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1-2 謎の光

「ごふぅ!!」




竜司の日常は、まず妹に殴り起こされる所から始まる。


殴ったら倒れるのが普通だが竜司の場合は逆の事をさせられている。

しかし、特に最近は夜遅くまでネット小説を読んだりアニメ動画を見ているので常に寝坊気味になるのが当たり前の状態なので、目を簡単に開けようとしない。


「にーちゃん、ホラ早く起きろー起きろー!!」

妹の春乃が寝ている竜司を布団の上から跨がり、兄の顔を遠慮なく思い切り殴りつけたりするのだが、竜司はそれでも起きようとはしないため更に羽交い締めにしてきた。


「むぎゅー」

と、竜司とは明らかに異なる黄色い悲鳴が聞こえてきた。

「あ!沙結!またアンタはにーちゃんの懐に潜り込んで寝てる!!」

「......むぅ~」

沙結は大きな恐竜のぬいぐるみを抱えたまま竜司の脇にしがみついていた。

「お兄のここ、聖域」

「あのなぁ沙結、いい加減お兄離れしてくれよ。

 まあ冬場は暖かいからいいけdぐふぅ!」

「このセクハラ兄貴!!っつーか早く朝食食わねえと遅刻すっだろがオイコラ」

「あ、あの春乃ちゃん......言葉遣いが荒くなってますけdぐぼぉ!」

「だったらこれ以上荒くならねぇ内に早く起きろぉ!!ほら沙結も起きなー!!」

「あっはい」

「うみゅ~......二度寝が気持ちいいにゅ......」

言うなり沙結は、上半身を起こそうとする竜司の腹に頭を置いて寝転がった。

「あひゃっ沙結さんソコは今触っちゃ駄目ぇ!」竜司が悲鳴を上げる。


スパーン!!と春乃は手刀を竜司の頭にクリーンヒットさせた。




「んふぁイタタ......相変わらず春乃の手刀は痛いんだけどさ」

「にーちゃんが朝弱いのがいけない」

「ぱく、ぱく、美味しい」

「だろー?今日はオムレツに隠し味で少し生クリーム混ぜてみたんだー!」


竜司達の朝食はいつも和食だ。両親は都心で働いている関係もあって大体竜司達が起きてくる頃にはもう出掛けるタイミングなので、いつもすれ違いで朝食を兄妹三人で食べる事になる。

最近では、上の妹である中学一年に上がったばかりの春乃が朝食や弁当を作るのを手伝うようになってきていて、両親の負担はかなり軽減されるようになったみたいだ。

それ以外でも春乃の料理の腕は最近かなり向上しているように思える。


「こら沙結、食べながら寝るなー」

「ぐぅ、ぐぅ」

「沙結、また夜遅くまで絵を描いてたのか?」

「......うん」

竜司の下の妹である沙結は、小学六年ながらもイラストを描くのが大人顔負けに上手く、投稿サイトに自作イラストをUPしては、神絵師などとネット上で崇められているらしい。

でも竜司にとってはそんな事で寝不足になる方が心配である。


「あまり無理するなよ、身体を壊したら駄目だからな」

「んー、うん」

「幻覚ばっか見てるにーちゃんには言われたくないよなー」

「おい待て」


「んで、またにーちゃんは例の幻覚が見え続けてたのかー?」

「そこまでしょっちゅう見ねぇよ......」

「んぐ、んぐ。私も見えた」

「え!?本当!?マジか?」

「......らいいな......」

「......沙結は相変わらずだな」

「まー何なら診てもらった方がいいぞー、私が良さげな動物病院紹介するぞー」

「動物病院って違くない?実は俺って赤羽家のペットだったの!?」

「お兄、UFOって綺麗?」

「あぁ、綺麗だったぞ。今晩、ベランダでUFO探そうか?流れ星位なら見れるかもな」

「ん。一緒に見たい」

「に、にーちゃん私にも見せろー!」

何故か慌てて春乃も乗っかってくる。


「ははっ、まだ4月だし寒いから、ストーブをベランダに置いて暖かくして見ようか。

 そういえば、物置に天体望遠鏡あったよな、久しぶりに引っぱり出すか」


たまにはこういう風に、妹達と戯れるのも良いかも知れない。

しかし、やっぱり妹達に心配掛けさせるのも良くない。

竜司は、今後はあまり妹達に幻覚の事を話さないようにしようと思った。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




家から野猿高校までは、徒歩でも通える距離にある。

竜司はてくてくと高校までの緩い坂道を下っていった。


竜司達が住むこの地域は、一昔前までは近代的なニュータウン建設の余波を受けて、あちこちで区画整理やら住宅建設のラッシュが続いていたのだが、

ここ二十年以上の構造的不況や少子高齢化もあいまって多摩地方への人口流入と増加が止まり、団地やショッピングセンターの建設計画が中止されたり、更には住民の転居で空き地がどんどん出来てどことなく寂れた雰囲気が生まれつつある。

しかし竜司達にとっては、それが物心ついた時からの当たり前の光景だったので、特にその景色自体についてどうこう思うつもりは無い。

むしろ、空き地が増えた事で自然が戻りつつある状況が牧歌的で好ましくさえ思っている。


しかし、この日本が将来どうなっていくのかについては漠然とした不安があった。

(この街っていうか、この日本はどうなっちまうのかな)

自身の将来に直結する事柄でもあり、自身が成長するにつれて段々考えるようになっていった。




「あら、おはよう」

いつも、だいたい坂道の途中で神崎と一緒になる。


「おう、おはよう」

神崎の方が明らかに頭が良いのに、歩いて通えるからという単純な理由で

わざわざ偏差値中クラスの野猿高校に入ったお陰で、東雲と合わせて

幼なじみ三人組が小中高と同じ学校に通う事になった。

もちろん彼女は主席入学で、今では当然のように生徒会副会長となっている。


「まだ新入部員は集まってないのね」

「ははは......まぁ、どうにかなるだろ」

「無理ね。だからもう諦めてさっさと部を解散してくれると時間のムダにならずに済むわ」

(どんだけオカルトもといオカルト研が嫌いなんだよコイツ......)

「ま、まぁとにかく、新入部員最低3人入れればいいんだろ?楽勝楽勝!」

「......負け犬の遠吠えってやつかしら」

「もう負けるの確定なの!?」


「あら、ここ…」

「どした?」

神崎が、空き地を指差した。

「ここ、確か昨日まで空き家があったはずだけど」

「ん、あーそういや、帰りに見たら取り壊しが始まってたぜ」

「そうなの…」と、神崎が少し憂うような表情になった。


「この辺りも、どんどん人口が減って行くわね…」

「まぁな。ここら辺もじーちゃんばーちゃんばっかになったし」

「今朝のニュースで、多摩地方の高齢化が進んでてあと20年もしたら完全な過疎地帯になるって言ってたわ。

 ここだけじゃなくて、日本全体が衰退しているみたいだし」

「仕方ねぇよ。俺達が生まれたときからずーっと不況だって言うし、そのお陰なのか知らないけど誰も子供を産まなくなったしさ。

 あーあ、俺達が社会人になって結婚する頃にはどうなってるんだろうなぁ」


「そういえば、明日香さんの件はどうなっているのかしら」

「何だよ薮から棒に」

「今朝の同じニュースで、明日香さんの通っていた大学の事を報じていたから......」

「どんなニュース?」

「大した事じゃないわ。その大学出身の日本人がベンチャーを立ち上げたとか」

「ふぅん。

 あー......まぁ、そういえば、ちょっと前に警察から連絡があって

 詳細は明かせないけど、ねーちゃんに風体が似ている人を最近目撃した人が居るってさ。

 それで、その目撃者に今度連絡取ってみるって言ってたな」

「そうなの!?」

「まぁ本当にねーちゃんかは分からんけど、もしそうならまだ生きてるかもな」

「本当にそうなら......朗報ね」


心無しか、神崎の顔が嬉しそうに見える。

それもそうかも知れない。

何しろ神崎が幼少の頃から明日香の事をとても慕っていて、その頃は公園で遊ぶ活発な明日香の後ろに神崎が引っ付いている所がよく見られた。

だいたいその時の竜司は明日香の理不尽な罰ゲームをよくやらされていたのだが。


竜司が神崎の顔を見ていると、それに気付いた神崎が何かを誤摩化すように咳払いし、それから急に早歩きになった。

「急がないと、1時限目は体育だから遅刻してしまうわ」

「おっとそうだな」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




放課後、竜司が部室に行くとやっぱり東雲と山科が先に来ていた。


「ぶちょー、今年の補正予算案これなんで一応」

山科がぴらっと一枚の紙を差し出す。

「マジでどんだけ入り用なの!?」

竜司は予算総額を見て青ざめた。


「まー赤羽くんの知恵と才覚なら何だって行けるってだいじょーぶだいじょーぶ」

「いやいやいや無理」

実は各部予算審議の部長会議が来週に迫っていて、そこで補正予算が審議される。

前年度末に獲得した予算を上回る需要が想定される部活動については、補正予算申請書を今日中に生徒会まで持って行かねばならないのだった。

その制度のせいで大概の部が前期末に予算案をいい加減に出してから、大幅に金額を上乗せした補正予算案を提出してくるので、この時期の生徒会もピリピリしている。


当然、部長である竜司もオカルト研の予算獲得のために、そのピリピリしている生徒会に突っ込んでいって折衝しないとならない。

しかし生徒会役員たる神崎と相対しディべートを行うのは全くもって自信が無いのだ。

「まっ、新入生獲得の為にもどーかこれで!!」東雲もなぜか最敬礼しながら手を合わせた。


「くっそ......部長になんてなるもんじゃなかったわ」

ぶつくさ言いながらも竜司は、補正予算申請書を持って重い足取りで生徒会室に向かった。




「ちーっす」


ガラガラと音を立てながら生徒会室の扉を開くと、室内には神崎の姿だけがあった。

「あら、いらっしゃい」神崎が微笑む。

「......そんな威圧感のあるスマイルは中々お目にかかれませんな」

「そんな事は無いわ。別に威圧しているつもりはないもの」

再び微笑む神崎。


しかし竜司から受け渡された申請書を一目見るなり、その微笑みの周りにどす黒いオーラが一瞬で吹き出すのが竜司には見えた気がした。


「......赤羽くん、こんな冗談はどこの国でも受け入れられないわね」

「じ、冗談じゃなくて本当にこれだけ必要なんだって」

「何を言っているのか、ちょっと理解出来ないわ。日本語で話してくれるかしら」

どす黒いオーラの中に、更に灼熱の炎が垣間見えたようで竜司は震え上がった。

「い、いやいやそのあのえっと」

「これはもう次の部長会議では、オカルト研の廃部を審議した方が良さそうね」

「えええ!?」

竜司は冷や汗をかきつつも首を横にブンブンと振り、慌てて否定しようとした。


と、その時竜司の視界に一点の光が差し込んだ。


その方向に目を向けると、生徒会室の窓から多摩ニュータウンの愛宕団地辺りが見える。

光は、その麓の小さな林の中から上空に向かって吹き出すように煌めいていた。


「?どうしたのかしら、赤羽くん?」

竜司が急に窓の方を向いたので、不思議に思った神崎が訊ねた。

「......いや、何か光が......」

その光は、何故かだんだんと強くなっていくようだ。

「何だあの光は......?本当に幻覚なのか......?」

神崎も、竜司の言葉と目線を追って同じように窓の先を見やる。


「......え?何なの?あれは」

「へ......?まさか神崎、お前にも見えるのか......?」

「え、ええ、見えるけど」

「......マジか!!」




一瞬神崎と目を見合わせた竜司は、その直後に生徒会室を飛び出した。

「ちょ、ちょっと待ちなさい赤羽くん!!」

神崎の制止も聞かずに竜司は、そのままオカルト研部室にダッシュで戻って部室内を漁り始めた。

「うぇ?何何いきなりどーしたん!?」

「赤羽くん急に何を探してるの?」


「あった!!」

竜司は棚の奥にあった双眼鏡を探し出すとすぐに窓に駆け寄り、双眼鏡を愛宕団地の方に向けた。

「おいおい、補正予算申請書はちゃんと渡したのかよ」

「大丈夫渡した。そんな事より、あれが見えるか?」

竜司が指差す方向に東雲も目を向けると、彼もまた少し驚いた。

「何だありゃ?火事か?」

「んなんじゃねーよ、あれこそ俺が前々から見えてたヤツだ......」

「なになにどーしたの?って、あの光なにー!?」

山科も、竜司の上に被さるようにして光の方を見やった。


「......全員見えるって事は、やっぱりあれは幻覚なんかじゃねーって事だ!

 って事は、UFOか心霊現象かまたは奇現象か!?

 よし!新学期初めてのオカルト研究部野外活動を始めるぞ!!」

言うなり竜司は、部室にあるハンディカムやICレコーダーの電池を確認してから二人に渡した。


「今からぁ!?」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




稲荷山古墳は、野猿高校から南東に数百mほどの距離にあって

多摩ニュータウンの端、愛宕団地の脇にあり7世紀前半に建立されたとされている。

東日本では珍しい八方墳であるが上部が削られてそこに稲荷神社が建てられてしまっているので観光的価値もなく、小さな林の中にひっそりと佇んでいるような感じだ。


「間違いない、ここから光が吹き上がってたんだ」

竜司が神社の境内に入り、周りを見回しながら言った。

「なぁ赤羽、その幻覚って普段どんなもんが見えてたんだ?」

「ああ、何と言うか……空中基地?都市?みたいな」

「空中基地ぃ?」東雲が首を傾げる。


「そう、ここら辺の低空一杯に、何て言うか半透明のビルみたいなのが幾つか浮かんでて、やっぱ半透明のチューブみたいなのが連結してて、チューブの中で何かが動き回ってた」

「意味が分からん」

「その内最も太いパイプみたいなのが、ここの古墳に下りて繋がってるのは確かなんだが、そういや他にもこの付近のあちこちにチューブが下りてるのを見たな」

「ふーん、そういえば古墳ってココだけじゃなくて、この付近の土地に和田古墳群という名称で幾つも散らばってるらしいねー」

山科がスマホを操作しながら言った。

「本当か?って事は、その古墳群とあの半透明の何かが絶対関係してるって事じゃねーか」

「その幻覚が本当だったら、でしょ」

「お前らだってあの光見たじゃねーかよ……」

そう愚痴りながらも、竜司は古墳の塚に上り始めた。


「なぁ、確かこの古墳って、石室の中には何も見つからなかったらしいんだけどさ。

 でもその石組みが非常に精巧で、様式もどことのつながりのない独特なものだったって」

「おいおい赤羽、お前ひょっとして遺跡の中に入るんじゃねーだろな。

 不法侵入だぞおい」

「せっかく来ておいて何もしない訳ないだろ。東雲はハンディカム、山科はICレコーダーとスマホのカメラを起動しておいてくれよ。それじゃ入るぜ」

「まったく、ぶちょーは向こう見ずだねぇ」


山科が茶化しながらも東雲に付いていく。

東雲もやれやれといった感じで後ろでカメラを構えた。




稲荷山古墳の石室に入る為には、まず古墳の頂上にある稲荷神社の社殿に入らねばならない。

竜司達は、周囲に人影がないか何度も見回して確認してから、こっそりと社殿に侵入した。

社殿の中は四畳半程度の板の間になっていて、中央に床へ通じる扉があった。

竜司が床の扉を開くと、ぎぎぎぃっと音が鳴ったため、慌てて周りをもう一度確かめる。

社殿の外に誰もいない事をもう一度確認してから、3人は静かに床の奥に入っていった。


「ねぇ、ここってこんなに広かったっけ?」

「知らねーよ、表の案内板には石室は小さいのが一つだけってあったけどな」

「にしても、トンネルがあるなんてな……」

床の下はすぐに小さい半地下の小部屋になっていて、その一方が石組みのトンネルになっていた。

竜司は懐中電灯を掲げながら、ゆっくりとトンネルの奥に進んでいった。


すると、10mも行かないうちに新たな小部屋に辿り着いた。

これが本来の石室なのだろう。壁は自然石を積み上げた石組みで、それなりに精巧な造りではあるがインカ文明程ではなく、別段不可思議なものではなかった。

しかし竜司達がぎょっとしたのはその事ではなかった。




石室の真ん中に、一人の少女らしき人影が横たわっていたのだ。


挿絵(By みてみん)

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