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16-2  回想:剣戟試合

「アルウィオネ…いや、やはりここはアルウィオネ様と呼ばせて頂きます。

 貴方は命の恩人に等しい」

「やめいやめい、堅っ苦しい。

 でも、お主の命に等しいものを救い出せたのなら、

 余としても臭い内臓に埋もれた甲斐があったというものじゃわい」




二人は、線虫の死骸で築き上げた山の、その頂上でいつまでも笑いあっていた。


もちろんその直後、二人は連隊本部に引っ張られて上官にこってりと絞られ、

ついでに1週間の営倉入りとなった。


これが訓練行軍放棄の罪状で軍法会議に掛けられた後に降格ないし強制除隊とならなかったのは、何よりもまず二人の行為が、線虫に襲撃された多くの兵士の命を結果的には救ったのであり、命を救われた多くの兵士や士官の陳情がもたらされたからに他ならない。

それにシアラが言う通り、線虫ごときで兵士どころか士官達も戦わずに逃げてしまったという事実は、軍隊にあるまじき怠慢の結果であり、そちらの方を問題視する意見が駐屯地幹部の間で支配的になった事で、二人だけを罰する訳にいかなくなった事情もある。

またアルウィオネの皇族としての権威がそうさせたという向きもあるが、それは真実の一部でしかないだろう。


「何なんだよ全く…

 他の連中が線虫討伐に付き合ってくれりゃあこんな大事にならずに済んだのになぁ」

シアラは営倉に籠っている間、ずっとそんな風にぼやいていてアルウィオネの苦笑を誘っていた。


ともかくこうして、シアラとアルウィオネは出会い、友人の間柄となった。

二人はいつも連れ添い、それこそ食事をするのもトイレに行くのも一緒な位だった。

いつの間にかアルウィオネの取り巻きは居なくなり、その代わり二人の事を『アルシアコンビ』だなどと揶揄する言葉も生まれた。

だが二人とも周りの事を気にする性格でもないので、そう言った陰口も全く意に介さなかった。



 * * * * *



また暫く経ったある時、駐屯地対抗の剣戟試合が開催される事となった。


その頃までにはシアラとアルウィオネは、駐屯地随一の技量を持つ兵士として駐屯地代表に選出されるまでになっていた。




「駐屯地同士でワールドカップですか…何だかなぁって感じじゃないですか」

「まぁそう言うなシアラ。要はみんな暇なんじゃからの」

癖でぼやくシアラをアルウィオネがなだめつつ、二人は開催地である第3駐屯地の試合会場へ降り立った。


試合会場は、典型的なすり鉢状の闘技場コロシアムといったデザインで、

円形の闘技面をぐるっと取り囲むように観客席のひな壇が備え付けられている。

ひな壇では観戦する兵士らの罵声がどよめくように場内に響き渡っていた。


『予選番号第70番台、前へ!』

案内放送に従ってシアラとアルウィオネが闘技面の中央に出て、目の前の二人組に相対する。


『試合開始!』


「ほう、お前らがあの噂の”狂戦姫バーサーカー”か」

「それにしては可愛らしいもんだな、皇女様とやらはどっちだ?」

ずんぐりむっくりした、似たような体付きの二人組がガラガラ声で話しかけた。


「皇女様とやらは余じゃがの。

 まぁ小柄なのは生来の体質でな、気に入っとるから体型をわざわざ変容エンハンスするつもりも無いがの」

「それより、貴方達の方が非効率的な体型をしているように見えるが」

シアラが挑発するように言い放った。


「なにィ!?

 お前ら、俺達フェタムジィ兄弟を知らないとかモグリかよ!?」

「ふん、知らないなら教えてやろう。

 俺がフェタムジィ=イディゴ一等兵でこいつが弟のフェタムジィ=ヴァムプ一等兵だ」

「おい!俺が兄だって言ってるだろ!」

「生成されたのはほぼ同時だが自我が先に生まれたのは俺の方だ!」

「何だとぉう!?」


「ふぁぁ…どっちでも良いがの、先に仕掛けてくるのはどっちじゃ?

 良い加減待ちくたびれたわ。時間制限もあるし、さっさと終わらせんかの」

「私もとっとと帰りたいですね。ここは砂っぽいし」


「ほう、良い度胸じゃねーか。

 それじゃあ一発で終わらしてやるよ!

 救急便で帰れるから感謝するんだな!!」


ゴウッッと空気を震わす轟音を立てて、

イディゴだかヴァムプだかの手から放たれた巨大なトマホークが二人に襲い掛かった。


「ほいっ」「ふっ」

二人は、難なくその斧を躱す。

しかしその斧は、高電圧の電光を刃にまとわりつかせて残像を曳きながら高速で彼女らの方へ戻ってくる。

「ふむ、自動追尾式かの」

アルウィオネは顎に手をやりながら、再び飛来してきたその斧を躱し続けた。


「おいおい、余裕ぶっこくのもこれで終わりだぜ!

 斧はそれだけじゃねーからよぉ!!」

「行くゼェ!!」

彼らはどこに隠してあったのか、斧を次から次へと繰り出して彼女達に向かって放ち続ける。


「やれやれ…面倒な事じゃの」

「尤も、これではウォーミングアップにもなりませんけど」


今や10本以上の斧が彼女らにまとわりついて高速回転しながら刃を閃かせているが、一向に彼女らの戦闘服にすら擦り傷一本もつけられずにいる。


斧を遠隔操作する兄弟の顔に焦りの色が浮かび、ついにイディゴだかヴァムプだかが背中に抱えていたひときわ大きな斧を構えた。

「くっそ、しぶてぇ奴らだ!!

 仕方ねぇ!これは決勝戦用に取っておいた最終兵器だが使ってやるぜ、名誉に思いやがれ!!」

彼はそう宣言すると同時に、その2mはあると思われる巨斧を両手でぶん投げた。


「そろそろケリをつけるとするかの」

「そうですね」


二人は、ぴょんとその場から大きくジャンプし、

その次の瞬間にはまとわりついていた斧が全て地面に叩きつけられていた。

「なっ!?」

彼らが目を丸くした一瞬、飛来する巨斧を空中で踏み台にして

再び大きくジャンプした二人が物凄い勢いで兄弟に襲い掛かった。


そして彼らが気づいた時には、両者とも地面に叩きつけられていた。

それぞれの腹の上に立った彼女らが、ビームソードを首元に突きつける。

「終わりじゃの」

「だから、ウォーミングアップにもならないと言ったじゃ無いですか」


「う…うぐぐ…ま、参った…」


『勝者、第77駐屯地代表!!』


案内放送が響き渡ると、観覧していた兵士達がどぉっと歓声に湧いた。


「はぁ…やっぱり詰まらないですね。

 線虫を相手にしていた方がまだマシですよ」

「まぁそう言うなシアラ。

 とは言っても、この試合をあと5回くらい続けんと決勝に至らんのじゃが…ん?」


何かに気づいたアルウィオネが、上空に目をやる。

つられたシアラも空を見上げると、蒼い空の彼方に無数の光る点が出現しつつあるのが分かった。




『緊急警報発令!!緊急警報発令!!』


警報が響き渡る試合会場は騒然となっていた。

『侵攻勢力はロンウェオゥ人とビガズギ人の連合軍と見られる!

 各員は速やかに所属部隊へと帰隊し、所属部隊の指令に従って第1種戦闘配置に付け!」

 繰り返す!...』


「何という事じゃ。

 全く、呆れた事態じゃわい。元々敵対しておった連中が結託するとはの」

「まあ私には、なるべくしてなったという気もしますが。

 何しろ、対立する勢力同士を一つに纏めるのは新たな敵の出現である、というのは教本にもある手法ですし」

「はん、なるほどのう。

 つまり余たちは、あやつらにとっての新たなる敵という事じゃの」


くっくっくと笑うアルウィオネだったが、シアラは面倒だというような面持ちで応じた。

「まあその敵さんは、今から連合軍を討伐しなきゃいけないようですよ。

 私達もその討伐に参加しなきゃいけませんし」

「まあ良いでは無いかシアラ。

 お主も、先程までの試合では退屈しておったのじゃろう?

 今度は本物の戦場じゃぞ、運命に感謝すべきじゃの」



 * * * * *



第77駐屯地へ急いで戻った二人は、エルシゼル駐屯地司令官の指令によって第674歩兵科中隊ごと強襲揚陸艦に押し込められた。


直前のブリーフィングによると、どうやらロンウェオゥ=ビガズギ連合軍の司令部がある

小惑星:識別番号4629-11992を改造した宇宙軍基地を急襲する作戦らしい。

宇宙艦隊の先制攻撃によって制宙権を掌握した後に機動歩兵を乗せた強襲揚陸艦を小惑星に突入させて、

その突破口から内部に侵入して基地機能を奪取する事になっている。


揚陸艦の座席シートに揺られながら、

アルウィオネとシアラは倍加装甲を装着した第2種機動戦闘宇宙服の機能を点検していく。

フェイスシールドのディスプレイリンクを通じて宇宙船外を見ると、

すぐ隣を同じような強襲揚陸艦が数十隻も編隊を構成して航行していた。


上官であるバラン曹長が揚陸艦内の兵士の様子を点検しながら声を掛けていく。

「おい貴様ら!!確かに貴様らにとってこれが初めての実戦だ!!

 だからってチビってんじゃねぇぞ!!これまで駐屯地で行ってきた血反吐を吐くような訓練を思い出せ!!

 貴様らは最初、線虫にもビビって逃げ狂うような鼻ッタレのガキだった!!

 しかしその後、貴様らは他の駐屯地に比べても上等な訓練を受けてきた!!違うか!?」

「違いません!!曹長!!」

「そうだ貴様ら!!それもこれも、全てここにいる”狂戦姫バーサーカー”『アルシアコンビ』のお陰だ!!

 だから貴様ら!!自信を持って戦え!!なぜなら貴様らは”狂戦姫バーサーカー”と直に刃を交わした経験があるからだ!!

 良いか貴様ら!!勝利は近い!!なぜなら、ここに勝利の女神が二人もおわすからだ!!皆誇りに思え!!」


「イェーーー!!」「ウォーーー!!」

「殿下!!殿下!!シアラ!!シアラ!!」




「あーあー…嫌な予感がすると思えばやっぱりこれだわい」

「はあ、何かもう勝手にしてろって感じです…」

アルウィオネとシアラは二人揃って、周囲の兵士による雄叫びの声の中で頭を抱えていた。

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