな」
「くっそ、それじゃあオレ達はどうすれば良いんだ!?」
「ふん、知れたことよ。
この目の前にあって脈動する塊、こりゃもうどう考えても怪物の心臓じゃろ。
こやつを破壊してしまえば全てが終いじゃ」
そう聞かされたフェタムジィ兄弟の目に、たちまち力が漲っていくのがアルウィオネにも良くわかった。
「よーしよしよし!!オレ達フェタムジィ兄弟の真の力ってヤツを、そこのお姫様にも見せてやろうじゃねーか!!」
イディゴとヴァムプは怪物の巨大な心臓に向かいつつ、その懐から短い柄のようなものを取り出すとその先端がたちまち大きく膨らんでいき、一瞬にして高電圧の電気を帯びた巨大な斧となった。
「ははっ、そういう仕組みだったとはの。
まぁ、それはお主らに任せるとして…」
と、アルウィオネは使い慣れたビームソードを取り出す。
「行くゼェ!!ウウルッッゥウアアアアア!!!」
声を張り上げながら、イディゴとヴァムプが同時に斧を振り上げた。
「ッシャアアアアア、アアアアア!?」
振り上げようとした斧が、急に空中で固まったようになって動かない。
訝しんだ二人が振り上げた腕の先にある斧を見ると、
太い触手が何本も斧に巻き付いていた。
「ウッゥアアアアア!?
な、何だこりゃあああ!?」
「だから言ったであろう!!
こいつは怪物の一部じゃと!!」
言うなりアルウィオネは、ビームソードを思い切り振るって触手をぶった切った。
「まぁ、だいたい予想は付いておったがな」
「う、ヴァムプ!!こっちにも触手がぁ!!」
「任せろ!!」
アルウィオネはヴァムプに絡み付こうとする触手も次々に薙ぎ払って行く。
「クッソ!!オレ達ぁ触手にすっかり囲まれちまったぜ!?」
「こりゃあ心臓をぶった切る前にオレ達が簀巻きにされちまいそうだ!」
アルウィオネやフェタムジィ兄弟がそれぞれの得物で触手を薙ぎ払って行くが、壁から生える触手の数はどんどん増えていき、壁一面が完全に触手で覆われつつあった。
それにフェタムジィ兄弟の懐から幾つも繰り出される斧は、振り上げようとする度に触手によって奪われてしまうのだ。
「はぁ、はぁ、こりゃ、キリが無ぇぜ、
触手を全部ブツ切りにする前に、
オレ達の息が切れそうだぜ…」
「はぁ、はぁ、それによ、
触手が斧を奪っていくんでよ、
もう懐にあった斧のストックも切らしちまいそうだしよ…」
「何じゃとぅ!?
お主ら、そんな立派なガタイのくせに何を弱気になっておるのじゃ!!
もっとシャンとせいシャンと!!」
「しかし昴之宮殿下ぁ、こりゃオレ達の手に余りそうですぜ…」
「かぁーーーっ!!
都合の良い時だけ殿下呼ばわりとは情けないのう!!
お主ら、さっきの自信たっぷりなべらんめぇ口調はどうしたのじゃ!!」
心底失望したような面持ちでアルウィオネが言い捨てたものの、
実際この状況はかなり絶望的だ。
そして、ついに一きわ太い触手が三人に襲い掛かった。
「ウワワァ!?ヤベェ!!」
薙ぎ払おうにも、もはやそれぞれの武器に何重にも触手が絡みついて動かせず、さらには三人の体に触手が絡みついてきた。
「おいおいおい…これはもしや触手責めってヤツか!?」
「ヤベェ!!宇宙服が剥がされちまう!!」
フェタムジィ某の宇宙服なぞどうでもいいのだが、
流石にアルウィオネの宇宙服が剥がされる事になれば色々とヤバイ。
「くっ…これまでかの」
アルウィオネが覚悟を決めてぎゅっと目を瞑った次の瞬間、
自身の体がいきなり衝撃と共に宙に浮かぶのを感じた。
* * * * *
「アルウィオネ様!!
無事ですか!?」
次に目を開けた時には、
部屋を埋めつくさんばかりだったはずの触手があらかた切り刻まれ、床の上に山と積まれていた。
「…ははっ。
シアラよ、お主もやるのう」
「間に合ってよかったです、アルウィオネ様」
「して、どうしてココが分かったのじゃ?」
「アルウィオネ様、突入前にお渡ししたものをお忘れですか?」
そういえば、とアルウィオネが自身の懐をまさぐると
星型をした琥珀色の結晶が出てきた。
今は内側よりまばゆく光り輝いている。
「ほら、こうすれば…」
と、シアラの持っている結晶を近づけると、それは一層輝きを増した。
「なるほどのう、すっかり忘れておったわい」
「全く、アルウィオネ様もおっちょこちょいですねぇ」
「何を言うかのう!!シアラこそ先にはぐれおったでは無いか!!」
「それを今言いますか!?」
アルウィオネとシアラがまた言い争いになりかけた所で、フェタムジィ兄弟のイディゴが声を掛けた。
「昴之宮殿下、それにシアラ二等兵。
心臓はオレ達が今さっきぶった切っておきやしたぜ!」
二人が部屋の中心を見ると、
青い血しぶきを盛大に振りまきながら半分ほど切り裂かれた心臓がブルブルと震えている。
その側にいるヴァムプが、トドメとばかりに斧を振り下ろすと
心臓がついに真っ二つになった。
「…おっ!?」
その次の瞬間、部屋全体、いや恐らくは基地全体がゴゴゴゴゴと低く唸るように振動し始め、それからあちこちが崩れ始めた。
「ついに怪物が死に始めたのじゃろうな」
「それじゃ、この基地ももう終わりですね」
「まぁ、再利用は出来んじゃろうなぁ」
あちこち崩れた壁の向こうから、今まで隔離されていた味方の兵士達が次々と姿を表した。
「うはぁ!ようやく出られた!」
「何だ何だ!?いきなり崩れ始めたぜ!」
「どういう事だ?」
「作戦はどうなったんだ?」
状況をイマイチ把握出来ていない兵士達が崩れる壁や天井を避けて右往左往する中、アルウィオネは通信リンクが復活しているのを確認すると、指揮本部へと通信を発した。
「作戦指揮本部、こちら昴之宮公アルウィオネ二等兵。
敵基地中枢部の破壊に成功した。
これより各兵員を揚陸艦へと帰投させたいので
ビーコンの発信を要請する」
すぐに司令部から返答があり、
それから少しして揚陸艦からのビーコンを宇宙服のリンクシステムが受信した。
「やれやれ、これで一件落着かの」
「初の実戦が触手相手とは、思いも寄りませんでしたけど」
「ふふっ、でも退屈しなかったじゃろう?
お主、さっきは線虫を駆除していた方がマシだと言っておったろうに。
願いが叶って良かったのう?」
「あっ…あれは言葉の綾ってもので、本当はもっとちゃんとした戦闘がしたかったですよ!」
「何をぜいたくを言いおって。
余なんぞ触手に絡まれて生きた心地がせんかったぞ」
「それはアルウィオネ様の普段の心掛けが良くないからじゃ無いですかね。
因果応報というヤツですよ」
「何じゃとう!?お主覚えとれよ!!」
いつものように言い争いながら、二人は連れ添って揚陸艦へ、そして駐屯地へと帰還していった。




