7-3 亜宇宙戦闘開始
『計画司令部、こちら『ヒューコン=伍』号。
未確認飛行物体接近中!!
恐らく地球人の戦闘機だと思われる』
キロネからの一報に、計画司令部内が色めき立った。
『『ヒューコン=伍』号、計画司令部。
こちらでも確認した』
計画司令部のレーダーでも、キロネ機に急接近する3機の光点が表示される。
『どーしてバレたんかな?こちとら一応全面電磁輻射迷彩を施してたんだけどな』
『ああ、恐らく連中は”ミューオンレーダー”を実用化でもしたんだろう』
ミューオン、即ち物質に対して透過力の強いミュー粒子によるレーダーであれば
可視光から紫外線や赤外線、X線やγ線などのあらゆる電磁輻射へのステルス機能を有していても、高確率で居場所を探知されてしまうだろう。
『どうする?』
『まあしばらく様子を見て…』
オクウミが言ってるそばから、敵戦闘機がいきなりミサイルらしき複数の飛翔体を『ヒューコン=伍』号へと向けて発射してきた。
『正体不明機が飛翔体を発射!明らかにミサイルだ!
迎撃開始!!』
宇宙船から迎撃ビームが照射され、たちまちミサイル群が全て撃破された。
しかし、再び正体不明機が攻撃を仕掛けて来た。
今度は急接近するミサイル群の陰からレーザーらしきビームも照射してくる。
『正体不明機を敵戦闘機と断定する。撃ち落として良いか!?』
操舵によってビームを回避しながらキロネが叫んだ。
キロネの要請に、オクウミが即答する。
『適宜対処せよ。全兵装使用自由』
『計画司令部、『ヒューコン=伍』号。
了解!!』
キロネは、『ヒューコン=伍』号の兵装ユニットを起動させた。
「よーしよしよし。そっちがやる気ならこちらも思い切りやれるってもんだ。
まずは…こうだ!!」
ビームを回避する為、敵機に対して逃げる格好だった『ヒューコン=伍』号が急カーブを描いて反転し、瞬く間に3機の後背に付いた。
『ヒューコン=伍』号が完全な重力/慣性制御を実現している為に可能な技術だ。
それに対して、敵機は原始的な重力制御装置と旧来の化学ロケットによるスラスターを併用している為に動きがキロネ機より鈍重で反応が遅い。
「遅い!!いただき!!」
敵機が回避運動をし始めるが遅く、3機ともキロネ機のビームによって瞬く間に爆発した。
しかし宇宙空間に散乱する戦闘機から、破片に紛れてカプセルらしきものが一つずつ放出され、そのまま大気圏内に突入していく。
「はん、まあそうだろうと思ってたけど用意周到な連中だ。
脱出カプセルまで備えてるなんてな」
『おいキロネ、深追いするなよ』
『分かってらぁ、無駄な殺生はするな、だろ?』
『なら良い』
オクウミから散々言われていた事ではあるが、キロネはややうんざりした顔で応えた。
ピィピィピィ、と再び船内警報が鳴り響く。
キロネがレーダーコンソールを確認すると、今度は5機が正面から、更に4機が後背から接近しつつあった。
「ほーぅ、向こうさんも本格的にやり合おうって算段かぁ?
それじゃ、とことんお付き合いしてやろーじゃーないの!!」
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「アスガルド、ソー01。『スクレーリング』を肉眼で捕捉した」
「了解、ソー01。既にウォリアーズスリー小隊は全機撃墜された模様」
「何だって?アスガルド、それは本当か?」
「ほぼ間違いない。KH-11-77Eでも確認した」
「何てこった。1番機はあの”ホーガン”アサノ中尉だったはずだろ?」
「駄目だったよ、ソー01。とにかく慎重にかかれ」
「了解、アスガルド。”ミョルニル”の使用許可を求む」
「承認された、ソー01。あとはロキ小隊と連携してやってくれ」
「了解、アスガルド。交信終了」
亜宇宙戦闘機『F-123 ”プライムストライカー”』は、最近になってエリア51付近で配備が開始されていた米軍の極秘最新鋭戦闘機『F-37』よりは、まだ戦闘機らしい外見をしていた。
『F-37』が文字通り、異星人”グレイ”から供給された技術を節操もなく丸々パクったかのような、如何にもUFOらしい外見であったのとは異なり
F-120番台系列は一部に異星人の技術が導入されているものの地球製宇宙戦闘機としての矜持を持った機種と言えた。
だが、母艦である亜宇宙空母ケン=マッティングリーから発進した合計10機のF-123は、初歩的とは言えど画期的な重力制御エンジンとレーザーバーニアのシステム連携を、プログラミングと訓練で芸術的な域にまで高めている。
それにより変幻自在な機動を取る事によって彼らが『スクレーリング』と呼ぶ未確認飛行物体を速やかに取り囲む事に成功した。
「アスガルド、ソー01。フォーメーションD第一段階クリア。
これよりヒット&アウェイ攻撃を行う」
ソー01が率いるソー小隊は5機による波状攻撃フォームを組み
“ニョルミル”と呼ぶ自動追尾式ミサイルを次々に発射した。
「おおっと、そうは問屋が卸さねえぜ!って!!」
対するキロネも、もとより米軍のものより遥かに高度な重力慣性制御エンジンを巧みに操り、その超高機動によって、ミサイルを次々に躱していく。
すると、至近まで襲来したミサイルが突如爆破した。
「なにっ!?」
爆発の瞬間、その爆心から何か雷のような火花が大量に放出され『ヒューコン=伍』号が一瞬だけブラックアウトする。
「これは…電磁爆弾か!!」
キロネが推測した通り、”ニョルミル”は爆発の瞬間に強力なEMPを発生させているようだ。
同様に、ミサイルが次々に爆発していく毎にEMPも発生していく。
『ヒューコン=伍』号と言えども、EMPの影響を完全に排除する事は出来ない。
そして、ブラックアウトの瞬間を狙うように敵機からの荷電粒子ビームによる波状攻撃がキロネ機を襲った。
「くっ、なかなかやるな!!」
しかし、それでも『ヒューコン=伍』号に搭載された戦闘用AIによる学習とキロネ自身の操舵スキルによってEMPと荷電粒子ビームの雨を掻い潜った。
「よーし」
キロネはEMPの効果を減じさせるため、まずEMP防御用チャフを近辺の空間に大量に散布した。
チャフ雲はたちまち数キロ立方に渡ってばら撒かれ、さらにチャフを構成するナノ粒子が光学欺瞞効果を発揮し『ヒューコン=伍』号自身をも敵機から見えにくくさせた。
そこから敵機の死角を狙ってビームを的確に照射する。
「まずは一機!!」
ビームの照射を被った敵機は、たちまち化学ロケットモーターの機構から火を吹き炸裂した。
その天空の火花から、真下に向かってカプセルが放出されていく。
同じように、キロネは巧みに敵機の視界を遮ったり死角に入りながら、一機また一機と敵機を屠っていく。
「よっし!これで最後…だ!!」
キロネ機は、最後の一機から反撃を受けつつも、まるで往年の零戦のような華麗な左ひねり込みを披露して敵機の背後を取り、そこからビームを狙い撃ちした。
「ぐわぁああ!!あ、アスガルド…!!我操舵不能、脱出する!!」
ソー01は最後まで奮戦していたが、キロネ機から背後を撃たれて主エンジンを破壊された事により、自身のコクピットを内包する脱出カプセルを機外に放出し、爆発寸前のところで命からがら脱出した。
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
「ソー01、応答せよ!ソー01!!」
必死にソー01へのコールを続けていた”アスガルド”こと亜宇宙空母ケン=マッティングリーの艦橋では、バーゼル艦長が苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「なんて事だ…たった一機の正体不明機にここまでしてやられるとは」
「どうやら、我々は敵の実力を見誤っていたようだな」
「ああ、そのようだな」
「しかも、ロシアと中国が気づいたようだ」
バーゼル艦長は、合衆国戦略宇宙軍第6艦隊任務群の旗艦である亜宇宙戦艦デカルトハイランドと通信を繋ぎ、旧友でもある任務群司令官のキンブリー中将と艦隊内電話を掛けながら、三次元レーダーを注視した。
「NORADのレイノルズ司令官とも話したが、中露の宇宙軍の動きも活発化している。
ロシアは至近宙域にいた宇宙要塞”ボルゴグラード”の軌道変更を行った。
中国も、軍事宇宙ステーションを急行させているようだ。確か”紫微宮一号”とか言ったな」
中露とも、漁夫の利を占めようとしているのは明らかだった。
一応は各国とも、”機関”のホットラインを用いて宇宙活動の概要を事前に周囲の宇宙機に伝達・共有すべしとの協定は結ばれていたが、正直きちんと守っているかは大変疑わしかった。
もっとも、その点についてはアメリカ宇宙軍も同様であるが。
「とにかく、このままでは連中にアンノウンを確保されてしまうかも知れん」
「どうだろうか?我々の最新鋭宇宙戦闘機でも歯が立たなかったのだぞ」
「いや、そうとも限らんだろう。
両方の宇宙要塞とも、例のアレを配備しているはずだ」
「アレか、先日の一件では使い物にならなかったのではなかったか?」
「いや。その後の分析で、多少なりともアンノウンにも効果がある事が分かってきたからな。
もちろん中露にもその情報は漏れ伝わっているはずだろう」
地球上の全国家の上に密かに君臨する“機関”ではあるが、それを構成する米露中を始めとする各国家は当然の事ながら一枚岩とは言い難く、それぞれ国家間の利害が絡み、常に壮絶な綱引きの真っ最中である。
従って”機関”のシステムを利用して、ライバル関係にある国家の情報を盗み出す事など日常茶飯事だ。
また各国の宇宙軍は共同戦線を張る事はあってもお互いに真の信頼関係にあるわけでもなく
他国に知られずに新兵器を開発・配備する事もごく当然の事として行われている。
「まあ我々とて、虎の子の戦闘機隊を殲滅させられたまま指をくわえて見ているわけにもいかん」
「じゃあどうする。やはり我々も直接動くか」
「仕方ないだろうな。貴殿の言う通り、我々も現場に直接赴くべきだろう。
中露に先を越されては溜まらないからな」
バーゼル艦長は、艦隊機動についてキンブリー中将と簡単なブリーフィングを済ませた後、
ケン=マッティングリー艦内へ指令を発した。
「直ちに現場宙域へと急行する!全艦載機出撃準備せよ、前進一杯!!」
ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー
『おい…今度は何だ?
だいたい50km程の高軌道から変ちくりんなイカダみたいなのが急接近してきてやがる』
キロネは敵機を排除した後、再び同軌道において
先程「キノエネ」「キノエイヌ」支作戦で日本本土各地に投入したドローン群をモニターしつつ、その効果状況を観測していたのだが
三度目のレーダー探知による船内警報にいささかウンザリしながら探知画面を見やった。
『『ヒューコン=伍』号、計画司令部。
こちらでもレーダーで捉えた。
恐らく、ロシア宇宙軍の保有する宇宙要塞という奴だろう』
『へっ、あんな剥き出しの骨組みと土管の塊のどこが宇宙要塞だって?』
『キロネ、侮っていると痛い目に合うぞ』
オクウミが口の端に笑みを浮かべながらからかった。
『はー!原始文明の丸木舟程度のもんにこのオレがやられるわけねーって』
「…フラグね」
「フラグだな」
「これまた見事なフラグを」
「立てちゃった」
案の定オクウミの警告通り、その宇宙要塞が何かをキロネ機に向かって放出し始めた。
『何じゃありゃ?』
『ああ、やっぱりだな。
『ヒューコン=伍』号、気をつけろ!アレは…!』
オクウミが言い終えないうちに、大量に放出された何かがもの凄い勢いでキロネ機に向かってきた。
まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のようにも思える。
『オイオイオイオイ、何だコイツら!?』
急接近する物体群を見て、キロネが若干パニックになりかける。
「オイオイオイオイ、死ぬわキロネ」
「冗談言ってる場合じゃないのだけれど」
キロネ機からの映像をクローズアップすると、その物体の詳細が見えてきた。
一見すると灰色の卵のような感じだが、その表面をみると気持ち悪い有機的な機械の模様でびっしりと覆われている。
しかも、時々ウネウネと触手のようなものを出したり引っ込めたりしているのだ。
「あ…あああっ、アレは…!!」
絶句したのは明日香だった。
彼女は、それを至近距離で見た事がある、というか直接襲われた経験があった。
「”バイオメカノイド”!!」
そう、かつて地下の秘密都市で明日香に襲いかかり
またエリア51上空で『須佐ノ男』号やその眷属の巨大ロボット達を侵食しようとしたのも、このバイオメカノイドである。
恐らく、ロシアはこのバイオメカノイドを卵型にパッキングして常時保管でき、いつでも射出可能なように仕立てているのだろう。
「アメリカだけかと思っていたが…ロシアも兵器として実用化していたか」
オクウミは形の良い眉を少し顰めた。
「しゃーねーな!!とりあえずこれはどうだ!!」
と、キロネは自機の周囲に先程のEMP防御用チャフを再び散布した。
バイオメカノイドも、基本的には電磁気で周囲を探知しているだろうから一定の効果はあるだろう。
しかし、それは同時に真上から包囲されつつあるキロネ機にとっては行動の自由を断つ諸刃の剣でもある。
しかも、バイオメカノイド群が放出元である宇宙要塞の軌道傾斜角:43.5度の方向から衛星軌道速度である秒速7.9kmで包囲しつつあるため
日本上空にて固定座標を維持していたキロネ機も、それに対し抵抗を少なくして避けようとすると固定座標を維持できず、どうしても同じ軌道傾斜角で軌道速度を出さざるを得なくなった。
『ちいぃっ!!コイツらのお陰で固定座標を離脱せざるを得ねぇ!
腹立つったらありゃしねぇ!!』
『『ヒューコン=伍』号、計画司令部。
作戦は一時中止だ。直ちに帰還せよ』
『分かってらい!!
計画司令部、『ヒューコン=伍』号!43.5度でアリューシャン方向にて軌道離脱する!!』
キロネ機は軌道を下方向に変更し、宣言通りアリューシャン列島上空を経由して大気圏突入を行おうとした矢先、
『おい、何だ何だ!?また別のイカダ野郎が下から来やがったぞ!?』
キロネ機のセンサーが捉えたクローズアップ画像には、ロシア宇宙軍の宇宙要塞に似たような機械部品の雑多な塊みたいに見える物体が
やはりロシア宇宙要塞の軌道傾斜角と軌道速度に合わせてキロネ機に急接近しつつあるのが映し出された。
『あれは…ほう、興味深いな。
『ヒューコン=伍』号、計画司令部。
下方からやって来ているのは中国人民解放軍航天部隊の軍事宇宙ステーションだ』
オクウミは副官のイゴルが調査した情報をキロネに伝えた。
ちなみにイゴルは地球において既に複数の情報ネットワークを開拓し、これにより地球上にある軍事機密を含む全情報を容易に検索する事ができる。
とは言っても、ラライ5-7-2のバックアップがあってこそ可能ではあるが。
『あっ、コイツも何か放出しやがった』
キロネが慌てるというより呆れたような口調で伝えた。
『もしかしなくても、あれも例のアレだろう』
『マジかー』
当然のように、中国軍もバイオメカノイドを兵器化して宇宙要塞に配備していたようだ。
やはり数十数百個もの卵が宇宙空間にばら撒かれる。
あっという間に、キロネ機は両軍からのバイオメカノイド兵器の群れに
すっぽりと上下左右取り囲まれてしまった。
『なぁるほど、上からはロシア、下からは中国ね。
これがいわゆる「前門の虎に後門の狼」って奴だな』
『ほほぅ、随分と余裕だな。キロネ』
『…ふぅええぇ…余裕ねーよー!!抜け出すの手伝ってくれよぉ~!!』
『ほほぅ、助けて欲しいですかぁ~?』
次回投稿は来週土曜の夕方〜夜頃となります。
※6/1 追記
次回投稿は明日日曜の夕方〜夜頃になります。
申し訳ありません。




