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5-3 日系人類銀河帝国

「さて、ここからは我々自身の現代社会について説明しよう」




ホログラムの場面が切り替わると、そこにはある惑星上にある壮麗な宮殿のような建築物が映し出された。

「これは、我々…すなわち、”宇宙日系人類文明体”の本拠の一つである、”日系人類銀河帝国”の皇宮だ」


「つまり…皇居とかバッキンガム宮殿みたいなものね。

 先ほどオクウミさんが言っていた、”銀河帝国”の皇帝が住んでいる所と理解して良いのかしら?」

「その通りだ、神崎君。

 ここはアンクヴォール星系第四惑星イザミアを皇宮の領地としていて、今見えるのが中央本殿だ。

 そしてここに住まう彼らはもちろん、初代皇帝の血族ないし知識伝達子…叡智を受け継ぐ者たちだ。もしその叡智が受け継がれていない者が居たとしたら、国民審判によって追放されてしまうだろう。しかし叡智を受け継いでいる人物であれば、たとえ遺伝子上の繋がりがなくとも受け入れられる。

 幸いにして、追放された人物は建立以来殆ど居ないが、住まう許可を得た者なら数多く居る。そうした人物達は高貴さによる義務を負い、世界各地を飛び回る生活をしているが故にここに住む事は殆どない。

 まあ結果として、ここは単に会議をしたり教育を施したりするための公共施設のようなものになっているのだ」

よく見ると、建物の周囲にある美しい庭園には無数の人々が自由に遊んだりしていて、その殆どが子供のようだ。


「また、この惑星を周回する第一衛星イザギアに、”日系人類銀河帝国”の中央統政府もある」

皇宮が広がる光景の空に、ひときわ大きく見える星がそうだろうと思われた。

一見すると地球の月のようだが、よく見るとその表面の半分以上が都市か機械で覆われているようだ。




ホログラムが、また銀河系全体の映像に戻った。

銀河系の中に細かい線や囲いがあると言う事は、各社会の勢力図なのだろう。


「我々は先ほども話した通り、別の世界線における地球からタイムスリップした14万人余の日本人を先祖とし、現在ではその遺伝子と知識伝達子を受け継ぐ日系人による連合…すなわち”宇宙日系人類文明体”を結成している。

 これを見る通り、現在の”宇宙日系人類文明体”は銀河系、つまり”星間種族連合”における実体宇宙世界と人工次元世界ののおよそ4分の1を占める領域を実効管理下に置いている。

 全人口は約8360兆人、実体宇宙世界では約250億の星系を改造し、居住地としている」


オクウミがここで、ちょっと咳払いをした。

「”日系人類銀河帝国”は、古代の日本人ベースに人工進化させた有機系統の人類を主構成員としている。その総数はおおよそ1745兆人で、先ほど話した通り皇帝を頂点とする立憲君主制民主社会を構築している。

 しかし実を言うと、”宇宙日系人類文明体”には、他にも非有機系統ヒューマノイドの人類も存在する。そして彼らは…”日系人類銀河帝国”とは別の政体に所属しているのだ。

 まあ、もちろんその先祖は日本人であり、”宇宙日系人類文明体”に加盟しているのだが」

ここで、なぜかオクウミが妙に言いにくそうにしているのが竜司には気になった。


「その非有機系統の人類と言うのは、まあ基本的には従来の生物学的肉体を持たず、機械や人工生体に意識を転移させている連中の事で、我々から見ても非常に先進的で革新的な技術文明を構築している。また、有機人体に依存していないお陰でとても長寿命だ。1万年以上を生きる者もザラに居る。対して我々有機系統の人類は、長く生きてせいぜい数千年なのだが」

「数千年生きてるだけでもう凄いんだけどな」

「でだ、彼らは”実体星間監察事業団”や”青紫-琥珀同盟”、”六一七協約体”、”宙生態環族”といった幾つもの有力な子政体を構成していて、それぞれ相当な勢力と影響力を持っているのだ。特に彼らは、文明体の主構成成分として”星間種族連合”内外の交易外渉や連合諸組織の管理運営を行っている。

 それらがひしめく”宇宙日系人類文明体”にあっては、”日系人類銀河帝国”と言えども数ある子政体のうちの一つでしかない」


ホログラムが、奇妙な宇宙人のような姿を捉えた映像に切り替わる。

「うひゃっ…!」

山科が思わず小さな悲鳴をあげた。東雲もウムゥと唸って顔をしかめる程だ。

何しろその姿や形は、とてもじゃないが人間には見えない。

SF映画に出てくる典型的な宇宙生物のような、または不気味な怪物や魔族、ロボットや機械の塊に見えるものなど、とにかく様々で奇怪な形態をしている。

「彼らがそうだ。まあこれは極端な例で、我々とは見た目が全く異なるように見えるだろうが…これでも我々と同系統なのだ。ただ、価値観や嗜好性などが我々とはかなりかけ離れていて、まあそう言う意味でも先進的とは言えるだろう。

 各氏族は大半が擬人形態なのだが、中にはこうした日本人どころか人間離れした身体的特徴や機能を持っている。性ですら、自由自在に転換出来るどころか全く新しい性別を作って流行させたりしているくらいだ」


「こうなると、もはや人類と言えないような気も…」

神崎が嫌悪感を露にして呟いた。

「まあそう言うな、それでも基本的なメンタリティは先祖たる日本人と同じなのだからな。

 それに、我々の所属する”日系人類銀河帝国”の構成氏族も、実のところ多様化しているのだ」




コンコン、と外からドアをノックするような音がふいに聞こえてきた。


「おいおい!いー加減にそろそろオレ達にも挨拶させてくれ!こちとらいい加減待ちくたびれてんだ!!」

「ああ、そうだった。忘れてたな」

「何ぃー!!オクウミこらテメェ後でnムググ!!!」

「ふふっ、仕方ないな。じゃあもう入って良いぞ」


ドアの向こう側から、誰かが話しかけてくる。妙にアナログな会話だな、と竜司が少し可笑しく思えたところ


「こんにちは、諸君!!」


いきなり部屋の真ん中に3人の人影が出現した。

「うわっっ!!」「ひぇっ!?」急に目の前に出てきたものだから、4人とも吃驚してしまった。


「はぁ…お前ら、いきなり客人達を驚かすなよ」

オクウミが呆れて言った。

どうやら、竜司達の事を待っていたらしい。


「ま、じゃあ紹介しよう。

 この3人は全員が時空探査局第17=5-47-664-78=211区担当士官で、私の同僚だ」




「いやはや、これは失礼、お嬢様方」


綺麗なソプラノボイスで最初に話しかけてきた人物は、まるで映画やアニメに出てくる妖精だとかエルフみたいな姿だ。着ている服もオクウミのスーツに近しい素材だが、より緩やかで優美に見える。

しかし、ずいずいと前に出てきては竜司達にやたらと顔を近づけてくるのだ。


「うぉお!!貴女様は、もしやエルフなのですか?なのですね!」東雲は相変わらず興奮している。

東雲は竜司とは若干嗜好が異なり、どちらかというと年増系のアニメキャラが好きだからだろうか。

「えっ!?こちらの方は…?」神崎は押しの強いエルフ顔の人物に、若干引き気味になって問いかけた。


「おおっと!ご紹介が遅れました。

 私はルシール・サーミアと申します。ルシールが姓、サーミアが名なのでしてサーミアとお呼び下さい。

 主業務として科学技術のいわゆるコンサルティング、伝達指導を担当しております」

「は、はぁ」

「ああ、彼女は”日系人類銀河帝国”の主構成成分である、”アラヤシマノクニ”の氏族でな」オクウミが補足する。

「アラヤ…新八洲国?」神崎が脳内で漢字に変換を試みてみた。


「はい、”アラヤシマノクニ”とは、”日系人類銀河帝国”を主導する立場にある孫政体であります。

 そこに所属する氏族は、おおよそ私の様な姿をしておりましてですね、これこの通り、多様な肌色・髪色・瞳色を持ち、時空量子場と広域電磁波長を捉える為の先鋭耳朶と感覚子を皆が備えています。私達は帝国系の中でも最も宇宙空間に適応していて、宇宙船や機械装置を最も上手く管理できる氏族でもあります。それゆえに数千の共生組織体による連邦体制を敷き、星間文明基盤管理を主に行っており、管理の内訳は主に宇宙空間における星間人工生態系運用や天体改造、人工次元空間などの制御などをしておりまして、ちなみに私の出身はシラユロセレムノン星州共生体ソレノヤ府サラサフバハリr」

「はいわかったわかった、自己紹介はその辺にしておけ」

何だかやたらとよく喋る。ファンタジー世界のエルフとはちょっとキャラクターが違うようだ。


「実はこの『ディアマ=スィナ』号のシステム管理も、彼女にやってもらっているんだ」

「はい、実際この『ディアマ=スィナ』号の量子機関は私が携わるまでは如何にも大量生産然としていて無骨なものだったのですが、私の手によって何とも芸術的で美麗な機構に生まれ変わる事が出来ました!

 その為にはまず、主機構である量子縮退炉の部品を一つ一つ半有機系アセトロバイトロン鋼及びカームネノンで織り上げた人工筋肉ファタルケーシタルマイクスで強化しナノブラックホールの重力レンズを新方式のタヴァークテア装置で自動焦点型に切り替え、更には人工知能システム配列をコドゥーデク事業体謹製の粘菌生体マニホールド198-99番によって自由6次元組み替え方式に置き換えた事で感覚質情報処理効率が以前より125.22%も向上出来まs」

「あーもー分かったもう良いから!!」

オクウミが止めなかったら、サーミアはいつまでも喋っていた事だろう。


しかしその内容は竜司達にはやっぱり全く分からないが、とにかく先程の人間離れした連中に比べたら、少なくともこのサーミアは遥かにまともに見える。




「よし!オレの番だ!」

と言って進み出たのが、猫か狐のような耳を持ったおかっぱ頭の童女だった。


「オレはカロン・キロネ。”トヨアシハラクニ”は第七帝都カイフムニの出だ。キロネと呼んでもらっていい。

 オレの仕事は主に天体上の環境工作及び調整が中心だ。体術も得意だけどな!」

キロネと名乗った女の子は、明らかに和風の着物を身に纏っていて、まるで日本の童話に出てきそうな半妖だとか、狐か猫が人間に化け損ねた様な姿をしている。

空手っぽい構えを見せているが正直言って力強さのカケラもない。


「うっひょ~!!もしかしてそれって猫耳!?狐耳ぃ!?和風コスGJ!」

今度は東雲だけでなく山科も興奮している。

というか竜司もまるでアニメに出てきそうなその可愛らしい姿に目を奪われた。竜司的にもなかなかにストライクゾーンど真ん中な見た目である。


「うぇっ!?何じゃコイツら。

 オレの事を変な目で見やがるんだが…」

「あっ、た、大変申し訳ありません…ほらっ止めなさい!!」

なぜか神崎が、竜司達の代わりにキロネに謝った。

「俺はまだマシだろ、言うならあの二人を叱れ」

神崎に頭を押さえつけられた竜司は自分の事を棚に上げつつ文句を言う。


「あ~、オホン。オレはまぁ”トヨアシハラクニ”の中でも屈指の名家、カロン=カラム分氏族に属している。見ての通り、この猟狐耳と尻尾、それに肌の狐火紋が御印だ」

気を取り直したキロネは、自分の頬や腕にある刺青のような紋章を指差した。


「補足すると、彼女のような”トヨアシハラクニ”の人間は見た通り、自身の身体に各分氏族ごとに独自の氏族紋章を示す動植鉱物等の意匠を付加している」

オクウミは、ホログラムに他の分氏族を一覧で列挙表示させた。

確かに、狐っぽい人達以外にも兎や狼や熊や虎、鳥や魚などのような動物と人間を掛け合わせたような人々がいる。鬼とか天狗とか龍みたいな妖怪じみた姿の分氏族も存在するようだ。ファンタジー世界では亜人だとかデミヒューマンとかに分類されるような感じだ。

でも、先ほど見た非有機系統の人類に比べればまったく人間らしいし親しみ深いように竜司は思う。


「ふふん、どうだ?どこぞの宙を飛び跳ねる連中に比べればよっぽど見た目的にも性格的にもマシだろ?

 それに、お前らの時代と同じくオレ達の国でも君主制の概念を再導入しているからな。社会の中には貴族や衛士、職工などの専門階位が数多くあるし、お前らも馴染みやすいんじゃないか?」

「えーとだな、21世紀日本はもう君主制でもないのだが…」オクウミが苦笑しながら訂正を入れた。

「何ぃっ!?嘘つけー!!

 いや、まさか…そうだったのか!?」

「ふっ、もう一度古代史の催眠学習をやり直しですね」サーミアがおちょくるように言った。

「ぐぬぬ…」


「まあこう言う奴だが、”トヨアシハラクニ”の連中みんながこんなんじゃないからな?

 ちなみに彼女らは他の数十の分氏族も含めて、それぞれ特色ある文化を形成して居て連合自治体制を敷いている。サーミア達と異なるのは、主に惑星などの天体上を文明基盤に据えているものでな」

「コイツらと違って、オレ達はちゃんと地に根ざして生きてるからな!!」

「ほう、宙を舞う喜びが分からないとは哀れなものです」

「何をぅ!!」「ふん!!」


「おいおい…お前らいい加減にしろ全く」

サーミアとキロネが睨み合い始めたのをオクウミがなだめすかした。




「最後は自分ですね」と、後ろに控えていた最後の人物が進み出た。


時折虹色に光る目をしていて、髪はセミショートの緑色だが色々な葉っぱや花?を髪飾りにしている。

しかも顔や肌には宝石のようなものをあちこちに貼り付けているようだ。

「自分はタイカス・シスケウナ。シスケウナとお呼び下さい。

 任務は政治及び経済工作です。

 ”ミズホクニ”キュベクルツ球殻星系ケウナサト4-ロホ70-カシ11-ミアユ32-ムタ09が主居住地です」


「へ?き、きゅうか…何?」

「球殻星系です。21世紀日本では、ダイソン球と言うはずですが」

「ダイソン球ですって!?」

「神崎、知ってるのか?」

「さっき、ホログラム映像の中でちらっと映ってたわ。

 太陽の周りをすっぽりと完全に包んでしまう超巨大な人工球殻の事よ。惑星などを粉々にして球殻の材料にしていて、完成したらその球面の内側に人が住めるようにするという事だけれど」

「ほう、さすが神崎君。よく知っているね」オクウミが褒めて言った。

「その通りです。我々はそうした星系レベルの人工天体を活用し、古来より星間通商や産業活動に携わってきた氏族です」

「へぇー」


そう言えばシスケウナの背中には、ポケットだとかデバイスらしきものをあれこれ付けた小さなバックパックを背負っている。如何にもその袋の中から売り物のサンプルでも取り出しそうな雰囲気だ。

「見た目はドライアドっぽいのに、やってる事はドワーフみたいな?」山科がまた変な事を言う。

確かに竜司にも、ファンタジー世界のキャラクターに置き換えたくなるのは分かる気もする。


「?よく分かりませんが…」

「ああ、そいつの見た目は気にしなくていいぞ。

 シスケウナ達のような”ミズホクニ”の氏族は、非有機系統ほどではないが姿を自由に変えているからな」オクウミが言う。

「そういう事でしたか。確かに自分達の”ミズホクニ”では、他の氏族よりは個性を重視しております。

 先天的な身体・精神特徴附加に加え、後天的にも様々な形態や機能をあれこれと附加しております」

「はー、にしてはちょっとロボットっぽい感じだけど」


「いやいや、コイツは季節がきたら完全に性格変わってスゲー感情的で五月蝿くなるぞ」キロネが口を挟んできた。

「はい、現在は冷静期ですが、あと20地球日もすれば活動期に入ります。これも個性ですので」

「へ、へぇ…月の周期みたいだね…」疑問に対して予想外の返答をもらった山科はちょっと困ったように頭を掻いた。




「さて、実はあともう一人、というかもう1体というべきか、紹介したい奴がいる。

 おい、出てこいラライ5-7-2」

「はい=」


オクウミが呼ぶと、天井の片隅から何かがにじみ出るように出現した。

宙をプカプカと浮かんで移動する姿は、いかにもUFOっぽい円盤型をしているが魚のような胸びれと尾びれもくっついている。


「初めまして=私は=ラライ5-7-2と申します=

 私は本来この『ディアマ=スィナ』号に於ける業務支援人工知性体ラライ5-7-1として稼働しておりますが=この度の任務発生に伴い=臨時にて分身体ラライ5-7-2として生成されました=どうぞよろしくお願い致します=」

何やら声が副重音声のように響いて聞こえる。かといって不快ではなく、和音となっているので何となく聴き心地よい。


「こいつは、私のサポートとして主に法律に基づいた意見具申と通信、情報記録管理を行ってもらう」

「はい=私は帝国憲法及び一般法規、帝国軍法等に照らし合わせ=その都度で最も有効と思われる意見を提示致します=また時空探査局本部と直接通信可能で=遠隔地や非常時等に於ける通信と記録支援を行います=」

「それに、何にでも使える触手を備えているので、簡単な工作や敵からの防衛もある程度可能だ」

「はい=21世紀地球レベルの技術力であれば対抗できます=皆様の安全もお守り出来ます=」

「というわけで、こいつは宇宙船の外で我々に自由に付いて回る事が出来る。また透過装置で透明化も可能だ。こいつが可能な範囲で何でも命令して良いぞ。使ってやってくれ」


「皆様=よろしくお願いします=」


竜司達の真上で、ふよふよと泳ぎ回りながら挨拶するさまは何ともユーモラスだ。

きっと春乃や沙結に会ったら、彼女らはラライを可愛がるに違いない。




「さて、以上が私の同僚であり、かつ此処における”日系人類銀河帝国”の各氏族代表と言う事になる。

 おっと、そう言えば私の詳細な紹介が遅れていたな?

 改めて言うが、私の名はオクウミ・アクァリ。

 ”ヤマトクニ”と言う氏族国家に属している。ちなみにそこのシアラ・スレナ 二等偵察官も同郷だ」

「あ、まぁ同郷といえば同郷ですかね…」


竜司達が、ここで改めてオクウミとシアラを交互に見やった。

そう言えばこの二人の見た目は、先ほど紹介された他の氏族という3人に比べれば特徴らしい特徴はあまり無い。

「ほほぅ、気づいたかな。我々”ヤマトクニ”人は、確かに特徴に乏しいかもしれない。

 しかしそれは先祖の姿を忠実に守ろうとした結果の形でもあるのだ。つまり、帝国のみならず”宇宙日本人類文明体”全氏族の中で最も先祖の姿に近いのが我々だ。

 それでも君達とは異なる特徴もある…例えば」


オクウミは、いきなり懐から取り出したナイフのようなものをシアラに向かってダーツのように投げた。

しかしシアラも一瞬にしてナイフを白刃どりしたかと思うと猛スピードでオクウミに肉薄し、持ち替えたナイフでオクウミの首元に当てた。

「流石に腕は衰えてないようだな、シアラ」

「支部長こそやりますね。って、いきなり何をさせるんですか…」

やれやれといったていで、ため息をつきながらシアラはナイフをオクウミに返した。


「さて諸君、何か気づかなかったかね?」

「え?え、えーと…」

竜司達は、正直オクウミ達の素晴らしい立ち回りに目がいっていて、オクウミが言っている意味が分からなかった。

「はい、分かりました」ここで神崎がスッと手を挙げる。

「オクウミさんとシアラさんの瞳と、髪の色の一部がメッシュのように一瞬で変化しました」

「ふむ、よく気づいたな。優秀優秀」オクウミが手を叩いた。

「そうだ。我々は意識を集中させると、すぐにそれが瞳の色と髪の色に変化を与えるのだ。

 この特性は、軍事教練において重要な要素でな」


「と言うと…もしかして」

「そう。我々は、この”日系人類銀河帝国”を守護する宇宙軍に属している」

「えっ!?オクウミさんも、シアラさんも実は軍人なの!?」山科達も目を丸くした。

「はい、黙っていましたが実は私は、ヤマトクニ”直衛軍から出向してきています」

シアラが、若干済まなそうに言った。

「今シアラも言った通り、我々は”日系人類銀河帝国”ひいては”宇宙日本人類文明体”の防衛を専担する為、”ヤマトクニ”社会全体が単一の軍事組織体制を構築しているのだ。

 組織の詳細はまだ話せんが…そうだな、だいたい大きく分けて宙域軍・天体軍・後方軍・直衛軍の四軍に分かれている。それぞれ実体宇宙世界と人工次元世界を網羅する規模と戦力を備えているのだ」


「それなのに、なぜ時空探査局に?」

「ああ、時空探査局と言う組織自体は、”日系人類銀河帝国”統政府の直接的な隷下にあるのでな。それで、サーミアやキロネ、シスケウナのようにあちこちの氏族から出向してきているのだ」


「そう言えば、そもそも時空探査局って何を目的にしてるんですか?

 まさか、俺達の世界みたいな世界線?を次々に救ったりする為ですか?」

竜司の疑問ももっともだろう。何しろ、オクウミ達が語った内容には、その肝心の動機が抜け落ちているのだ。


「あ…あー、まあ、結果的に救う事にはなるんだがな」

ここでもオクウミが言い淀んだので、竜司達は訝しんだ。


「まぁまぁ若人よ!!そんな細かい事を今はいちいち気にすんなよ!!」

なぜかキロネがわざわざ竜司達の背中に回ってまで肩を叩いた。

しかし如何せん背が小さいので、ちょっと背伸びをする格好が微笑ましい。




「さて、ここからは今後の話に移ろうか」

と、オクウミは先ほどの質問に対する回答をごまかすかのように話題を変えた。


「さっき、私はこの日本いや地球を、悪逆非道の異星人達から救い出す事だと言ったが、肝心の戦略計画については、実のところまだ策定されては居ない。

 まあガッカリするのは分かる。だが大凡の、ある程度の方向性はもう定まってはいるのだ」

そう言うと、オクウミは部屋の中心にホログラムで再び地球を表示させる。

直径1m位のサイズに空間投影された地球の一部がクローズアップし、日本列島の姿になった。


「まずは準備段階として、日本という国自体と日本社会、そして日本列島そのものの足腰を強くする必要がある。

 そうして土台固めをしてから、異星人を始めとする諸問題に取り組む事になるだろう」

「土台固め、ですか?」神崎が少し興味深そうに聞き返した。

「そうだ、今回はまだ時間的余裕は少しばかりあるので、それをしっかりやっても良いだろう。

 だから今回、私の同僚であるこの3人に来て貰っている次第だ。今後はこの地球での活動は私を含めてこの4人が主となって対応する。サーミアが科学技術工作・キロネが環境工作・シスケウナが政治経済工作をそれぞれ受け持って行くことになろう。そして軍事面での工作支援及び本計画の取りまとめをこのオクウミが行う事とする。シアラほか数名は、私の直下に入って任務に就いてもらう」

シアラは一瞬だけかなり嫌そうな顔をしたが、次の瞬間にはもう無表情に戻っていた。


「それでだ、もし諸君らが、君達自身の意思でこの計画を手伝ってくれるのなら、その場合はこの3人それぞれに君達を割り振る事となるだろう」


「押忍!!ぜひオレの所にきてくれよな!!」キロネが目を輝かせて言った。

「いえいえ、こんなチビさんよりぜひ私の所に」サーミアもキロネよりも前に進みでる。

「何ぃ!?」「ふん!!」

竜司達からしたら、この二人は仲が良いんだか悪いんだか全く分からない。

しかし自己紹介の時からみんな妙に馴れ馴れしいと思っていたが、つまりは自身の部下になって欲しかったんだな、と竜司は思い至った。

「是非、私の所にも。手は幾らでも欲しい」

シスケウナはあくまでも謙虚な眼差しで請うた。




「しかし、いきなりそう言われてもねぇ」山科が困惑するようにため息をついて言った。

竜司達も正直同じ気持ちである。急に言われても戸惑いしかない。


「どうでしょう、私達に検討するだけの猶予を与えて頂けませんでしょうか。

 確かに急な話ですし、私達もこのたった数日間で大変目まぐるしい状況に遭遇しましたし、一気に大量の情報を与えられて、私達は精神的にも混乱し疲弊しています。

 ですので、しばらくは冷静になって考える時間を頂きたいと思います」

神崎の申し出に、一同はうなずく。


「ふむ、そうだな。確かにその通りだろう。

 では、1週間後に君達の結論を聞かせてくれないか?

 その頃には戦略計画の詳細もまとまっていよう。君達が我々の任務を手伝う事を決心したなら、その時また改めて詳細を話す機会を設けよう」


「了解しました。それでは一週間後にまた」

神崎だけでなく、4人全員が頷いて承諾した。




竜司達が宇宙船から外に出て赤羽邸に帰る時、オクウミ達4人が出入口まで見送った。


「お待ちしております~」サーミアが微笑みながら会釈した。

「オレも待ってるからな!!」キロネも元気のいい子供のように大きく手を振った。

「よく考えて、しっかりした結論を」シスケウナは彼女らしい冷静な言葉を投げかける。




「良い返事を期待している」オクウミが締めくくった。

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