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6-1 とある並行世界の港にて

そこは、まさに夢の国だった。




何しろ世界各国の首脳や要人達が、東京湾上の巨大な人工島上に建設された巨大な宇宙港兼迎賓施設スペースポートに一堂に集まり、同じく遠い遠い宇宙の彼方からやってきた要人達を出迎え、にこやかに握手しているのだ。


いわゆる地球人類にとってこれが初めての、異星文明との公式な友好通交条約の調印式である。




人類のどれだけ多くが、このような夢の瞬間を待ち望んでいた事だろうか。

古くから数多くのSF小説や映画でこれに似た状況が描写されて来たが、TVやネット上で全世界に中継されるこの光景は、紛れもなく本物だ。


ネット上の実況サイトではあっという間に数千万もの興奮したようなコメントが寄せられてパンク状態になっている。

もちろん、生で見ようという人々が世界各国から殺到し、人工島内外に設置されたライブビューイング会場はもとより、人工島を囲む東京湾へは大小様々な観光船や豪華客船が、それこそ水面が見えなくなる程無数に集結していた。




人工島に建設された広大な宇宙港には、異星から来た巨大で壮麗なデザインの宇宙船が着陸していた。

また、異星船と競うように優美にデザインされた白亜の宇宙港施設が異星船を取り囲み、異星船との相乗効果で、まるでドレスを纏った美女がそこに横たわっているかのような錯覚さえ覚える。


これらの施設は、去年の終わりから突貫工事で建造されたはずなのであるが、

さすが日本の建設産業と言うべきか、仮設であると言う事を来場者に微塵も感じさせないような、頑丈で高品質な出来栄えとなっている。


そればかりではなく、会場のそこかしこに配置されたAI管理によるアテンダントロボットやドローン達、

また最新のVRやAR・裸眼3D表示技術を駆使した案内システムが地球人の来場者を圧倒させていた。

更には、それらの動力源が超高効率の量子太陽電池や人工光合成プラントや常温核融合発電などから来ている事実は、日本が世界で最も進んだエネルギー・環境技術を有している事を如実に示していた。


しかし、それでも各国の来場者のうち何%かの人々は、こうした事に疑念の目を向けていたり、

口さがない人であれば、あからさまに日本が優位である事に妬み嫉みの言葉をヒソヒソと話したりもしている。


なぜなら、今回やって来たその異星人達は、自称「平行世界からやって来た未来の日本人」という事だからである。


彼らは、自らを”日系人類銀河帝国”と呼称していた。




去年・202X年において地球近傍の宇宙空間で発生した戦争、

”日系人類銀河帝国”側の呼称では「17=5-47-664-33-8.69-4世界第三次地球近傍戦役」(長いので地球側では略して第三次地球近傍戦争と呼んでいる)

において、彼ら”日系人類銀河帝国”がその戦いの一方の当事者として、もう一方側の”グレイ”や”レプティリアン”と呼ばれる、地球侵略を企図した異星人が結集する惑星枢軸軍を撃破した。


ちなみに、第一次地球近傍戦争は1989年に、第二次地球近傍戦争は2002年にそれぞれ勃発していたが、この時は地球人達の殆どに対してリアルタイムで知らされる事は無かった。

ただ2002年の戦争は一部の地球人天文学者によって「海王星軌道アノマリー」として認知されていた。


そして、地球日本でも当然その戦いに航宙自衛隊の派遣や後方支援など、様々な貢献を行っていたので、

直接参戦していない世界各国が何か言えた義理ではないはずなのだ。


しかし彼らからすれば、地球日本は古来から”日系人類銀河帝国”から秘密裡に特別な便宜を計らってもらって自国を発展させて来た、いわば卑怯な国という認識なのだろう。




そういう人達に出くわした場合、”日系人類銀河帝国”の人々は大抵こう言うのだ。


「なぜ貴方達の所にも、我々のように高度な文明を持った貴方達の子孫達がやって来ないのでしょうね?

 この時空には並行世界なんて無数にあるのに。つまりはそう言う事ですよ」と。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー 




「フゥ、ようやく主だった式典は終わりか」




控え室にて、設えられた壮麗な刺繍の入ったソファに体を沈み込ませた少女が呟いた。


「まだですよ、殿下。これから地球日本の天皇陛下、それに各国要人との晩餐会がございます」

従者らしき燕尾服を着た初老風の男が彼女に告げた。


「マジかぁ…いい加減もう疲れたぞぉ」

殿下と呼ばれた少女が、顔をソファに埋めてグリグリと顔をこすった。


「って言うか、会食なんぞ昨日の軌道上での懇談会でもう散々やったじゃろぉ…

 もう見た目が豪華なだけの味のしない料理ももう飽きたわ」

「殿下!!しっかりして下さいませ」


「はぁ…爺や、その後の予定は何じゃったかの?」

「えーとですな、明日は午前中に世界各国の首脳要人と個別に会談を行い、午後には国連総会に出席して演説と会議。

 明後日には日本各地の最先端産業施設と環境プラントの視察、さらには各産業界トップとの懇談会、

 そしてその次の日は…」

「あ~~、分かった!分かったからもー良いわ!」


ショートヘアというよりおかっぱ頭風の、輝くような銀髪を手で少し掻きむしった少女は、

ちょっと見た感じだと16、7歳くらいの、海外のフリースクールにでも通ってそうな女子高生のようにしか見えない。

ただ、その銀色の瞳は時折ルビーのように紅く輝き、その目の裡にある深い知性を窺わせるには十分だった。

しかし今は、その頭の中にはどうでもいい事が占拠しているようだ。


「う~、せっかくこの世界線へ来たというのにのぅ…爺やの目をどうにか盗んでここを脱出出来ればなぁ、そうすればゆっくり都内の店を巡って色々と食べ歩きが出来るというものじゃが…」

「聞こえておりますぞ。昴之宮殿下」

「うぅぐ」


「もう少し、銀河帝国皇族としての自覚をお持ち頂きとうございます。

 殿下も、もう兵役も済ませた立派な青年皇族であらせられるのですからして」

「たかが兵役程度で、人は簡単に変わらぬわい」

「もしくは、その兵役でどなたかの悪影響を被っておられるのやも」

「…爺や、それ以上申すと許さぬぞ」

どなたか、と言うとその従者が指しているのは一人しか居ない。


「シアラは悪い奴ではない、余の大切な友人じゃ。

 もう何べんも口を酸っぱくして言っておろうが」

「そのお口から、やはりお二方による様々な武勇伝もお伺い賜りしものですから」

「うぐ」


「はぁ、やれやれじゃの…

 もう良い、余は大人しくしておるから、時間が来るまで下がってくれるかの、爺や」

「…畏まりました、殿下。

 それでは、また後ほど」


爺やと呼ぶ従者をようやく下がらせたこの少女は、確かに”日系人類銀河帝国”現皇帝の第四皇女であるのだが、その人目に付かない所での、だらけた態度によって従者達にいつも呆れられてしまっている。


しかし、しばらくソファに埋もれていた上体をおもむろに起こすと、

さっきまでとは別人のような真面目な表情で先ほどの従者とは異なる人物を控え室に呼んだ。




「オプレシス、どうじゃ。何かわかったか」

「はい、殿下。

 これが報告書にございますが…」

と、オプレシスと呼んだ若い男の手元から、彼女の掌の上にデータを転送させた。


3D表示させた書類をペラペラとめくった彼女は、一通り目を通すと、はぁっと深いため息をした。

「うぅむ…まあ予想はしていたが、この世界線でもやはり存在しなかったかの…」


「はい。実際、去年末より人員を増やして大々的に調査は行ってまいりました。

 また日本国内だけでなく、海外にまで足を伸ばし、その筋のコミュニティを綿密に調べたのですが、少なくともこの世界線に於ける地球上のどこにも、殿下のお求めになるものはついぞ発見できませんでした」

「何かこう、ちょっとした手がかりすらも無かったのだろうか?」

「それにつきましてもまだ何とも…それに関わりそうな人物の家系ですら、まだ発見できません」

「そうか…残念じゃの」


「恐らくは、やはり分岐点の問題かと思われますが」

「その分岐点は、どこら辺あたりと考える?」

「やはり終戦前後あたりかと」


「確かにな。この世界線は8月16日に終戦を迎えておる。

 たった1日違いなのじゃが、やはりその差はとてつもなく大きいのじゃろう」

「1日でも、戦争ともなれば人の生死に大きく影響を与えましょう。

 現在、その1日の間に死亡した人物や家系の洗い出しを行っております」

「うむ。ここでは残念ながら見つからなかったが、

 他の世界線での調査においては重要な鍵となり得るじゃろうからな。

 引き続き、調査を頼んだぞ」


「はっ、昴之宮公アルウィオネ殿下。御心のままに」




オプレシスを下がらせたアルウィオネは、控え室の窓から見える

夕暮れに彩られた東京メガロポリスの街並みをぼうっと眺めた。


100階建もあるような玻璃色の耐震型超高層ビルが、湾岸まで溢れんばかりに無数に立ち並ぶその光景は、夕闇に沈みかけながらも煌々とビル内外の灯りで輝き始めている。

また、少し横を見れば1001mという高さで数年前の大震災でもビクともしなかったと言う東京スカイツリーや、それに競うように別の人工島にて建造中の100万人収容可能な立体多層環境建築アーコロジー・500Mキューブシティー群が軒を連ねていた。

その建築群の間を、電磁推進リニアモーターモノレールや高速道路上の自動運転車が、ランプを照らしながら次々と走り抜けている。

港には、絢爛たる電飾を施した豪華客船が何隻も停泊しているし、空を見れば同じように電飾を巨体に纏わせた遊覧飛行船や輸送用飛行船が何隻も遊弋していた。ヘリやドローン等も多く飛び交っているようだ。


しかし、彼女にとっては

その街並の裡に、例のものが存在しないのであれば

どんなにその輝きを増したとて、一文の値打ちにもならないのだった。


「…はぁ。

 折角、この世界線も救ったと言うのに…結局また無駄じゃったか。

 まぁここは、シアラと一緒に駐在した思い出のある所じゃからな。もしほっぽり出しておれば、多分シアラも残念に思うことじゃろうからの、これで良かったと思いたいわい」


そう独りごちてから彼女は、再び手元の3D表示された書類に目を落とす。

「そういえばシアラは、時空探査局で他の未確認世界線を探査中だったはずじゃの。悪運の強いあいつの事じゃて、もしかしたら今頃は当たりを引いているかも知れんな。

 そうだったらどんなに面白いかの」


それからゆっくりとソファから立ち上がって、その小さめの背をうんと大きく伸ばした。




「さて、余ももう一働きしようかの。

 そしてそれが終わったら、シアラの職場を覗きにでも参ってやろうか」




※文中の表現


1)”●●”と表記している名詞・単語について(慣用句や言い回し表現以外)

  は、その語彙を用いる種族・民族集団が多様で

  それぞれ異なる発音・表現を行う為、暫定的な表記法として使用しています


2)『●●』と表記している名詞・単語について(会話文での括弧表現以外)

  は、その語彙を使用する種族が決まっており

  発音・表現が統一されている為、確定的な表記法として使用しています

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