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16-3  回想:敵基地突入

「あれが連合軍の基地ってやつか…意外に立派なもんですね」




強襲揚陸艦が敵基地から10光秒の辺りまで接近した時、

シアラはヘルメットのディスプレイリンクを通じて揚陸艦の外部カメラから見える敵基地を視認した。


「なーんじゃありゃ。魚の卵みたいな半透明のボールが一杯ひっついとる。

 何だか気持ち悪いのう」

アルウィオネが顔をしかめながらそう評した。

確かに、色とりどりの半透明のボールというかバルーンのようなものの塊が

ゴツゴツした小惑星をドーナツのように取り囲んでいる。


「アルウィオネ様。

 多分、あれは原始的な攻性防御用衝撃吸収材アクティブバンパーの一種ではないでしょうか」

「ふむ、まあそんなもんじゃな。

 それと能動機雷も兼ねていると言ったところじゃろうて」


アルウィオネがそう推測した通り、

”ヤマトクニ”宙域軍の機動艦隊第一陣が接近していくと

そのボールが次々と機動艦隊の方に向かって放たれ始めた。


「おう、ようやく始まったわい」

機動艦隊から放たれる橙色や紫色のビームが

急速接近するボールを次々と撃破していく。

ボールの陰に隠れる形で敵艦艇も突撃しているようだが

やはり機動艦隊側にいとも簡単に撃沈させられているようだ。


「やれやれ、”ヤマトクニ”の軍事力には到底敵わないというに、

 ようやるわい。健気けなげといってもよかろうの」

「恐らく、あの連中にとっては必死の抵抗を演じる事で

 自らの主張を正当なものとして銀河社会に訴え出る魂胆なのでしょう」

アルウィオネの皮肉にシアラも応じる。


「やれやれ、無駄なことよな…

 それならばそもそもお互いに対立して、星間紛争なぞおっ始めなければ良かろうに」

愚かな事とばかりに首をすくめるアルウィオネ。


「まあ、未開民族ならではの思考回路なのでしょう。

 こういった種族は、長期的な視点からの利益より近視眼的な名誉やプライドを重んじる傾向がありますし」

「ふむ、まあそうじゃろうな」




アルウィオネとシアラがディスプレイリンクでものの数分程度見ている間に、組織的な会戦は終わってしまった。


『第825任務機動艦隊により宙域6-1-1より4-8-3までの制宙権確保に成功せり。

 これより作戦は第二段階に移行。

 強襲揚陸艦部隊1から17番までを敵本拠に突入させる。

 突入はこれより25標準分後。以上』


乾いた口調の艦内放送が戦況を簡単に伝えつつ作戦命令を発した。


「ようやく突入じゃの。

 機動戦闘服の点検も済んだ事じゃし、そろそろストレッチでもしておくが良いじゃろ」

「いやいや、こんな狭いシートでどうやってストレッチしろって言うんですか…」

そう言ってため息をついたシアラだったが、ややあって何かを思いついたかのように懐をごそごそとまさぐり、何かを取り出そうとした。


「ん?なんか忘れ物かの?...ほう、それは」

「ええ、例のお守りです」

シアラが手にしたのは、以前に線虫の胎内から取り返したお守りの鉱物だった。


「これの一部を、アルウィオネ様にお渡しします」

と、シアラはその星型の結晶を真っ二つに割り、その一方をアルウィオネに渡した。

「これは同じ鉱物が近くにあると、共鳴して仄かに光る性質があるんです。

 もし万が一の事があったら、これを取り出して見ていて下さい。

 光り始めたら、私が近くまでやってきたサインですから」


「ほう、ありがたいがの。恐らくそんな状況にはなるまいて」

アルウィオネは気の無い表情でその半分にした結晶を自身の懐に入れた。



 * * * * *



『3、2、1、突入』


やはり無味乾燥な電子音声の艦内放送がカウントダウンを伝え、

0になった瞬間に大轟音と振動が艦全体を覆った。


「うぐっ…流石に揺れましたね」

「まあこんなもんじゃろ」


一瞬揺れをこらえるために下を向いたアルウィオネとシアラだったが、

しかし一瞬後に見上げた時には既にバラン曹長が立ち上がって各兵士達に発破をかけていた。


「さぁさぁさぁ!!とっとと立ち上がれ鼻ッタレども!!ここは揺り籠でも保育器でも無ぇぞ!!

 おらおらおら!!その青白いケツを蹴られたくなけりゃとっとと駆け出せ!!

 行け行け行け!!貴様らが歴戦の戦士だって事を敵どもに思い知らせてやれ!!いいな!?」

バラン曹長にけしかけられた兵士達は、前列から次々に前方に開いた突破口の方に向かって駆け出していく。


「これは出遅れたかの!!」

「仕方ありませんね、ここは艦外に出てから先鋒に出るしかないでしょう」


二人は周りの兵士達と一緒に、揚陸艦の突入ニードルが作り出した突破口から敵基地内に躍り出た。




「おおうっ…!」

二人は敵基地内を見回した。

ここはまだ、基地の一番外側にある防禦区画らしいのだが

その内装は既に異星文明の産物である事を十分に窺わせるものだった。


「なんじゃこりゃ…カラフル過ぎて目がチカチカするわい」

「色使いがちょっとメルヘンチックですが…まぁこれがロンウェオゥだかビガズギだかの建築様式なんでしょう」

何しろ配色だけでなく建築構造や各設備の形状に至るまで、妙にふわふわした印象だ。

まるで古代地球の西欧文化にあるお菓子の家に入り込んでしまったような雰囲気すらある。


「点呼っ!!」

バラン曹長が一旦兵士達を突破口手前の空間に並ばせ、

人員に過不足が無いかをさっと確認する。


「こんな所で立ち止まって点呼かいのう…

 ふん、こんな所で迷い込む奴が居たらそもそも兵士失格じゃろうに」

とアルウィオネが小声で皮肉るのをシアラがたしなめていると、

基地内部の奥の方で幾つもの爆発音が響いた。


「たった今、一報が入った!!

 先発の無人戦闘部隊が、基地内に潜伏せる敵戦闘部隊の主力を武装解除する事に成功した!!

 これより掃討戦と基地掌握に移る!!

 貴様ら!!油断せず慎重かつ確実に基地内を全面占領せよ!!

 抵抗があれば容赦なく排除しろ!!

 それでは、前進!!」


「なーんじゃ、先に無人機どもが蹂躙しておったのか。

 流石に動きが早いのは良いが、つまらんのう」

「それは作戦前のブリーフィングで言ってたでしょう…

 実質的に、これはピクニックと大して変わりありませんよ。

 言ってみればこれは安全を確保されたレールの上を進むようなものですから。

 やはり、線虫を駆除してた方がマシだったかも知れませんね」


アルウィオネとシアラは同時に溜息をついた。

とは言えど、一介の兵士である以上は命令に従って規律正しく全員で作戦行動を取らねばならない。

二人は大人しく、他の兵士と一緒に整列したまま基地奥部へと行軍を開始した。



 * * * * *



「な…なんじゃ?ここは」

「ちょっと私にも…よく分かりません」


アルウィオネとシアラは、他の兵士と共にしばらく一本のトンネルのような通路を進んでいた。

いや、そう思い込んでいたのだが、いつの間にか複雑な枝分かれした道を適当に進んでいたのだ。

そのせいかどうか分からないが、気づいた時には前方と後方にいたはずの兵士達も見当たらなくなってしまった。


「こいつは…ひょっとすると」

「ええ、急に方向感覚を失いましたね。

 どうやら、我々は敵の精神兵器か何かにやられてしまったようです」


何しろ、二人が今いる場所は幾つもの分岐路がある迷路のようなトンネルの只中で、しかもトンネルの壁は様々な色や形の装飾や模様で毒々しいほどに彩られ、明らかに心理的な幻惑を誘っているように思える。


「だめです、指揮本部との通信リンクが遮断されました」

「ふむ…意外にも敵は、知略に長けていたようよの。

 この道にしても、心理効果との相乗を狙って自動的に組み替えられとるんじゃろうて」

アルウィオネが腕組みをして思案するように周りを見渡した。


「アルウィオネ様、余裕ですね」

「ふん、何しろ既に無人戦闘部隊が敵主力を無力化したのじゃろ?

 であるなら、これは敵の最後の悪あがきというものじゃろうよ。

 精々、余たちはこのピクニックとやらを堪能しようではないかの」


「そう言っておきながら、実は面倒臭くなってませんか?」

「…さーて、なんの事かのう?」

「とぼけたって無駄ですよ、アルウィオネ様は敵が目の前に居ないと途端に退屈するタチじゃないですか。

 しかも、道を探すのを私に投げっぱなしにしようとお考えですね」


「だがしかしじゃの、どうせルートなんぞぐちゃぐちゃに作り替えられとるんじゃから深く考えても無駄じゃろうが」

「それでもですね、ある程度はパターンを読んで推測しながら進まないと、いつまで経っても目的地に辿り着きゃしませんよ。

 それに、若いうちから少しは頭を使わないとすぐにボケるんじゃないですか?

 若くしてボケ始めた銀河帝国第四皇女殿下なんて世間がなんて言うでしょうねぇ」


「ボケるわけじが無いじゃろうがボケ」

「なっ、人に向かってボケとはなんですかそれはちょっと言い過ぎじゃないですか!

 全く、貴方も曲がりなりに皇女殿下なんですから、少しは品のある言葉をお使いになっては如何でしょうかね」

「何じゃとぅ?またお主は身分をネタにして余をからかいよるな?

 お主こそ品のある言葉をもう少し使うたら良いじゃろう?

 そもそもお主が最初にボケと言いおったのじゃろうが。

 あーやれやれ、お主のせいで余まで荒っぽい言葉が移ってしもうたわい」

「何ですってぇ!?アルウィオネ様は最初にお会いした時からそんな口調だったじゃ無いですかー!」

「お主こそ何を言うかー!!」




二人でお互いにぎゃあぎゃあ言い争いつつも、適当に選んだ道を進んだり行き止まりでは壁に穴を開けるなどしていると、いつの間にか広間のような所に出ていた。


「…ありゃ、あからさまにまた判断を迫られるような分岐点ですね」

「ふん、こんな道は右端から順繰りに潰していけばいつかは正解に辿り着けるというものじゃわい。

 右手法とか言うたかの」

「いやいや、アルウィオネ様はさっきどこかの壁をブチ抜いてたでしょうが。

 もう右手法もへったくれもありはしないですよ」

「またお主は揚げ足取りをするのう…全く困ったもんじゃ。

 迷った時は右手法!困った時は壁ブチ抜き!これで万事解決じゃ!!」

「いや豪語されても困るんですが…ん?」


シアラが何かに気づいて、分岐路の一つから伸びるトンネルの先を注意しながら覗き込むと、奥の方に誰かがもぞもぞと動く気配がする。


「もしかして、離れ離れになった同僚兵士達かも知れませんよ。

 助けに行きましょう!」

「待て待て、そう急くで無い。

 それにこれは罠かも知れぬでは無いかの」


アルウィオネがそう注意をシアラに向けて促そうとした瞬間、

突然にして広間全体が大きく揺れた。


「おおぅっ!?」

大きくバランスを崩して思わず尻餅をついたアルウィオネは、

急激に閉じゆくトンネルの向こうにシアラが飲み込まれていくのを見た。


「お、おいシアラ!!待て待て!!」

「だ、ダメですアルウィオネ様!!ついトンネルに入った途端にこうなって…!!」

「シアラー!!」


みるみる間にトンネルの入り口が窄まるようにして閉じ、ついでに他のトンネルも全て閉じていった。




「なんて事じゃ…完全にシアラのいるトンネルから分断されてもうたわ」

アルウィオネはどこか突破口が無いかとぐるっと部屋を一周して探したが、

どこにもシアラが居るはずの方向への出入り口は無さそうだ。


「やれやれじゃの…シアラは無事じゃろうか」

呆れたようにしてアルウィオネが天を仰いだ瞬間、

天井の一部がブァッと開いた。


「ドアァッッ!!」

「グゲェッ!!」

いきなり天井の穴から青い液体と一緒にドサドサと何かが降ってきたので、

アルウィオネは思わず部屋の隅へと飛び退いた。

「な、何じゃ何じゃ!?」


その部屋の真ん中に落ちてきた物体を改めて確認すると、

それはどこかで見た事のある二人の兵士だった。


「あっっ!!テメェは!?」

「バカやめろこいつは皇女殿下じゃねーか!」


「ほう、お主達は…確か「ヘタでムズイ」とか申しておった兄弟かの」

「ヘタでムズイじゃねぇ!!ちゃんと覚えろよ!!

 オレ達はフェタムジィ兄弟っつってんだろが!!」

そのガタイのいい二人の兵士は、剣戟試合の1回戦でアルウィオネ達に惨敗した二人組だった。


「して、何でこんな所におるのじゃ?」

「そりゃオレ達も強襲揚陸艦に乗ってたに決まってんだろうが!!」

「そうそう。でもよ、突入したはいいがみんないつの間にかバラバラに引き離されてこの通りだってんだ」

「オレ達も手を尽くして他の連中を探したんだがよ、結局未だ一人も見付からねぇときたもんだ」

イディゴだかヴァムプだかが諦めたように天を仰いだ。


「それで、横方向がダメなら床に発破で穴を開けちゃあどうだって話になってな」

「なるほどのう、それでお主達は天井から降ってきたのか」

「何でか分からねーけど、青い液体が壁やら床やらを循環してるとは思わなかったぜ」

「お陰で全身青く染まっちまった」

二人とも、自分の宇宙服についた青い液体をアルウィオネに見せる。


「まあ上のフロアはとりあえず誰も居ねえ気がするぜ」

イディゴだかヴァムプだかの一方が天井を指差す。

「そうそう、だからアンタが再発見第一号ってトコロだ」

「やれやれ、それでは仕方ないのう。

 余たちもちょうど他の兵士達を探していたところでの、

 とは言っても先ほどお主らが降ってくる直前にシアラとは離れ離れになってしもうたが」


ハァと悲しそうにため息をつくアルウィオネだったが、やがて意を決して

イディゴだかヴァムプだかに告げた。

「それではの、余たちもとりあえず同僚探しを再開するとするかの」


アルウィオネの言葉に促されて、しゃがんでいたイディゴだかヴァムプだかが立ち上がろうとすると

「うっ!!痛てててて!!」

「どうしたのかのう?」

「いや、落ちたはずみで足をひねっちまったみたいでよ…」

「おいイディゴ、おめぇの脚部の倍力装置がぶっ壊れちまってるみてえだぞ」

「マジかよヴァムプ。これじゃマトモに歩けねぇぜ」


怪我のお陰でようやくどちらがイディゴでヴァムプなのかが分かったアルウィオネは、頭をポリポリ掻く(といってもヘルメットのせいで掻き真似にしかなっていないが)と、腰を下ろしたままのイディゴの手を引いた。

「仕方ないのう、余が支えてやるから感謝するのじゃぞ?」



 * * * * *



ヴァムプと共にイディゴを肩で支えながらトンネル道を進み始めたアルウィオネだったが、幾らも歩かないうちに行き止まりに出くわしてしまった。


「ふむぅ、また引き返して元来た道に戻るのも面倒じゃのう」

「だけどよ、作戦用の発破は数に限りがあるぜ」

「いや、発破なら余も当然持っておる。

 それにどうもこの先がクサい気がするのでの。景気良くブチ抜いてしまおうぞ」


小さな絆創膏くらいのサイズの指向性爆薬シールを行き止まりの壁の真ん中に貼り、それから三人が少し離れたところまで退避してからアルウィオネがスイッチを入れると

ボムッとくぐもった音がしてから、壁がボロボロと難なく崩れた。


「よしよし、それでは掘り出してから進むとするかの。

 何しろこの壁は自動的に修復する機能があるみたいでの、急がないとまた塞がってしまうやも知れぬ」


壁から浸み出す青い液体によって濡れたダンボール屑のような触感の壁を、ゴリゴリと掘って人が通れるサイズにする。

先に二人を通してからアルウィオネも穴を潜り抜けた。


「おうっぷ!!

 おいおい、お主ら何を立ち尽くしておるのじゃ。木偶の坊でもあるまいに」

頭のヘルメットを思い切り兄弟の背中にぶつけたアルウィオネは、訝しみながら二人に抗議した。


「いや…それがよ」

「もしかして、これってよお」


二人の脇から前方を見たアルウィオネは、兄弟が立ち尽くしている理由を知った。


「ほう…これはこれは」


目の前はちょっとした円形の広間になっていたのだが、

その中心には複雑に枝分かれしながら取り巻く血管のようなチューブの塊があり、

さらにその奥に瞬きながら規則正しく脈動する巨大な心臓のようなものがあった。




「二人ともでかしたのう。

 余たちは、この基地の本当の中枢とやらに出くわしたやもしれんぞ」

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