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7-4 地球軌道艦隊戦

『サーミア…!テメェ』




突如、別の所から通信が割り込まれて来た。

しかもどこかで聞いた声なので、キロネが思い切り顔をしかめた。


『あら、そんな口を聞いて良いのでしょうかしら!?

 せっかく私が『須佐ノ男』戦隊を率いてやって来たというのにね~?』


キロネの悪友ともライバルとも言えるサーミアは、現在『須佐ノ男』の艦橋に陣取って、他の16機の巨大ロボット眷属と共に亜宇宙空間での戦隊運動訓練を行っていた。

そこにキロネが作戦行動中に襲われていると聞きつけ、駆けつけて来た次第だ。




「『須佐ノ男』号、元気?問題ない?」

明日香が『須佐ノ男』号に呼びかけた。


「ハイ、司令官。私モ眷属達モ、全機能ニ問題ハアリマセン」

「そう、良かった」

「司令官モ、体調ノ方ハ如何デショウカ?」

「私ももう大丈夫よ。もうじき搭乗できるのを楽しみにしているわ」


明日香に対して『須佐ノ男』号は、今でも司令官認識を継続している。

今はまだ明日香の体調が万全ではないので『須佐ノ男』号への搭乗は控えているのだが、体調が戻り次第明日香も乗り込んで、ロボット達の指揮訓練を行う予定である。




『というかキロネ、貴方の『ヒューコン=伍』号にはちゃんとワクチンを打ってあるんでしょうね?』

サーミアがキロネに問うた。


『…忘れてた』


実はバイオメカノイドからの再攻撃がある事を予想し、

それに対処するためサーミアと、エリア51上空での戦いで『須佐ノ男』号達からバイオメカノイドの子体である機械虫の侵食を超能力で食い止めた山科が共同で機械虫用ワクチンを開発していた。

それは、既に『ディアマ=スィナ』『フィムカ』両宇宙船には投与している。


『あれ程まで口を酸っぱくして言ったのに、全く何をやっているのでしょうねぇ。

 先日まで山科様と私とで毎日夜遅くまで頑張って機械虫どもの指示言語列を解析して211万4千行に渡る抵抗防御指示コードマトリクスを組み上げてからパラジントドメルリア機構体及びクラプルシリタル事業連結子による査読と教唆を経てやっと完成に至った貴重で重要で大切で緊急優先度の高いワクチンですのに』


『うっ…うるさいうるさい!

 あんな罵詈雑言とともに言われたらこっちだってやる気なくなるわーい!!』

まるで数百歳は生きている宇宙人とは思えないような子供っぽい言い訳だ。

しかしサーミアの方も、あのように多弁で難解な用語を使ってまくし立てて来たら誰だって嫌になるかも知れない。


『はぁー、全く…とにかく今はそこでじっとしてらっしゃい。

 このサーミア様が直々に助けに来てあげるからぁ』

『ぐぬぬ…』

しかし、キロネとしても他に策がないので仕方がない。

サーミアの言葉に従い、『ヒューコン=伍』号を軌道速度の維持以外で動かさないようにした。



「全くもって仕方ありませんですね。

 それでは、機雷みたいに散布された機械虫どもの”卵”を必要最低限に掃海しつつキロネの所まで掘り進んでいきましょうか。

 では『須佐ノ男』号に眷属の皆さん、いざ参りましょう」

「ハイ。サーミア様」



と、ここでサーミアが『須佐ノ男』号搭載レーダーの反応に気づいた。


「あら、何か新手の宇宙船がこちらに接近して来ているようですね」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




サーミアとキロネの会話より10分ほど前に遡る。


正体不明機アンノウンが滞在する日本上空の宙域に全速で向かっていた米宇宙軍第6艦隊任務群だったが、

旗艦である亜宇宙戦艦デカルトハイランドのCICでアンノウンの動きに変化があった事が確認された。


「司令!!宇宙要塞”ボルゴグラード”及び”紫微宮一号”がアンノウンを挟撃し、共に「卵」の放出を開始しました!!」


三次元レーダーを注視していた部下の報告に、司令官であるキンブリー中将が唸った。

「なんて事だ…中露が示し合わせたかのような作戦行動を行うとは」

「どうでしょう、両者の間にC4Iのようなデータリンクシステムが共有されているわけではありませんから、共通の目的を達するために、偶然こうなったというのが可能性として高いかと」

任務参謀であるロックウェル大佐が別の考察を加えた。


「さらに動き!3者とも43.5度の軌道傾斜角・秒速約6マイルにて連動を開始!!」

「まぁ当然でしょうね。軌道速度を出して接近している「卵」の群れに挟まれたら、相対的に同じ速度でやり過ごすしかないでしょうから」

「だが我々も進路を転向せざるを得ん」


「司令!!3者とも、このまま進めばあと1時間以内に合衆国本土上空に到達します!!」

「何だと?」

「このままでは進路を転向しても我々は間に合わないでしょう」

レーダー担当官の報告に、ロックウェル大佐が続ける。


「よし分かった。直ちに偵察機を出撃させ、状況の詳細を監視。

 その五分後には艦隊に残る全戦闘機を出撃、正体不明機及び中露の宇宙要塞を牽制せよ!!」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「5分以内に6番機から10番機まで給油確認と対サージ点検、

 兵装をNXに換装もだ!!急げ急げ!!」


亜宇宙空母ケン=マッティングリーの格納庫区画ハンガーでは、

第3種宇宙服を着用した整備兵達が駐機している宇宙戦闘機群の合間を縫ってあちこち駆けずり回っていた。


ここでは、既に1番機から5番機までがソー小隊として出撃していて全機が未帰還となっていた。

従って発進出来るのは、控えで待機していた5機のF-123とそれ以外の特殊活動用宇宙機が数機だけだ。

そもそもこのクラスの亜宇宙空母は、有人宇宙機を目一杯積んでもせいぜい14,5機程度が限界である。


ちなみに、最初にキロネ機によって撃墜されたウォリアーズスリー小隊とロキ小隊は、ここではなく僚艦である亜宇宙空母チャールズ=デュークに所属している。

また、第6艦隊任務群では3隻目の亜宇宙空母ジョン=ヤングが存在するが、推進装置の故障により、現在では地球上のアメリカ宇宙軍基地にてドッグ入りしている。




亜宇宙戦略偵察機F-121E”センチネル”の側で整備を行なっていたジャクソン曹長は、偵察機に乗り込むためにやってきたランバート大尉に話しかけた。


「戦闘機一匹に手こずってるって、本当ですかい」

「ああ、どうやらただの戦闘機じゃないがね。

 異星人の宇宙船のようだが、”リゲリアン”や”レティキュリアン”などの”グレイ”系でも無いし、なにかと噂の”レプティリアン”でもない。

 ましてやバイオメカノイド系ですらない、未知の宇宙文明のものらしい」

「はぁ。だからって艦隊自体を動かさざるを得ないもんなんすかねぇ」

「いやいや、たかが戦闘機1機自体に出張る程じゃないさ。

 今回の艦隊機動は、中露の軍事行動を牽制する為のものだ」

「なるほどね、確かに最近のロシア人も東洋人共も宇宙軍を増強して来てやがるようで」

「ああ、だからこちらも世界を統べる超大国として示威を行わねばならん」

「じゃあこの偵察もその一環って事っすね。もう飛べますぜ」

「すまんな」


ジャクソン曹長の介助でラダーからF-121のカプセル型コクピットモジュールに入ったランバート大尉は

気密キャノピーを閉じ、各種装置を起動させた。

自身の宇宙服にあるアンビリカルケーブルをカプセルの生命維持装置に繋ぎ、問題なく作動する事を確認する。

そして最後に推進装置の火を入れた。


「アスガルド、ヘイムダル1。発進許可願う」

「ヘイムダル1、アスガルド。許可が下りた。発進せよ」

「了解。ヘイムダル1、直ちに発進する」


F-121E”センチネル”は、推進装置をわずかに働かせて機体を動かし、格納庫区画ハンガーから船外の飛行甲板フライトデッキに上がり、電磁加速カタパルトと機体をリンクさせた。カタパルトの滑走線に沿ってランプが灯る。

艦橋ブリッジの合図によって、主機のレーザースラスタ出力設定を最大にし、カタパルトの起動と同時にその推力を勢い良く後方に向けて解放した。




軌道速度の7-8倍は出し、衛星軌道上を巡航していくと5分と経たずに目標の宙域に到達した。

ランバート大尉は、機体をアクティブステルスモードに切り替える。

これは電波のみならず赤外線から可視光線まで幅広い電磁波長の反射を徹底的に抑えるシステムで、キロネの『ヒューコン=伍』号のものに近いが、それよりは遥かに原始的だ。

しかし高速で移動するのであれば、数百mまで接近しなければ探知されないので十分有効である。


「アスガルド、ヘイムダル1。目標宙域に到達した。これより偵察を行う」

艦隊へと通信を取りながら、ランバート大尉はミューオンレーダーと光学カメラを同時に注視した。


予想通り、”ヘイムダル1”より高軌道に特徴的な歪んだ車輪状の宇宙要塞”ボルゴグラード”が確認でき、また低軌道にはトンボの化け物みたいな形状の”紫微宮一号”も見えた。

これらはほぼ同じ方角・速度で平行移動しながら、両者の間の空間に向かって”卵”をばらまいている。

その中間には、電波式レーダーはもちろん光学カメラにも何も撮像されないが、ミューオンレーダーであれば微かに探知できる「何か」があった。


「ふむ…この『スクレーリング』は一体何なんだろうか…?」

ランバート大尉が独り言ちる。

先程の戦闘では、こんな見えにくい相手でもソー小隊などはよく戦ったと思う。

少尉は亜宇宙戦闘、特に格闘戦の経験はあまり無かったが

それでも地球上の有視界による空中戦闘とは異なり、狭いカプセルの中でほぼVR画面を通して戦う難しさは、このF-121E”センチネル”を操縦しているだけで十分に分かる。




そこに、急にミューオンレーダーが別の「何か」を探知した。

「ん?な、何だこれは!?何かが急接近して来ている?」


ミューオンレーダーが指し示す方向には依然として何も肉眼視出来ないが

レーダーには明らかに、500フィート以上はありそうな巨大な物体が10個以上もこの宙域へと高速で向かって来ているのが確認できる。


「まさか…これは艦隊クラス!?」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




キロネ機を救出する為に、全速で向かいつつあった『須佐ノ男』号達とサーミアだったが、目標宙域付近に、例の2つの宇宙要塞以外でやや離れた空間にも1機の宇宙船が飛行しているのに気づいた。

ただ、これはこちらに向かって戦闘を仕掛けてくる意志は無いようだ。

「何でしょうねこれは…?

 まぁ、多分偵察機の類いでしょうから気にしないで参りましょう」

と、サーミアは改まってキロネに話しかけた。


『キロネ、今から”卵”を排除しながらそちらに参ります。

 何も出来ないキロネさんはくれぐれも何もせずじぃーーっとしていて下さいねぇ。

 余計な事をすると、それだけ余計な時間が増えますし余計なトラブルシューティングもしないといけませんし』

『ぐっ、ぐぬぬぬんぬ…』

キロネは顔を真っ赤にして拳を握りしめるが、確かに何も出来ないと言うのは間違いではない。

『須佐ノ男』号と違って、キロネ機にはバイオメカノイドを駆除出来る手段を持っていないのだ。




「ソレデハ始メマス、サーミア様ハ万一ノタメニ監視ヲオ願イシマス」

「了解しましたわ。やって頂戴」


『須佐ノ男』号はサーミアに確認した後、その巨大な腕で目の前に浮かぶ一個の”卵”をむんずと掴んだ。

すると”卵”がいきなり破裂したかのように急激に無数の触手を四方八方に向けて放出させ、当然の事ながらその大部分が『須佐ノ男』号の腕や胴体などに絡み付いた。

もし『須佐ノ男』号が以前のままであれば、たちまち”卵”から機械虫を感染させられて乗っ取られていた事だろう。

しかし今は、触手に絡み付かれても何事も無かったかのように”卵”を掴み続けている。


すると、『須佐ノ男』号が掴んでいた”卵”が暴れ、見る見る間に膨張を始めた。

しかしサーミアは何でも無いように平然と”卵”を監視している。

「問題ないようね」

「ハイ。次ノ行動ヲ開始シマス」

『須佐ノ男』号が握りしめた”卵”をその巨大な手でどんどん潰していく。

”卵”が踠き苦しむかのようにさらに暴れ、その手から逃れようと触手を更に方々に伸ばした。

しかし、最後に『須佐ノ男』号が一気に力を加えると、バシュっと一瞬にして”卵”が圧壊し、鈍く光るシルバーだった体色が見る見る間に燃えカスのようなダークグレーになって散り散りになり無重量空間を虚しく拡散していった。


「成功ね」サーミアが珍しく一言で目の前の状況を表現した。

「ハイ、サーミア様。続イテ作業ヲ行イマス。他ノ眷属ヘモ活動開始ノ発令ヲ行イマス」




『須佐ノ男』号とその眷属ロボット達は、たちまちその宙域に拡散する”卵”達を三分の一程も駆除していった。

キロネ機の方向へまるでドリルで掘削したかのように駆除された空間が広がっていく。

サーミアがキロネ機のほうを確認すると、キロネ機の周りに”卵”が群がり、まるで繭のようになっていた。


「うぅ、やばいよやばいよぉ〜」

キロネが半べそになりながら、『ヒューコン=伍』号に引っ付こうとする”卵”達を必死に振りほどこうとしていた。

「キロネ…一体貴方は何をやっているのかしら?」

「う、うるさいうるさい!こっちだって何も手だてが無いわけじゃないやい!」


サーミアがデータリンクを介して『ヒューコン=伍』号のシステム状態を確認すると、

驚きでサーミアのやや切れ長で形の良い目が見開いた。

「キロネ、貴方ねぇ…」若干呆れたようにサーミアがため息をつく。

「へ、へへっ!どーだい!!」


どうやら、キロネと『ヒューコン=伍』号は、”卵”が送り込もうとする機械虫に対して独自に自己防衛プログラムをその場で組んで、船内に接触侵入を試みる機械虫を撃退していたようだ。

しかし機械虫側もその場で対抗アルゴリズムを組んで対応しようとするので、文字通りいたちごっこ状態だ。

既にこの十数分余りで数万回もアルゴリズムを修正した痕跡が見られた。


「いやいや、これってどうなのかしら。

 そもそもワクチンを打っていればこんな船内環境調整知能のみならず戦術量子思考体まで援用して船内リソースの57%以上も食いながら機械虫どもに対抗する必要は無かったのですわよ?

 私達の開発したワクチンなら、全部自動で1秒間に5千京通りの対抗指示言語列を組み直してk」

「終わった話はもうどーでもいーだろ!!

 それよりも早く助けろー!!」




「はいはい…と…ん?」


キロネの相変わらずの我が侭っぷりに、再びため息を付きながら『須佐ノ男』号に指令を出そうとしたサーミアは、時空波動感知レーダーに反応が現れたのを確認した。

ちなみにこれは時空間そのものに及ぼす物質の”波”を検出するので、ミューオンレーダー等より遥かに物質やエネルギー波などの検出能が優れている。


「これは、また複数の宇宙船が接近してますわね。

 小型機が10機程度に…あらまぁ、こんなサイズの宇宙船が地球側にもあるのですわね。

 それが7、8隻程度かしら?」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




「シフ小隊、ラウフェイ小隊。アスガルドだ。

 ヘイムダル1によると、新たに敵艦隊が出現した模様。その数は17、サイズは最大約1500フィート以上」


「アスガルド、ラウフェイ01。それは本当か?

 戦艦デカルトハイランドより数倍デカいぞ!?」

「アスガルド、シフ01。確かに信じがたいわ。レーダーの測定ミスなんて事は無いの?」

「シフ01。それは無いだろうな。

 ”ボルゴグラード”の通信を傍受したが、同じ報告を地上に向けてしている」

「何て事かしら、私達だけで対処出来ないわ」

「シフ小隊、ラウフェイ小隊。アスガルド。各機はとりあえず当初の『スクレーリング』撃墜に当たれ。

 また、新たな敵艦隊の呼称は『ヨートゥン』とする。サイズが最大なものから『ヨートゥン01』『ヨートゥン02』と呼称していく」

「ラウフェイ01、アスガルド。了解。

 しかしその『ヨートゥン』はどう対処するんだ?」

「それはアスガルドが直接、接敵機動に当たる。

 以上だ」



合衆国戦略宇宙軍第6艦隊任務群は、所属する残りの戦闘機隊であるシフ小隊・ラウフェイ小隊を急派させつつも、

本隊の亜宇宙戦艦デカルトハイランド、亜宇宙空母ケン=マッティングリー及びチャールズ=デューク、そして亜宇宙巡洋艦フラッグクレーター級2隻と亜宇宙駆逐艦シャドウロック級2隻にて構成される本隊を当該宙域に急行させた。


しかし第6艦隊の全ての艦艇を合わせても、『ヨートゥン』1隻のサイズに劣っていた。

ちなみに米宇宙軍の亜宇宙艦艇は全て基本的に”スペースシャトルの化け物”と言って良い形態をしている。

亜宇宙戦艦デカルトハイランドは全長が180m・全幅80m程度の紡錘形で、胴体の中に軸線砲を数門備えていて大気圏突入用の翼は亜宇宙航行時では折り畳んだ状態にしている。

亜宇宙空母ジョン=ヤング級の2隻も全長160m・全幅が230mの菱形というかマンタのような形の全翼機で、その巨大な翼の中に、各戦闘機を積載できる格納庫区画ハンガーを備えていた。

いずれも、地球人類がかつて建造した飛行機や宇宙船の中で最も最大級であったが、戦略宇宙軍自体の特性上、その存在を”機関”加盟国以外の国や合衆国国民に対して秘匿しなければならなかった。




「司令、目標宙域より50マイルの距離に到達しました」

「各艦、戦闘準備完了しました。いつでも作戦を開始出来ます」

キンブリー中将は副官達の報告を受けて、指令を発した。


「よし。目標、敵艦隊『ヨートゥン』。攻撃を開始せよ」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




ロシア宇宙軍の宇宙要塞ボルゴグラードでは、司令官であるコルサコフ大佐が、狭くて履きっぱなしの靴下の臭いが充満するステーション内の指揮室に陣取って、緊張した面持ちで船外モニターとレーダーを睨んでいた。


「まずいぞ…まさかこんな事になるとは」

コルサコフ大佐は、あくまでもクレムリンから戦略指揮局ジグリ経由で発された指令をこなしただけなのだが、

結果として、至近距離で米宇宙軍艦隊と謎の巨大ロボット群による軌道艦隊戦を拝む事になるとは思わなかった。


尤も、そのような気分にさせられているのは、更に低軌道にて居座っている中国航天軍の”紫微宮一号”の連中も同じだろう。




コルサコフ大佐は、せいぜいこちらに流れ弾が来ないよう祈りながら、現在の情景をロシア本土に向けて報告し続けるしか無かった。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




サーミアは、一度無視を決め込んだ地球側の宇宙船群からいきなり十数条の荷電粒子ビームと電磁レールガンの雨が『須佐ノ男』号達に向けて降り注いだので、

少しびっくりしたようにして、その放って来た方向を見やった。


「あら、あら…挑発してくるとは大胆な事ねぇ。無意味な事だけれど」

「イイエ。コレハ攻撃ダト思イマス」

「まあ。こんなのでも攻撃というレベルなのかしら。

 まさかこれで全力、なんて事は無いのでしょうね。他にも何か兵器があるのでしょうか」

「全力攻撃デショウ。今ノ攻撃ハ現世界線ノ地球技術デシカアリマセン」

「あらまあ。それじゃあちょっと遊んであげないといけないわねぇ」

サーミアにとっては児戯に等しい攻撃だが、相手をしてやらねばキロネ機の救出にちょっと影響が出る。


「それじゃあ、『多紀理媛命』及び配下の4機がその宇宙船の相手をしておやりなさい」

「了解イタシマシタ、サーミア様」

返事を返して来たのは『多紀理媛命』だった。

配下のロボット達は、それぞれ装甲が厚く巨大な砲門も備えているので艦隊戦にはうってつけである。


『多紀理媛命』以下5機は、反転して地球人の宇宙艦隊へと向かって行った。




「キロネ、大丈夫ですかぁ?」

「へっ、こんなの日向湯でいっ!!」

なぜか江戸弁でキロネが強がった。


キロネ機を取りまく”卵”を全て排除し終わった『須佐ノ男』号は

キロネ機を両脇からむんずと掴んで、他の”卵”に囲まれた宙域から脱した。

「おいおいおい!!もうちっと優しく掴んでくれよ!!

 機体が凹んじまうだろーがー!!」

「こんな成りでも『須佐ノ男』号はとっても優しいのですよ?

 それに主前腕部は私がアルファーフバリ164-21型人工筋肉に一部切り替えて、より柔軟な挙動運動に対応出来るようになっているし、更に指部の表面組織もアラカンソオン事業体謹製の8839-0028884番手式サーファテ重合体を使用しているので、より表面の感覚が敏感にソフトに鋭敏に感覚化出来るようになっているしそれに」

「あーもー分かった分かったから」


「で、何か接近してるんじゃなかったっけ?」

「ああ、それは『多紀理媛命』達で対応してもらってますわ」


「いやいや、他にもハエみたいなのが一杯やって来てんじゃん」

「ああ、あれね」

「大丈夫デス。我々デ対処イタシマス」


『須佐ノ男』号が言うなり、キロネ機や『須佐ノ男』号の周りに群がってくる、ロボット達にとっては正にコバエ同然の地球側戦闘機群が一瞬にして撃墜された。


撃墜したのは『天忍穂耳命』以下の5機である。

彼らは超長距離から防御用の短距離まで様々な射程のビーム兵器を備えている。

旗艦の護衛用として『須佐ノ男』号の周囲を常に陣取るようにしていた。




「さて、貴重な情報と経験値も得られましたし、ここらが潮時でしょう」




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




亜宇宙戦艦デカルトハイランドのCICでは、急接近する5機の巨大ロボット群によって恐慌状態を起こしかけていた。


「司令!!近接防御用レーザーやレールガン、対宙ミサイルも効果ありません!!対処不能です!!」

猛スピードで艦隊のど真ん中に突入してくるロボット達に向けて、あらゆる近接防御用火器を雨あられと浴びせかけているが、全くと言って良いほど効果が見られないのだ。


「敵艦との距離、10マイルを切りました!!」

「まずい!!各艦緊急回避せよ!!」

キンブリー中将は半ば絶叫しながら他の艦に向けて指令を送った。

「司令、このままでは敵に後背を突かれてしまうでしょう」

任務参謀のロックウェル大佐が、冷静に敵の挙動を予測する。


「どういう事だ!?」

「つまり、あのロボット達は我が艦隊では成し得ない程の急速推進と姿勢制御による機動力によって、まるで古代の平原戦のような中央突破・背面展開を成そうとしているのです」

「何だと?まさか、そんな事が可能なのか?」


中央突破・背面展開戦法は古代の兵法にも記されている程の有名な戦術だが、機敏に動かすのが難しい現代の艦艇、特に慣性航法に頼りがちな大型宇宙艦艇では、ほぼ不可能と言って良い話である。

これは重力制御エンジンを搭載していても同じである、というか現在の未熟な重力制御技術では逆に複数のエンジンを搭載していると、その連携と統御が格段に難しくなるという欠点がある。

特に大型宇宙艦艇では種類の異なる複数のエンジンを搭載せねばならず、機関部では常に慎重な航法プランをCICに向けて要請している程である。


「では、どうしたら良い?」

「まずはあえて、艦艇を左右に分けさせるのです。

 そして中央突破による被害を極力少なくしてから、左右に分かれた艦艇をそれぞれ戦域から離脱させるのです。

 今はそれしかあり得ません」

「む…それでは、敵艦隊への攻撃はどうするのだ?」

「彼我の戦力が明らかになった今では、無駄な戦闘は避けるべきです。

 我が方は既に戦闘機隊を全滅させられています。

 幾らデカルトハイランドの軸線砲が優れていたとしても、見ての通り敵艦には微々たる損害も与えられていません。

 ここは撤退を進言致します」


「うむぅ…仕方ない。

 全艦、戦域から全力で離脱せよ!!」




しかし、その指令は途中までしか達成出来なかった。

理想的な中央突破・背面展開を行った『多紀理媛命』達が、米宇宙軍第6艦隊の全ての艦艇の後尾に付き、その主エンジンを攻撃して航行不能に追いやってしまったからである。

救難信号を聞きつけて米宇宙軍第2艦隊が救援に駆けつけるまで、第6艦隊艦艇は亜宇宙軌道上を惰性で航行するほかなかった。




ちなみに、オクウミの指示によって『多紀理媛命』達の攻撃による米軍側の死者は0に抑えられた。


しかし、その前に第6艦隊が『須佐ノ男』号達に向けて放った荷電粒子ビームと電磁レールガンによるカクテル飽和攻撃の流れ弾が、ロシア宇宙軍の宇宙要塞”ボルゴグラード”及び中国航天軍宇宙要塞”紫微宮一号”に当たっていた。


”紫微宮一号”の方は軽微な損害で済んだが、”ボルゴグラード”の方は戦闘指揮室を直撃して、コルサコフ大佐及び十数名が”戦死”した。


これにより、後にアメリカとロシアが”機関”内での深刻な対立の原因を作る事になる。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




亜宇宙での戦闘を、司令センターでじっと見ていた竜司は、

隣にいる明日香の様子がおかしい事に気づいて、声をかけた。


「ねーちゃん、どうした?顔色が真っ青だぜ?」

「え?あ…ああ、いいえ、何でも無いわ…」

「って言うか、ねーちゃんはまだ本調子じゃねーんだからさ。

 まだ寝てた方が良かったんじゃねーのかな」


心配そうな竜司を見て、明日香は笑いながら手を振って否定した。

「もう、大丈夫よこのくらい。

 竜司も気にし過ぎよ、平気平気」


とは言え、明日香の心中は、先ほど見た戦闘のお陰なのか不安で満たされていた。




(昨日見た夢…まるで今見た映像そのままだった…

 つまり私が見た夢は予知夢だと言うのかしら?

 …つまり、この前に見た、月面基地をバイオメカノイドが襲来する夢も

 まさか今後現実に起こるなんて…まさか)




『須佐ノ男』号達の勝利によって賑やかになった司令センターの中で

 明日香は一人不安に押しつぶされそうになっていた。

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。


次回投稿は、来週日曜日の夕方〜夜頃となります。


※6/15 文章を一部改修しました。

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