4-4 邂逅
シアラ達の乗った宇宙船が、レーダーで次々の周囲の巨大物体を検知していく。
「このグルームレイク上空には、発見できる限りでは17隻の宇宙船が遊弋している。
しかも何隻かは地上の施設を攻撃しているようだ」
シアラがコンソールを操作し、ディスプレイにレーダーで捕捉した船影を映し出した。
「で、どうするよ?このまま基地に突っ込んでも、ねーちゃんを助け出せるかな?」
「どうかしらね、突いた後の蜂の巣の中に手を入れるようなものかも知れないわ」
神崎も顔を顰めつつ顎に手を添えて考え込む。
「しばらく、様子を見た方が良いんじゃない?」
山科の提案に乗り、しばらく亜空間に留まりながら周囲の状況観察に徹した。
しばらくすると、さらに一隻、いや一機というべきか、小型と言っても数十mはあるロボット形態の宇宙船が、基地内部から浮上してきていて、一きわ大きなロボットのボディに格納されようとしていた。
シアラがその場面をクローズアップしてディスプレイに表示させる。
「あっ!!あれは!?」
「ねーちゃん!!」
「明日香さん!!」
人型ロボットの巨大な手に収められているのは、明らかに赤羽明日香本人のようだった。
「まさか、襲われて拉致されようとしてるの!?すぐに助けなくては!!」
「いや、由宇さん。多分大丈夫だ。あの宇宙船は、型式から判断するにほぼ間違いなく友軍、味方だ。
多分あの緊急信号を彼らも受信したので急行したのだろう」
珍しく狼狽する神崎を、シアラが冷静に諌めた。
「でも、味方といってもどこの誰かは分かるの?それに、あんなロボットの掌の上じゃ危ないわ。どうにかしてあの人をこの宇宙船内まで助け出せないのかしら?」
「まあ待て、その前にこの宇宙船隊の統率船とコンタクトを試みている。
交信用のコールサインが少し前のタイプだから、少しばかり手間がかかるんだ」
「なあ、この宇宙船から外にちょっとだけ出られないかな?」
竜司がシアラに問いかける。
「む、出来なくはないぞ。ただ船ごと亜空間から出なければならない。
その時に船体から一定の範囲でシールドを張るし、一応光学迷彩を掛けておくが
万一、強力なビームを当てられたら少しの間しか持たないぞ」
「いや、ほんのちょっとの時間で良いんだけどさ。
ねーちゃんを引っ張り込む瞬間だけだし。少なくともねーちゃんと言葉が交わせれば何とかなるだろ」
「でもここって1万m位の上空じゃん、ちょっと危なくない?」
山科が心配するが、神崎はディスプレイで周囲を警戒しつつも
「多分、大丈夫だと思うわ。そもそもこのくらいの高さだと、地上からは人間の目ではほぼ見えないでしょうし、特に今は爆煙がいい目くらましになるでしょう」
「ふむ、俺も船外に出て見たいものだ」
東雲もシートから身を乗り出した。
「分かった。上部のハッチから出られるようにしてやる。
ハッチの周囲3mに手すりがついてるが、それ以上外へは身体を乗り出すなよ」
「了解ー!」
天井のハッチが開くと、竜司と神崎や東雲が外に出て行った。
「よし、コールサインが合致した。
やはり、”証拠”の宇宙船に間違いあるまい」
「だからさー、その証拠って一体なんなの?」
「うむ、話せば長くなるしどこまで話したものか…
簡単に言えばこの世界いや地球が、我々が目指していた世界なのかどうかを証明する証拠といったところだ」
「んー、って事は、この地球がシアラさん達の探していた世界で合ってたって事?」
「そうだ」
シアラがコンソールに向かい、人型ロボットに向けて交信を開始した。
『=||-|=|=|||-||-|, 所属不明機に伝える。
こちらは”ヤマトクニ”直衛軍第27特殊検索師団所属・次元跳躍探査艇「フィムカ」号。
貴船の所属と船名を名乗られたし、送レ』
『「フィムカ」号、こちら”トヨアシハラクニ”汎氏族事業体・七ノ四テラムロ所属
「キホ-壱拾八番 須佐ノ男」号です』
『「須佐ノ男」号、やはり汎氏族事業体と言う事は
工作目的の超次元派遣か?』
『その通りです』
『「須佐ノ男」号、それではなぜ復活した?
本来なら、こちらからキッカケを与えてやらない限りは眠り続けているはずだが』
『そのキッカケがありました。
赤羽明日香という女性が、月面にて眠っていた私を起こして下さり、また「鍵」の誓約によって我々の司令官に就任致しました』
『何だって!?
…確かテラムロ系列の宇宙船は、「鍵」の認証によって所有権を得るはずだが、彼女はどうやって「鍵」の認証を得たのだ?』
『恐らく、前所有者であった古代日本人が、私が眠っている傍にて所有権を放棄する儀を行ったのでしょう。それによって私の傍に「鍵」が置かれたままになり、約二千年後に彼女が再発見したという次第です』
『フゥム、では貴船達は、今後彼女をどうするつもりなのだ?』
『誓約に従い、我々は彼女の命令に従うのみです。しかし現状では、彼女の身の安全が保てないと判断したので、緊急措置にて救護策を取りました。
これから事後策について彼女に意見具申を行い、決断を仰ぐ予定です』
『そうか、それでは事後策の案に以下を追加して欲しい。
我々が彼女の実家にまで送り届け、貴船達は亜空間にしばらく留まるという案だ』
『了解致しました。
彼女に申し伝えます』
シアラが「須佐ノ男」号と交信している時
「フィムカ」号の上で待機していた竜司達は、ぐんぐん接近する人型ロボットに向けて大声を上げていた。
「ねーちゃん!!大丈夫かー!?」
すると、人型ロボットの掌の上に座っていた明日香も竜司達に気づいた。
「え?ええ!?竜司!?何でここに!?
っていうか由宇ちゃんも、何で居るの!?」
「私達は、明日香さんを助けにきたんです!!」
「ええ!?どういう事!?っていうか、その宇宙船は一体!?」
「話は後です!!それよりも、すぐに助け出しますから、そのロボットから離れて下さい!!」
「で、でも離れるっていったって」
「大丈夫です!!
これからこの宇宙船をそのロボットに近づけさせますので、しばらくじっとしていて下さいね!!」
『司令官。少シオ話ガアリマス』
「えっ、何?」
『タッタ今ノ向コウノ搭乗員ノ話デスガ、先程交信ガアリマシテ、今後ノ司令官ノ処遇ヲ含メテ提案ガアリマシタ』
「どんな提案なの?」
『ハイ。彼ノ宇宙船ニテ司令官ノ御実家マデ送リ届ケマス。
ソレ以降ハ我々ハ亜空間ニテ隠匿状態トナリマス』
「じゃあ、私はあっちに移ればいいの?それで貴方達は良いの?」
『問題アリマセン。逆ニ我々ハ目立チマスノデ、ソノ提案ハ妥当ト判断シマス』
そうしている間にも、人型ロボット「須佐ノ男」号と「フィムカ」号は徐々に接近してきた。
もう少しで、竜司達の手が明日香に届きそうになる。
船内では、山科がシアラに質問していた。
「そういやシアラさんに聞きたかったんだけどさ、
そもそも、シアラさんがココに来た目的って何なの?基本的に私達ゃあさ、シアラさんはとりあえず善良っぽそうだし、一緒にいると面白そうだから関わってるだけに過ぎないんだけどさ。
でもシアラさんの目的は実際みんな気になるってわけよ」
山科は舐め終わったチュッパチャプスの棒を、自身の頭の上で振り回す。
「む…実を言うと、
現在のところは「目的の世界を見つけ出せ」と言う指令以外は言い渡されていないのだ」
「へぇ、そうなんだ。
じゃーさ、これでこの地球が目的地だって分かったら、シアラさんはお役御免で元居たところへ帰るの?」
「恐らく…な」
「シアラさん、帰るの?」沙結が首を傾げる。
「じゃあ、シアラさんがお帰りになる時には地球のお料理をいっぱい作ってお別れ会をしましょー!」
「おっ、春乃ちゃんは料理が上達したって聞いたよー?私達も食べたいなー」
「もちろんですー!山科さん達にも一杯振る舞って差し上げますー!!」
「おおぅ、21世紀日本の料理は、とても…ゴホン!中々に興味深いからな」
シアラが恥ずかし紛れに咳払いをしながらコンソールを一瞥すると
未確認飛行物体の接近警報が出現した。
「むっ、何だこれは!?」
二隻の宇宙船は、互いに手が届くほど近くに接近していた。
「ねーちゃん、手を伸ばして!!」
「ん…も、もう少し…
って言うか、流石に怖いわね…」
真下を見ると、今なお炎上し濛濛たる黒煙が吹き出すグルームレイク空軍基地が1万m下方にあり
ちらっと見るだけで目眩がしてくる。
「赤羽くん、明日香さん、そんなに無理しなくても…やっぱり一旦どこか安全な場所に降り立ってからの方が良いように思うのだけど...」
やはり若干の高所恐怖症である神崎が、なるべく下を見ないようにしながら話しかけた。
「いやっ、大丈夫よ…何とか、立って、ここから踏み出せば…」
と、ぐらつく足元に鞭打ってどうにか足を立たせる事に成功した明日香が
ゆっくり片足を一歩前に踏み出して、竜司の差し出す手を握ろうとする。
『向コウ側ノシールドトブツカリ合ッテ反発シテシマウノデ、部分的ニシールドヲ解除シマス。
オ気ヲ付ケ下サイ』
そう「須佐ノ男」号が忠告する。
「わ、分かったわ、分かったけど…」
宇宙船同士が近接する辺りの空間に、かすかに輪っかのようなものが広がるのが見える。
恐らく解除されたシールドの穴なのだろう。
気圧差からかシールド同士の隙間から外へと風がもの凄い勢いで流れて行く。
身を乗り出そうとする二人とも体を風にあおられてよろめいた。
しかし二人とも足を踏ん張って何とかこらえた。
そして明日香が少しずつ体を乗り出させて、竜司の手を握ろうとした瞬間。
ダダダダダダダダダッッ!!
突然、彼女の身体から血しぶきが飛び散った。