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25-2  とある観光客達の帰還

「お土産、ちゃんと持ったか?」

「ははっ!もちろんバッチシだよー!!」

「ご近所さんに配る分もちゃんと買ってあるわよ」




『イヴァゥト-86』の第一中央市郊外にある宇宙港にて、シアラの両親であるサリサとミアナが竜司達との別れを惜しんでいた。

彼女らの背後には時空探査局差し回しの輸送船が待機している。

先の”1X年次戦役”で使用して余った”バイオメカニカルプラント”を積載していて、これから彼女らと共に実家があるリャート63-9星系の方へ移送される予定だ。


サリサとミアナが名残惜しそうにシアラを代わる代わる抱きしめていたが、見送る方のシアラの顔はどことなく晴れ晴れとしていて

両親と離れる事が出来る嬉しさを、無理矢理しかめつらしい表情で押さえつけようとしているのが見え見えだった。


「なぁんだよースレナーー!

 もっと悲しそうな顔をしろよぉーーー!!」


サリサがシアラを抱きしめていたはずが、いつの間にかチョークスリーパーに切り替わっていた。

「うげげげげげぇ!!ちょ!ちょっとサリサ苦しい苦しいって!!」

「いーじゃないかよぉー!

 親子のスキンシップは当たり前だろぉーー!!」

「だっ、誰か止めてくれぇーーー!!」


「あらあらまぁまぁ」

「ははは…」

「これも一つの愛情表現ってヤツなんだねー」

「うむ、なんとも羨ましき事かな!」

竜司達は、二人を遠目に眺めて批評するだけで、何も手出しする気がないようだ。

ミアナですら微笑ましそうに眺めるだけなのだ。


「はぁっ…

 申し訳ありませんがサリサさん、そろそろ出発のお時間かと思いますので…」

仕方ないとばかりに、神崎がサリサを止めに入った。


「おっ、そいやそーだねーハハハーー!!」

「はぁあ…ゴホッゴホゴホッ!」

サリサからようやく解放されたシアラは、

喉をさすりながら苦しそうに咳き込んだ。




「まったく…この二人は本当に私の親なのかと

 常に疑問を抱かざるを得ないものだ」


シアラが如何にも訝しげそうに言うと、サリサとミアナが反駁した。

「えー確かに私とミアナの遺伝子と知識伝達子を掛け合わせて生まれたのは間違い無いんだけどなー」

「そうねぇ、いつから貴方はこんな気難しい性格になったのかしらねぇ。

 兵役から帰ってきた時かしら?

 そう言えばサリサ、貴方も昔は兵役から帰ってきた頃はピシッとした性格で格好良かった気がしたわ」

「おいおいミアナー、私は普段からピシッとしてるつもりだけどなー!

 つまりは、着実にスレナにも私の性格が受け継がれているという事なんだなーーハハハーーー!!」

「何事にも丁寧な所なんかは、私の性格も受け継いでいるかしらねぇ」


両親の言葉に、シアラが思い切りブンブンと顔を横に振った。

「いやいや、もっと前からなんだが…

 私はこの両親を反面教師にして育ったと言っても過言ではないぞ…」




竜司達は、シアラとこの両親の掛け合いを眺めつつ、

両親が地球日本にやって来てから今日までの事を振り返って思い出していた。

そう、竜司達もシアラと共にこの二人の地球日本観光に付き合っていたのだった。




 * * * * *


「をおおおっ!!

 ここがあの有名な、東京名物浅草寺かぁーーっ!!」


「こっこら、あんまりはしゃぐと周りの人達にぶつかるから止めろって!」

「うはぁーこれが雷門の提灯かぁーー!デカイなーーーハハハ!!」

「あわわわ!!ジャンプして無理やり触ろうとするなぁあああ!!」




シアラはまず手始めに、

東京でも有数の観光地である浅草寺に連れて行く事にした。

まさか地球人達が一杯集まって居るような所で、自分達の正体がバレるような派手な事はしでかさないだろうと思っていたのだ。

しかし到着から1分もしないで、その考えが浅はかだった事に気付いた。

興奮しまくったサリサ、そしてそれにつられる形でミアナも人混みの中ではしゃぎまくって大声を上げたり、そこらじゅうの物に触ろうとしたのだ。

シアラや竜司達はその度に、二人の行動を止めたり周囲へ謝ったりしていた。


だが、流石は国際的観光地というべきか、周囲の人達(観光客だけでなく、通りの店舗にいる店員や寺の警備員など)も

はしゃぐ二人を見慣れているとばかりに生暖かい目で遠巻きに見守るだけだった。

確かに最近は浅草寺だけでなく周辺にある仲見世通りなどの観光街も、来場者層が国際色豊かになっているように思える。


「はぁ…もう疲れた」

「大丈夫か…?まだここに来て10分と経ってないけど」

「いやもう精神的疲労がな…」


「それじゃ、サリサさん達は私が案内しとくよー!」

通りの脇にあるベンチにへたり込むシアラに山科が手を挙げた。


「うむ…そうしてくれるとありがたい…」

「山科さんだけだと不安だから、私も一緒について行くわ」

「えー少しは信用してよーブーブー」

二人はそう言いながら、通りの向こう側に行きかけたサリサ達を追っていった。




「お疲れ、シアラ。

 これ、食べるか?」

と、竜司は大きくため息をついているシアラに串の一本を差し出した。

「ん?これは?」

「こいつはここの名物、きびだんご串と、こっちは冷やし抹茶な」


シアラがその串とお茶の入ったカップを手に取ると、

まず団子を一つ頬張ってみた。

「…!!」

無言でパクパクと勢いよく食べるシアラを見て竜司が笑う。

「ははっ、そんなに急いで食べると」

「…ンぐっ!!」

「ほら、言わんこっちゃない」


シアラは急いでもう片手にある冷やし抹茶を口にすると、

えも言えぬ恍惚とした表情を浮かべた。

「なっ?美味いだろ?

 まだ串は何本かあるから、ほら」

と、竜司が差し出すもう一本を受け取り、一瞬で食べてしまった。


そうすると今度は竜司の反対側にいた東雲が、別の紙の包みを差し出した。

「これもオススメですな。

 浅草海苔で包んだ出来立ての手焼きせんべい」


シアラはそれも東雲から受け取ると、無言で一気にパリパリと食べ切ってしまう。

「うむうむ、やはり我のオススメも良きかな!」


「というかシアラ、実はお腹減ってたとか?」

「うむ…実を言うと、

 今朝は二人を観光地に連れて行く不安で食事も喉に通らなくてな…」

「ははは…」

「だが、ようやく二人が視界から居なくなると、途端に腹が減って来てしまった」


シアラが改めてハァッと大きなため息をつくのを見て、竜司が思い立った。

「よっし、じゃあどっか食べに行くか!

 とは言ってもこの辺りじゃどこも観光地価格だし、むしろ食べ歩きした方が色々美味しいものが食べられるけどな」

「うむ、私もようやく元気になって来た所だから、食べ歩きも大歓迎だぞ」

「おお!ならば共に参りましょうぞ!!」

東雲が時代がかったような口調で言うと、二人とも頷いた。




浅草の街をぐるっと一回りし、

竜司達が神崎達との待ち合わせの場所に来てみると

シアラが抱いていた最悪の予想よりも更に斜め上の出来事が待っていた。


「…は!?

 警察に捕まったってぇ!?」


山科がひそひそと三人に耳打ちすると、竜司が思わず声を上げてしまった。


「しっ…!」と、山科が口に指を立てて注意する。

「一体何をやらかしたんだ…」シアラが呆然と口を開けたまま空を仰いだ。


「それでさ…今、神崎ちゃんが二人に付き添って交番に行ったんだけど…」

「ん?交番?警察署とかじゃなくてか?」


「実は私も、詳しい事情は知らないんだけどさ、

 ウチらが目を離した隙に、サリサさんが他の観光客らしき人達と何か揉め事を起こしていたみたいなんだよね。

 それで、詳しい事情を聞きに神崎ちゃんが今交番に行っていると言うわけ。

 詳細が分かり次第、こっちに連絡を寄越す事になってんだけどね」




「いやー!お待たせしちゃってゴメンねゴメンねーハハハーー!!」

「ご心配おかけしちゃって、申し訳ないわねぇ」


「なな、ななな何がゴメンねだぁ!!

 こぉの-||=|-==|||-===|-=|||=|-|||==|=|=||!!!」


神崎に付き添われたサリサとミアナがニコニコしながら竜司達との待ち合わせ場所へ戻って来たのを見て、

シアラが額に青筋を立てて叫びながら二人に詰め寄った。

言葉の最後の方はもう地球日本語ではなく、シアラ達の地方語での罵倒文句が次々と繰り出されまくっている。


「あーあーはいはい!分かったよ分かったからーー!!」

「スレナ、落ち着いて話を聞いてちょうだい」

二人が興奮するシアラをなだめると、

先程起こった出来事を全員にかい摘んで話した。




二人が仲見世通りを歩いている途中で、とある老夫婦とすれ違った。

どうやら遠方から観光に来たらしいその老夫婦は手提げカバンを持って歩いていたのだが、初めての浅草観光に夢中で手元の注意が疎かだったらしく、

サリサ達二人の目の前で、その老夫婦のカバンが突然ひったくられたのだ。


ひったくった男はそのまま人混みの間を縫って走り去っていったのだが、

ここでサリサがとっさの機転でその男を追い掛け始め、

ミアナも老夫婦の元に駆け寄って、慌てふためく二人を落ち着かせた。


サリサは器用に人混みを避けつつ、猛ダッシュで瞬く間に男へと追いつき、

そしてひったくられた場所から300mほど離れた大通りの先で、男にタックルを仕掛けて見事倒す事に成功したのだ。


しかしここで、引ったくりの瞬間を見ていなかった周囲の人達に不審がられてしまったのが良くなかったようだ。

馬乗りになって犯人を羽交い締めにしているサリサを、誰かからの通報でやって来た警察官達が更に押さえつけたのだった。


「ぐっうぇええー!?

 わ、私じゃないぞーー!こいつが犯人だーーー!!」


流石に慌てて叫ぶサリサを警察官は逃亡の意志ありと見て、そのままガッシリと押さえつけたまま手錠を掛けようとした。


「ちょ、ちょっと待って下さい!!はぁ、はぁ」

そのままパトカーに乗せられてしまいそうになった所へ、サリサの後を追って何とか追いついた神崎が息を切らしながら事情を説明したところ、

ようやく手錠を掛けられて誤認逮捕されるのを免れる事が出来た。


ちなみに犯人の男はと言うと、サリサが警察に捕まりかけたお陰で羽交い締めから解放されたので、再びその場から逃亡しようとした。

しかし神崎が機転を効かせて、駆け出す男の足元に小さな”ホール”を生成させた。

走り出した男の片足が丁度その”ホール”にハマって体勢を崩して思い切りずっこけ、

しかも”ホール”にハマった足は男からすると、急に足首から先がスッパリと鋭利な刃物で切り落として無くなったかのように見えるので

男はパニックになって路上にゴロゴロと転がりながら悲鳴をあげた。


そこでようやく事情を把握した警察官によって男は取り押さえられ、無事現行犯逮捕となったのだった。

サリサ達はその後、警察による事情聴取の為にその老夫婦達と共に交番へ行っていたという訳である。




「全く…そういう事情があったとしても少しは自重をだな…」

シアラは理由を聞いても、まだ納得がいかないらしくブツブツと呟いた。


「まぁまぁ、仕方ねぇって。

 目の前で犯罪に巻き込まれてたら助けないわけには行かねーだろ」

「それは…まぁ」

竜司の諫言に、シアラもしぶしぶ頷く。


「そーそー!

 あの夫婦の人達もすっごい感謝してくれてたんだよねーー!

 そんで、さっきこれを私達にってさ」

サリサが服のポケットからピラっと取り出したのは、ペア用のスカイツリー展望デッキ割引券だった。

どうやら、東都鉄道の株を持っていると貰えるものらしい。


「おおっ、マジで!?スゲー」

「もちろんこれは、サリサさんとミアナさんへの謝礼という事ね」

「なるほど、老夫婦は株主でもあったのだな」

「それじゃ、この後でスカイツリーに行ってみよーよ!」


「スカイツリーというのは何かしら?」

ミアナの問いに、シアラが東の方を指差して答えた。

「あっちに銀色の塔が見えるだろう、あれがスカイツリーだ」

「へぇえー!割と高いタワーなんだねぇーー!」

「ああ、全高634mで東洋一だそうだ」

「よっしゃ、いっちょ行ってみますかーーハハハッ!!」


そういうわけで、思わぬ事件に巻き込まれたものの

竜司達は予定に無かったスカイツリー登頂を楽しむ事が出来たのだった。




 * * * * *




また、プールアトラクション遊園地である東京サマーパークへ、二人を連れて行った事もあった。

実はシアラや竜司達は、8月末に一度行っていたのだが

それを聞かされたサリサ達が、自分達も連れて行けなどと駄々を捏ねてしまったので、仕方なく今年2度目のサマーパーク行きとなったのだ。


「まぁ、まだまだ残暑がキツい日々が続いているから丁度良いのかもな」

「サマーパークは遊園地もあるし、意外にも1日じゃ回りきれないんだよねー」

「そうね、お金はオクウミさんの方からも頂いているわけだし、折角だから私達も楽しみましょう」

「やはり鉄オタとしては、あのアドベンチャートレインに乗らずしてサマーパークを制覇した事にならぬのでな!!」

「それは東雲だけだろ…」




竜司と東雲が水着に着替え、更衣室から出てきてその前でしばらく待っていると、程なくしてシアラや神崎達が更衣室から出てきた。


「おおっ…!」

「な、何よ…そんなにジロジロ見ないで頂戴…」

神崎の水着は、純白の生地に幾何学的なアクセント柄が付いた紐ビキニで、スレンダーで色白な神崎のスタイルによく似合っていた。


「あーいや、そんなに隠そうとしなくても良いんじゃね?

 むしろそうする方が注目を浴びやすいっつーかさ、もっと堂々としてりゃ良いと思うんだけど」

「いえ、別にそんなつもりは…でも何というか…」

と、神崎は隣にいる山科の方にちらっと横目を向けた。


「おやおやー?東雲ちゃーん、そんなにこの胸に興味がおありでー?ほれほれー、ほーれほれー」

「オオゥフ…!」

山科は、トロピカルな花柄の生地にフリルが付いたビキニで巨乳を包み込んでいて、かなり扇情的と言えなくも無い。

その胸を東雲へ惜しげもなく押し付けてくるので、東雲は鼻血を出しそうになりつつ顔を必死に背けた。


「なるほど、神崎は山科と比べられrゴホオォ!!」

言葉を続けようとする竜司の腹に、神崎のボディブローが綺麗に決まった。


「何をやっているのだ、お前らは…」

竜司が悶えているところへ、着替え終わったシアラがやってきた。

シアラは上下セパレートでビキニタイプのスポーツ水着を着込んでいる。

引き締まったシアラの体型に、黒の水着がしっかりとフィットして見えた。


「あれ?サリサさんとミアナさんは?」

「来ていないという事は、まだ着替え中だと思うのだが」

「へぇ、やっぱり地球の水着を着るのに慣れてないんかね」


そう言って竜司が更衣室の方を振り向くと、

丁度そこにサリサとミアナが出てきた。


「おっ、ようやく二人が出てきた。

 おーい、こっちこっちー…

 ……!!」


竜司が顔をみるみる間に真っ赤にさせているのに気付き、

シアラも更衣室の方を振り向くと、そこで絶句した。




「おー、お待たせーー!!

 ん?どしたんーー?」

「あらあら、皆さん、そんなに顔を真っ赤にされてどうしたのかしらねぇ?

 まさかこれが熱中症というものなのかしら?」


サリサとミアナが首を傾げながら竜司達の方を見て言う。

逆に、サリサや竜司達は全員顔を真っ赤にしながら口を鯉のようにパクパクとさせているが、声が全く出せないでいる。

しかもどういうわけか、更衣室の周りにいた来場者の人達も二人の姿に気付き、ほぼ全員が驚いたかのように二人を凝視していた。


「………ハッ!!!」


何秒か経ってようやく我に気付いたシアラが、二人の手を取って強引に更衣室へと引き返させた。

「ちょっ、ちょっと二人とも更衣室に戻れぇーーー!!」




更衣室に連れ戻された二人は、何があったか分からず目をパチクリさせていた。


「ふ、二人とも何でこんな水着、いやこんな変な布っキレを付けてんだっっ!?」

「ええー、そんな変じゃ無いでしょーアハハーー!」

「つか、ここの鏡でもう一度自分の姿をよく見てみろっての!!」


二人は更衣室備え付けの姿見で、自身の姿を見回した。

「そんなに変かなーミアナ?」「変じゃ無いわよねぇサリサ」

「変どころか変態だーーーっ!!」

シアラが思わず叫んだ。


何しろ、まずサリサの水着はいわゆるVストリングという紐だけで形作られたもので、デリケートな部分を隠すのは正に紐一本しかない。

ミアナの水着も布地が極小のマイクロビキニで、やはり危険な部位がギリギリで見え隠れしているのだ。


いずれもよく焼けた小麦肌のサリサや豊満なミアナのスタイルによく似合って…

いや、どう見てもこんな格好でプールに行けば、猥褻物陳列罪で警察に通報されかねないだろう。


「二人とも、どこでこんなん見つけてきたんだよ…」

「いやぁ、あの近所のオーパって商業施設にある水着屋さんに行ったらさー、店の正面にあるマネキンがこういう水着を着ててさーー、

 ウチら、それでビビッときたんだよねーー!!」

「絶対に似合うと思ったのよねぇ」


「あぁ、二人だけで買い物に行かせるんじゃ無かったよ……」

シアラはほとほと疲れたと言った体でその場に蹲み込んで深くため息をついた。


「とりあえず、すぐにそれを脱いでくれ…

 それで、更衣室の外にも水着の売店があるから…

 そこでまともな”普通の”水着を買って着替えてくれないか…」

「ええー脱いだら全裸になるじゃーん?って事はさーそれじゃー全裸のままで水着を買いに行けって事かなーー?」

「服に!着替えてから!行けって!!」




そういうわけで、ようやくまともな水着に着替えさせてプールに入る事が出来たのは、それから1時間も経ってからだった。


 * * * * *




「…まぁ、俺達もお二人が来てくれたお陰で、この一ヶ月ほどは結構色々と楽しませてもらいましたから。

 少し寂しい気もしますね」


竜司が手を差し出すと、サリサもガシッと力強く握手を返した。

「そーかーそーかー!

 スレナとは違って、君達はほんっとーに素直で礼儀正しくて大変よろしい!

 こっちも君達と別れるのは寂しーよーー!!

 でも会おうと思えばまた会えるからねーー!!」

「ええ、是非また地球に来て下さい!」


続けて東雲とも握手をすると、東雲が顔をグシュグシュにしながら泣いていた。

「Oh…!!お二人の女神のごときあの裸身は生涯忘れませぬ…!!」

「お前はなんつー失礼な事を思い出してんだ」

竜司が東雲の後頭部を小突いた。

「いやいやー!それほどでもーーハハハーーー!!」

「…まぁサリサさん達が嫌じゃなきゃ良い、のか…?」


「サリサさーん!ミアナさーん!」

山科が大げさなほどの身振りで二人それぞれとハグをする。

「また会おうぜーーい!!」

サリサも大げさなほどに山科へハグを仕返した。

何しろこの二人は、妙なところでテンションが近いので気が合うようだ。


「プラントの提供、本当にありがとうございました」

「あらあら、いいのよ。

 あのままでもどうせサリサが栽培し切れなくなって伐採されてしまっていただろうし、それなら有効活用してもらった方がよっぽど良いわ」

神崎が感謝の意を述べると、ミアナも微笑みながらそう返した。


「えーそー言うなよーー!

 役に立ったって事は私に先見の明があったって事じゃーーん!!」

サリサが横からブーブーと抗議する。

「役立ったのは間違いありませんわ。

 実際、あれが無ければ本当に地球はどうなっていたことか」

「だしょーー!?ヴイっ!」

「あらあら」

神崎の言葉に大いに頷いたサリサがミアナに向けてVサインを向けると、ミアナもやれやれとばかりに首をすくめながら微笑みを返した。


「…まぁ、それだけは本当に感謝している」


シアラがボソッと言うと、それを聞きつけたサリサが目を潤ませてまたもシアラをガッシリと抱きしめた。

「スレナが感謝の言葉を口にしてくれたぞーーーっ!!

 それを聞けただけでこっちもココに来た甲斐があったってもんだよーーー!!」

「ぐげぇあああだから首を締めるなぁあ”あ”あ”グブブグ!!」


「あ、シアラが白目になって…」




竜司達が気絶しかけたシアラを介抱している間、

輸送船の船腹にある格納庫へ新たな貨物が次々に搬入されていった。


「あの荷物も一緒に持っていくのですか?」

神崎が訊くと、ミアナが頷いた。


「何しろ、惑星エレストラのご近所さんへお土産をお配りしたいでしょう?

 そうなると、お土産の量もあれ位にはなっちゃうのよねぇ」

「えぇ…一体どれだけ積み込んでるんですかあれ」

「そうねぇ、ウチからだいたい半径1000km四方にある村落や街のお付き合いがあるご家族だけでも、だいたい10万世帯くらいかしらねぇ」

「じゅ、10万世帯!?」竜司が目を丸くした。


「いや、それだけの家庭に配るのにもすごい時間掛かりそうですね…」

「あらあら、そうでもないのよ。

 ウチにいる召使いの人工知性体ドロイドがパッと配りに行けちゃうから」

「は、はぁ…そういやロボットが居ましたね」


荷物の中身は、浅草やその他東京近県の観光地にある伝統工芸品やら、日持ちのする菓子や惣菜などの食品類、ゲーム機や家電や本やDVD等もあり、

仕入れは個人では到底手に負えず、結局オクウミを通じて『レイウァ計画』事業本部傘下で発足したばかりの交易事業局(仮)の手を借りたという話だ。

流石にこれだけの量だと購入額もとてつもないものになりそうだが、それも事業本部の方で出ているらしい。

オクウミ曰く「これは交易手法を試行錯誤していくテストケースの一環でもあるので、逆に助かる」との事だったが。




荷物が全て輸送船の中に搬入されると、いよいよ輸送船のエンジンが始動し始める。出発時間の合図だった。


「そんじゃー帰るねーー!みんなありがとーー!!」

「皆さん、ありがとうございました」


「げほっげほ…いいからはよ帰れ」

シアラが苦しそうに首をさすりながらそっけなく言うと、サリサがニヤリと笑いながらまたシアラのほうに手を伸ばそうとする。

「うわっまたかよっ…

 …?」


また技を掛けられるのかと思い、反射的に首をすくめたシアラの頭を、

意外にもサリサはぽんぽんと優しく撫でた。


「仕事、無理せず頑張れよー」

「…ふん」

シアラは何を思ったのか、少し赤くなった顔をサリサに見せないよう横に背けた。


「スレナ、たまにはまた帰って来るのよ?」

「…ん、善処する…」

シアラも心配そうなミアナの言葉にはとりあえず素直に頷く。




二人が船内に入ってからすぐに輸送船は浮上を始め、

竜司達が大きく手を振るのに合わせて輸送船が空中で少しバンクしたかと思うと、虹色の光輪ハローを空に残しつつ、

あっという間に第七星門ゲートの方角へ向かって飛び去っていった。

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