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15-8  帝国内旅行・殿下の日常

「それではお次は、皇宮の中をお見せしようかの」




アルウィオネがまた掌を操作すると、今度は皇宮内建屋の中が映し出された。

「こちらは迎賓フロアじゃ。

 様々な種族や氏族を受け入れて快適に過ごせるための調度品が揃っておる。

 ここら辺は、”帝国”の氏族のための区画での、古代地球の文化に似せた内装にしておる」


「ほへー、なかなか豪華だなぁ」

確かに、どちらかというとやや古めかしいが豪奢な装飾やデザインの椅子やテーブルや棚などの什器類が、これまた古風な西洋風の装飾が施された部屋にバランスよく配置されている。


「そっちは洋風、こっちは和風での」

アルウィオネが指し示したフロアは部屋や廊下など全てが伝統的な日本家屋といった風情であり、それもどちらかというと平安時代の邸宅を思わせるような雅な印象がある。


「あと、近代風というか現代風のフロアもあるでな」

そちらは、表現を自由に変えられるホログラムと自在に変形するナノテク素材などを組み合わせた超未来的な内装だ。

しかしこれは多摩市にあるオクウミやシアラが普段住んでいるアパートの内装と同じで、竜司達も既に見慣れている。


「こっちは全環境適応型の大部屋じゃ」

そこも先程見たような、超近代的な内装というか真っ白なキャンバスのような感じの部屋だったが、そのスケールがやたらと大きく1部屋1部屋がまるで東京ドーム並みのサイズだ。


「ここはの、様々な種族や氏族が求める環境に対応出来るようになっておるのじゃ」

しばらく見ていると、その空間内に漂う不定形のふわふわした雲かアメーバみたいなものがみるみるうちに形を得て、伝統的な和風家屋による小さな村や巨大なキノコに囲まれた妖精が住みそうな街、または中世ヨーロッパ風の城塞や透明なバブルの塊で出来た不可思議な構造物などに姿を次々と変えていく。


「こんな所に住む人達が居るんですか?」

「まあのう、氏族によってはこういう奇妙な雰囲気の集落が好みという連中もおるのじゃろ。

 あとは人類以外の種族も住めるように、真空低温やら高温高圧やら水素やフッ素やメタンやアンモニアやらの

 極端な環境に置き換える事も可能じゃ」




「こっちが、余が普段を過ごしておる個人的なフロアでの。

 標準重力下…古代地球と同じ1G環境下で快適に過ごせるための環境になっておるのじゃ」


「これが皇族のプライベート空間か…」

「あれ、なんかさっき見た和洋折衷の部屋とかとそんな変わんないな」

「ふーん、なんか普通だねー」

竜司達はアルウィオネ…皇女殿下として過ごす空間がどんなものか少し期待していたのだが、3Dで目の前に展開される光景が割とありきたりな感じなので、少し拍子抜けしたようだ。


「ちょっとみんな何て事を言うのかしら…あまりにも不敬だわ」

三人が好き放題な発言をするので、神崎ががっくりと項垂れながらアルウィオネに釈明した。

「アルウィオネ様、申し訳ありません。みな礼節を弁えないものですから」


「はっはっは、良い良い。気にするで無いわ。

 実際のところ余としても普通を目指した内装にしておるのじゃから、これは褒め言葉じゃわい」

あっけらかんと笑うアルウィオネに神崎が少し安心して胸をなでおろした。


「ここは余の居間兼寝室じゃ。

 まあ皆も言う通り、普通じゃろう?」

映し出された部屋は、確かに大して珍しくも無い…とは言っても和洋折衷のかなり豪奢な装飾を施した調度品や什器が程よく配された空間になっている。


「あ、いや…そう言えば普通普通と言っておきながら何ですけど改めて見ると地球の皇族とか王族の部屋もこんな豪華な感じだったなーって思いますし!凄いっす!」

「そ、そーだね!ってか私達、ちょっととんでもないものを見慣れすぎちゃってるからさー…あはは」

「うむ!確かに皇族という事を鑑みれば、これ程高貴な風情の空間もなかなかに御座いませぬ!!」


「いやの…そんな無理に褒めんでもええんじゃが」

アルウィオネは必死に盛り立てようとする竜司達を、呆れたようにジト目で見遣った。

隣では、神崎が酷い頭痛に罹ったように顔を思い切りしかめて頭を抱えていた。

「調子が良すぎてもうフォローしきれないわね…」


シアラは、その居間の片隅にある棚の上に、とある小物が置かれてあるのに気づいた。

「あっ…アルウィオネ様。あれは…」

シアラの目線の先には、小さな星型をした琥珀色の石のようなものがあった。


「おう気づいたかシアラ。あれは今でも余を守ってくれておるでの」

「そうですか…」




「で、余はここで最近は書類業務などの雑務をこなしておる」

アルウィオネがシンプルなデザインの近代的なテーブルに向かって仕事をしている様子が映し出された。

「この隣におる男が、余の側近団の長である爺やでな。

 いっつもこの爺やが余に付き従ってあれやこれやと口を出し…もとい、世話を焼いてくれるでの」


「なんか本格的な執事って感じのお爺さんですね」

「そー言えばさ、こんな風なお爺さんとかってこっちの”帝国”じゃあまり見ないよね」

「そうね…確かに明らかに老人と分かるような人は少なくともこの船でもアラマキ-7115市でも見なかったわね」


「老人…かの?

 そうか、お主らの21世紀地球日本ではまだ遺伝子・生体工学技術が進んでおらぬからそういう疑問もあるのかの。

 まあ確かにこういう老けた顔の人物というのは、”帝国”では珍しい部類での。

 というか、”帝国”の外となればそもそも老人という概念そのものが無くなっておるのじゃが」

「つまり、こちらでは不老不死が実現されてるという事でしょうか?」

「うむ。不死とまでは行かぬが、お主らの世界からしたら果てしない時を生きていると思われても仕方ないじゃろうな。

 この爺やも、現在で御齢7500歳以上じゃぞ」


「な、7500歳…以上!?」

「っすっげー長生き」

「それは、地球での一年に換算して、ですか?」

「ああそうじゃな、この”帝国”で採用している1標準年は1地球年とほぼ同じと考えて良いじゃろ。

 ただうるうの誤差を鑑みるとこちらの1標準年の方がほんの僅かに長いがの」


映像では、その爺やと呼ばれる人物が次から次へとアルウィオネに仕事を持って来ていた。

アルウィオネが頭を抱えてぼやき、嫌々そうにしながら仕方なく仕事をこなしている様子である。

「何か…大変そうっすね」

竜司はアルウィオネに同情した。

「あら、それを赤羽くんが言うのかしら?

 貴方が怠慢しなければ、生徒会の部活動事務処理もつつがなく進むのだけれど」

神崎が竜司を横目で見やった。

「うぅっ」


「ほう、そう言えば神崎さんは生徒会の副委員長と聞いたが、やはり事務仕事があるのかの?」

「ええ、それはもう大変ですわ」

ニッコリとして神崎が頷いた。

「うむうむ、事務仕事は大変よな…余も身にしみて分かったわい。

 爺やが部屋に入ってくると、まさかまた爺やが仕事を持って来たのかとビクビクしてしまう位じゃからの」

「ええ、特に、そんな仕事を増やしてくれる輩にはほとほと嫌気が差しますわね」


「え?え?何で二人して俺の事睨むの?」




アルウィオネは、掌の上で展開されていた3D映像を切ってから首をすくめた。


「まあ、こういう仕事を増やされたのも仕方ないと言えば仕方ないのう。

 その前まで、余が割とあちこちで獅子奮迅の活躍をしていたので、先ほど申した議会が余に目を付けよっての。

 色々と皇宮管理局を通じて余の側近団にイチャモン…もとい苦情を申し立てよったのじゃ」


「獅子奮迅どころか暴れまくってたと聞きましたがね…」

シアラがボソッとつぶやく。

「むうぅ!?」


「アルウィオネ様、それは実際仕方ないことかと思われますよ?」

「何じゃとぅー?

 全くシアラは、余が近傍世界線でどれだけ活躍しておったのか知らんようだの。

 つい先だっても、余はあの17=5-47-664-33-8.69-4世界線の地球で異星人種どもが結託する惑星枢軸軍を討ち滅ぼして地球と日本を救ってやったのじゃぞ?」

「あー、そう言えばオクウミ支部長からそんな話を聞いた事があったような…」


「聞いた事があったような…じゃないわアホゥ!

 あの世界線は、余とシアラの思い出深い所じゃなかったのかのう?

 何でそんな大事な事を忘れておるのかのう!?あー全く悲しいのう」

「いやアルウィオネ様…別に忘れていたわけでは決してありませんよ。

 むしろあまり思い出したくないと言うか…」


「思い出したくないとは何じゃ!!

 何と言う聞き捨てならん…あ」

と、アルウィオネは何かを思い出した。


「そういえば…なるほどな、クックック」

「なっ…アルウィオネ様、何を思い出されたのですか!」

「いやいや、食い意地の張ったお主の事を思い出しただけじゃの」

「アルウィオネ様!!それを口にしては」

と言いかけて、慌ててシアラは両手で口を塞いだ。


「えっ?えっ?何々ー??」

目ざとい山科が、シアラの態度で気づいた。

「もしかしてー?シアラちゃんの弱点かなぁー?」

「おっ、マジで!?」

「むむむ!シアラさんの弱点!!それは是非伺いたいものでござりますぞ!」

「アルウィオネさん教えて教えてー!!」


「いや何、単純な事じゃ。

 お主らが住む世界とは若干異なる世界線での出来事じゃが…

 こやつはその世界の合衆国領土内にて、米軍に取っ捕まっていた事があっての」

「えっマジで!?」

「アルウィオネ様ぁ…それ以上は」

シアラが嘆願するが、アルウィオネは聞く耳を持たないようだ。


「ふふん…での、このシアラはあろう事か、

 その捕らえられた先の米軍基地で、のうのうと惰眠と惰食を貪っておったのだ!」

アルウィオネはビシッとシアラを指差した。


「なっ…!!

 何をおっしゃるのですかアルウィオネ様!それは流石に誇張し過ぎです!

 私はただ味方が救出に来るまでじっと大人しくしていただけです!

 それに私は基地内の調査を行ってましたし、決して何もしていなかったわけではありません!」


「そーかそーか、それじゃ基地の食堂で散々パンケーキとTボーンステーキとフライドチキンを食い散らかしていたというのも調査の一環というやつかの?」

「うぐぅっ」

シアラは下唇を噛んでぐっと渋い顔をする。


「へー、食い意地はってんだなぁシアラは」

「ねぇねぇ、米軍基地のパンケーキってそんなに美味しいの?

 春乃ちゃんが作るパンケーキよりも??」

「春乃氏のパンケーキ…ううむ甘美な響き!!」

「そうね、本場アメリカのパンケーキとなれば調理法や原材料にそれなりに地域色や工夫もあるでしょうし、場所によれば美味しいところもあるでしょうね。

 食にうるさいシアラさんが魅了されるのも無理ないのではないかしら」

苦虫を噛み潰したような顔のシアラをよそに、みんな割と散々な言いようである。


「そう言えば、俺と東雲で昔、横田の米軍基地祭に行った事あったな。

 あん時確かにパンケーキかホットケーキの出店?みたいなのも出てた気がするぜ」

「えっホント?」

「おう、そう言えばそうだ。

 でも俺も赤羽もケバブとかバーベキューばっか食っていたが」

「確かにありゃあ美味かったよなぁ」

「えー!?良いなー良いなー。

 私が昔住んでたカナダのバンクーバーとか、意外に料理とか大人しめなのばっかだったしー」


「なぜその時、私を呼んでくれなかったのかしらね」

「えぇ…だってあの時神崎さぁ、中学時の生徒会とかで忙しかったじゃねーか。

 だから声かけ難かったっつーかさ、それにその頃って何でか知らねーけど俺に対してやたらツンケンしてたし」

「むっ…ま、まあ、その時の事情というものがあるから仕方ないわね。

 でも確かに、米軍に限らず軍隊が提供する食事や料理はハイレベルなものが求められると聞くわ。

 何しろ、軍隊では食事が唯一の楽しみとも聞くし」


「ほう、確かにな。

 余が兵役で入っておった天体軍でも食堂の料理はそれなりに美味いものじゃった気がするの」

竜司達の会話に、アルウィオネも混ざってきた。


「そう言えばアルウィオネ様は、兵役で軍隊におられたのですか?」




「そうじゃ。余は兵役で20年ほど軍隊におったことがあるのでな。

 実際、シアラともその軍隊内で知り合ったのじゃ」


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