15-7 帝国内旅行・懇親会
「それじゃ、アルウィオネ様との再会を祝して」
「乾杯じゃ」
全員が、船内のレストランにある丸い宴席に座って
シアラの音頭に合わせて飲み物を掲げ、乾杯のグラスを鳴らした。
レストランは貨客船の上甲板テラスにあり、船の外に半分飛び出る形で透明な力場に覆われている。
来客は文字通り空中に浮かぶテーブルと椅子に着席し、臨場感ある景色を楽しめるようになっていた。
竜司達はゲームを終えて一段落した後に、せっかくシアラがアルウィオネと会えたのだからと貨客船内のレストランで懇親会を開く事を提案したのだった。
しかし竜司達から、昼間にレストランで食べた擬似日本食が美味しくなかったという話を聞きつけたアルウィオネは、皇室権限で現在審査中の21世紀地球日本食のレシピをこのレストランのアーカイヴに共有させていた。
なので、テーブルに並べられている豪華な料理はどれもフェイクに感じさせない本物の料理の味がする。
「おっ、これはちゃんとしたステーキの味がするぜ!しかもちゃんとジューシーで旨い!」
「こっちのパエリアやカルパッチョ、それにアクアパッツアも美味しいわ」
「んー!この春巻きとかエビチリとか回鍋肉とかもめっちゃ美味しいんだけど!!」
「七面鳥に一羽丸々齧りつけるとは夢のようでござる!!」
「ってか東雲、おめぇそれ一度齧ったなら責任持って全部食えよな…」
「でもさー、何の審査に時間掛かってんの?こういう地球や日本の料理ってアラマキ-7115市でも食べられたけど」
「ああ、アラマキ7115市などは特区扱いじゃから問題なかったのじゃが、
どうやら帝国保健厚生省の連中が、21世紀地球日本食を”帝国”内に流通させる為の安全性審査に時間を掛けてるみたいでのう」
「えぇー、大して変な原材料とか成分とか入ってるわけじゃないと思うんだけど、体に合わないのかなー?」
「いやそうではないじゃろうなぁ。
そもそも我々”帝国”人の体は、数十万年前からさんざん改造に改造を重ねて基本的にはどんな毒物でも処理できるように先天的・後天的に調整されてるんだがの。
”帝国”外の”宇宙日本人類文明体”まで含めると、毒物どころか真空低温や高温高圧にも生身で耐えられる連中がゴロゴロ居る。
多分、21世紀地球日本の食文化を含めた文化風俗を”帝国”内に広めたくない勢力が保健厚生省にまで干渉しているのじゃろう」
「広めたくない勢力って?そんな人達もいるんですか?」
「そうじゃの、まあ話せば長くなるし結構複雑な経緯があるのじゃが…
まあ平たく言ってしまうと、そもそも皇宮のやり方に反発する勢力が帝国多重議会にあまた居るという事が根本にあるのじゃ。
そして時空管理局自体が皇宮の影響下にあるものじゃからの、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという道理で時空管理局の事業にもイチャモンを付けておると言う次第なのじゃ」
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって、お姫様はなかなか渋い言葉知ってんなぁ」
「帝国多重議会?この”帝国”での国会みたいなものでしょうか」
「ああ、まあそうじゃな。
この帝国多重議会というのは、基本的に天体院・星間院・次元院の三つの議院で成り立っておってな。
天体院は可住天体・すなわち惑星や衛星や宇宙植民地単位での統治を主に取り仕切っておる。
これに対して星間院は恒星系やそれを複数含む星群・星域・星雲などの単位でより広い観点での統治を受け持っておる。
そして次元院は、人工次元世界や星門の先の異次元世界を管理統治する役を行っておるのじゃ。
各院の議員は帝国多重議会の場において、院の境を越えて連絡融通しあって政治的諸問題を解決すべく活動しておる。
また、多重議会の会期中は約50万~100万人の議員が主に帝都星イザギアにある中央本議会議場で行われる議会に召集される。
ただ様々な都合で実体や仮身体を派遣出来ぬ場合は仮想体での出席も許されておるからの、実際には秘書や副官等を含めて数百万人の議員関係者が狭い議場にひしめく有様となるわけじゃの」
「なかなか理解できないスケールの議会ですね…」
アルウィオネの口から語る”帝国”政治の世界はなかなかイメージが湧きにくい程の規模で、そもそも日本の政治からしてあまり接点のない竜司達からしたら、余りにも遠い世界のように感じられるのだ。
「ま、お主達はまだ政治には関心がなさそうじゃからの、この辺りの話は適当に受け流してもらっても構わんがの」
くっくっくと笑うアルウィオネに、竜司達が慌てて首を横に振った。
「い、いえいえ!そんな事はないっす!大変興味深く聞かせて頂きましたっす!」
「ははは、まあまあ気にするでない。
まあともかく、この”帝国”とて決して一枚岩でない事を理解してもらえたら良いわの。
何しろこの皇宮と議会との確執はこの数万年に渡るものじゃしのう、簡単に解決出来るものではないわ」
「そういや、アルウィオネ…様は普段どこにお住まいで、どういった仕事をされてるんですか?
やっぱ、皇室ならではの視察だとかなんですかね」
「あっ…アルウィオネ様、今の彼の質問は機密に関わる事もあるでしょうから、無理にお答えせずとも大丈夫ですわ」
神崎は隣で発言した竜司の脇を肘で小突きながら竜司の発言を訂正した。
しかし全く意に介した風もないアルウィオネは、ぱっと明るい顔で応じる。
「おっ、大丈夫じゃ気にするでない。そうじゃなー。
余は普段は、それこそ銀河中と言わず様々な異次元世界や並行宇宙を飛び回っては冒険に明け暮れる日々を過ごしておる!
…などと威勢のいい事を言いたいところじゃがなぁ、
実を言うと、もっぱら最近では皇都星イザミアにおってな、爺やから押し付けられた雑務を嫌々ながらこなす毎日じゃった…」
よよよと泣く真似をしながらアルウィオネはここ最近の窮状をぼやいた。
「ははは…」
泣き真似がなかなか堂にいっているので竜司達も苦笑するしかないが、シアラだけは白い目を向けている。
「む...コホン!
と言うわけじゃからの、気分転換も必要じゃと思っての。
何しろ皇都星イザミアは大変のどかで、というかのどかすぎてのぅ…
雑務の傍ら、やってくる子供達と庭園や皇立自然公園内で戯れる事くらいしか出来んかったのじゃ」
「皇都星、イザミアですか?地球に似た綺麗な惑星だと聞きましたわ」
「そーいえば以前に、オクウミさんがイザミアの映像を見せてくれた事あったよね」
「ああ、確かにあの映像には子供が園内で遊んでいる情景が映っていた覚えがあるな」
「皇都星は惑星全体が皇居みたいなもんなのかな」
「ああ時空探査局のオクウミ氏かの。
恐らく彼女が持っているのは初等教育用の概要資料だけじゃろうて。
それじゃ、余が持っている秘蔵の映像集でも皆に公開してやろうかの」
そう言ってアルウィオネは、自らの掌の上で何やら操作したかと思うと
掌から3D映像がポップアップし、全員が囲む円卓の真上に拡大表示された。
「へぇー!これが皇宮ってやつか!」
「何とも壮大ですな!」
「改めて見ると、宮殿の建築は大変素晴らしいデザインですわね…」
「私が家族で欧州旅行した時に見たサグラダファミリアとかノートルダムとかヴェルサイユ宮殿なんかよりも全然綺麗!」
全員が目の前に広がる宮殿の壮麗さに目を丸くした。
「まあ見ての通りじゃが、
皇宮の建屋そのものは大体100km四方の広がりを持ってての、中央本殿を中心にして会議所、事務所、催事所、宿泊所、御台所、学舎などが軒を連ねておるのじゃ」
アルウィオネが掌を操作すると、映像がクローズアップされる。
「ここには各地から集う子供達が、このように戯れておる。
別に集められたわけでも何でもなくての、”帝国”に住まう誰もが自由に入って視察したり遊んだり出来るのじゃ。
ただここに住まう許可となると話は別での、”帝国”の初代皇帝の血族ないし知識伝達子…叡智を受け継ぐ者でないと無理なのじゃ」
「そう言えばオクウミさんからも何か聞いた事あるな。
何かそういうのが受け継がれてない人は追放されるんでしたっけ」
「ほほぅ、そんな事も話しておったのか。
まぁ幸いにして、そんな不届きな奴は”帝国”開闢以来殆どおらんと聞いておるでの」
クローズアップした映像の中に、各地から来たという様々な姿の子供達と一緒に遊ぶアルウィオネの姿が映る。
「ふふっ、何だか可愛らしいですわね」
「そうかのー、自分では気づかぬものじゃが。
余はこれでも年長者として、子供達を先導し指導しておるのじゃぞ」
胸を張るアルウィオネだが、映像とのギャップが何とも微笑ましい。
「アルウィオネ様と子供達って、何の遊びをしてるんですかー?
なんかVRとかARゲームってわけでもなさそうだし」
「これは…ケンケンパかしら?」
「おっ、知っておるのか?」
「知っているも何も、私達も子供の頃によくこういった遊びをした事がありますわ」
「ほうほう…余自身が時々”正倉院”のアーカイヴから拾い上げて、こうした現代には珍しい遊びを広める事もあるが、大昔から受け継がれておる遊びもあると聞いた事がある。
お主らの話を聞くと、こうして綿々と受け継がれておるのが実感できるのぅ」
「ん?正倉院?正倉院ってあの奈良のやつ?」
「まさか、奈良の正倉院があるわけじゃねーだろ」
「おお、そう言えば説明がまだじゃったかの。
”正倉院”とは正に、地球日本の奈良にある世界遺産の…ではなくてのう。
この皇宮の奥深くに鎮座する、いわば宝物殿の事じゃ」
「宝物殿ですか?」
「そうじゃ。それも…”帝国”開闢よりもっともっと前、すなわち”起源世界線”より余たちの最初の先祖である古代日本人がこの宇宙世界に”跳んで”来た時に持参していた、”起源世界線”からの事物や記録類が保管されておるのじゃ」
「へぇ、って事は…そうか、そこには俺達が普段使ってる様な物とか本とかが置いてあるって事か?」
「それも、確かこの世界の歴史では50万年前、いえ70万年くらい前の事物という事になるわけですね」
「その通りじゃ。余たちの”帝国”どころか”宇宙日本人類文明体”全体にとって自らの出自の証である、重大で貴重な標本の原本であるのじゃ。
これを閲覧できるのは、実質的に皇族かそれに連なる、叡智を受け継ぎし者達のみとなっておる」
「それって、どんな風に保管されてるんですか?」
「うむ、それはな…幾ら余とても、お主らに軽々に見せるわけには行かぬのだ。
許してくれぬかの」
「あ、いえいえ!気を遣わなくて大丈夫っす!
確かに機密に類するものばっかりだろうし」
アルウィオネが再び掌を操作すると、今度は皇宮から外れた地域にある大森林が見えて来た。
「ここらは皇立の自然公園でな、地球でいうと北米大陸ほどの大きさを占めておる。
それが皇宮の周りをぐるっと取り囲んでおるのじゃが、そもそもイザミア自体が5つの大陸と大海洋に覆われておってな。
皇宮がある大陸がそのまま全て皇立自然公園となっておるのじゃ」
「他の大陸もあるんですか」
「ああ、まあ専らそこもほぼ自然公園じゃがの。
そもそもイザミア上に大都市なぞ有りはせんでの、大体が皇宮と同じように知識伝達子を受け継ぐものがゆるりと住まう村落ばかりじゃ」
画面が切り替わると、今度は子供達と一緒に森林を散策するアルウィオネが見える。
「これは冒険…ではなく、キャンプの真似事じゃな。
ちょうど近代地球でも、ボーイスカウトとやらが子供の教育として定番と聞くが、まぁ似た様なものじゃ」
「おっボーイスカウトか。俺達もやったことあります」
「赤羽に同じですな」
竜司に続いて東雲も頷いた。
「そう言えば、小学三年次のキャンプスクールの時にカレーを真っ黒に焦がして大惨事にしたのはどこの誰だったかしらね?」
神崎が片目を瞑りながら竜司の方を見やった。
「うっ、余計な事を思い出しやがって…」
竜司が思い切り顔をしかめた。
「はいはーい!
私もカナダでのボーイスカウト経験者でーす!」
山科が元気よく手を挙げる。
「ボーイスカウトの本場ね。カナダは大森林や草原が広がっているし、自然を体感するのにうってつけで羨ましいわ」
「ほほう、それではこの場におる全員がキャンプ経験者という事じゃの」
映像では、アルウィオネが子供達とキャンプしている様子が映っている。
「なんかキャンプ道具も今の俺らが使ってるのとそんなに変わらねーみたいっすね」
「でもテントは丸くて空中に浮いている様ね」
「おおっ、アルウィオネ様もアウトドア料理を嗜んでおられる」
「あっ、何か焦がしたー」
「おっと、あっちに野生動物が映っておるの」
アルウィオネが急に画面を切り替えたので、全員が彼女にジト目を送った。
「アルウィオネ様…相変わらずですね」
どうしようもないという風に、シアラが額に手をやってため息をついた。
「あはは…ほら、弘法も筆の誤りと超古代から言うじゃろ」




