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とある終末

「マイク・ベース、こちらグローリー3、応答せよ!

 現在、敵機バンディットと交戦中!!既に半分やられた!!支援求む!!

 繰り返す、こちらグローリー3、マイク・ベース応答せよ!!」


「グローリー小隊、マイク・ベースだ!

 更に新たなバンディット群急速接近中、方位ベクター0-8-0、高度エンジェル14、時速5000ノット以上!!

 こちらはもう余りが無い!!マイク・ベースも現在空爆されている!!各自適宜対処せよ!!

 繰り返す、各自適宜対szzzzzzzz」


「クソッ!!」




空戦が始まってからたったの数分で、空軍部隊はほぼ完全に壊滅してしまった。


それのみならず、既に敵の巨大な船が地上の軍事基地やその近辺の諸都市を攻撃し始めている。

出撃前のブリーフィングでは、既に全世界で同時に攻撃が開始されたという。

もはや、地球側の戦力は殆ど残されていないに違いないだろう。


「何てこった…クソッ、何てこった!!」

”グローリー3”のF-35を操縦していた空軍中尉は、思わずコックピットのコンソールを片手で叩いてしまった。しかし利き腕の方でしっかりと操縦桿を握ったままだ。

この瞬間まで、彼の冷静な部分は”敵機”の動きを注視し、何とかして攻撃を回避しようと操縦桿やコンソールを慌ただしく動かしていた。

何しろ、F-35からの攻撃は一切通用しないどころか、味方がまるで虫を叩かれるかのように次々と堕とされてしまっているのだ。

彼も迎撃に上がってから、これまで一機たりとも堕とせてはいない。


それでも何とかしてこの場を生き残りさえすれば、それで良いとさえ思っていた。

しかし、母基地まで敵に破壊されてしまっては、もはや還る道はない。


これがハリウッド映画なら、主人公が地球の秘密基地において、敵に対して決定的な弱点を掴み、それを元に最終決戦を挑んで見事勝利を手にするのだろう。

しかしこれは現実だった。そんな弱点など聞いたこともないし、最終決戦用部隊も存在しない。

彼が事前に聞いた噂では、地球側が密かに開発していた対宇宙人用兵器も宇宙艦隊も、いとも簡単に蹴散らされてしまったのだと言う。




 * * * * *


そもそも、事の起こりはたった2日前の事だった。


突如として月の軌道より内側に、謎の巨大な宇宙船群が出現したのだ。

直径数キロはある歪んだ円盤型の宇宙船数十隻が、たちまちのうちに世界中の主要な大都市上空を覆った。


慌てふためいたNASAや米政府等が公式声明を発表する前に、地球上の全ての電波が宇宙人によって完全にジャックされた。

そして宇宙人は海賊放送を流し、地球上のありとあらゆる言語で、米露や他の先進国政府が秘密裏に宇宙人と条約を結んでいた事、その条約は地球人類の半数を宇宙人に差し出す代わりに技術提供をするという内容である事を暴露した。


しかもその条約が履行されてない事をタテに、今から強制取り立てを開始すると宣言した。

48時間以内に回答を寄越さない場合は、地球を全面占領して全地球人類を”資源”として収奪する。

その”資源”は、主に宇宙人の食料として、または家畜や奴隷、実験材料等に利用されると言うのだ。


これにより、全世界が恐慌状態に陥った。

宇宙人の最後通告に各国政府は沈黙し、あるいは国家同士での非難合戦が行われた。

当然の事ながら一般国民は、各国政府に対して怒り、非難を浴びせた。

だがそれ以上に殆どの人がパニックを起こした事により、どこの大都市や郊外でも一斉に避難による渋滞やデモや暴動、それに伴う治安の急激な悪化により大混乱を起こしていた。




そして遂に48時間が経過し刻限を過ぎた瞬間に、

宇宙船群が一斉に世界各国の大都市や軍事施設や産業拠点への攻撃を開始した。


全世界で一瞬にして数千万人が死亡し、各国の主な軍事拠点も壊滅。

かくしてこのような事態となってしまっているのだ。


 * * * * *




異常な形状の”敵機”数機による追撃を必死で逃れながら、彼は眼下に広がる街を見た。

既に、各所で攻撃による火災が発生しているらしく黒煙が広がっていた。

「ああ…俺の街が」


彼の生まれ育ったその大都市は広い湾に面していて、上空から見ていても美女の首飾りのような街並みが美しかった。

しかし今では、怪物の顎門によって痛々しい傷をむき出しにしている。

そこに住んでいる穏やかな人々も、今頃は攻撃から逃れようと必死で右往左往している事だろう。


「くそっ、もう俺達は終わりなのか…これが終末ってヤツなのか」


普段、彼は礼拝どころか教会に行った事もないような無神論者だったのだが、この時ばかりは皮肉な事に神の存在を信じ、同時に神を呪った。


そして彼は、その街の上空に不気味で巨大な円盤型の宇宙船が接近しつつあるのを目撃する。


「…おい待て、そんな、まさか…止めろよ…!」

そして、宇宙船の下部から巨大な砲塔が姿を覗かせ、今にもその砲から凶暴なエネルギーの塊を無辜の都市に向けてぶち撒けようとしていた。


彼は怒りと絶望に震えながら自身のF-35をその宇宙船の方角に向け、

全速でその宇宙船に体当たりしようと突っ込んで行く。

「頼む、止めてくれよ…!!俺の彼女が、家族があそこに居るんだ!!

 止めろ…止めるんだ、止めろーーー!!!」


しかし、彼の努力も虚しく、彼の目の前で宇宙船の下部が一瞬強く光った。

「クッッソおおおおおおおおお!!!!!」


しかし、その次の瞬間、




「……!?」


彼は見た。


その敵宇宙船が、奇妙な飛行物体に横から突入されて強引に位置をずらされ、そしてそのまま湾内に墜落して行くのを。


「…な、何だ!?」


それだけでは無い。

いつの間にか、正体不明の飛行物体が無数に周辺を飛び回り、

グロテスクな内臓の塊のような敵宇宙人の戦闘機群に対して攻撃を加えていた。


「あれは何だ!?ろ、ロボットなのか!?」


高速なのに急激な機動をつけて飛行しているので良く見えないが、

しかし目を凝らして見ると、まるで巨大な人型ロボットが飛んでいるように見える。


彼はそれを見て、まるでハリウッドのSF映画か、日本のアニメとかに出てくるようなマシンによく似ていることに気づいた。


「こいつは新たな敵なのか!?」

だが、そのロボットのデザインはとても洗練されていて、同時に親しみやすさを覚えた。

今までの敵宇宙船に比べて、やたらと人間らしいと言うか、地球の文化に近しいのだ。

しかもそのロボット群は、今まで我々が全く太刀打ちできなかった敵宇宙船を、圧倒的な戦闘能力によってまるで赤子の手をひねるみたいにどんどん墜として行くでは無いか。


「ジーザス!!」

彼にはそれがまるで、黙示録の日に人間を救いにやってくるという

神からの使者か、天使のような気がしてきた。




「そうか…!いいぜ、一緒にやっつけようじゃねーか!!」


そしていつの間にかその人型ロボット達と編隊を組んで飛行し始めた中尉は、

彼らと一緒に新たな敵宇宙船を攻撃し、そして初めて撃墜に成功した。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




あちこちで火の手が上がっていた。


まるで邪悪な魔物のような敵宇宙船から放たれた破壊光線によって目立つ建物から次々に破壊され、地上は阿鼻叫喚の地獄と化しつつあった。


焼け焦げて煙がくすぶり、ひっくり返った自動車やトラックを避けながら黒人の少女が白人の少年を連れてひたすら走っていた。

後ろから、まるで逃げ惑う彼女らを追いかけて楽しむ肉食獣プレデターのように、小型の敵宇宙船がわざとゆっくり追いかけて来ている。


「はぁ、はぁ、ね、ねーちゃ、もう僕、走れ、ないよ…」


少年が息も絶え絶えに言った。

「な、何言ってんの!!シェルターはもうすぐだから、ね!?」

しかし少女は全力で走って息が切れ、意識を朦朧とさせながらも思っていた。

恐らくシェルターももう破壊されてしまっているだろう事を。

それでも少女は、一縷の希望を抱いて少年を励ましつつ敵機から逃れようと、この荒れ果てたメインストリートを走っていたのだ。


「あっ!!」

少年が路上に転がっていた死体に足を引っ掛け、ついに転んでしまった。

「ああっ、ダメ!!」

少女が少年の所まで引き返し、全身をガクガク震わせる彼を守るように抱きしめた。

「くっ…!ま、負ける…もんか!」

ゆっくり目の前にまで迫り来る敵宇宙船を、なけなしの気力だけで睨みつける。


だが、蛇や蛆虫がのたくり絡みついたような醜悪な宇宙船の腹から、不気味な触手が二人に向かってゆっくり巻きつこうとした時、思わず叫んだ。


「…いや、やめて、やめて、助けてーーーーー!!」




ドゴオォン!!


と、突然何かが猛烈な勢いでぶつかる音と共に、

その敵宇宙船があっという間に横方向へと吹き飛ばされた。


「きゃっ!!...!?」


少女は思わず顔を塞いだが、しばらくして恐る恐る顔から手を退けると

今まで敵宇宙船が居た場所に、背丈が10m以上もありそうな巨大なロボットが立っていた。


少女がそのロボットの顔を見ると、ロボットも目に当たる部位を明滅させた。

まるで、少女に向けて挨拶をしているように思える。


「えっ…?もしかして…あなたが救ってくれたの…?」


少年の方が、少女の腕の中から這い出てゆっくりと手を差し出した。

するとロボットの方も、ゆっくりと屈みながらその巨大な手を二人に向けて差し伸べたのだ。


「お、おねーちゃん!!このヒト、正義の味方だよ!!

 ロボットのヒーローだ!!」


少女は思い出す。

以前に少年がずっと見ていた、日本製のアニメではこんなロボットが世界征服を企む悪の軍団を懲らしめていたのを。

目の前にいる、そのロボットはまるでアニメに出てくるそれと瓜二つだった。


「…ヒーロー?」

「そうだよ!!」


少女は、なぜこのロボットが日本のアニメに出てくるそれにそっくりなのだろうかと少し疑問に思ったが、その点について深く考え続ける暇は無かった。

何しろ、少女が止める間もなく少年がロボットの掌の上に乗ってしまったからだ。


やれやれと思いながら、少女も恐る恐るロボットの掌の上に乗り、

そしてロボットは二人を乗せて空中に飛び上がった。


二人が周りを見ると、既に無数の似たような巨大ロボット達が

敵宇宙船を次々と撃破していく光景が広がっている。




「ヒャッホーーーーー!!」「いっけぇーーーーー!!!」


二人はまるで、そのロボットを操縦する主人公になったような気持ちになり、

敵宇宙船が潰え去って再び地球人の手に取り返しつつある空を、どこまでも飛んで行った。




ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー




混乱が収まりつつある地球の静止衛星軌道上には、

先ほどまで居座っていた巨大な"惑星連盟"のマザーシップに代わり

"日系人類銀河帝国"の数万隻に及ぶ大艦隊が整然と航行していた。


その周囲には、"惑星連盟"軍の円盤型をした艦艇の残骸が宙に散らばっている。

マザーシップに至っては太陽の方向に吹き飛ばされ、プロミネンスの中に一瞬で飲み込まれていた。




「状況は、どうじゃ?」


小惑星ほどもあるサイズの艦隊旗艦にて、

主艦橋メインブリッジの真ん中に設えた豪奢な椅子に座っていた少女が訊いた。


「はっ、先程までに地上における全ての敵大型艦艇を排除完了、現在では掃討戦に移行しております」

軍服を着た初老風の人物が、少女に向き合って答えた。

「ふむふむ、おおよそ予定通りの進行じゃの」

「はい、殿下がお考えになり、開発と結成に尽力された『対地表モビルスーツ部隊』が十分な成果を挙げておりますゆえ」


「うむ、苦労した甲斐があったのう。

 この世界線では少しばかり間に合わなかったが、それでも何らかの収穫はあるじゃろうて」

「はい、この”17=5-47-664-95=7.81世界線”は、比較的安定した素性を持っておりますので情報収集は十分可能です。

 こちらの日本の諸都市も被害は最少限度で、ほぼ無傷です」

今度は、脇に控えていた青年が恭しく返答した。




「ほう…それでは、もしかしたら”例のもの”も期待できるかも知れんの」

少女は、まるで宝箱を見つけた冒険者のように舌舐めずりし、ニヤッと笑った。

※文中の表現


1)”●●”と表記している名詞・単語について(慣用句や言い回し表現以外)

  は、その語彙を用いる種族・民族集団が多様で

  それぞれ異なる発音・表現を行う為、暫定的な表記法として使用しています


2)『●●』と表記している名詞・単語について(会話文での括弧表現以外)

  は、その語彙を使用する種族が決まっており

  発音・表現が統一されている為、確定的な表記法として使用しています

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