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15-2  帝国内旅行・貨客船内

「おおおっ!!何だここ!?」




竜司達が、窓の外に広がる光景を眺めて驚愕の声を上げた。

「ぜってぇ迷う自信あるぞここ…」


何しろ、目の前には無数に枝分かれする巨大なトンネルのような空間が広がっていき、竜司達が乗る定期貨客船はその中の一つに飛び込み、また新たな分岐路に出くわしてはトンネルの一つにまた飛び込むという事を数え切れないほど繰り返しているのだ。


しかもそのトンネルの直径はどう見ても数十キロはあって、通商結節体ゲートワールドのように床や壁や天井といった境は全く無い。

そしてそのトンネルの表面に森や山や草原や湖や都市らしきものがへばりつくように広がり、またその上を雲のようなものが漂っている。

光源は、トンネルの中心近くに滞空するプラズマのように光る雲の塊から得られているようだ。


「察しの通り、ここも基本的には通商結節体ゲートワールドと同様の時空構造になっているんだ。だからその表面に生物や人が住める世界が広がっているし、小さな星門ゲートもあちこちに散らばっている」

シアラは眼下に広がる光景に指をさしながら説明していった。


「ひゃぁ…こんな所に住んでると頭がおかしくなりそうなんですけど」

「ははっ、確かにそうかもな。だいたいこう言う所に住む奴は、

 ”アラヤシマノクニ”の人工次元設計者や”ミズホクニ”出身の貿易商とか、あとはよっぽどの物好きだったりする。

 それでも仮身体アバターを目一杯送り込んで住まわせたりしているし、なんだかんだ言ってここだけでも人口は数十億人は居るだろうな」

「うへぇ、”帝国”の人達って物好きばっかりだなぁ」




「あれ、あっちの方はなんか表面の色が違うよ?」

山科が指差す方向にある、トンネルが分岐した先の表面が、まるで溶かした飴玉のように赤や黄色や紫のマーブル模様になっている。


「おそらくあちらの方は、地表の組成が大きく異なるのだろう。

 例えば、マイナス150度以下でメタンやアンモニアを主成分とする環境が構築されていたり、あるいは超高温の生物群が住まう異星のジャングルを再現していたり、とかも聞いた事があるな」

「えぇ…何でまたそんな環境にしてんだ?」

「もちろん研究や実験に使ったり、あとは単にアクティビティ目的だったりする。

 こういう人工世界では、下手に実体宇宙の天体を改造するよりも容易に環境を構築しやすかったりするからな。それに何かあってもすぐにその領域だけを”焼灼”して隔離しやすいし」


竜司が別の方向にあるトンネルの表面を見ると、

毒々しい青緑や紫のモコモコした斑点に覆われていてカビかキノコが生えたようだ。

しかもそのカビは菌糸体か子実体らしき幹が上空まで伸び上がり雲をも超えて、高さ数キロはありそうに見える。

その幹の周りには鳥かそれとも羽虫なのか分からないが得体の知れない飛行生物が群がっていた。




「じゃあ、あの空中に浮かんでる変な色の雲みたいなのも?」

山科は、今度は船の進行方向に固まって漂っている、半透明の巨大な細胞のようなものの群れを指差した。

表面には触手か繊毛のようなものが生え、体の中には核のようなものも透けて見える。


「あー、ありゃこの人工次元世界に勝手に住み着いた生き物だ。

 形態からして、多分ドゥブニード属のキセノン系浮遊原生動物だな」

「あれが生き物?…どう見ても、幅が数百m位はありそうだけれど」

「しかも原生動物って…単細胞生物って事か?」

「その通りだ。まぁ地球世界での生物の概念からはかけ離れているだろうがな」

「でも、このままじゃこの船があの生き物の群れとぶつかりそうじゃない?」

「当然対策はしてある。まあ見てればいい」


シアラの言うようにしばらく見ていると、貨客船の先端から白いビームのようなものがその生物に向けて放たれ、撃たれた生物はまるで痛がるように表面をもぞもぞ動かしたかと思うと、ゆっくりとその空間から離れて行った。

同じようにして船の進行方向に漂う生物に次々とビームを当てて、生物群を追いやっていく。

「すげぇ、まるで羊追いみたいだな」

「まあ、こういった世界ではこんな事は日常茶飯事だからな」

シアラが頷いた。


「全く、奇妙な世界ね…」

神崎は、枝分かれする巨大トンネルに広がる、さながら異星世界をパッチワークのように何種類も繋げたような空間を眺めながら嘆息した。




定期貨客船は猛スピードでトンネルというよりも迷宮ダンジョンのようになった巨大な空間をどんどんくぐり抜けていく。

実際は時速数十万キロは出ているはずだが、それでもシアラによれば目的のポイントまで1日余り掛かるという事だった。


そろそろ景色を眺めているのにも飽きてきたので、竜司達は船の展望フロアから出て、食事をしてから娯楽フロアに向かう事にした。

ちなみにこの船は全長が1km余りのサイズで1000人以上が乗れるのだが、各人に広々とした個室が与えられている。


「さー、飯だ飯」

「イヴァゥト-86やアラマキ-7115市のレストランだと、普通に日本で食べられるご飯が出てきてたよね」

「まああそこは、21世紀地球日本の文化をいち早く取り込んで対応してた場所だからな。

 地球日本風のレストランも数多く出店を開始している。

 でもここからは本格的に”帝国”の文化が中心になるから、まぁ心得ておいてくれ」


シアラの言葉に、神崎が何かを思い出してぶるっと震えた。

「…まさか、前にシスケウナさんが列車の中に持ち込んでいたみたいなものばかりじゃないでしょうね」

「あー、えーと、ははは…」

シアラが神崎の質問に、複雑な表情を浮かべて苦笑する。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「ほら、やっぱり…」


船内のレストランに入り、全員がテーブルに座るとロボットらしき給仕がすぐにやって来て、コップに入った水と何かが盛られた皿を、お通しとばかりに各人の席に配っていった。


恐る恐る飲んだコップの水は普通の水の味がしたが、その謎の皿にはマーブル模様の金平糖のようなものが載っている。


「おっ、こっちのお菓子かな?」

と、まず東雲が口に放り込むと、急に東雲の目が回りだした。

「うぉおおおおほほ~~」と叫びながら頭をぐわんぐわんと回し、そしてテーブルに突っ伏して動かなくなった。


「っっちょ!?し、東雲くん?ちょっと大丈夫!?」

隣に座っていた山科が東雲の体をがくがく揺らしたが、東雲はわずかに手を上に掲げただけで突っ伏したままだ。

「おぅふ…っこ、これすげーイー感じ…」

「ちょ、ちょっと!何言ってんの!?しっかりしてよ!?」

山科が東雲の頬をぺちぺちと叩いた。

「はぁ、やっぱり言わない事じゃないわ…」

と、神崎は額に手を当ててひとしきり嘆息する。


「ってーかよぉ、マジで”帝国”の食い物でマトモに俺らが食えるものってあんのかよ!?」

「あー、そうだな…まあこればかりは慣れてもらうしか無いようだが」

「慣れる前に全滅し兼ねないわね…」


戦慄して青ざめた顔になる竜司達に、思いついたように手を叩いてシアラが言った。

「そうだ!電脳空間網に古代日本の文化アーカイブがあるから、レストランにそのアーカイブを参照してもらって、21世紀地球日本の料理を再現してもらおう」




「おおっ、何か見た目はちゃんとしたステーキっぽいぞ」

「こっちも普通のオムライスに見えるわね…あくまでも見た目はだけど」

「うんうん、匂いもちゃんとカレーだよこれ!」

「やはり日本人と言えばシャケ定食であるな!」

なんとか正気?を取り戻した東雲も、目の前の料理にうんうんと頷いた。


「それじゃ、一口…」

と、まず竜司が恐る恐る肉の一切れを口に放り込んだ。


「…?」

首を傾げる竜司に、不安そうな神崎が訊いた。

「あ、赤羽くん…大丈夫なの?」

「え?あ、うーん、まあ変な味はしない、と思うんだけど…

 うーん、何か違うような、コレじゃ無いような…」

もぐもぐと咀嚼しながら竜司が評する。


「えい!!」

と、山科も意を決したようにカレーを匙で掬って口に入れる。

「…?」

やっぱり山科も食べながら首を傾げてしまうようだ。


「どうなの?」

「いや、別に食べられない味じゃ無いしちゃんとカレーしてるんだけどさ、

 なーんかコレじゃ無いんだよね」

「そう、コレジャナイ感がある」

「うむうむ、確かに。このシャケもコレジャナイ」

「まあ食べられなくは無いから、神崎も食べてみろよ」


「そ、そう…?それじゃ…」

と、神崎がオムライスを一口掬って口に入れ、味わってみる。

「…なるほど、確かにコレはコレじゃ無いという気がするわね…

 多分だけど、合成だからかしら?」


すると、今まで黙っていたシアラが頷いて言った。

「そうなのだ…我々はずっと、こういう味が古代地球日本の料理だと信じて食べていたのだ。

 しかしお前達の世界線に辿り着いて、そこで初めて本物の日本食を食べて、そして心底驚いたのだ」


「あー、そう言えば」

と、竜司はシアラが初めて赤羽邸に来た時のことを思い出した。

あの時は確か、春乃がありあわせの食材で作ったおじやをシアラに食べさせていた。

だがシアラは、そのおじやに涙を流すほど感銘を受けて、瞬く間に土鍋の中身を空にしたのだった。


「まあつまるところ、”帝国”の料理というのは大方にして21世紀地球日本の料理とは掛け離れているのは仕方ない。

 だから君達が普段食べている食事を知ってしまうと、我々はたちまち魅了されてしまうものなのだ…」

シアラは、フェイクの牛丼を食べながらも深くため息をついた。

「これにしても、あの松牛屋で食べる本物の牛丼に比べたら、なんと味気無いことか…」


「あのクッソしょぼい牛丼チェーン店で食べてもそう感じるのかよ…

 シアラにもし上々苑の牛定食とか食べさしたらヤバそうだな」

「あら、赤羽くんは上々苑に行った事あるのかしら?」

「はいはいああそーだよありませんよー、

 ったくウチの親父達も付き合いだか接待だかで旨い料理屋とか行ってるんだから、俺らも連れてけっつーーーんだよ」

ブツブツ言いながら竜司はフェイクのステーキを塊ごと口に放り込んだ。


「でもよー、春乃ちゃんの美味しい手料理が毎日食えるんだから文句は言えねーだろが。

 俺んとこなんか、味音痴のかーちゃんが作ったもやし炒めを毎日食ってんだぞー、ちっくしょー」

東雲が竜司を睨んで血涙を流しそうな面持ちでぼやく。

「まーまー、実際家庭料理なんてどこの家でもそんな変わんないって。

 ウチだってレトルトばっかだし」

泣き真似をし始めた東雲の頭を、山科がポンポンと優しく撫でた。




レトルトどころか合成っぽさ満載のフェイク日本食を何とか食べた竜司達は、席を立ってレストランを出た。


「さて、こっちの方に娯楽フロアがあるぞ」

シアラが正面の方を指差して言った。

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