15-3 帝国内旅行・娯楽フロア
「なんか体育館みたいな場所だな。
それにしては、床も壁も天井も全部真っ白で境目が見えないけど」
竜司が評する通り、その部屋は何もないだだっ広い空間が広がっているだけだった。
ただしとてつもなく広く、その端が見渡せないほどだ。
「ここは多目的のリクリエーションルームみたいなものでな、
無限にあるアプリの中から好きなものを選ぶと、
この場がそのアプリ用のゲームステージとして拡張世界に具現化される」
「つまりは、平たく言ってしまえばVRで遊べる空間というわけね」
「まあそんなようなものだ」
神崎の要約にシアラが首肯した。
「それに、ここは個人認証がなくても遊べるからな」
「個人認証?」
「ああ、大概は電脳空間網に没入する際に必要でな、
それを作ってからでないと仮想体を設定できない」
「これはその電脳空間?とかじゃないの?」
「ここはあくまでも現実空間に3D投影しているだけだからな。
だから基本的には電脳空間からは隔離独立している。
さて、ゲームの登録をするから皆こっちに来てくれ」
シアラの言葉に従って、各人が一人用のコンソールのような機械の前に立った。
すると、目の前に女性のような影が現れた。
『ようこそ、|-||-==|||-=|-||=|の世界へ』
「?」
軽やかに女性が語りかけてくるが、その言葉の一部が聞き取れないようだ。
『今、貴方の基本使用言語に我々の通信/会話レベルを合わせました。
貴方は、アカバネ=リュウジ様で間違い無いでしょうか?』
女性の言葉に、竜司は頷く。
『個人情報を取得/確認されました。
ただし、貴方の個人認証体が確認出来ません。
仮登録という形になりますが、宜しいでしょうか』
「ええと、はい…なのかな?お願いします」
『了解しました。仮登録…登録中…完了しました。
それでは、今度は拡張現実体の仮設定を行います』
「拡張現実体?なんだそれ」
『拡張現実体とは、実際の身体の周りに立体投影によるイメージの体を作り出す事です』
「つまりは自分の身体の周りにもう一つの身体が投影されるって事か?」
『その拡張現実体は、こちらで姿形を自由に規定する事が出来ます。
貴方のなりたい形態/性質を選択して下さい』
「へぇ?どんな姿にでも出来るのかな?」
すると、竜司の目の前に拡張現実体のレバートリーカタログが表示される。
「うわぁー、めちゃくちゃ種類があるなぁ」
竜司は女性の案内によって、拡張現実体を何とか作る事が出来た。
しかし竜司の姿は、見た目はほとんど現実の竜司の姿と変わりはない。
だがどこかのTVゲームなどに出てくる勇者だとか戦士のように、
スタイリッシュで軽快な防具を身に付けている。
「おおっ…すげーリアルじゃねーか。まるで現実にRPGの主人公になったみたいだ」
自身の拡張現実体の手足をぶんぶんと振り回したりストレッチをしながら、その感覚を確かめて言った。
『おい、赤羽。もう準備は終えたか?』
「え?シアラか?」
頭の中にシアラの声が響いたので返事をする。
どうやらシアラが全員に通信を送って、ゲームステージの一つに招待しているらしい。
いつの間にか体育館のようなフィールドが、迷路じみた空間に変貌していた。
幾つもあるトンネルをくぐった先に、それぞれ一つずつゲームステージがあるようだ。
シアラの案内に従って、ゲームステージの一つに辿り着いた。
「ええと…ここで良いのか?」
『しばらくそこで待っていろ』
と、シアラの声が頭に響く。
すると程なくして、神崎達も姿を現した。
「あら、何の変哲も無い姿じゃない。まったくつまらない男ね」
「そういう神崎は何なんだよ…ただのジャージじゃねーか」
神崎は完全に学校の体育授業で着るようなジャージ姿だった。
「やはりどんな場合でもこういう方が動きやすいものよ」
「いや、そりゃそーだろうけどさ…」
「赤羽よ!男ならこれ位の変身は憧れではないか!!」
振り向いた竜司の目の前に、巨大な超合金ロボが突っ立っていた。
しかし、なぜか首だけが元の東雲のままだ。
「うぇ、マジか」
「にゃははー!お二人とも折角なんだから、もっとはっちゃけないとー!」
そういう山科の姿は、猫耳と尻尾を生やしたケットシーのようだ。
「キロネちゃんに会ってからさー、一度こういう格好をしてみたくなってたんだよねー」
「なるほど…その手があったのね」
「神崎、何か言ったか?」
「え?あ、い、いいえ…何でも無いわ」
しかし神崎はその後も時折頭や腰に手をやりながらブツブツと独り言を口にしつつ、
竜司達と一緒にシアラの案内に従ってゲームステージの中に入っていった。
案内された先の待機グリッドでは、シアラが待ち構えていた。
「ようやく来たか、遅かったな」
「おっシアラは…何だ?その格好は」
シアラは身体にぴったりフィットしたボディスーツに身を包んでいた。
流麗でスレンダーなボディラインが露わとなり、
それをカラフルなグラフィックが強調している感じだ。
「これか?私がこういった所で遊ぶ時の基本スタイルだ」
「へぇ、確かに何か動きやすそうだし、カッコ良くていいな」
「そ…そうか。なんか改まって面と向かって言われると恥ずかしいぞ」
「Oh!いかにもなボディスーーーツ!!」
「東雲くんエロい目向け過ぎキモっ」
山科がジト目で抗議する。
「いやボディスーツは浪漫だから!宇宙ものSFものロボ対戦ものならお約束ではないか!」
「それじゃ、何がしたい?」
「うーん、よく分かんないけど何か適当に流行りのゲームみたいなものとかで良いんじゃないか?」
竜司が少し頭を傾けて悩んだ風にしてから言った。
「流行りか…私も最近のアスレチックスポーツは詳しくないのだが…
よし、ここは定番のやつと行こう」
とシアラが言って、部屋の隅にあるコンソールで何か操作をすると
瞬く間に真っ白い空間だったのが宇宙空間のような場所に切り替わった。
「えっ!?
わ、わわわわわっ!!」
竜司達は急に体が浮いたかと思うと、まるで無重力空間のように空中を漂い出した。
「えっ!?じゅ、重力が無いんですけどぉ!?」
「ああ、このフィールドは無重力設定にしてあるからな、当然だろう」
何事でもないようにシアラが言いながら、空中を蹴って竜司達のところに向かった。
「まあ宇宙港の広場で散々慣らしているから大した事は無いわ。
それで、どんなゲームなのかしら?」
神崎が涼しい顔で空中を漂いながらシアラに訊いた。
「うむ、ここはサバイバルシューティングゲームが出来る」
シアラの説明では、ここから先のステージ内に落ちている武器や道具などを
うまく拾いつつ、物陰に隠れている敵を打ち倒すゲームであるらしい。
「ほほう、FPSの一種であるな」
東雲が大振りに頷く。
「ただのシューティングとは違うのは、拾った武器や道具をその場で組み合わせて、
新しい武器に進化させる事ができる点だ。
もちろん向かい合う敵もどんどん進化していくから、対応を間違うと速攻で死ぬぞ。
あとフィールドも刻々と変化していくから注意だ」
「私にも対応できるかしら…若干不安ね」
「えぇ…スポーツ万能の神崎さんに言われたく無いセリフだよー。
私なんか運動音痴なんですけどー」
山科が、今度は神崎に抗議した。
「まあまあ、最初のチュートリアルステージでは敵の強さは大した事ないから
気楽にしてくれればいい」
シアラが山科を諭した。
「それじゃ、このチュートリアルステージでは何があるんだ?」
「うむ、この空間のそこかしこに構造物や植物の塊が浮いているだろう?」
シアラに言われて初めて気づいたが、
確かにあちこちに崩壊したビルの破片や葉の生えた木が浮かんでいる。
青や赤や紫や緑色に輝く星雲を背景にしているので、
シルエットが割とはっきりと見える。
「で、この真正面から敵がやってくるから、ソイツをどんどん倒していけばいい」
シアラの指差す方向にはブラックホールらしき漆黒の渦巻きがあり、
敵はその中から出てくるらしい。
「武器はどこに転がってるんだ?」
「それはこの辺りに適当に浮かんでるものを拾って使えばいい」
「おっ、これかな?」
竜司は、浮かんでいる廃ビルの側にあった粗大ゴミ置き場のような所から、
剣らしき武器を見つけた。
「ゆうしゃ、しののめは、ひのきのぼうをてにいれた!」
東雲は、明らかに強度的にどうかと思われる長い木の棒を手にする。
しかもその巨大なロボットの図体では、あまりにもアンバランスな感じだ。
「じゃじゃーん!私はこれ!」
山科は魔法使いが使うような柄の曲がった杖を振り回す。
ケットシーのような姿にその杖が妙に似合う。
「よっし、みんなだいたい持ったな…って神崎さん!?」
神崎の方を見た竜司は、その手にある巨大な筒を見て仰天した。
「それって反則じゃね!?」
「何かしら?...別に、フィールド内に落ちている武器なら何でも良いのではなくて?」
「ああ、それはバズーカだな。
まあ一応、1/1000の割合で見つかるレア武器という位置付けの代物で
反則でも何でも無い」
シアラが事もなげに言う。
「マジかよ…くそっ、俺ももうちょっと探せば良かったか」
「もう探している時間はないぞ、早速チュートリアルステージだ」
竜司達が前を向くと、ブラックホールから巨大な人影がぬるりと出てくるのが見えた。
それ以外にも、その巨人だか怪物だかの周りに異形の影が数多く現れる。
ドゴーーン!!といきなりその巨大な影の頭が爆発した。
見ると、神崎が涼しい顔をしてそのバズーカをいきなり打ち始めている。
「おいおおい!!
いきなり打つ奴がいるかよ!!」
「あら、こういうのは先制攻撃が大事だと聞くわね」
と言いながら、神崎は次々とバズーカをぶっぱなして怪物の体に当てていき、
1分としないうちにその怪物が大爆散して散り散りになった。
「ふっ…まぁこんなものかしら」
「おおぅ…すげぇな…ちなみに俺らの活躍する場とか経験値とか一切無いんだけど」
「ははは…次はもっと平等に活躍できそうなゲームステージを選択しようか」
苦笑いを浮かべたシアラが提案した。




