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21-1  委員会会合

「………という事で、

 ”月軌道アノマリー”についての中間報告は、以上となります…」




巨大な丸い部屋の中心に据えられた円卓を囲んで数十人の男女が着席し、

陰鬱な顔を突き合わせるようにして、立ち上がった一人の軍人が語るレポートに耳を傾けていた。


しかし彼らのうちの何人かは、正直こんな重苦しい”委員会会合”をさっさと終わらせて、この会議場の真上に広がっている常夏のビーチで余暇を満喫したい気分で一杯だった。

何しろこの会議場は、”機関”が直接管理するカリブ海沖の離島にある1万年以上前に建造された古代遺跡の地下遺構を改造し、地下数百mという深くに設置された地下施設にあるのだ。

会議場のフロアにある高速エレベーターを使えば、数分で地上のカリブ海を望むビーチリゾートに行く事が出来る。


本来ならここは、”機関”において緊急でない議題を、腰を据えてゆっくり話し合う為のシンクタンク用施設に過ぎないはずだった。

また業務を終えたエージェント達が余暇を楽しむ為の、”機関”にとってのリクリエーション施設でもある。

今彼らが話しているような緊急議題を含めた”会合”は、今までであれば北米レーニア山の大深度地下にある地下都市「テロス」内に建てられた会議用ビルで行われていた。

当然その方が、地球上で最もハイレベルな機密保持が得られていたのだ。


しかし、先日に発生した「テロス」内での大規模な”部品”達の反乱、それにより「テロス」のみならず周辺の地下都市ネットワーク全域が暴徒による放火と破壊活動によって灰燼に帰してしまったのだ。

流石の”機関”もこの事態には動揺したものの、直ちに”機関”の主機能、特に”委員会”の中枢をそのカリブ海離島の地下基地に移転させた。

現在は北米における地下都市ネットワークの再構成と復旧を急がせているが、異星技術を含めた最新の土木技術を傾注したところで完全復旧にはあと半年は掛かるだろう。


そもそも”部品”がなぜあのタイミングで反乱を起こしたのか、その原因ですら全く掴めていなかった。

当時の「テロス」における電子・電気的セキュリティがハッキングされ、”部品”を洗脳統括しているシステムがダウンした事までは分かっていたが、

どんな凄腕のハッカー(またはハッカー組織)がそれを成し遂げたのか、”機関”にも未だにその正体を掴めないでいた。


結局あともうしばらくは”機関”もこのカリブ海を拠点にして活動せざるを得ないだろうが、”機関”としては原点回帰に近い側面もあった。

何しろこの古代遺跡は、例の”レプティリアン”達が支配下に置いた古代アトランティス文明の遺産でもあったのだ。

”レプティリアン”の後裔であり、そして古代アトランティス人の末裔とも称する”機関”としては、いわば古巣に戻ったようなものなのである。




「なるほど、状況は大体理解した…

 しかし、”バイオメカノイド”は置いておくとしてもだ。

 その”エネミー”の正体が全く掴めないのは全くもって不愉快だ。

 そう思わないかね?」


円卓の上座で葉巻を燻らしている、神経質そうな顔つきの老人が

そう呟きつつ紫煙をふーっと円卓の中心に吹き付けた。

「我々が穴蔵に潜んでいる今も、こうして連中は

 太陽系をまるで我が物顔で好き勝手にうろつき回っておる。

 こんな事態は、全く許容出来るものではないな」


自身の鼻元にまで漂う紫煙に、やや渋面気味の面持ちで目を瞬かせながらも

老人から数席離れた所に座っていた合衆国戦略宇宙軍・レイノルズ大将が恐る恐る手を挙げた。


「恐れながら議長、米宇宙軍としても

 目下全力で月面の古代遺跡に展開する正体不明の結界地域、

 また反地球クラリオンポイントにて展開されている”エネミー”の宇宙要塞を

 調査中であります」


議長と呼ばれた老人がその黄ばんだ目をギョロっとレイノルズ大将へと向けた。


「あとどの位で調査は終わるのだ?」


その高圧的な声に首を竦めて萎縮しながら、

ややあってレイノルズ大将が答える。

「…およそ一ヶ月ほど頂ければ」


「本当かね?」

畳み掛けるような口調の議長に、

喉が急速に乾いたレイノルズ大将が声に詰まり、返答に躊躇していると

別の方角から助け舟の声が響いてきた。


「ああ、それ位あれば月面遺跡に関しては問題はなかろうて」

「ほう?」




議長はその声が飛んできた方を見やる。

そこには、自信満々といった体のアントノフ教授が座っていた。

月面での怪我が治ってないのか、未だ腕などに包帯が巻かれているのだが

議長の視線にも、全く物怖じせず見返している。


「ふむ、同志ウラディミル・ミハイロヴィッチ。

 その根拠は何なのかね」


いささか時代がかったような言い回しで議長が問うと

ふん、と鼻を擦りながら頷いた。

「そうじゃの、例の月面遺跡が月面全体でネットワークを築きあげて

 ”魔法陣”のような役割を果たしているという事は、

 そのレポート内でも話された通りなのじゃがね」


アントノフ教授はそう言いながら、手元の情報端末パッドを手早く操作した。

すると、会議場の壁に設置された大画面がぱっと切り替わる。


「この画像でも明らかじゃが、月面の数カ所にて”再起動”された遺跡群が

 あたかもサッカーボールの縫い目のように月面全体でネット化されて

 それが総体として、月面全体を覆う”魔法陣”として機能しておる。

 結果として、恐らくは”宇宙結界”とも呼ぶべき力場フィールドが地球-月圏全体に

 張られてしまった可能性があるわけじゃな」


手にしたレーザーポインターを使って、

アントノフ教授が説明していく。


「しかし、各遺跡群はおのおのが勝手に”再起動”して、ひとりでに遺跡同士が

 繋がって”魔法陣”を発動させたわけでもあるまい。

 必ず、どこかに統率制御用の操作システム、あるいは司令所のようなものが

 存在するに決まっているはずじゃ」


「なるほど…とすると」

「そうじゃ、モラヴェック老」


モラヴェック議長が目を見開くのに呼応し、アントノフ教授も頷いた。

「これを見出すには、月面で複雑に絡み合った魔力マギカのネットワークを

 一つ一つ紐解いて魔力回路の全容を解明する必要があろう。

 しかし我々は必ずや、その操作システムの有り処を見つけ出してみせよう」


「だが月面遺跡へは、結界のようなもので覆われていて外部からの侵入は

 難しいのではなかったかな?」

「もちろんその結界への対抗策も検討しておる。

 具体的には魔力マギカを中和する装置を開発中でな、

 これを以て結界を無力化する事も可能じゃろうて」




アントノフ教授がひとしきり自らの案について語った後、

その案を了承したモラヴェック議長は

続いて別の話題へと移った。


「…それで、重要参考人となる赤羽明日香についてだが

 本当にその”E-2275A”で目撃されたという事かね?」


モラヴェックの質問に、レイノルズ大将が再び答えた。

「恐らくそうです。攻撃直前に調査隊が持ち込んでいた定点カメラが

 攻撃後に爆心地付近へ到来した巨大ロボット1体と、

 付近の地表を歩く小柄な宇宙服姿の人影が映っていました。

 その行動パターンは、『アルファ』基地のニナ・クルツカヤ隊員による証言と一致しています」


「つまりだ…

 くだんの巨大ロボットに赤羽明日香が搭乗している可能性がある訳だな」

「はい」

「そして、巨大ロボットは”エネミー”軍に属する兵器である事は間違いない。

 とすれば、赤羽明日香を捕まえて調べれば、”エネミー”についても

 何らかの情報を得られるかも知れない、と?」

「その通りです」


「そうか」

モラヴェックは頷くと、今度は円卓の真反対にいる日系人の将校へと顔を向けた。


「赤羽明日香の親類や友人に、彼女が接触した痕跡は見つかっているのか?」

「はっ」


質問を投げかけられた国家安全保障局パズル・パレスのシマザキ大佐は、

座ったまま背をピンと直立させつつ、やや緊張した面持ちで答えた。

「その件につきましては、別途用意しましたリポートをご覧下さい」




彼がアントノフ教授と同じく、手元のパッドを操作すると

大画面に関東地方の俯瞰映像が映し出された。


「これは日本のカントウ地方のマップです。ここが首都キャピタルトウキョウ…

 そして我々が重点監視対象としている”T”がこのエリアです」

彼は、レーザーポインターで東京都西部一帯に円を描いた。


「このタマ・シティに赤羽明日香の実家と、彼女を宇宙圏オフワールドへ送り出す手引きをした

 叔母の赤羽由佳子とその一家が住んでいます」

画面は多摩市付近にズームアップし、それぞれの家にピンアイコンが振られる。


「我々は当初、彼女らに赤羽明日香が接触するのでは無いかと考え、

 エージェントを24時間体制で張らせています。

 事実、あのエリア51襲撃事件の直前にはこの付近上空に

 未確認飛行物体アンノウンが墜落したとの報告があり、

 回収部隊を急派したところ、”何者か”に妨害される異常現象もありましたので

 その蓋然性は高いものと見込んでいました」


画面が切り替わり、少女の顔写真と履歴が映し出される。

「また、赤羽由佳子の実子である赤羽竜司に接触する可能性も考慮し、

 彼と同年代である特殊工作員”クピドー”を彼の通う高校へと転校させており、

 ”クピドー”にも彼とその友人達を常時監視させています」


”クピドー”…桜木亜美の顔写真を

睨みつけるようにして見ていたモラヴェックは、再び円卓の方を向いた。


「それで?今はどうなんだ?」

前置きが長いとばかりに眉を顰めて睨むモラヴェックに、シマザキ大佐は

手を汗でびっしりと濡らしながらも何とか声を震わせずに答えた。


「はい、実のところ成果…赤羽明日香が彼ら親類筋に接触した痕跡は、

 今のところ全く発見出来ませんでした」


画面が再び関東地方全体の地図に切り替わった。

「さらに、当初は”T”エリアだけかと思われました異常現象…

 すなわちエージェントへの奇妙な”力場フィールド”等による妨害行為は

 このカントウ地方だけでも十数か所で発生するようになりました」

ピンアイコンが関東地方全域にパラっとばら撒かれた。

そのピンが立っている箇所が、その異常現象が発生した場所なのだろう。


「さらに調査を進めた結果、この現象はカントウのみならず

 日本全土、つまりホッカイドウやオキナワなど各地でも発生しつつあります」


古代日本において”帝国”が設置した”防衛免疫システム”は

外敵(異星人軍)の侵攻に対抗する為、日本全土の空域を網羅する事となった。

そして今では再起動を経て『ラライ・システム』へと進化し、

日本全土を本格的に守護する役割を負っている。

シマザキ大佐の言う”奇妙な力場”が日本各地で検出されているのは

『レイウァ計画』の進行に伴って『ラライ・システム』の活動を活発化させている影響でもある。


「これらの事象の変化を総合的に捉え直しますと、

 もはや”T”一箇所だけではなく、日本自体に何らかの異変が発生しつつあると

 考えざるを得ないでしょう」


「日本政府はどうなんだ?

 この一連の現象について、日本政府は果たして把握しているのか?」

「はい…実を申しますと

 日本政府は昔から、この現象の存在に気づいていたフシがあります」




大画面が、日本政府の組織図を表示した。

「日本の内閣キャビネットには、直接傘下に置いている情報機関として

 内閣情報調査室が存在しますが、その中の1部門に特別事象調査分室という

 主にオカルティックな事象を取り扱う部署があります。

 ここと我々”機関”傘下にある米CIAの特殊現象分析部は、

 一定の交流を保ちつつも互いに腹の中を探り合う関係です」


ここでモラヴェックは、円卓をぐるっと見回した。

「おい、へスパーCIA長官は来てないのか?」

「例のISIS問題に対処する為、

 イスラエルへ極秘訪問中です」

「ふん、ラングレーの鳩連中の言い訳が聞きたい所だったがな」

クックック、と円卓の周辺から数人の含み笑いが聞こえて来た。


画面の中で組織図がクローズアップされ、特別事象調査分室のメンバーが

顔写真入りで映し出された。

「おい、その赤羽由佳子とやらもその一員なのか」

「ええ、そうです。

 というか、そもそも彼女がこの部署を介して

 こちらの”機関”のエージェントと連絡するルートを知っていたので、

 数年前に宇宙への渡航を望んでいた赤羽明日香を

 ”機関”へと紹介出来た、というのが正確な所ですが」

「なるほどな。

 希望に燃える若者が、現実に打ちのめされて変節する例は

 枚挙に遑がないからな」


「ええ、まぁ…

 ともかく、この部署は御多分に洩れず、UFOから超古代文明まで

 あまねく様々な超常現象やオカルト問題を取り扱っておりますが

 我々の調査によると、彼らは我々に対して日本国内の幾つかの

 オカルティックな事象についての研究結果を隠匿しているとの

 結論に達しました。

 そのうちの1つが、未知の空中現象として分類された

 『未確認浮遊事象(Unidentified Floating Phenomenon)』、

 略してUFPと呼ばれるものです」


シマザキ大佐が指し示す、日本の情報機関によって捉えられた

その未知の空中現象と思しきボヤけた写真を見たモラヴェックは

ふん、と鼻で笑う様にして口元を歪めた。


「このUFPが、ここ最近の日本で我々の活動を妨害している

 可能性は高いと思われます。

 しかし、この正体については彼らにも掴めていない様ですが

 各種古代文献などから、恐らくは少なくとも2000年前の古代にまで

 遡るのでは無いかという風に推測していると見られます」


「つまり、古代に日本に居た”何者か”が

 この奇妙な力場…UFPとやらを設置したのだと?」

「そのようです」


「しかし、その情報機関は他にも色々と隠していそうだな?」

「もちろん我々も、この状況を憂慮しておりまして

 CIAへ問い合わせるのと同時に、我々国家安全保障局も独自に

 日本政府内と内閣情報調査室にある全ての情報を吸い上げている所です」




「日本か…」


と、モラヴェックはしばらく腕を組んで思案する風にした後、

紫煙を周辺に纏わり付かせつつ、独り言を呟くようにして言った。


「あの国の連中は、昔から我々にまつろわず、独自路線を取っては

 事あるごとに我々に楯突いて来たもんだ。

 あの戦争で一度徹底的に懲らしめて、それからGHQによって

 ようやく精神的支配下に置けたと思っていたら、

 またも独自路線を行く…しかも無意識でやっている様だから始末に負えん」


モラヴェックの溜息に、シマザキ大佐がぶるっと背中を震わせる。

しかしモラヴェックはもうシマザキ大佐の方を向いてはいなかった。


「ポンペイウス」

「は、はっ!」


急に名前を呼ばれたポンペイウス米国務長官は、その大きな図体を動揺させた。

そのお陰で、仕立ての良いスーツが破れそうな勢いでビシッと鳴る。


「ありとあらゆる手段を講じて、日本に圧力を掛け給え。

 何ならTPPへのアメリカ復帰をチラつかせて、

 その見返りとして日本政府内部の情報を全て吐き出させる様にするんだ。

 いいな?」


「は、はい!承りました…!」

ポンペイウスが額に大粒の汗をかきながらようやくの事で言うと

モラヴェックは満足そうな顔で頷いた。




「まぁ、いずれにしても

 日本なんぞ、我が”機関”の手に掛かれば

 下らん紙細工オリガミのように一瞬でグシャグシャに出来るからな。

 今は、偽りの独立を楽しんでいるがいい」


ニヤリと笑うモラヴェックの、その分厚い眼鏡を通して

彼の不気味な瞳がギラッと光った。

その瞳孔は、まるで古代の爬虫類のような縦長形状を呈していて

彼が”レプティリアン”の血統である事を窺い知るのに充分だった。


※文中の表現


1)”●●”と表記している名詞・単語について(慣用句や言い回し表現以外)

  は、その語彙を用いる種族・民族集団が多様で

  それぞれ異なる発音・表現を行う為、暫定的な表記法として使用しています


2)『●●』と表記している名詞・単語について(会話文での括弧表現以外)

  は、その語彙を使用する種族が決まっており

  発音・表現が統一されている為、確定的な表記法として使用しています

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