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4-3 救出

赤羽明日香が不気味な怪物の触手に囚われ始めてから、10分程が経過した。




「ぐうっ、ううっ…」


明日香は息も絶え絶えになりながら、何とか意識を保って触手の浸透に抵抗しようとしていた。

彼女の体はもう檻のすぐそばまで引き寄せられている。


「ほほぅ、なかなか保つねぇ。さすが管理部が適性を保証しただけはある」

ジェイコブが薄ら笑いを浮かべながら、彼女をモニタリングする測定機器を凝視していて

周囲の兵士達を含め、彼女を助けようとする気配もない。


「グ、グハッ、ハァ、ハァ、た、助けて…」

「さぁ、そろそろ力も尽きてきた頃だねぇ。

 触手の浸透度合いがそろそろ10%に達しそうだから、それからはすぐに楽になるよ」

ジェイコブが何を言っているのか、もう理解出来なくなってきたが

それでも彼女の中の感情の昂りは、彼女の身体の外にある”何か”を動かせそうな気がしていた。


(も、もう少しで…●●が開けそう……あとちょっとで……って、●●って何だっけ……いや……どうでもいいから……開きさえすればいい……早く……)

そうしている内に、彼女の右手はじわじわと仄かな光を放ち始めつつあった。


「ふふふ、そろそろ実験の次の段階に入っても構わないかね。構わないよね。

 その防護服に電極を仕込んであるんだ。君の身体を通して”バイオメカノイド”に

 電気を流して見たいんだけれど、良いね?問題ないね?」

「いや…止めて……」

「じゃあ開始するね」

ジェイコブの指が、ゆっくりと電極のスイッチに触れていく。


(いや……止めて……!止めて止めて!!くそっ……あと少しで●●に届いて開けそうなのに……届け……届け……届けぇええええええ!!!)


次の瞬間、檻のある建物全体がフラッシュを焚いた様な強い光に包まれた。




ドゴォォォン!!!


建物が光に包まれた直後、建物の上というよりも地下基地の真上で大爆発が生じた。


「な、何が起こったぁあ!?」

ジェイコブが叫ぶ。まさか電極のスイッチを入れたせいかと一瞬考えたが、

スイッチは入っていない事を改めて確認する。


「おい!何が起こったのか確認しろ!!」

ジェイコブは周囲にいた兵士に命じたが、兵士達の持つ通信機にも障害が生じているらしく、他の部隊と上手く交信できないらしい。

そこで自分用の基地内専用スマホを持っていた事を思い出し、スマホを起動させる。


「ハローハロー、こちら技術分析部のジェイコブだ。

 何があった?今の爆発は何だ?分からない?他部署と連絡が取れない?おい聞こえないぞ!!もしもし!?応答しろ!!クッソ!!」

ジェイコブのスマホも通話不能となり、彼は怒りのままにスマホを地面に叩きつけた。

しかし天井の方に異様な気配がして、思わず天井の方を向いた瞬間。


ドゴォォォォォンン!!!


またしても大爆発が、今度は建物の天井で発生し

建物の破片が猛烈な勢いでジェイコブ達のところにまで降り注いだ。

「ウワァアアアアアア!!!」

ジェイコブや兵士達が大慌てで逃げ惑う中、檻のそばにうずくまっていた明日香は奇妙な声を聞いた。




『司令官ドノ。助ケニ参リマシタ。サァ、ソノ「鍵」ヲカザシテ、私ノ名ヲオ呼ビ下サイ」


(……司令官ですって?司令官って何?私のこと?)


『ソウデス、司令官。サァ、「鍵」ヲモッテ私ノ名ヲオ呼ビ頂ケレバ、私ハ貴方ノ意ノママニ働キマス』


(……けれど、貴方の名前なんて、知らないわ……)

しかしそこで、明日香はかすかに月で発見した”遺跡”の事を思い出した。

(そういえば……あの遺跡に……何か書いてあったような……なんて書いてあったっけ……)


『司令官、ソレデス。サァ、オ呼ビ下サイ』

なおも呼びかけるその声に、彼女は何とか応えるために思い出そうとした。

(だめ……思い出せない……激痛で……でも、確か……ええと……)

明日香は月面調査の事を最初から思い起こそうとした。

(確か…あの二人と……ローバーに乗って……洞窟をくぐり抜けて……)


その間も、兵士達が建物の天井から侵入しようとしてきた”何か”に向かって次々と発砲していく。

天井のチリや破片、それに薬莢が彼女の体に降り注ぐ中、彼女は記憶を必死に思い起こした。

(あの遺跡を見つけて……周囲を巡って……鍵みたいなのを見つけて……鍵?

 そういえば……鍵の表面にも何かが書いて……表面……遺跡……っ)


そこまで思い出した時、天啓の様にその名前が浮かんできた。

(そう……!あの遺跡、いいえあの宇宙船の名前は、スサノオ、『須佐ノ男』号!!)

明日香がその名前を念じた瞬間、彼女の右手がフラッシュのように眩く光った。




『ハイ!!司令官ドノ!!』


そう彼が明日香に向かって応答すると

建物の天井からグゥンと二本の”腕”が明日香の方に向かって伸びてきた。

一方の”腕”が明日香の体を包み込む様にして持ち上げつつ、

反対の”腕”が一瞬にして檻ごと”バイオメカノイド”を叩き潰してしまった。

叩き潰した衝撃で、檻の金属フレームの一部が吹き飛び

建物の隅に逃げ出したジェイコブの体に運悪く衝突し、ジェイコブは即死した。


”バイオメカノイド”の機能が消失すると共に明日香の身体に絡みついていた触手も、スルスルと解けて離れていく。




程なくして、建物の周囲を囲むように米軍の特殊部隊が集結した。


「一体あのロボットみたいな奴は何なんだ!?」

部隊指揮官が生き残りの兵士を問い詰めるが、まともな答えはまず返ってこない。

「申し訳ありません指揮官。

 あの”バイオメカノイド”を調査していた研究チームもろとも、あのロボットによって潰されてしまったので…」

「何たる事だ…」


そうこうしている内に、建物というかこの地下基地空洞の真上にある地上施設が、上空より襲来する未確認飛行物体によって次々と破壊されていると報告が入る。

この真上は丁度グルームレイク空軍基地と称される欺瞞用のハリボテ施設があるばかりで、万一破壊された所で実質的な被害は無いのだが、この巨大ロボットのように地中を掘って侵入されると大問題である。

「うむ、それでは目標の鹵獲は不可能とし、目標の完全破壊に切り替える!!

 総員、兵装使用自由ウェポンズフリー!!構え、撃て!!」


兵士が建物ごとロボットを攻撃すべく、ミニミ短機関銃やSMAWロケットランチャーなどを繰り出して、次々と銃弾や砲弾を建物内に打ち込んでいった。

しかし、ことごとく手応えが感じられない。

それどころか、そのロボットが首を回して顔の真正面に空いた様々な銃口から運動エネルギー兵器による反撃が開始されると、その周囲に集結していた兵士達が次々と吹き飛ばされてしまう。


「たっ、た退避ィ!アガハァッッ!!」

兵士達はなすすべも無く、ロボットの砲撃によってことごとく沈黙させられてしまった。

更には顔を上に向けて、元来た道(空洞)をもっと大きくするためか物凄い勢いで砲撃していった。




「う、ううっん……」

明日香が目を開くと、目の前には巨大なロボットの顔があった。


「きゃっ!?」

『驚カナイデ下サイ、司令官。モウ大丈夫デスカラ』


「ふぇっ?…もしかして、あ、貴方が、『須佐ノ男』号?」

『ソウデス。私ハ孝元参拾伍年ニ竣工シタ、キホ-壱拾八番 須佐ノ男号 デス。

 正確ニハ、コノ機体ハ本体カラ分離サレタ端末デスガ』

「こ、孝元参拾伍年って、いつの事なの?」

『今カラ、二千百九十地球年ホド前ノ事デス』

「2190……って、弥生時代!?」

『ヨク分カリマセン。ソレヨリモ、オ身体ハ大丈夫デスカ?』


そう言えば、明日香の体のあちこちがあの怪物の触手に食い込まれていた筈なのだが

すっかり痛みも無くなり、それどころか傷跡さえ見当たらなかった。

「あれ、不思議!?どうして??」

『司令官ノ右手ニ収マッテイル「鍵」カラ修復医療ナノマシンガ放出サレテ、オ身体ヲ治療シタノデショウ』

「ふぇっ!?ナノマシン!?......っていうか、右手の鍵って」

そう言えば、遺跡調査時に拾った奇妙な遺物が、右手の中に吸い込まれていったのを思い出した。

「これって「鍵」なの!?」

まだ右手の中でほのかに光る棒状の何かを凝視すると、かすかに結晶というか電子回路の様な模様が浮かぶ。

『ソウデス。ソレガ”司令官”トシテノ証デアリ、司令官適性ヲ証明スルモノデモアルノデス』

「司令官適性?」

『具体的ニ言エバ、”遺伝的特性”デス。貴方ガタノ言イ方デ言エバ、血筋トデモ言ウノデショウカ』

「遺伝……血筋」

明日香にはよく分からないが、とにかくこの巨大なロボットに認められたのは確からしい。


「で、私をどうするの?なんかこんなに施設を破壊しちゃったけど」

『ソレハ貴方ガオ決メ下サイ。私達ハソレニ従イマス』

「はぁっ、私が決めるって言っても……ん?今、私”達”って言った?」

『ハイ。私以外ニモ十六隻ノ眷属ガイマス』

「じゅ、16隻?っちょ、ちょっと待って。じゃあその眷属の皆さんは……」




『コノ基地ノ上空ニテ、基地ノ敵性部位ヲ破壊シナガラ待機中デス』


「えぇえええ!?」 

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