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13-1 星間演奏旅行

『さて、次にご紹介する演奏者パフォーマーですが…

 …何と、”ミズホクニ”では珍しく親子でご参加の音楽ユニット、

 その名も『テーチ』です!!』




直径10kmはある巨大な球形の空間に、司会の声が朗々と響き渡った。

その空間は光で満ち溢れていてとても目映く、スポットライトで照らされた舞台の壇上のようにも思える。


「…わ、わわわ、お、お父さん…

 ついに出番だよ…!!」

「おう、大丈夫だ亜美。

 いつもと同じようにやりゃ良いさ」


普段とは異なり、かなり緊張気味で足がガタガタと震える桜木亜美に、父親である浩太郎氏は泰然自若といった面持ちで諭した。


「う、うん…って、お父さんも」

亜美が指差した方には、同じように震える浩太郎氏の足があった。


「む、ん、いや、これは武者震いと言ってだな…」

「もう、お父さんてば…」


だが、そうやって喋っていると緊張が若干ほぐれるのを感じる。


「時間になりました=会場に入りますので準備お願いします=」

親子が乗っている重力テーブルが話しかけた。

「あ、はい。お願いします…!」


そして、重力テーブルがせり上がる。

親子は控えの空間から浮上し、今回のステージである第342自由広場の中心に向かっていった。




『このお二人は今回、現在の”帝国”では喪われておりますが、21世紀まで地球日本で歌い継がれていたと言う、あの伝説の”奄美島唄”を披露して頂けるそうです!!』

司会がアナウンスすると、会場にいる無数の人々によるどよめきが地鳴りのように広がった。


桜木親子には、司会が喋っている”ミズホクニ”カルバラシクス地方語を直接理解できないが、一人ずつに充てがわれた”お使い”ロボットにより漏れなく翻訳してくれている。竜司達の”眷属”のようなものだが、より小さくてアクセサリーのようにしてある。

亜美の髪には、奄美のマスコット「アマミン」の髪飾り風通信装置を改良したものが付けられていた。

それは、かつて地下都市侵入の際に竜司達から貰ったものだった。


「じゃ、やろうか」

「うん…!」


とうとう、ここまで来たんだ。

そう思うと、亜美の心は緊張しながらも弾んでいく。

彼女は奄美三線を構えながら、これまでの事を思い出していた。




 * * * * *


「何?未だに人集めに困ってるのか!?」




亜美が竜司を襲いかけた所をオクウミ達に確保されたその翌日。

オクウミはイゴルの恐る恐るといった感じで報告する”帝国”出張結果を聞いて、案の定眉間にシワを寄せた。


「は、はい…何とも私のコネクションだけでは、支部長の要望するレベルに届かない次第でして…」


するとオクウミは、一度だけ深くため息をすると意外にも仕方ないといった表情で頷いた。

「ま、恐らくはこんな事になるんじゃ無いかとは思っていたがね」

オクウミは首をすくめながら横に振った。


「し、しかし支部長。それでは、どうしたら良いでしょうか…

 このままでは、予定された”定住要員”の最低確保数である1千万人に全く届きませんが…」

「うむぅ。そうだな…」




そこへ、唐突に山科がオクウミの執務室に入って来た。


「オクウミさーん、例の女の子の荷物やら何やら、とりあえず全て分析終わりましたよー。

 やっぱり何も見つからなかったけど」

山科はなぜか、奄美三線のコピー品を手にしてジャカジャカと鳴らしている。


「ああ、それは助かった。ご苦労様。

 それにしても君は一体何をやっているんだ…道理で廊下が騒がしいと思ったら」

「あららー、煩かったですよねー。ごめんさーい、ハイサーイ」

舌を出して軽い感じで謝りつつ、またも山科はベンベンと三線を叩いた。

「何で山科くんは三線を持っているのだ?」

「いやー、こういう楽器ってなかなか手にする機会ないし、ちょっと弾いてみたくなっちゃいましてサー」


「ははは…ハァ」

山科の自由奔放な振る舞いに、イゴルが苦笑いを浮かべる。


「ありゃ?イゴルさん暗いねー。どったの?」


「おっ、ちょうど良い。若い地球人の意見も聞きたかったんだ。

 ちょっと話に付き合ってくれるかな?」




「ふーん、そんなに人が集まんないんだ」


「仕方ないですよ。

 何しろ以前に、17=5-47-664-33-8.69-4世界の地球日本に向けても同じように1千万人を動員した事がありましたけど、その時に目ぼしい組織団体からの募集人員を取り尽くしちゃったんですから」

「うーん、じゃあもうそれ以外から人を呼ぶしか無いんじゃないかなー?」

「いや、それが出来ないから困ってるんですよ…」


「でも、オープンに応募を掛けるとなるとどうしても中央政府にも情報が行ってしまうでしょうし、そうなったら帝国多重議会が今度こそ黙ってないでしょう。

 となると、今度こそ我々第17=5-47-664-78=211区担当支部だけじゃなくて、時空探査局そのものにメスを入れられてしまうと思います。

 下手すると時空探査局の解体もあり得ますよ!」

イゴルは、その整った顔を苦渋に歪めながらオレンジのメッシュ入りの頭髪を手でくしゃくしゃにした。


「イゴルは何でも深刻に捉えすぎるんだよ、というかそこまでお前が気にしなくて良いんだ。どうせ責任は私とかもっと上の人間が取るんだから」

何でもないという風にオクウミが言う。

「いやいやいや、私の失態でそんな事になったら、私はもう申し訳なさ過ぎていたたまれません!1000年間は次元の狭間へ自己幽閉されに行かなきゃなりません!」

「だから重いっつーんだよお前は…」


「じゃあ、例えば…」

と、山科はいつの間にか口に咥えていたチュッパチャップスをポッと取り出して上に掲げた。


「オープンに募集しても、咎められないような状況をあえて作っちゃうとか、アリじゃないですかー?」


「ほう…中央政府にも帝国多重議会にも咎められない状況…ね。

 それは、例えばどういったものが相応しいだろうか」

そう言いながらも、オクウミは顎に手をやりながら自身でもしばらく思案してみる。


「う~ん、そうですねー…」

山科は、指で奄美三線をポロンポロンと軽く弾きながら唸った。


と、山科は今まさに自分の懐にある三線を見つめた。




「そうだ!!こんなの、どうでしょー!?」

山科は、たった今思いついたアイデアをオクウミとイゴルに話した。



 * * * * *



数日後、オクウミは地下都市から帰還したばかりの桜木亜美、そして父親の浩太郎氏に詳細を練り上げたプランを打ち明けた。


「…は!?」

通商結節体ゲートワールドの第一中央市にある医療局病棟のベッドで横になっていた浩太郎氏は、驚きのあまり、わざわざ上半身を起こしてまでオクウミをまじまじと見つめて問い質した。


「俺達に…宇宙で巡業してくれと!?」

「ええ、単刀直入に言えばその通りです」


何と、オクウミは桜木親子に”帝国”領内での奄美三線演奏の巡業を依頼してきたのだった。




「い、いや…しかし」

「いきなりこういうお話を持ってきてしまい、大変申し訳ありません。それにこれは、確かに難しい依頼である事は百も承知です。

 ですが、貴方達なら絶対に成功出来ると私は確信しております」

「だが、何とも…ううむ」


「お父さん…私なら大丈夫だよ」

亜美が浩太郎氏を支えるようにして言った。


実は、亜美には事前にこの依頼内容について伝えてある。

今の所、彼女が最も恩義を感じているだろう竜司から伝えられたこの話は彼女にとっては嫌も応もない事だった。

ただし「お父さんが納得してくれるなら」という条件で了承している。


「亜美…そうか、お前」

娘に向かって微笑んだ浩太郎氏は、それでも戸惑いの表情をオクウミ達に向けた。


「オクウミさん、とおっしゃいましたね。

 確かに俺は、どこにでも居るような小男でしかありません。ただ単に、奄美民謡や奄美三線が好きで、そして奄美出身の妻と娘を愛していたからこそ、今までこうやって来れただけの事なのです。

 だから、そのような依頼は大それた事のように思えます…それに」

と、彼は病室の窓に目をやった。

そこには、既にほぼ都市として建設し終えた第一中央市の夜景が広がっている。


「俺はつい昨日こちらにやって来て、そしてこの世界の真実をようやく知りました…

 まさかこんな巨大な空間が日本の地下にあるなんて…そして更にこの向こう側に、日本人の子孫達が暮らす巨大な銀河文明が広がっているとは…全く、信じ難いことばかりです…

 これからその世界に分け入って、奄美の歌を歌ってくれといきなり言われても戸惑うばかりです」


しかし浩太郎氏は、その目に強い意志を宿らせてオクウミを見据えた。

「だが、俺の娘はすでに覚悟を決めたようだ。

 何しろ、貴方達は私の娘も、そして俺をも救い出して頂いた。更には俺の病気すら治して頂けるというではないですか。

 であれば、俺もその恩に報いねばならないでしょうな」




「お父さん!!」


父の言葉を聞いた娘は、改めて父の背中に抱きついた。

「亜美…

 お前が一緒なら、俺はまだまだ頑張れる気がするよ」

「大丈夫だよ、私も同じだから。

 お父さんがいれば、銀河の果てでだって私達の歌を演奏できるんだよ!!」



 * * * * *



数日後、桜木親子は久し振りに二人で楽器を手にした。

浩太郎氏の体は、”帝国”の高度な医学による迅速な治療ですっかり快癒していて足取りも軽いようだ。


「おう、久し振りにしては割と弾けるもんだな」

浩太郎氏は、奄美三線の他にチヂンという奄美地方に伝わる太鼓のような打楽器も叩きつつ、体の感覚を取り戻していた。


「それに、亜美の演奏が上達してるのにも驚いたよ」

「でしょー。

 私、あの後も暇さえあれば弾いてたしね!」


それから亜美は、スタジオをぐるっと見回してみた。

「っていうか、こんな所にこんな立派な音楽スタジオがあるなんて凄くない?」

そこはまるで東京の一流スタジオのように、完璧な音響システムと録音再生設備などが揃っている。いずれも地球日本製だと思われた。

「ここが地下都市とは思えないよね」


「正確には、通商結節体ゲートワールド『イヴァゥト-86』の第一中央市、ですよ」

レコーディングブースの隣にある副調整室から、イゴルの声が聞こえた。

正確には、イゴルの仮身体アバターであり、今度から桜木親子のマネージャー役となっている。


「まあ、どこでだって良いさ。

 俺はまた観客の前で奄美音楽を弾けりゃあ満足なんだから」

浩太郎氏はそう言うと、チヂンを思い切り良く連打した。


「はいはいっと。

 じゃーマネージャーさん、今度は島唄を演奏するから、録音よろしくね!」

「了解しました、亜美さん」



 * * * * *



こうして、練習を始めた桜木親子はすぐにかつての演奏勘を取り戻して、人前で演奏する事ができるレベルまで持ってくる事ができた。


そして、ついに竜司達以外の人達に演奏を披露する機会がやってきた。




「ぇええ!?ここの街って、こんなに人が居たんだ…」

亜美は、目の前に集まった人達に驚いた。

「うむ、確かにここには”帝国”各地から様々な人がやって来ているとは聞いていたが…」


二人は、イゴルの勧めもあってこの第一中央市にある中央広場でいわゆる路上ライブを開催する事になった。

時間はこの通商結節体ゲートワールド『イヴァゥト-86』の標準時で夕方、ちょうど仕事や研修を終えた人達が外に出て路上に溢れる頃である。

確かに、注目を集めそうな場所に陣取れているのは良いと思うのだが、現代日本人からしたら宇宙人に等しい”帝国”の人達に、自分達の演奏が届くか不安だった。




だが、その不安はたちまち解消される事となった。

最初は立ち止まる人が数人ほどだったのが、3曲ほど演奏する頃には千人以上にまで膨れ上がっていたのだ。


その観客の顔ぶれは、”アラヤシマノクニ”・”トヨアシハラクニ”・”ミズホクニ”・”ヤマトクニ”などあちこちの孫政体からやって来ているらしく、耳が尖ったエルフのような人々や半獣人のような姿の人々、また半分妖怪じみた姿の人やサイボーグのような格好の人も数多く見受けられる。

なのに、彼らは騒がずただじっと桜木親子の演奏を聴いていた。前の方にいる人達などはその場に座ってリラックスしながら聞いている程だ。

いずれも、地球で演奏している時と何も変わらなかった。


そして3曲めが終わった時には、広場全体が割れんばかりの歓声や拍手で包まれた。


「み、皆さん初めまして!!

 私達はユニット名を『テーチ』と言います。

 テーチという名前は、奄美という島に自生する植物の「テーチ木」に由来しています。

 「テーチ木」は春には綺麗な白い花を咲かせます。それに乾燥や汚染にも強く、また衣服を染めるのに使ったり薬になったり木材にもなったりして、奄美では無くてはならない存在でした。

 私たちもそんな「テーチ木」のような存在になりたい、そう願ってこの名前にしました」


亜美はこうして自己紹介を行い、それから伝統の島唄から最新のポップソングまでを奄美風にアレンジして演奏し、その度に歓声や拍手が響いて止む事はなかった。



 * * * * *



「しかし、本当に上手く行くでしょうか?」

イゴルが呟いた。


「確かに、それはいまのところ全く分からん」

オクウミは、多摩市にある自宅(以前に竜司達を招いたアパートだ)の居間で地球のモカブレンドコーヒーを飲みながら、首をわずかに横に振った。


「しかし、今の所はそれに賭けてみるしかあるまい。

 なにぶんにも、他に手立ては無いのだからな」

オクウミは、しばらく窓の外にある、アパートの周囲で青々と葉を茂らせている木々に目をやった。


「それで、既に集められた百万人位の応募者はどうなっている?」

「はい、彼らは現在のところ、第一中央市の研修施設で地球日本文化の研修を始めている段階です。順調に行けば秋口にも第一班の1万人程が、日本各地での居住実験を開始出来るでしょう」

「ふむ、そちらは問題なさそうだな」


「しかし、この後に続く”定住要員”の確保は、彼女達の活躍いかんに掛かってくる訳だ」

オクウミはテーブル上の立体映像板ホログラムにスイッチを入れると、そこに桜木親子の『テーチ』が演奏している様子が映し出された。

つい先日、第一中央市内のスタジオでプロモーション用に撮影されたものだ。


「まあ、確かにこの二人の演奏は、我々の心にも響くものがあります…」

イゴルはテーブル上に再現された演奏を、目を細めながら見つめた。

「これが”帝国”人全員の心に響くかは分かりません…でも1割でも届けば充分でしょう」


「そして、この演奏に聴き惚れた人々がファンとなり、そのファン達がこの二人を後押しするようになり、いずれは彼女らの正体が知れた時に、この21世紀地球日本を支援しようという動きにまで発展させる事が、今回の狙いな訳なんですが…」


イゴルは、コーヒーを口に含んでから言った。

「いずれにしても、地道にやっていかなければならないので中々時間が掛かりそうな感じですね。

 それに、中央政府はともかく帝国多重議会がそうした動きに納得するでしょうか?」


「それは分からん。

 しかし少なくとも、あの中央広場でのライブを見る限りは、案外とすぐに次のステップに移行出来るかもしれんぞ?」



 * * * * *



次のステップはすぐやって来た。


「ええっ!?

 今度は…”帝国”の宇宙都市に行ってライブするんですか!?」

亜美は目を見開いた。


「そうそう、と言ってもこの通商結節体ゲートワールド『イヴァゥト-86』から第七星門ゲートを伝ってすぐのアラマキ-7115市なんですけどね。

 たまたま『イヴァゥト-86』に来ていたアラマキ-7115市の司政局の方が広場のライブを見たらしく、君たちの演奏を気に入ったみたいなんです」


「そうなんですか?凄い嬉しいです」

「ああ、気に入ってくれたなら何よりだよ。

 それで、その宇宙都市のどこで演奏すれば良いのだろうか」

「ええとですね、そこにはちょっとしたパフォーマンス用広場が幾つかあるんだけど、君達のようなミュージシャンが路上ライブをするにはもってこいの場所なんですよ」


「はぁ…路上ライブではあるんですね」




「えぇ…路上ライブであるはずですよね!?」


亜美は絶句した。

そこは、直径1000km余りの小惑星をくり抜いた空洞の中にある、アラマキ-7115市の巨大宇宙港が一望出来る巨大なターミナル広場だった。

いや、広場というよりも”空間”と言った方が早い。何しろそこは直径数キロもあるような球形ホールを中心に四方八方に向かう巨大トンネルが接合する空間で、そこを行き交う人達はみんな空中を飛ぶようにして移動している。そして一方の壁が透けていて、その玻璃のような大窓から宇宙港に発着する巨大な宇宙船群を大迫力で見る事が出来るのだ。


”帝国”世界に初めて足を踏み入れた二人は、その圧倒される光景にしばらく呆然としていた。


「っわわわわわ…!!何あれ凄い!!」

亜美が指差す先には、全長数キロもあるイカと機械が融合したような巨大な紡錘形の宇宙船がガラスの壁一杯に迫っていた。

「ああ、あれはこの星系を巡る定期貨客船で、形式から言って”宙泳族”との融合体ですね。珍しくもないですよ」

イゴルが事も無げに言う。

「じゃ、じゃああれは?」

「あれは1万光年を一瞬で進む超長距離連絡船、あっちのシャンデリアみたいなのは豪華客船、こっちは未知の次元空間を調査する次元間探査船で、航宙警備艦に、個人艇に、貨物船に…」


宇宙港の内壁を覆い尽くす巨大な宇宙都市の灯を背景にして漂う無数の巨大な宇宙船や、その手前でターミナルの空間を浮遊しながら行き交っている、どう見ても完全に異星人やロボットや宇宙生物と思われる類にすっかり目を奪われてしまった。


「凄い…まるでワンダーランドだな。スターウォーズかスタートレックの世界に入り込んだようだ」

浩太郎氏も感嘆の声を上げる。

イゴルは二人を楽器機材ごと牽引ビームで引っ張りながら、広場内を案内した。




「それじゃ、ここに陣取って演奏しようか」

イゴルが広場管理局に掛け合って演奏許可を取り、更には重力テーブルまでも借りて来た。


「この重力テーブルの上なら、1Gで居られるよ。楽器も載せて演奏するならこれが良いね」

「皆様=よろしくお願いします=」

「あっはい、お願いします」

重力テーブルには人工知能が搭載されているらしく、亜美達に挨拶をして来たので思わず亜美もテーブルに向かって頭を下げて挨拶する。


亜美と浩太郎氏は、とりあえず何も考えずに楽器の準備をして、それからおもむろに演奏を始めた。


「…っへ!?」

すると、なんと亜美達の姿が球状空間のど真ん中に3D投影されているではないか。

「おおっ、凄いな」

浩太郎氏も見上げて目を見開いた。


しかし、よく見ると他にも様々な人達の姿が空間中に投影されている。

それぞれ、何か不思議な格好や動きで思い思いのパフォーマンスをしているようにも見える。

「皆さん、演奏しながら聞いて下さい。

 この三次元投影は、広場内の注目度に応じて空間の中央に投影されるかが決まるシステムになってるんです。つまり、人気が上がれば上がるほど広場の中心に、それもより大きく投影されるんです」

「ほう、昔の勝ち抜き歌合戦とかイカ天とか、そんな感じだな」

「何それ?」

「人気度って、どうやって測ってるんだ?」

「ええとですね、広場内の人々の意識が演奏に向けられているかがモニターされてるみたいですね。まあ『テーチ』の皆さんは既にかなり空間の中心近くまで来てますから、良い線いってますよ!」


「よっしゃ、そういう事なら、どこまで中心に行けるか頑張ってみようじゃないか!」

「じゃあ早速次の演奏始めよっ!!」




『テーチ』が演奏を再開すると、彼女達の重力テーブルの周囲には上下前後左右を完全に包み込むようにして多くの観客が集まって来た。

何しろ、この広場には常時数百万人から往来しているので注目度も高いのだろう。


いつしか『テーチ』の3D映像は完全に空間の中心を陣取り、更にはアラマキ-7115市の各所に同じ映像が流れ始めた。

市内のホログラムチャンネルを全て乗っ取った『テーチ』は、大好評のままに演奏を終えたのだった。



 * * * * *



こうして、亜美と浩太郎氏の音楽ユニット『テーチ』はアラマキ-7115市だけでなく、他にも”帝国”内のあちこちに赴いて路上(空間?)ライブを開いては各所で人々の注目と人気を得る事に成功していった。


彼女らは基本”帝国”内で活動している為に、そこでお金を得る事は無かった。だがこの銀河文明のどこででも、必要な物品や居住空間やサービスはほぼタダで手に入るのだ。

(”帝国”の孫政体である”ミズホクニ”では一部貨幣経済を再導入しているが、これは殆どゲームや研究材料として扱われている)

だから彼女らが働く目的はただ、自身の矜持と好奇心と自己実現の為だけだ。

この点で、もはや彼女らは他の”帝国”人と何も変わらなくなっていたのである。


 * * * * *




そして、冒頭のシーンに戻る。


『テーチ』の演奏は、”ミズホクニ”の球殻星系カルバラシクス5-5(F型主系列星を取り巻く巨大なダイソン球)にある、直径10km以上もある巨大な公演会場・第342自由広場にて行われた。

自由参加のパフォーマンス大会のようなもので、賞が得られるわけでも賞金がもらえるわけでもないが、その代わり見事なパフォーマンスであれば観客からの喝采と好評価が得られる仕組みである。


そこでは空間の中心で行われるパフォーマンスを観る為に、球状空間の壁にビッシリと無数の人が思い思いに張り付いていた。

個人艇を持ち込んでいる人も居れば、力場フィールドを張ってその中でパーティーのような事をしている人達もいる。いずれも氏族は多種多様であり、中には全く人間に見えないような人達も居た。

会場内の動員数は約10億、おそらくは大半が仮身体アバターだろうが、実身体オリジナルで来ている人も少なからぬ数がいるだろうと思われた。


そして、他の参加者達による得体の知れないパフォーマンスに比しても、『テーチ』の演奏はより異質でそれだけに際立って見えた。




「以上、『テーチ』の演奏でした!!」

司会が締めると、会場に居た10億の観衆から怒涛のような拍手喝采と歓声が二人を取り巻いた。


「うわぁ…現実じゃないみたい…」

「うむ…まさかこんな光景が拝めるとは…長生きはするもんだな」

「お父さんまだ53でしょ」

「ははは」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「凄いよ君達は!!

 もう今日までで既に、少なくとも1000億人以上の人に好評をもらっているんだ。

 この『仮想友人帳』でもこんなに応援メッセージが!!」


どうやら『仮想友人帳』というのは”ヤマトクニ”を中心に現在流行しているSNSのようなものであるらしい。仮想体バーチャルを使って没入する電脳空間サイバースペース上の存在ではなく、実体オリジナルからでも画面上でアクセス出来る媒体メディアのようだ。


「わ、私達そんなに多くの人に向かってライブした覚え無いんですけど…」

「あー、それはこの『仮想友人帳』にリンクした動画が拡散したお陰だね。銀河間も繋げられる星間ネットワークを使ってるから伝播も早いんだよ」


亜美と浩太郎氏は、イゴルの指し示す画面を見て、おおっと驚きの声を上げる。

確かに、3D表示された画面には無数のメッセージが文字通り溢れ返っていた。

「い、1000億人って…凄くない!?」

「う、うむ…地球人類の総数を遥かに上回っている気がするのだが…もう想像も付かん」




亜美は、目の前の空間に広がる無数の投稿メッセージの画面を指で次々とスワイプしていく。

そして”お使い”である「アマミン」の翻訳機能を使って瞬時に翻訳しながらメッセージを読んでいた。


「あはっ、この人なんかちょっと面白い名前〜」

「ほう、何て名前だい」

「”ホーフホーヒ”だって、変なの」


「…え!?」




その名を聞いた瞬間、イゴルは驚きのあまり眉を大きく吊り上げた。

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