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院長といっしょ☆

 水鈴村を出て、町を2つ越したところにある「槍瀬町(やりせちょう)」。ここはこの辺りでは比較的大きな町で、「槍瀬第一病院」という大病院がある。柚莉が入院している病院は分からないが、まぁ98%槍瀬だろう。

 そして、第一病院に入る前に一つの事案を片付けようじゃないか。

「さあ、俺たちは早退してここに来た訳だが」

「……?そうですね」

 遊々城さんが不思議そうな顔をする。

 俺は溜息をつき、振り返る。

「なんでついて来てるのかな?葉刷(はずり) 道斗(みちと)君?」

「げっ、バレてたか……」

 道斗も俺の昔からの友人だ。よくりせ、俺、道斗で遊んだものだ。

「は、葉刷さん⁉︎ど、どうしてここにいるですか⁉︎」

「いや〜俺もね、鈴ヶ里さんが心配でたまらなくてね〜」

「お前この間『鈴ヶ里さんって美人でおっぱいでかいよな。そこで!鈴ヶ里さんをモデルとしたキャラクターを描いてみました!とりあえずナースコス鈴ヶ里さん、裸エプロン鈴ヶ里さん、パジャマ鈴ヶ里さんの3パターン鈴ヶ里さんです。しかし、制服以外の鈴ヶ里さんを見れたらもっと良いのが描けるんだけどな〜』って言ってたよなぁ?まさか——」

「いえいえいえいえそんな下心など全くありません!…………あっ」

「なんだよ?」

「ふふふ……いや、ふふふ……この道斗様とっておきのモノマネを見せてやろう」

「は?モノマネ?」

「ふっふっふっ……

 葉刷 道斗による、3パターン鈴ヶ里さんを見せた時の水風 雪也のモノマネ!


『なっ、お前、何を見せてやがる!ちょ、まっ、トイレ行ってくる!』」


「に、似てる……!」

「だよなぁりせ!特にこの、去り際にポケットティッシュを机から取り出す動きがポイントだ!」

「うわあぁぁぁぁぁあ!やめろぉ!違う!違うんだ!」

「あれあれぇ?全力否定じゃないですか雪也さぁん?どうしたんですかぁ?何が違うんですかぁ?」

「雪也、ちゃんと、説明して、くれないと、僕達、()()だから、分かんないよぉ」

「まさかまさかまさか、あの雪也さんの大人しーいマグナムが暴れ出したーなんてことではな——」


 ——ドコッ

 ——バキッ


「変な話をしてないで、早く柚莉の元へ行きましょうなのです」

「遊々城さん、違うんだ、俺は……」

「遊々城さん、もしかして:空手黒帯……」

「あはっ、2人とも、可愛そー」

「りせだけずりぃぞ……ごほっ」

「俺らも入院かな……かはっ」



 ☆☆☆



 痛む頰をさすりながら、俺達は受付に向かう。

 柚莉の病室、教えてもらえるだろうか。

「あ、鈴夜さんです!」

「鈴夜さん?」

 遊々城さんは『鈴夜さん』に向かって走って行った。

 俺達もその『鈴夜さん』の元に行く。

「鈴夜さん、柚莉はどうなのですか?大丈夫ですか?」

「遊々城様、それがまだ手術中でして……。お嬢様のご様子を拝見出来ていないので御座います。しかし先程、お医者様からお嬢様の足を切断するというご報告がありました」

「まあ、な、なんてことに……」

 遊々城さんは、その場にへたりと座り込んだ。

 柚莉の足が……無くなる?

 え……え……?

「ゆ……ずり?な、おい、なんで……」

「おい雪也、大丈夫か!」

「あ、ああ……」

 何言ってんだ俺は。

 頭をぶんぶんと振り、気持ちをリセットする。

 ふと前を見ると、りせが遊々城さんを支えていた。

「遊々城さん、大丈夫?」

「は、はいです……。すみません星汲さん……」

「一先ず、皆様を手術室前までご案内致しますね」

 鈴夜さんは、冷静で、どこか不安そうな声を発していた。



 ☆☆☆



 紙コップに入ったお茶を飲み干すと、やっと気分が落ち着いた気がした。ちなみにこのお茶は、さっき鈴夜さんが持ってきてくれた。

 場に流れている空気は、重苦しいものだったが、それを打ち消すかのように道斗が口を開いた。

「鈴夜さんって、鈴ヶ里さん家の家政婦さんか何かなんスか?」

「ああ、ちゃんとした自己紹介がまだでしたね。私は鈴夜 春子(はるこ)と申します。皆様の事は存じ上げております。柚莉お嬢様の家で使用人として働かせて頂いています。鈴ヶ里家本家から配属されました」

「す、鈴ヶ里家本家……。なんか、カッコいいっスね」

「ふふ、私は誇り高き鈴ヶ里家の次期当主である柚莉お嬢様の専属使用人なんです。素晴らしいでしょう?凄いでしょう?褒めて頂いても差し支えないのですよ?」

「鈴夜さん、癖が出てますですよ」

 なんか人柄変わったぞ鈴夜さん。

「鈴夜さんは鈴ヶ里家が好きなんですねー」

「いえ、私が愛しているのは柚莉お嬢様です」

「⁉︎」

「柚莉お嬢様への愛と言ったらもう言葉には紡げない程溢れております。お嬢様のあの可憐なお顔、純白のお肌、透き通った声、豊満な胸、ニーハイソックスからはみ出た太もも、いつかはお舐めしたいお足……。お嬢様はもう花顔雪膚(かがんせっぷ)、優美高妙、瑤林瓊樹(ようりんけいじゅ)、鮮美透涼、なんて形容すればよろしいのか……。ああ、まるで私とお嬢様はロミオとジュリエット。私の想いはさながらロリに純愛を抱いているだけなのに手を出せないロリコンのよう」

「最後もうちょっと良い例えなかったの⁉︎」

「……。私の想いはさながらかぁいい物を前にした竜宮○ナのよう」

「違うそうじゃない!」

「私は十○夜咲夜です」

「違うだろー!」

 その瞬間道斗はハッとして

「このハg」

 ——ドコォッ

「政治ネタは、ダメだよ、道斗」

「デジャ、ブ……だ、ぜ……」


「あの……えと……」

 俺達の目の前には、白衣を羽織った小学生くらいの男の子が立っていた。迷子か?あと今の小学生の流行のファッションって白衣なのか?いやそれはどうでもいいな。

 俺は咄嗟に笑顔を作り、

「あはっ、ごめんね変なところを見せて。気にしないで。どうしたの?迷子?」

 うん。我ながら完璧。

「あ、院長先生。お嬢様のご容態は如何ですか?」

「……へ?院長?」

「変な雪也だな。どう見ても「院長」って書いてる名札を提げてるじゃないか」

 確かに少年が提げている名札には「院長 沙々木(ささき) 吉宗(よしむね)」と書かれていた。

「普通に話しかけづらかっただけで、迷子でもなんでもありませんで。見た目は子供・頭脳は天下一、別名東の服部平事、沙々木 吉宗や」

「ちょっと名前が酒っぽい人から追われてたりしません⁉︎」

「……なんや、吉宗オリジナルのフレーズに文句あるのか?」

 絶対オリジナルじゃねえ……!

「まあええわ。んで、柚莉さんの事やな。今手術が終わったんで、病室に移動しとるで。そいで、んじゃあ涼木(すずき)は柚莉さんの病室に皆さんを案内してやって。他仲(たなか)は研修医達と手術室の片付けを。夜馬堕(やまだ)はカルテを記入してくれ」

「「了解」」

 院長先生(?)はてきぱきと指示を出す。

 これは冗談ではなく本当に院長なのかもな。

 なんでこんな小さいのに院長を……

「なんでこんな小さいのに院長を……」

「ああ、よう聞かれますわ」

「うえっ、口に出てました?」

「ばっちこい出とりましたで。まあ、理由は単純明解。吉宗の背が小さいだけや。こう見えて28歳。父親が一昨年他界なさってな、跡を継いで院長になりおったんよ」

「に、28⁉︎嘘ぉ⁉︎」

「嘘に決まっとるやろ。あほちゃう?」

 そうか。

 これが「生意気なクソガキ」というものか。

「……本当は何歳なんですかー?」

 わざとぶっきらぼうに聞くと

「吉宗は10歳や。萌えを求めて早5年、医者の資格を取って約3年、亡き父のため院長の座を世襲し約半年。父の想いはこの身に託された……。まだまだ未熟な院長ですが、どうかよろしくお願いします」

 という答えが返ってきた。

 萌え……?いやそんなことより、こいつ今、最後をいい感じに締めようとしたな。

 こういうのが一番嫌いなんだよ。この「いい感じに締める」タイプは90%裏があるんだよ。

「はっ、精々頑張って下さい」

「……ぅう……酷いぃ。なんでそんなこと言うのかなぁ」

 院長先生が喋った言葉は、確実に標準語だった。

「うう、酷い酷い酷いぃ!ばかぁぁぁ。うええええええええん」

 ——ぽかぽかぽかぽか

「ちょ、おまっ、泣くな泣くな!バカ、やめろ!」

「……ぅうぅ……うう……」

 院長先生は泣きながら俺にぎゅっと抱きついてきた。

 看護師やらなんやらの視線が一気に俺に注がれる。

「ど、どうすれば良いんだこれ……道斗、りせ、遊々城さーん‼——えっ、居ないし⁉︎」

「お連れの方々はもう涼木と一緒に病室行きましたで」

 院長先生は大阪弁に戻り、今度はニヤニヤと笑っていた。

 くそっ、何だこいつ。

 というか、

「何で大阪弁なんですか?」

「似合わない?」

「……まぁ、違和感ありますね」

「なーんだ。大阪弁やーめよっと」

「ちなみに出身はどちらで?」

「君らと同じ水鈴村だよ?水鈴小学校に通ってるし。まぁ、年に3回ぐらいしか行ってないんだけどね。ほら、雪也君も病室行くよ」

「全然大阪じゃないんですね」

 小さな院長に手を引かれながら、俺は歩き出す。

 手ぇ小せえなあ。

「ああ、大阪弁ってさ、萌えない?吉宗はほら、萌えキャラ目指してるから」

「は?萌えキャラ?」

「うんそう。吉宗は昔から『凄いね』『偉いね』って言われて育ったんだ。でもある時、公園であったお姉さんに『可愛い』って言われてね。『可愛い』って言われたことなくて、なんか、不思議と嬉しくて嬉しくて……。そのお姉さんが1年くらい公園に行くたびに萌えについて教えてくれたんだけど、今はどこに行ったのか……」

「変な女もいたもんだな。どんな奴でした?」

「えとえと、白色の髪で、腰ぐらいまであって、灰色の眼だった」

 なるほど。

 黒髪ツインテで橙色の眼をした幼女体型のりせ、桃色セミロングで水色の眼をした遊々城さん、そして白髪ストレートロングで灰色の眼をした柚莉。

 うん。

 うんうん。


 絶対柚莉だぁ———————‼︎‼︎


 確かに柚莉ならやりかねない。

「雪也さん、どうしたの?」

「ん、いや、なんでもないです」

 柚莉だということは黙っておこう。うん、なんか、色々面倒くさそうだし。


「ってああああああ‼︎」


「ど、どうしました⁉︎」

 なんだ⁉︎バレたか⁉︎


「み、道に……


 道に迷いました……」


「は、はあああああああ⁉︎」

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