友人の手助け
柚莉、遅いな…
俺は隣の席を眺めながら思う。
いや、別に早く来てほしい訳じゃないし、寧ろ欠席してくれた方が良いのだが、いや、何というかその、いつも早く来てるから気になる。
って、何を言い訳してるんだ俺は。
「ねぇ」
前から突然声が聞こえる。
「ああ、りせか。どうした?」
このツインテのぽやぽやしてる幼女体型は星汲 りせ。俺の家の向かいに住んでいて、オカルト好きだ。
「今日の、雪也の、運命、最悪。雪也の、人生の、中で、2番目に、最悪」
「……なぜ?」
「ん」
りせは俺に1枚のカードを見せる。
タロットカードだ。
「また占いか。まぁ、頭の隅っこには入れとくよ」
「私の、占い、なめないでよ。」
「はいはい」
「信じて、ない、でしょ。じゃあ、この藁人形に早速、水風 雪也って書いた紙と、写真と、雪也の髪を、入れて——」
「待てその写真俺の寝顔じゃねえか。なぜ持ってる?」
「鈴ヶ里さんから3000円で譲ってもらった(ドヤァ」
「柚莉あいついつの間に……」
随分とストーカー紛いなことをしてくれるもんだと思いながら、机の中から本を取り出す。
しかし、2番目に最悪な日か。
柚莉が来てない事とまさか関係があったりしないよな……?
ま、そんな非現実的な事を信じても仕方ないか。
それより早くこの本を読み終えないといけな——
「っおいお前ら!いいか、落ち着いて聞け」
ドタバタと担任教師が入ってくる。
お前が一番落ち着いた方がいいんじゃないのか。
「大変な事が起きた。
柚利が…
事故に遭った」
は?
柚利が、事故?
「ゆ……柚莉が……?」
俺は咄嗟にそう呟く。
だって、あの柚莉だぞ?
「なんであの柚莉が事故なんか……」
その時俺に、一つの光景が頭をよぎった。
俺をからかう柚莉に苛立ちを覚え、『事故にでも遭えばいいのに』と思っている光景が。
俺が、あんなことを思ったから……?
俺が、俺が悪いのか?
いや、落ち着け、冷静になるんだ。
苛立ちや怒りがそのまま具現化するんなんて有り得ないだろう。たまたまだ。
俺は不意に顔を上げると、オロオロしながらこちらを見ているりせと目が合った。
多分さっきの占いは半分冗談だったんだろう。
本当に当たって戸惑っているようだ。
それより、柚莉は大丈夫なのか?
心配だ。まさかだけど、死んだり、しないよな?
とりあえず、今の俺には軽傷で済んでいることを願うしか出来ないか……。
☆☆☆
「えと、あの、えと……」
ホームルームが終わった途端、1人の女子が話しかけてきた。
柚莉とよく一緒にいる人だよな。
確か——
「遊々城 蓮奈さん?どうしたんだい?」
「あ、え、その……」
良かった。この小さな村では同じ学年の奴は全員幼馴染みたいなもんだが、俺は数人としか仲良くしなかったからな。未だに名前が曖昧だ。
「そ、その!水風さんって、柚莉とよく一緒にいるじゃないですか」
「……ああ」
否定は出来ない。
「それで、あの、私と一緒に、柚莉のお見舞いに行きませんか?」
「お見舞い?」
「はい。水風さんが来たら、きっと柚莉も喜ぶと思うんです。それに……私怖いんです。柚莉の現状を知るのが。だから、一緒に来てくれたらいいな、なんて……」
お見舞い、か……。
確かに柚莉のことは気になる。授業は早退しなきゃいけないが。
折角だし、ここは行ってみるか。
「悪いけど、その誘いは断らせてもらっていいかい?」
……ん?
あれ?今、俺、なんて言った?
「授業を休んで見舞いに行く程、柚莉は俺にとって大切な友人じゃない」
「み、水風さん……」
「柚莉は人気者だから、俺以外にもいろんな人に誘ってみればいいと思うよ?いろんな女子誘ってみな」
「そう、ですよね。いろんな人に誘ってみますです……」
うわああああっ、何をやってるんだ俺は!
折角のチャンスだったのに……
なぜこんなに素直になれない……
「ねえ、僕、お見舞い、行きたいんだけど」
「星汲さん?」
意外だ。
りせが鈴ヶ里の見舞いに行きたがるとは。
なんで——
「で、雪也を、『鈴ヶ里さんのお見舞い』じゃなくて、『僕の付き添い』で、連れて行って、いい?」
「はぁ⁉︎」
「え、ええ。もちろん構わないです」
「だって。じゃあ、雪也、僕の、付き添い、よろしくね?はい、早退届。遊々城さんも、どうぞ」
「何をそんな勝手に——」
「つべこべ言わないで、書け!この、ツンデレやろー」
——そういうことか。
さすが0歳の時からの友達りせだ。
俺が素直になれてないのを見抜いてくれたか。
これはりせなりの優しさだったんだな。
「ったく、付き添いだったら仕方ねぇなぁ」
俺は早退届に署名し、りせに渡す。
すると遊々城さんは、ぱぁっと明るい顔になり、
「じゃあ、3人で柚莉の元に行きましょうです!」
と笑顔で言った。