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13-3 監察団との会見

「へぇ…なんかドーム球場?みたいな所だね」




桜木亜美とその父親である浩太郎氏が入った部屋は、時空探査局本部施設群の一部である多目的ホールの一つだった。


そこは、亜美達『テーチ』がここ最近ライブを行ってきた場所としては小さい部類ではあるが、そもそも今までのライブ会場が差し渡し数km〜数十kmなどという凄まじい大きさだったので比較にならないというだけの話であり、実際このホールも直径300m程で、地球日本での東京ドーム位のサイズがある。


その中心に重力テーブルの大型版のようなステージがあり、それを取り囲む形で席が階段状に並んでいるので、一見すると確かにドーム式の野球場だとかにも思えなくもない。




亜美達がステージで演奏用機材を準備していると、その正面にあるアリーナ席のような所に人影が数名ほど着席するのが見えた。


「ふぅん、あれが今回のお客さんなのかな?」

事前に何も聞かされていない亜美は、その数の少なさに首を傾げた。

「こら亜美、どんなお客さんであろうと俺達は最善の演奏をするだけだぞ。

 さぁ、準備を終えたなら、早速始めようではないか」

浩太郎氏が促すと、亜美も気を引き締めて奄美三線を構えた。


「えっと、今回はわざわざ私達のためにこちらまでお越し頂き、ありがとうございます!

 私達は『テーチ』と言います。地球日本の奄美地方に代々伝わる奄美島唄を演奏しています。

 それでは、お聞き下さい!!」


亜美はマイクに向かっていつもの口上を行ってから、浩太郎氏が奏でるチヂンによるリズムに乗って奄美三線を弾き始めた。




一通りの演奏が終わると、席の方からまばらな拍手が聞こえて来た。

とはいっても今回は数名しか居ないのだから、当然と言えば当然だ。


「それでは、本日の演奏はこれで以上です。

 …最後まで聴いて頂き、ありがとうございました!!」


亜美は、何となくこれで良かったのかと訝しみながらも締めの挨拶を行い、それから会場に向かって頭を下げた。




「『テーチ』の皆さん。

 これから、少しお話をさせてもらっても宜しいでしょうか?」


今まで座っていた席から、一人の男がゆっくり浮遊しながら亜美達の方に近寄って来た。

しかし、亜美が見たその姿は男どころか人間の形を取っておらず、まるで足を何本も生やしたカエルとカブトムシのキメラのように見えた。


亜美達はその姿から、今回の観客達が”帝国”側の人間ではない事を悟った。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「…なあ、俺にはまるで着ぐるみみたいに見えるんだが」

「しっ!お父さん失礼でしょ」

「はは…」




会談場所に誂えられた、会場の控え室にて桜木親子が待っていると

ほどなくして、今回の”観客”が部屋の中に姿を現した。


「…うっ」

亜美が思わず呻き声を漏らしてしまうほど、彼らの姿は奇々怪々としており、確かに浩太郎氏が指摘するように、まるで昭和の映画に登場する着ぐるみの怪獣か怪人みたいである。

特に、彼らの中心にいる人物はほぼ完全にウルト○マンに出てくるケ○ール人にそっくりだった。

しかも首から下はどう見ても浴衣か甚平にしか見えない衣服を羽織っているため、シュール感が半端無い。


「温泉でくつろぐウルトラ怪獣ってところか」

「お父さん!」


小声でこぼす父に亜美が同じく小声で叱責していると、

そのケムー○人もどきが「ブボボボボ…」と異様な音を発し始めた。


「…ひっ!?」

二人は思わず小声で悲鳴を上げ、彼を凝視する。

しかし、亜美達が装着している”お使い”装置の翻訳機能が一瞬遅れて彼の言葉を翻訳してきた。


「コンニチは…こんニチハ」

「…えっ?あっはい、初めまして!!」

亜美が思わず頭を下げる。


「私は…ホーフホーヒ…でス…

 どうやラ…まだ翻訳が万全でハ無いようですネ…

 しばらクはゆっくり喋ルようにしまス…」

本人が発する、まるで油が煮えたぎるような音と重なって聞こえるので、しばらくは聞き取るのが難しかったが、ゆっくり喋ってくれているのもあり、段々聞き取れるようになって来た。


「この度ハ…『テーチ』の皆さんにわざわざこちらに来て演奏して頂キ…誠に感謝していまス…」

「あっ、いいえとんでも無いです!

 こちらこそ、私達の拙い演奏を聞いて頂きありがとうございます!!」

亜美と浩太郎氏はホーフホーヒに改めて頭を下げた。


「ホッホッホ…

 21世紀地球日本人は…謙遜する事をとても尊ぶと聞いております…

 だが時には…自らの技量と才能を…誇りに思っても良いのではないでしょうか…」


「あっアハハ、確かにそうですね」

亜美はその言葉に頭を掻いて苦笑し、浩太郎氏もうんうんと頷いた。

しかし、その隣にいたイゴルは一瞬で顔が真っ青になった。

後ろの席で控えているオクウミも怪訝な顔をする。


「…え!?

 ま、まさかホーフホーヒ卿は、この二人がどこから来たのかをご存知なのですか!?」




「ええ…もちろんです…」

ホーフホーヒ卿は、首を縦に降る代わりに頭頂部にある触手を縦に振った。

どうやらそれが首肯のジェスチャーであるらしい。


「ど、どこかから情報が…!?」

それを聞いたイゴルは目を白黒させた。

「いいえ…そうではありません…

 我々の組織の情報収集能力は…まあ中々なものですからね…

 実際…貴方にとっても驚くには当たらないのではないですか…?」

「え…ま、まさか」


ホーフホーヒ卿は、イゴルが時空探査局に配属される以前は軍の戦略情報分析部に在籍していた事を言っているらしい。

「はぁ、そこまでご存知でしたか」

イゴルは溜息をつきながら苦笑した。


「まあ我々にとっては…情報収集と分析は…ごくごく当たり前な…子供(幼生体)の時にマスターして然るべき初歩的なテクノロジーなのです…

 何しろ我々の子政体国号に”監察”の言葉を冠している位ですから…」


「??」

「ああ…そうでした…

 貴方達は我々の事を何も知らないというのは…少しばかりフェアでは無かったですね…」




ホーフホーヒ卿の言葉に首を傾げる桜木親子に対し、卿は噛んで含めるようにして自らの出身である”実体星間監察事業団”の概要を説明し始めた。

「我々の子政体では…他の子政体や…または星間種族連合内の…多くの加盟種族に対し…

 基本的には外交交渉…それに伴う情報収集や調査…情報分析と評価を…主な生業なりわいとしております…」


ホーフホーヒ卿は喋りながら頭頂部の触手を振り回すと、真上の空間に立体映像が投影された。

どうやらその触手は幾つもの機能が内蔵されているようである。


「そもそも我々は、”帝国”の人々や貴方達のような21世紀地球日本の人々と異なり…自身の体を人工生体や機械等に完全に置き換えた氏族です…

 貴方達の時代の言葉では、さしずめ”超人類ポストヒューマン”とでも言うのでしょうか…

 というか…”宇宙日本人類文明体”の中では…”帝国”のような古代日本人の有機生体を継承する氏族の方が少数派なのです…」

ホーフホーヒ卿の触手は、先端でまた何本かの細いヒモに分岐して、それぞれが立体映像の中にある幾つかの事項を指し示した。

立体映像は銀河系の中の勢力分布図を表現していて、特にその中にある”帝国”と”監察団”の差を強調させている。


「その中で特に我々は…全ての子政体の中でも中核を担う存在となるべく…渉外交渉のノウハウを高めてまいりました…

 そして、その為には必要な…それはありとあらゆる科学…技術のみならず…例えば21世紀地球日本の貴方達が知っている言葉で言えば…超能力サイキックを研ぎ澄ませる事も行なっております…

 ああ…そういえば…サクラギアミさんも超能力が発現しているのでしたね…」


「えっ?あ、はい」

そう指摘されれば、亜美としても首肯せざるを得ない。


「我々は…この”帝国”の皇族のように…自身の意識を高次元へと”相転移”する事を未だ達成出来ておりません…

 しかし…その超能力サイキックを極限まで研鑽させた結果として…自らの量子意識ダイナミクスの領域を高次元方向へまで拡張する技術テクノロジーは既に獲得しており…

 じきに”帝国”皇宮の聖域レベルに達する事を我々は期待しております…」


ホーフホーヒ卿の言葉は難解で、亜美達にはほとんど理解できていなかったが、”帝国”側の人間であるオクウミとイゴルは、その言葉を聞いて俄かに緊張した。

「おい、この事は…」「はい、一応この部屋は防諜済みですけど…」

何しろ今のホーフホーヒ卿の発言は、実質的に”監察団”側の機密情報であり、

また”帝国”側を挑発しているに等しい内容だからだ。


「ですが…それでも我々が”帝国”側に遅れを認めざるを得ない事の一つとして…

 並行世界の地球への旅を通じて…”帝国”の方々が古代の地球日本人と自由に交流出来ている点…その結果として…我々も渇望して止まない…古代文化へと直接触れ合う事…それもまた自由に叶うという事は…我々としては大変羨ましく感じるのです…」


ホーフホーヒ卿はそこで一拍おいて、まるで溜息をするように頭頂部の触手をうなだれさせた。

「きっとお二方は…私のようなもはや古代人とはかけ離れた形態の人間を見て…日本人の係累だとは到底思えない事でしょう…

 しかし我々は…れっきとした遺伝子と知識伝達子を継承する…貴方達の子孫なのです…」


「は、はぁ」

そう言われても、亜美達は頷き返す事しかできない。


「しかしこうした見た目と…今や”帝国”の人々ともかけ離れてしまった思考形式と価値観体系によって…きっと我々は21世紀地球日本へ降り立ったとしても…その社会とのスムーズなコミュニケーションはもはや不可能でしょう…」


彼はそう言ってまたも触手をしばらくうなだれさせたが、数秒置いてぴょこんと再び立ち上げさせた。

「しかし…貴方達の演奏は…決して我々と貴方達が全く通じ合う事のできない関係ではないと言う事を…気づかせてくれました…

 貴方達の演奏は…少なくとも私の心にはしっかり届きました…

 きっと…”実体星間監察事業団”や…他の子政体にいる人達の心にも…貴方達の演奏がしっかりと届く事でしょう…」




「いや、そう言って頂けると大変嬉しく思います。

 この世界での活動を、決断した甲斐がありました」

ここで浩太郎氏が初めて口を開いた。


「ご存知かもしれませんが、私は以前に難病を患っておりまして…そのせいで私の娘にも大変な苦労を負わせてしまった…

 ですが縁あって、こうして病も癒え、そして再び親子で演奏する機会も得る事が出来ました。

 このご恩は、こちらの世界の皆さんに私達の音楽をお届けすると言う形で返していければと思っております」

微かにだが明らかに胸を張って宣言する父の姿を見て、亜美も少し居住まいを正した。


「我々は貴方達の境遇について知りました…よくぞここまで苦労に耐えてこられた…我々とて中々成し得ない事です…大変感心しております…」

「そう言って頂けるととても有り難いです」


「そこで我々は…貴方達の活動について強い支持を宣言する事と致します…」




「えっ!?な、今、なんと!?」

イゴルが急に身を乗り出した。

「はい…”強い支持”をこの”宇宙日系人類文明体”内にて宣言する…という事です…」


その言葉を聞いて、イゴルはオクウミと目を合わせた。

「し、支部長!!やりましたね!!」

「おい、こんな所でそれを言うもんじゃないだろ…」

やや顔をしかめながらイゴルに注意した後、オクウミはホーフホーヒ卿に向き合った。


「卿はそれで宜しいのですか?

 貴方の駐 “帝国”大使館内の立場もあるでしょうに」

「ええ…もちろんこれは…我々の中でも十分に情報と意見を共有した後に決定した事項なのです…

 何も貴方達がご心配になる事ではありません…」


「そうですか…

 いや、こちらとしても大変有難く思います。

 その決定に感謝致します、ホーフホーヒ卿」

頭を下げるオクウミに、ホーフホーヒ卿は頷き返した。


「なに…貴方達の”企み”も我々は重々承知しているという事ですよ…

 その上で…我々にもほんの少し利益を共有できればと思っている次第です…」

全てを知られていた事を理解したオクウミは、ホーフホーヒ卿の策略に深く感心せざるを得なかった。


「了解しました。

 現在は初期計画の進捗途上ですので即答は致しかねますが、状況が一段階進んだ頃にまたその事項についてまたお話し出来ればと思います」




「ホッホッホ…こちらこそ宜しくお願い致します…」

ホーフホーヒ卿は、オクウミ達に合わせて触手だけでなく頭全体を下げておじぎをした。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー





会見場を後にしたホーフホーヒ卿は、帰りの宇宙艇内で部下に指示を出した。

「各方面に連絡を発しなさい。

 曰く「『テーチ』及び”帝国”時空探査局の活動を支持し、これに協賛する」とね」


「しかし、これで良かったのですか?

 確かにオクウミ氏の言う通り、この通達は”帝国”のみならず、我が”監察団”でも議論を巻き起こすでしょうし」

銀色の球体をつなげたような形態をした側近が、頭頂部の球体表面に顔をしかめた男の映像を投影しながら話した。

最近の”監察団”内で流行している感情表現手法である。


「ああ、構わんのだよ」

「ロンゴンロ総統府と相互主義党は、確実にこれを利敵行為として排撃に動くでしょう。

 それに、例のハーシェルスキー学派がここ最近は妙な動きをしていますから、この通達を奇貨とする可能性もあります」


「ふふん、私とて重々承知だよ。

 …むしろ、我々の望ましい方向に動きそうじゃないか」

「…え?」




「これは、数万年も動きのなかった銀河文明の勢力図に一石を投じる事態となり得るのだよ。

 興奮すると思わないかね?

 その流れの動かし方によっては、自らがゲームマスター、いやゲームチェンジャーになれるかも知れないんだよ」

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