4-7 迎撃
『フィムカ』号は、明日香を助けるために地表近くまで降下していたのだが
明日香を収容後、再び上昇を始めた。
「ようやくこちらに向かってくる敵機が少なくなってきたな」
周囲をモニタリングしつつシアラが呟く。
「それに、上の空域では例のロボット達が依然として敵戦闘機群と交戦中みたいだし、彼らが敵を引きつけているうちに逃げましょう」
神崎が提案した。
「いや、ダメだ。
あのロボット達はいわば味方、友軍のようなものだ。見る限り、どうもあのロボット達は一種の機能不全を起こしているように見える。
でなければ、一時的にミサイルによってブラックアウトになったとは言えど、掌から落ちた明日香を助ける行動に出なかったのはおかしい。
それを解決しない限り、彼らが自身の力で亜空間へ安全に退避する事は出来ないだろう」
「それでは、どうするの?」
「うむ、一旦上空まで行ってロボット達に加勢し、敵を排除する。
それから彼らに再コンタクトをして、彼らの様子から原因を探らねばならんな」
「なら、機上にいる二人に機内へ戻るように伝えるわ」
と、コックピットの後ろにあるキャビンから呻き声が聞こえてきた。
「大変ですシアラさん!明日香姉さんの様子がまた変になったのですー!」
シアラ達がキャビンに行くと、安楽シートに横たわる明日香がうなされていた。
「うう…頭の中に…何か入ってくる…仲間との統率が取れない…連絡も取れない…」
「何を言っているんだか分からないのですー!」
「シアラさん、これって明日香さんの頭にもあの機械虫が入り込んじゃってるのかな?」
「そんな…山科さん、貴方の先程の力でどうにか出来ないの?」
「無理無理!機械に直接タッチするか、もしくは相当近づかないとダメみたいだし!さっきのだって機械虫に取り憑かれる寸前のギリギリだったんだから」
「何て事なの…もう手の施しようが」
「いや、そうじゃないかも知れないぞ」
「どういう事?」
「彼女のうわ言の内容からして、ちょっと不思議なのだ。『仲間との統率が取れない』とは何だ?まるであのロボットになりきったみたいな話じゃないか」
「とすると…もしかして明日香さんは」
「そうだ、きっと彼女は、あのロボットと主従契約を行った際に互いの精神を一時的にリンクさせた可能性がある。
そう考えると、今の彼女はリンクによってロボットの精神と融合を起こしかけているのかも」
「システム維持機能30%損失…コミュニケーション機能不調…リアクターが…ううう」
「どんどん様子がおかしくなってるよ?」
「彼女の様子から察するにロボット達はかなりやばい状況になりつつあるようだ。もうこうしてはいられない、直ちに上空に上がってロボット達を支援する!」
「赤羽くん、東雲くん!ちょっともう機内に戻って頂戴。
今から上のロボット達の所にまで急行するから」
ハッチから機上に上がった神崎は、周囲への警戒を行う二人に呼びかけた。
「おう」「了解」
すると、急にガクンと大きく揺れたと思ったら
宇宙船が急激に上昇を始めた。
「うわわわわわ!!」「オッっとと!!」
「何があったんだよ!?」
「それが…」
と神崎は、明日香の身に起こっている事を二人に伝えた。
「ねーちゃんにそんな事が!?」
「そう、だから早く機内に」
「いや、ここに居た方が良くないか?」
東雲が指差す方を見ると、ロボット達が敵戦闘機群と交戦している空域が見える。
宇宙船はあっという間に再びこの空域に戻ってきたのだ。
「中心に居るあのロボット…特に手酷くやられているな」
「周りのロボット群も成すすべが無いような感じだわね」
「あれはねーちゃんの乗っていたロボットだ!...助けなきゃ!」
「まぁ赤羽がそういうだろうと思ったよ」
「よし、やろう!神崎はシアラに、宇宙船をギリギリまで接近できるか訊いてみてくれ!」
米軍がこの春に極秘で実戦配備を始めた戦闘機『F-37』は、得体の知れない異星技術を満載した、
まさに地球製UFOとも呼べる代物だった。
そもそも異星人の技術を地球製兵器に導入しようという考えは半世紀以上前に遡り、アメリカとソ連が冷戦を激化させた1950年代からあった。
その当時はロズウェル事件(によって隠された実際の宇宙船墜落事象)によってアメリカが初めて本格的に異星人のテクノロジーを分析する機会が与えられ、その分析結果に基づいて多くの新技術が最初は軍事用に、それに続いて民生用としてスピンオフしていった。
当然の事ながら、その未知のテクノロジーを用いて戦略兵器としての地球製UFOを作ろうとする動きは
かなり早い段階からあった。
もちろんそうする事で、敵陣営であるソ連に対して多大な軍事的アドバンテージを得る事は間違いなかった。
何しろ当時のアメリカはスプートニク・ショック、更に戦略核のミサイル・ギャップ論争により、アメリカの優位性に大きな揺らぎが生じていたから、これを覆す事が国家的使命だと考えられたからだ。
しかし当時のソ連も、実際には産業技術基盤がとても貧弱なものだったので、宇宙開発などでプロパガンダを行いつつ、舞台裏ではやりくり上手な貧乏家庭のような事が行われていた。
長じてソ連も、広大な領土に落着した異星人の宇宙船(遺跡も含む)を調査研究する機関が設けられ、両陣営とも激しい異星技術の獲得競争が行われていたのである。
異星技術をつぎ込んだ航空機や宇宙船は、開発途上で中止された物を含めて無数にあるが、その中でも本格的な地球製UFOとして有名なのは『オーロラ』であろう。
『オーロラ』は従来の極超音速戦略偵察機であるSR-71に代わる戦略偵察機として米軍によって開発が企図されたが、実際には敵地における戦略爆撃や戦闘も行える万能軍用機として設計開発が行われるようになった。
異星人からもたらされた反重力推進エンジンの性能見積もりが素晴らしく、オールマイティな運用が可能だったのと、莫大な開発予算を食う兵器開発において、次世代軍用機の基本型を開発しておく事で、派生型の開発コストを減らす事を見込んだという側面もあった。
しかし異星人の、未だに不明な点だらけの産業技術で製作されたエンジンを地球の産業技術にてリフォームする作業はとてつもなく困難であり、ようやく出来上がったエンジンも非常にデリケートで扱いづらいものだった。
『オーロラ』自体の開発は1992年には終了し、それ以降はニーズに応じてグレードダウンした派生型の開発にシフトしていった。
ただし、『オーロラ』の存在自体はアメリカ国内や他国への示威やカモフラージュとして有効だった。
しかし21世紀に入って、ようやく異星人の産業技術そのもののコピーについて目処が立ってきた事もあり、新たな地球製UFO、マルチタスク型軍用宇宙飛行機の開発にゴーサインが出た。
そして、その最初の開発完了案件が『F-37』である。
『F-37』はマルチタスク型を求める設計理念により、通常の戦闘機よりもかなり大型に誂えられている。
兵装は機関銃やレーザー、通常の空対空・空対地ミサイルの他に、異星技術による特殊な兵器群の搭載を可能としている。
そして今回、このエリア51を守護する『F-37D』のヴァージョンは、地球人どころか異星人にも取扱いが難しいものをパッキングした兵器として搭載していた。
「ストレイカー、フォスター01。例の『ヴァイラス』は順調に効いてきているみたいだ」
「了解、フォスター01。引き続き『アイアンジャイアント』にX3アタックを実行せよ」
「了解、ストレイカー。しかしあんなデカイ空飛ぶロボットにお目にかかれるなんて未だに信じられないぜ」
フォスター空軍大尉は、自身の乗るF-37Dを操って『アイアンジャイアント』の周囲を再び一周した。
先程に比べて、外観にも徐々に変化が現れつつあるようだ。
何しろ全長が500m以上もある巨大な船体?を有しているので、自分があのロボットに打ち込んだ、たった一発の「兵器」が有効かどうかイマイチ掴みきれなかったのだが、どうやら有効であったらしい。
「ストレイカー、フォスター01。しかし『ヴァイラス』はどこから拾ってきたもんなんだ?
あんなどこかのSF映画に出てきそうなヤツはそうそう見ないぜ」
「フォスター01、ストライカー。ダメだ、お偉方が機密を解除してくれそうにない。しかしとにかく十分に距離を取って、異常が見られたらすぐに離脱するようにとの事だ」
「中身は本当にただのマシンなのか?やっぱり生物兵器とかじゃないのか?」
「まあ、増殖するとか何とか言ってたからそれなりのシロモノなんだろう」
「うへっ、やっぱり近づかないでおこう」
「そうも行かないな。表面状態を観察しろとのお達しだ」
「シャドー1小隊各機、ストレイカー。『ファルコン』がそちらに接近している。シャドー2、3小隊は敵の攻撃によって全滅した。なお敵攻撃手段は不明。
各機『ファルコン』を迎撃せよ」
「シャドー2も3も全滅だって?」
「そうだ。敵がどういう風にしてアレック達を落としたのかは分からんが、とにかく注意してくれ」
「言ってくれるじゃねーか。『アイアンジャイアント』ですら手を焼いてるってぇのに」
「フォスター01、そうぼやくな。無事に基地に帰れたらブラックジャックのツケ50ドルをチャラにしてやる」
「あれはティムがイカサマをやったから元々チャラだったろ」
「その後でティムがポールもやってたって言ってたぞ」
「あの野郎、後でロッカールームでボコってやる」
「そうも言ってられなくなったぞ、『ファルコン』までの距離が5000フィートを切った」
「クソッ、面倒になったな」
「シャドー1」と呼ばれたF-37Dの飛行小隊は、『ヴァイラス』を打ち込んで以来動きを止めた17隻の巨大な飛行ロボット群の監視を切り上げて、新たに接近して来た『ファルコン』の迎撃に移行した。
「おい、ロボットにたかってたハエがこっちに向かって来たぞ」
「ハエってお前なぁ…まあそう言われても仕方ねーんだろうけどさ」
戦闘機をハエ呼ばわりする東雲に竜司が苦笑いを浮かべる。
「いい?もう一度作戦を伝えるけど
とにかくまず攻撃を仕掛けてくる敵機をなるべく全て撃ち落として。
それから、宇宙船をあの一番大きいロボットの近くに寄せるから、そうしたら私と山科さんが一緒に乗り移って、宇宙船内の異常に直接コンタクトを仕掛けてみるわ。
その時は監視をお願いするわね」
「ああ、分かった」
宇宙船がぐんぐんと高度を上げてロボット群に接近して行くと、それぞれのロボットの細部が見えてきた。
「うむ?何だか様子が変だな?」
竜司が目を凝らすと、ロボットの表面に何か奇妙なものがチラついているのが見えた。
明らかに先程までとは状態が違うのが分かる。
「あの表面…まさか」
「ああ、あの例の機械虫とかと同じパターンの模様だ」
東雲も目をすぼめて確認する。
少なくとも、あの明日香が乗っていたロボットに機械虫もしくはその同類が乗っ取ろうとしているようだ。
それが、あのロボットと精神的なリンクを繋いでいる明日香自身を苦しませている原因かもしれない。
「クソッ、ねーちゃんを苦しませやがって…」
竜司の中で静かな怒りが渦巻いた。
そこへ、接近する敵戦闘機が次々にミサイルを放ってきた。
「テメェら!邪魔臭いんだよ!!」
竜司が手をかざすと、ミサイルが次々に爆発四散していく。
「赤羽もやるな、俺もやってやるぜ!」
東雲は反対側から向かってくるミサイルをドロドロに溶かしたり、逆にロケットモーターが壊れるほど冷却させて次々に落としていった。
しかし、竜司達はある事に気づく。
「おい、あの戦闘機、まるでUFOみたいじゃないか?」
「そうだな。それにあの動き方…さっきまで相手していたのとは雲泥の差だぞ!?」
先程まで竜司達や『フィムカ』号を攻撃していた戦闘機は
外見はF-22やF-35に近しい(が機種名までは分からない)いかにも地球の戦闘機といった形をしていたのだが、さっきまでロボット達にまとわりついていて、現在竜司達に襲いかかってきつつあるのはどう見てもUFOのような円盤形である。
それも、地球を巨大な宇宙船で攻めてくる某ハリウッドSF映画に出てくる気持ち悪い異星人の攻撃艇のようなグロテスクな生き物みたいなディテールの表面だ。
ただし、表面のあちこちに米軍のものである事を示すサインやステッカーのような塗装が施されている点で異なる。
しかもその航空機は、やはりUFOのような急発進急停止や瞬間移動のような機動を取りながら接近しつつある。
「なんて気持ち悪いのかしら…」
竜司達に挟まれながら空を見上げた神崎が呻いた。
「やばいねー。あの中にネバネバのエイリアンでも潜んでるのかな」
山科が妙に呑気な口調で言った。この状況をちゃんと認識しているんだろうか。
しかし今度は山科がこの作戦のキーパーソンである。
顕現したばかりの能力を用いて、遠隔では通信ができなくなったロボット達とコンタクトを取り、あわよくば亜空間へと退避してもらおうというプランである。
「山科さん、まだこの段階では上に来なくても良いのよ。むしろ危険だわ」
「ええーっ、大丈夫大丈夫だって。
私も戦闘シーン生で見たいし。それを言うなら神崎さんだって危なくないの?」
「えっ、そ、それは…」
「ま、モーマンタイだよ。それに何かあっても大の男二人が守ってくれるし、ね?」
「おいおい、買い被りすぎだっての」
「肉体労働は男の役割ってか」
大の男二人は、宇宙船に向かってくるミサイルを次々に落としながら
ぼやかずにはいられない。
「まぁ、変に動き回りでもしなければ良いんだけどな」
「おい、何てこった!ミサイルが次々と撃ち落とされているぞ!」
「どう言う事だ?まるでミサイルが途中で蒸発でもしたみたいじゃないか」
「ストライカー、どうなってる?あれは一体何なんだ?」
「フォスター01、ストライカー。こちらでも詳細は分析中だが依然として不明だ。どうにかして『ファルコン』へ接近して写真を取れないか?」
「ダメだストライカー、例のシールドだか何だかが『ファルコン』の表面詳細を撮像できないようにしているようだ」
「それでもやってくれ、フォスター01」
ミサイルが自爆し、近づいていった味方の戦闘機も撃ち落とされる中で、ようやくフォスター機が宇宙船の表面が何とか分かるギリギリの距離まで接近する。
「これだけ近づいても、宇宙船を覆うシールドのお陰でよく分からないが…
む?あれは…もしかして人影?まるで少年と少女のように見えるが?」
「フォスター01、撮影はどうか?」
「今撮ったが、しかしノイズがひどい、ダメだ。
…?何だ?少年らしき人影がこっちに手をかざしてくるが…」
「フォスター01、ストライカー。どうした?応答しろ」
「わあああああああ!!!ガリガリガリ」
宇宙船へ急接近を図っていたその戦闘機も、竜司によるサイコキネシスによって撃墜させられてしまった。
結局、シャドー1小隊のほぼ全ての機も竜司達によって叩き落とされ、
周囲に何もいなくなった事を確認した『フィムカ』号はゆっくりと、一際大きいロボット『須佐ノ男』号に近寄り、ランデブーを果たす事に成功した。
「それじゃ山科さん、準備はいいかしら?
こちらからあのロボットの背中の上に転送するゲートを開けるわよ」
「まあ、ここからじゃロボットの胴体側面に触ることもできないし仕方ないよね」
言いながらも神崎は片手を掲げて目の前に光るリングを発生させ、二人は何でもない事のようにリングをくぐり抜けていった。
「うおっ、またミサイルと戦闘機の襲来かよ。アメリカってどんだけ物量あるんだよ…
それにしても山科の奴、大丈夫かな」
「まぁアイツは常に楽天的だし、特に問題ないんじゃないか?
とりあえず俺達は、ロボットにたかるハエを落としてフォローするだけだ」
「だな」
二人はそれから、淡々と新たに襲来するミサイルや戦闘機を落とす作業に専念した。




