3-1 隠匿
NORADが飛行物体を捉えた十数分後。
竜司達は古墳内の石室に横たわる少女を取り囲んでいた。
「生きてるのか?」
「さあ、どうかなぁ」
そう言いながら、山科は床に横たわった少女の顔をぴたぴたと軽く叩いてみた。
「......う、ううん......」
「ぉうお!い、生きてた!」
「いやいや死んでる方がやべーだろ......」
竜司もおそるおそる少女に近づき、肩をそっと揺すってみた。
「む......んん......」
「こりゃどうやら、寝てるみてーだな」
竜司は少女の全身を見回した。
少女は銀色で上下一体型のぴったりとしたウェットスーツのような衣服に身を包み、
その上に同じく銀色のジャケットを羽織っている。
しかしそれ以外に、何か小道具やそれに類するようなものは所持していなかった。
「これがいわゆる宇宙人ってヤツか?」
東雲がしたり顔で顎に手をやる。
「バカな事言わないでよ、どっからどう見ても人間じゃないの」
「いや、地球に来訪している宇宙人の中には、人間と見分けがつかないヤツもいるらしいって」
「ただのコスプレじゃないの?
こんなレベルのコスはビックサイトに行けば幾らでも見れるわよ、期間限定だけど」
「じゃ、なんでそのコスプレ女がココで寝てるんだよ?」
「さあね、神社で自撮りした後で疲れて寝ちゃってるんじゃないの?
こういうコス作るのにも手間暇掛かってそうだし、徹夜とかしてると特にね」
山科があきれたように手を上げた。
と、竜司が何かに気付いて目を見張った。
「いや......これ、コスプレなんかじゃねえぞ!」
竜司が指差した少女の左手の指には指輪が嵌っていたが
それが俄に光り始め、それから左手の真上に向かって映像を投影し始めたのだ。
「な、なんだこれ!?ホログラムってヤツなのか!?」
「まさか......そんな!?」
東雲も山科も絶句している。
それもそうだ、そのホログラムが投影しているのは正に自分達が居るこの空洞と、少女を中心とする自分達自身なのだ。
ホログラムの立体像は、数秒の間この空洞の様子を投影していたが
急にズームアウトしたように像が収縮していき、空洞のある稲荷山古墳やその周囲の住宅街を次々に投影範囲に収めて行った。
そして多摩市全域がその像の中に収まったかと思うと、その中で中心に向かって接近する幾つかの光点を映し出した。
赤く発光するその点の一つに標準が合うと、今度はクローズアップしていく。
すると、道路を走る何台かのバンが見えてきた。
運転手の外見は一般人のように見えるが、カーゴルームにはまるで特殊部隊のような
明らかに軍事用の黒ずくめの戦闘服や装備を身に付けた集団が詰め込まれている。
「お、おい!やっぱりこの子、本物の宇宙人って事なんじゃね!?」
「うむぅ......」竜司も唸った。
「ねぇ、どうするの?とりあえずこの子を起こす?警察呼ぶ?」
「警察なんか呼んでどうするんだよ。
本物の宇宙人って言っても警察は相手にしないだろうし
もしこの接近している連中が米軍か自衛隊みたいな軍隊だったら対処なんか出来ねーぞ!」
「でもよ、こんまま放ったらかしにする訳にも行かねえだろ?」
東雲も頭を抱えた。
「......よし、まずは俺の家にこの子を運ぼう」
竜司が言った。
「ぇえええ!?マジで?」
「って!女の子を男の家に運ぶとかマジでダメでしょ!!」
山科が手でバッテンを作ってダメ出しをするが
「大丈夫だ、俺ん家の妹二人もそろそろ帰ってきている頃だろうし、空いてる部屋もある。
それに多分あの部隊みたいな連中は、さっきの発光現象だかを検知してココに殺到してきていると思うんだ。
だからココさえ引き払ってしまえば、あの連中は撒けるハズだ」
「いや......でも」
「まぁ、四の五の言ってる場合じゃねえんじゃね?
とりあえず赤羽の提案に乗っかって、女の子を連れてココをとっとと出ようぜ」
竜司は女の子を背中におんぶして歩き、山科が女の子を背中から支えた。
東雲は周囲を見回して警戒しつつ先導し、古墳のある神社の外に出た。
「あの中に忘れ物は無えだろうな?一つでも遺留品があったら足がつくからな」
「大丈夫だ、ハンディカムもレコーダーもスマホも持ってきた。
ついでに言うと古墳内の足跡も消しておいたぜ」
「おお、さすが」
「フラグ消しは当然よね」
山科が茶化すと、東雲は憮然とした顔をしつつも周囲の道路を警戒し続ける。
「赤羽家の方角ってあっちだったよな?」
「ああ、とりあえずあまり人目につかない道を使って行くぜ」
オカルト研の3人+1人?は夕暮れの中、ひたひたと赤羽家まで走って行った。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
それから数分後、見慣れないシルバーの外国製大型バン数台が神社の脇に殺到した。
バンの後扉から、黒ずくめの特殊部隊十数人が慣れた動きで流れるように出て行き、古墳を取り囲んでいく。
そして隊長と思しき一人の合図と共に、続々と稲荷神社の社の中に飛び込んで行った。
「いないぞ!!どこに消えた!?」
「周囲を隈無く探せ!!きっと近くに潜んでいる筈だ!!」
「隊長、ここは住宅街です。あまり派手な行為は控えろと司令部から......」
「何を言っているんだ、ここにエイリアンが降り立ったのは事実なのだろう?
しかも"新規"らしいと言ってきたのは司令部じゃないか!何としても確保しなければ......」
「隊長、神社と古墳内には遺留品無し、ただ消えかけた足跡から推察するに
10代から20代くらいの若者数人が先程まで侵入していたようです」
「よし!!その若者共を捜し出せ!!」
「駄目です。なぜかこの近辺でドローンを動かそうとすると何故か全機故障してしまいます」
「センサー類もダウンしたままです、原因は不明です」
「隊長!隊員の一部が住民と鉢合わせになってトラブルに」
「住民からの通報で現地の警察もこちらに向かってきました」
「チッ......同盟国でなければ検問を敷いて強制的に立ち入り禁止にさせるのだが」
「隊長、司令部からです。作戦時間限界となったので、住民の人目に付かないように速やかに撤退せよと」
「......仕方ない。総員、集合!!撤退する。あとは情報部に任せるしかあるまい」
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「ただいまーーー、おーい、春乃?沙結?帰ってるかー?」
「はいはーい、にーちゃん今日はやけに早かったn......えっえええ誰それ!?」
春乃が玄関で屈んでいる竜司にぱたぱたと近づくと、背後の少女に気付いて目を見張る。
「兄貴ぃ!!ついに犯罪行為に及んだかぁ!!!」
叫ぶなり春乃は竜司の首を絞めにかかった。
「グゲェ!ギブギブギブギブ!ちょっとこの人を降ろしてからにしてぇ!!」
「お兄、女の人拾ってきた……窃盗?万引き?拉致?」
沙結も駆け寄ってきて少女の顔を覗き込んだ。
「いやお前ら.......」
「ちーっす春乃ちゃん、沙結ちゃん」
「うす」
竜司の後ろから山科と東雲が玄関に入る。
「あっ山科さん東雲さん、お久しぶりですー!」
春乃は山科と東雲にはちゃんと敬礼して返した。
「おい赤羽、とっとと向こうに行ってくれないか。
早く玄関を閉めたいんだが。玄関前に大勢が居ると怪しまれるぞ」
「お、おう。分かった……」
(赤羽くん達、家の中に入っていっちゃったわね……
ていうか赤羽くんが背負ってる女の子は一体誰なのかしら?)
赤羽家の近くにある電信柱の陰に、神崎がこそっと隠れながら赤羽家の方を見つめていた。
(どうもさっきの古墳から連れて来たみたいだけど、怪しいわね……
それにあのすぐ後で変な自衛隊か米軍みたいな人達が古墳を取り囲んでいたし
と思ったら急に周りの住宅街に散らばって住民の人達を脅し回ってるし
余りにも目に余るものだったから警察を呼んだけど、
一体彼らは何なのかしら?)
今の神崎も十分怪しい行動をしているのだが、その事は棚に上げつつ
(とりあえず、明日また赤羽くんと話せる……じゃなくて脅せる材料が出来たわね)
神崎はわずかに微笑みつつ、そのまま夕闇に迫る路地の陰に佇んで赤羽家を監視し続けていた。
竜司達は、2階の空き部屋(普段は物置きにしている)に少女を運び入れて
春乃が敷いた布団に寝かせた。
「どうだ?目覚めそうか?」
「分からん。とりあえず外傷とかは無さそうだな」
「この宇宙服?みたいなスーツ、脱がせようとしても全然脱げないし
それどころか、どこにも繫ぎ目が無いんだよねぇ」
「結局脱がせたのはブーツとジャケットだけだったしな」
「これ、どういう素材で出来てるんだ?ただの化繊じゃ無さそうだし
金属っぽいけど冷たくもないし柔らかいしな」
「にーちゃん、この人どこで見つけたんだー?」
三人は顔を見合わせると、何とはなしに頷いた。
「はぁ……今から言う事は、絶対秘密だぞ。
ここに居る俺達5人以外には絶対誰にも話すなよ。
……多分この人は、宇宙人だ」
「……う、うちゅーじん?」春乃は最初、意味が分からないとばかりに顔をしかめた。
「宇宙人さんなの?」沙結も首を傾げる。
「ああ、稲荷山古墳は知ってるだろ?
そこの社の地下にある石室で、彼女が横になってるのを見つけたんだ」
「そもそも、赤羽が古墳上空に変なものが見えるーって叫び始めたのが原因だよな」
「おい何だよ!お前らだって見えてたじゃねーか!」
「まあねー、でも赤羽くんが見たものと私達に見えてたものと同じかどうか分からないじゃん?」
「そういえば、お兄は今朝も幻覚を見たって言ってた」
「今からでも遅くないから動物病院で脳を診てもらったらー」
「春乃も沙結もまだ信じてねえし……
あとな、地球外の技術を持ってるのは確実だ、証拠もあるし!」
「ちきゅーがい?証拠?」
「ああ、彼女の左手人差し指の指輪があるだろ?
そこからさっき、地球の技術じゃ出来っこねえレベルのホログラム映像が投影されたんだ」
「へぇ」春乃がつんつんと指輪を突っついた。
と、春乃が突いた瞬間に再びホログラム映像が空中に表示された。
「ぅうっひゃあぁ!?」
春乃が飛び退り、沙結も目を見張った。
「おお……っていうかこれは私達……なのかー?」
「すごい」
ホログラムが自分達が今居る空間を再帰的に投影していたが
再びズームアウトして赤羽家全体の映像が見えてくる。
しかしそこでズームアウトが止まり、今度は赤羽家に面した道路の一画にズームアップする。
すると、ここに居る全員が見知った顔が映し出された。
「か、神崎?」
「あー……神崎さん……まさかのストーカーかよ……」
山科の顔も引きつる。
「どうする?」
東雲が訊いて来た。
「どうするもこうするも……多分、俺が生徒会室から急に出て行ったから
気になって追いかけて来たんじゃないかと思うんだが……」
「ってことは、神崎の奴、一部始終を見てたって事か?」
「いやまさかそこまでは」
「でもこの子はバッチリ見られてたかもね」
「むぅ、仕方ねぇな……」
と言うなり、竜司は部屋を出て行った。
「へくちゅっ!......動きはまだ無いわね」
電信柱の陰で、神崎は赤羽家を見つめ続けていた。
しかしいい加減に寒くなって来たし、物陰に隠れる無理な姿勢が身体に負担をかけていて首が痛み始める。
(一体……私は今なにをやっているのかしら……)
そろそろ自分の行動に疑問を持ち始めた時、彼女の目線の先に動きがあった。
(あら?赤羽くん一人で出て行くのかしら?買い物?)
と思ったら、なぜか彼女の居る方角に向かって歩いてくる。
「神崎さん……」
竜司は困ったような笑顔で、柱の陰に居る神崎に話しかけた。
「ヒッ!!」
「ハハハ……もうバレバレだから出て来なよ」
「あ……はぁ、し、仕方ないわね!!」
と神崎は開き直ったかのように堂々とした姿を現した。
「で、どこまで付いて来てたの?何か見た?」
竜司の普段とは形勢を逆転させたかのような態度に、神崎も思わずひるむ。
「え、えっと……古墳のとこから」
「はぁ……仕方ないな。
もう分かったから神崎さんもウチに入りなよ」
「どういう状況なの、これ……」
神崎は、部屋に入るなり呆然として言い放った。
何しろ部屋の真ん中に敷かれた布団に奇妙な風体をした少女が寝ていて
その周りを4人の男女が囲み、更に彼らは奇妙な道具類を手にしているし他にも床に色々と散らばっている。
そして何よりも、少女の真上の空中に赤羽家のホログラムが投影されたままだったのだ。
「あー赤羽くん、このジャケットを探ってたらポケットのあちこちから色々出て来たんだけどさ」
「まるで四次元ポケットみたいだー」
「ぴかぴかひかってる」
春乃や沙結も変な箱か機械みたいなのを手にしてはしゃいでいる。
「見てみろよこれ!銃って言うか武器っぽくねぇか?」
東雲も機械や兵器オタらしく、テンションが上がっているようだ。
「おいおいおい!変に弄くるなよ!いきなり暴発とかしたらどうするんだ!!」
「あとこのホログラム、防犯機能なのかしらねぇー
赤羽くん達が家の中に入っていったら、ズームが解除されてまた家全体が映ったの」
山科も面白がりながらも考察しているようだ。
「コホン......とりあえず、一から説明してくれるかしら」
やや冷静さを取り戻した神崎が咳払いをしつつ、少女の枕元に座って竜司を見据えた。




