9-2 超古代の宇宙戦争
遅くなりました。
お待たせして申し訳ありません。
「地下鉄!?って、こんな所に地下鉄って走ってたっけ!?」
山科が思わず叫んだ。
「いやいや、少なくとも京央線でも織田急線でも無えだろコレ!
こんな所を鉄道が走ってるとか聞いた事もねーし、そもそもこんな車両、見た事も無えんだけど…」
竜司も首を捻る。
しかし改めて見回してみると、この地下の空洞自体がまるで地下鉄駅のような構造を呈しているので、地下鉄が走っていても不思議じゃないように思えてきた。
「ふむふむ、コレはパッと見には織田急特別列車V25000型に見えなくもないですが、それにしてはあの特徴的なエアロウェッジパンタグラフもありませんし、関東ではありませんがJL九州の850系新幹線ゆかり号に近しい先頭車両形状ですが、やはり日本では一般的なスコッチゲージよりも恐らく300mm程広い軌間規格となっているようで、となると海外の例ですがスペイン国鉄AVEのS-105かS-135などに近いかも知れませんし云々」
いきなり東雲が、竜司が呆れるほどの鉄道オタクとして鉄道の専門用語や固有名詞を列挙して語り始めた。
他の三人は、また始まったか…という顔をしながら東雲の長広舌を聞き流しつつ、鉄道の方に向かっていく。
すると、なぜかサーミアが血相を変えて東雲の方に駆け寄って来た。
「まあ!!鉄道の真髄について語れる方が居るなんて私も感類の限りにてございます!!
東雲さん!!是非是非この鉄道についてとくと語り明かしましょう!!
こちらを見て下さいまし!この電磁車両架橋機構はアラハンブフジャーノン53201-9事業体謹製のヴェッテクトン駆動型9次元量子位相コロダイルコイルによって36次方向への慣性吸収が可能となっており、更にはバオヨルトース=ェゼルキオップ受動現熱体方式の自動姿勢制御機構と組み合わせる事で云々」
「何と!!それは素晴らしいですね!!という事はJL東海の東海道新幹線のぞみN950型の油圧式左右型セミアクティブサスペンション方式姿勢制御装置E-64型に近しい自然挙動の制御と、EPTESシステムの併用で時速300kmでの急峻な慣性エネルギー吸収を主とする快適な安定走行が可能なシステムと同じようなものでありましょうか云々」
なぜか、サーミアと東雲が完全に意気投合してしまっていた。
しかしお互いにしゃべっている事が理解し合えているのだろうかは疑問である。
「おーい、戻ってこーい」山科がジト目で東雲に向かって手を振った。
「…もう放っておきましょう」神崎がため息をついた。
「認証は済ませたかね、神崎くん」
「はい、問題ないと思います」
それを聞いたオクウミが微笑んだ。
「さあ君達、ためらわず乗り込んでもらいたいのだが。
行き先については、乗ってから説明しよう。
サーミアも喋ってないで、とっととこの鉄道を稼働させてくれ」
オクウミは神崎と一緒にさっさと車両の中に入ってから、一同に対して手招きした。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「おおっ、なんか普通の電車っぽい」
車両の中に入るなり、竜司はそう呟いた。
「さ、どこでも良いから座りたまえ」
オクウミは適当なシートに座りながら言った。
そこは向かい合わせの4人席になっている。
いわゆるボックスシートというやつだ。
竜司達は、その内の一角に座ってみた。
「へぇー、なんか座り心地が良いね。意外にフカフカだし」
「そうね。シートの素材も綿か何か自然素材のようで気持ち良い手触りね。シートの枠もオークのような木材で出来ているようだわ」
山科と神崎がさらさらとシートを撫で回しながら感想を言い合う。
確かに、外観が超最先端なデザインであるのに対して、内装は意外にもどこか懐かしい感じがする。
ただ、内壁は艶やかなプラスチックとも金属ともつかぬ板を張り巡らしていて窓が無く、天井にはやや暖色系の照明パネルが車両の前後に向かって連なっている。
どうやら、前後に連結された他の車両内装も似たようなデザインのようだ。
「それでは”紀元前二十世紀鉄道”、発車致しまーす」
いつの間にか、再び姿を消したサーミアの声が車内に響き渡った。
どうやら、スピーカーを通じて車両の別の所から放送しているらしい。
「すっかり車掌気取りだな」
オクウミがやや呆れたように言った。
「”紀元前二十世紀鉄道”って今言ってましたけど、それって何なんですか?」
竜司がオクウミに訊いた。
「知らん。まぁ大体、サーミアのケレン味たっぷりの言い回しだろう。
とは言え、この鉄道が地球日本の紀元前20世紀頃に設置されたのは間違いない」
「えっ!?本当ですか?」
「紀元前20世紀って縄文時代じゃなかったっけ?そんな頃にこんな新幹線みたいなのが走ってたの??」
「ああ、そうだ」
「オクウミさん、それって先日仰られていた超古代の話と関わりがあるんですね?
と言う事は、この列車の行き先は…」
「神崎くん、君の推察が当たってるかどうかは着いてからのお楽しみだ」
片目を閉じて悪戯っぽく微笑むオクウミだったが、神崎は額に手をあてて溜息をついた。
列車が動き始め、それと共に窓から見えるトンネル壁の灯りも次第にスピードを上げて後方へ流れて行く。
しかし、列車内は加速時のGや振動が全く感じられず、動いているのかどうか全く感じさせない程に静かだった。
「そういえば、その時に中断してしまった話をお聞きしたいのですが。
そもそもなぜ、このような地下鉄だとか通称結節体だとか…地下の機構が存在しているのですか?」
しばらく窓の方を向いていた神崎が、顔をオクウミの方に向けなおして訊いた。
「ああ、ええと…どこまで話しただろうかな。
そうだ、約5千年前から2千年前までの期間において地球日本に接触していた時期があったと話したな。その頃は地球各地においていわゆる4大文明と呼ばれていた古代文明群が出現したのだが、その勃興を陰で支えていたのが異星人達、特に”レプティリアン”と呼ばれる連中だった」
「ますます「ムムー」的な感じになってきたな」竜司が腕を組んで頷く。
「”レプティリアン”の目的は、第一に間接的な支配と搾取だ。
そうして連中は自らの歪んだ欲望を満足させる。奴らにとっては、そうした行為は完全に行動様式の一つ…宗教のようなものなのだ。また、最終的には人類の人口を限界まで増やさせて、それを丸ごと刈り取る。そうして連中にとっての家畜を大量に得る事が、一種のステータスになっているのだ」
「まるで地球を牧場か何かみたいに考えてるのかよ…」
「聞けば聞くほど、吐き気がしてくるわね…」竜司や神崎が同時に頭を振って嘆いた。
「それで、我々は地球日本を異星人共の手から守る為に、当時密かにこうしたシステムを建造した。地上部分の”防衛免疫システム”は透明状態を基本とし、また”土地基盤システム”が地下にあるのは当然のことながら、その方が目立たず気付かれにくいからだ」
「しかし、なぜ気付かれず目立たないようにしたのですか?
ある程度誇示するようなシステムであれば、示威行為にもなると思うのですが」
神崎の質問は、確かに考えてみればもっともな事だろう。
その時に日本が”帝国”の威を借りて地球に覇を唱えていれば、とっくの昔に日本を中心にして地球統一が成し遂げられていて、それどころか今頃は宇宙植民どころか恒星間航行も自在だったはずである。
「いいや、それはしてはならなかった。
まあ理由は幾つかあるが…」
と、ここでオクウミが、妙に言いにくそうにしているのに竜司は気付いた。
そう言えば以前にも、オクウミ達がなぜ地球にやってきているのかの真の目的を聞こうとした時にも、同じ様子になった事を竜司は思い出した。
だが、竜司はその事にとりあえず触れずに、オクウミの言葉を待った。
「少なくとも我々時空探査局の至上命令の一つは、ある程度成熟した文明段階で無ければ本格的な干渉を行ってはならない、としているのだ。
これは別に時空探査局だけの話では無く、”帝国”いや”星間種族連合”全体に行き渡る規則でもある」
「なるほど、スタートレックで言う所の『艦隊の誓い』のようなものですね」
「ふむ、スタートレックとやらが何なのかはよく知らないが、まあそんなものだろう。
それに我々は、前にも言った通り、一定期間経つと時空リンクが途絶してしまう問題を持っていた。だから、我々が去った後にも彼らを守れるように自動化しておかねばならなかった」
「しかし、私達の祖先はそれらを操って積極的に日本を守ろうとした痕跡はありませんよね。なぜ、技術の伝承は成されなかったのでしょうか?そうであれば、より効率的に防衛出来たでしょうに」
「もちろん伝承を行おうとしただろうさ。
だが、先ほどの理由による縛りで、祖先達のごく一部にしかその試みが行われなかったという事、またそもそも技術の伝承に必要な知識、特に暗黙知の領域が当時の人間では全く足りていなかったという事があり、伝承は不十分に終わってしまったのだろう」
「暗黙知?」
「例えば君達は、この列車に普通に乗り込むことが出来ただろう?
または自動車やバスに乗るのだって良い。それは、そもそも列車や自動車やバスというものがどういうものかを理解しているから、未知のものに接するような態度を取る事がないからだ」
「んー、という事は、例えばオレ達がもし異世界に行って、そこでドラゴンを乗り回す種族に出会ったとして、ドラゴンへの乗り方が分からないし安全かも分からない、そもそもドラゴンなんて言う生物を知らなければ乗り物として使えるかどうかも知らない、っていう認識ですかね」竜司が頭をひねりながら言った。
「まあ、だいたい合っているだろう。
特にその当時は、未知のものに対する恐怖心が好奇心に優っていただろうからな。当時の地球派遣担当者達の苦労たるや想像に難くないものだ」
「なるほど、しかしそれでは結局…」
「そうだ。全システムの最終的な管理権限は現地人には渡らず、もしくは途絶された。伝承に必要な”鍵”は各地の遺跡に密かに隠され、そしてそのまま数千年間の眠りについた。その中にはもちろん『須佐ノ男』号達も含まれていて、彼らは月面に秘匿される事となったのだ」
「そうしている間に地球では、例の”レプティリアン”達が増殖と支配を進めていたという訳ですね」
「全くだ。恐らくはごく稀にシステムのどちらかが一時的に覚醒して、外敵を撃退するという事があったかも知れない。ただ最近の地球日本史を見るに、シアラがここにやって来るまではほぼ休眠状態にあったと考えるのが良いだろうな」
「えー、切符を拝見」
と言いながら、前の車両からサーミアが姿を現した。
なぜか黒いロングのコートを羽織り、頭には鍔のある厚手の帽子を被っている。
しかし、サーミアの長くとんがった耳が帽子からはみ出ていて全く似合っていない。
「え?切符??」
「切符なんて持ってきてませんよ?」
「それならば、アンドロメダ行きのパスを拝見〜」
「え?は?アンドロ…何?」
竜司達が首を傾げていると、それを見たサーミアが絶句したような表情で仰け反った。
「ま、ま…まさか、皆さんは”999”をご存知で無い…と!?」
「…あー、もしかして…」
「それってさ、むかーしのローカルTV局とかで、夕方とかにやってたアニメだっけ?私見た事あるかも!!カナダに引っ越す前だから思いっきり小さい頃だけど」
山科もようやくその作品を思い出して言った。
竜司や東雲も、その言葉でようやく作品の内容を思い出したが、どちらかというとサーミアの姿なら、作中で少年に同行する美女のコスプレの方が似合っていると思う。
まあ性格的には車掌でも良いのかもしれないが。
「はぁ…まぁ…これがジェネレーションギャップという奴でしょうか…」
「っていうかサーミアが何で俺達よりも地球のコンテンツに詳しいのかが不思議だよ」
「まぁそういうな、サーミアに限らず時空探査局に勤めている奴は元より地球日本のファンなのだ。
というかサーミアももういいからそこら辺に座ってればいい。どうせこの列車は自動運転なんだろ?」
「ええ、まーそうなんですけどねー。
せっかくなんだから雰囲気出した方が面白いかと思いましてねぇ」
そう言いながら、崩折れるようにしてサーミアがオクウミの隣の席に座った。
「…ええとだな」と、オクウミは咳払いをして場の空気を戻す。
「とにかく”レプティリアン”の連中は、その当時の文明勃興のみならず、更には1万2千年前における超古代文明崩壊の引き金を引いた主犯でもあった」
「1万2千年前、と言うと前に仰っていたヴュルム氷期終焉の原因でもあるという事ですね」神崎が言った。
「そうだ。その頃、君達と同じホモ・サピエンスではあるのだが一番早く文明を築き上げた民族がいたのだ。彼らは主に海岸近くに都市や産業拠点を築き上げていたが、現在の地球文明とは異なる文明を築き上げていたのだ」
「ええと、当時の海退期に沈んでなかった海岸付近の土地に文明が栄えていたと言う事でしたね」
「でも、それらしい遺跡ってなんか発掘されてたか?」
「そう言えば沖縄の沖合に海底遺跡があるとか聞いたな、この前テレビ特番でやってた」
「あとバミューダ沖の海底にピラミッドがあるって雑誌に無かったっけ?」
「うーん、でもいずれもさ、なんか現代文明に匹敵するレベルかって言うと…」
「だからさっき言っただろう、現在の地球文明とは”異なる”と。それも根本的にな」
「…?どう言う事ですか?」
「…そうだな。
まず訊くが、君達が今、手にしている能力は何だ?」
「…えーと、ちょ、超能力って奴?」
「そうだ。まさにそれは、知性体のみならず意識を持つ存在全てが持つ事ができるのだが、君達のように様々な種類の能力を、自由自在に操れるかと言うとそうでもない。実際それには持って生まれた資質と、開花させるための切っ掛けと努力、すなわち開発が必要なのだ」
「じゃあ、現代人が能力を持ってないのは、開発がされてないからって事ですか?」
「そうだ。そして逆に言えば、能力開発が行われている文明社会では日常的に能力が使用されるようになる。そして、少なくとも現代地球文明のような工業技術を持たずとも、それと匹敵する便利さを手にする事ができるだろう。
もうここまで言えば分かると思うが、その超古代において、能力開発によって全ての人々が能力を持つ文明があったのだ」
「な、ナンダッテー!?」
「だから茶化すな」山科が東雲の頭をひっぱたく。
「…つまり、いわゆる超能力を基盤に置いた文明、という事でしょうか?」
「その通りだ。更に言うと、その能力を最大限に開発し発揮する為に様々な手法が編み出され、それを技術体系に組み上げたのだ」
「その話は、まるで…」と神崎はその先を言いにくそうにしていたが
「神崎君が思っている通りだよ。そのものズバリ、地球の歴史において魔法とか魔術とか呼ばれていたものだ」
オクウミがあっさり認めた。
「魔術!魔法少女!!」
「だからもう止めい」「グフッ!」
どこかのキャラが変身するポーズを取ろうとした東雲の首に山科が鋭いチョップを入れた。
「そうなんでございます!まあ我々特に”アラヤシマノクニ”ではこの能力体系が主要技術の一つとして銀河文明に広く展開出来る所まで成熟させましたのでございます!!」
オクウミの隣で静かに得体の知れないキューブを食べていたサーミアがいきなり喋り出した。
「更にはバーコブホロシアスウ法やアガライヴィシャス法と言った基本技術からティティリシャー197分類、ゲダラ01形類など様々な体系を生み出す事で、我々”アラヤシマノクニ”孫政体の主要輸出情報項目として氏族の資産となるまでに成長しており、更には近年におけるバイチュヴデ=コウ事件やパパシ5273-2.44-86動乱などと言った銀河間事象を早期に解決する為の主要ツールと化しておりますしもっと言えばトヴァデレンf」
「はいはい、分かった分かった」オクウミがサーミアの口を塞ぎつつ
「とにかく、我々も実際日常的に使っている技術の起源が、この当時の超古代文明に存在していたと言う事なのだ。
しかし、その能力を用いた技術体系も能力自体も、文明崩壊及び民族滅亡と共に失われてしまった」
オクウミは嘆息した。
「なぜ、そのような事態になったのでしょうか?」
「これも簡単な理由だ。
例の”レプティリアン”共は、その魔術的技術体系を使う事が出来なかった。というより、そもそも連中は精神操作といった一部の能力以外、超能力を持っていなかったからだ」
「え!?”レプティリアン”は超能力を持ってないんですか?」
「厳密には違う。さっきも言った通り、他人や他種族に対する精神操作能力は卓越していたのだが…、しかしそれ以外はからっきしだ。当然、地球の超古代民族を脅威に思った事だろう。
このような種族が宇宙に広がり始めた場合、その未知のテクノロジーによって自身の勢力範囲を削られるかも知れないと考えたのだ」
「まあ、宇宙戦争になった場合は超科学の兵器より超能力の方が有利って事か」
「その通りだ。
従って、連中は超古代民族が宇宙に本格進出する前に、先手を打とうと考えた。具体的には、地球へ秘密工作員を送り込んで、超古代の地球文明を分断し自滅させようとしたのだ」
「というと?」
「君達がこの前に話していた、ムーとかアトランチスの伝説の事だよ。
あれは一面の真実が含まれている…すなわち、超古代の一時期において太平洋を中心にした勢力と、大西洋を中心にした勢力へと文明社会が分裂していたという点でだ。
その内、大西洋側勢力がその工作員による操作の結果生まれた社会と我々は推測している」
「アトランチス、ですね」
「ああ、そちらは太平洋側勢力よりも科学技術を優先させる一派だった。
彼らが独立してから暫くは、太平洋側とも協調して過ごしていたのだが…、やはり政治工作の結果、次第に太平洋側と敵対するようになった。そして彼らの科学技術の粋を結集した超兵器を建造し、それを以って太平洋側に奇襲を仕掛けようとした。
奇襲であれば、さしもの超能力を持った軍隊でも裏をかけると思ったのだろうな」
「どんな兵器だったんですか?」
「当時の大西洋側では、太陽エネルギーを効果的に回収してあらゆる産業に利用する技術が進展していた。その流れを反転させてしまえば、簡単にビーム兵器が作れる。彼らは大西洋の中心にその兵器を据え付け、反射用人工衛星を介して地上にそのビームを叩きつける事にした。
そして標的は、当時最も栄えていた太平洋側のコロニー、すなわち東アジアに定めたのだ」
「えっ!?それってヤバくない?
ってか攻撃が成功してたら今頃私達終わってるんだけど」
「終わってるって…始まってもいないでしょうに」神崎が山科の言葉を聞いて頭を抱えた。
「ともかくその超兵器はついにある時、攻撃を開始すべくエネルギーの充填を開始した。
しかし技術的に未熟なところがあったその兵器に異常が発生し、ついには暴走を始めたのだ。そしてとうとう制御不可能になったビームが暴発して、その結果として大西洋側の諸都市にビームが当たり、科学文明の粋を極めた都市群が次々と消滅していった。さらにビームは北極付近の大氷河にも直撃して、氷河の大融解をもたらした。
その結果、全世界に大洪水が発生し、地上にあったありとあらゆる文明の基盤が洗い流されてしまい、超古代文明と最終氷河期が同時に終焉を迎えたのだ」
「はぇー…まるでSF映画のクライマックスシーンみたいだな」
「でもそれが、現実に起こった出来事だというのですね?」
「ああ、以上が起源世界線…もといこちらの世界線でも発生した歴史上の事件なのは、我々の調査においても明らかなのだ」
「しかし、そんな重大な事実が、現在の私達の社会に公表されていないのは不思議な話ですね。遺跡を調査する考古学会などは事実に気づいても良さそうなのに」
「まあ、往々にして旧来の定説を頑迷に信じて疑わない層というのはいつの時代でも居るものだからな。
それに、本当にヤバい遺跡はそれこそ深海海底や大深度地下にあって、そうした遺跡は地球世界の軍隊や秘密組織…”機関”などによって調査秘匿されるのはお約束みたいなもんだろう」
「まあな、確かにSF映画やアニメではお馴染みってやつか」
「でも実際におんなじ事されてると思うとちょっとムカつくよねー」
「ちょっと待って下さい。
こちらの”機関”によって調査秘匿…というと、その調査内容は当然、能力開発に関する事項も含まれるという事ですよね?」
神崎が何か気づいたような口ぶりで訊いた。
「ああ、もちろんだろう」
「とすると…今の”機関”はもうその能力開発に関わるノウハウを取得済みという事になりませんか?」
「そうなるだろう…な」
「って事は…例の転校生も」
「あの子も、能力開発によって人心掌握能力を手に入れた、って事?」
「そりゃもう、ちげーねーだろうな」
「まあ、詳しい事は彼女に直接問うてみるしかないかもな」
「それでは、接触を試みるつもりですか?」
「というか捕獲…だな」
「捕獲??捕まえてどっかに監禁するんですか?」
「いやいや、どちらかというと…我々の仲間になってもらおうと思う」