幕間【?】
そこは薄暗い部屋の中だった。その部屋には大きなテーブルとチェア。そして、死人が入っているかのような棺が、壁全面のステンドグラスから差し込む月明かりに照らされ不気味な雰囲気を醸し出す。
「少年とあの聖獣を引き合わせました」
その部屋に声が響いた。その声は入口付近で直立している男五人の中の一人、リーダ格と思われる男から発せられた。
「ご苦労様でした」
部屋の奥から声が聞こえた。姿は見えない。だが、声が聞こえる。
すると、カツン、カツンと静寂に包まれた部屋のなかに足音が木霊した。
男達五人は息を呑んだ。現れた者に目を離せないからだ。
そこに現れたのは、透き通った碧の瞳、艶やかな銀の髪、異常なまでに整った顔付き。それらが霞んで見えるほどの、殺気、嫉妬、憤怒、恐怖。負の感情をその美青年は纏っていた。
「もう下がってください、退出を許可します」
言葉の物腰は優しいが、その言葉に含まれるニュアンスは命令その者だった。逆らうと殺される、そう確信した五人は素直に部屋から退出する。
彼らの心中は様々だった。元々彼等は普通の村人だった。普通の生活を送り、結婚し普通の家庭を築いている者もいる。だが、その普通の家庭はある日突然破られた。
彼らがいる村にある男が来たのだ。それがあの男。そして、あの男はこう言ったのだ。
「貴方に依頼があります」
と。
それは危険なことだった。だが、それよりも報酬に目が眩んだ。それは四人家族3年遊んで暮らせるほどの大金。彼等は金を欲していた。
彼らがすむ村で病気が流行ったのだ。幸い、それは治すことが出来たが治療代が高額。普通の村人では到底稼ぐことが出来ない金額だった。
そこに怪しげなあの男が依頼を持ちかけた。彼等は渋々依頼を受けることにしたのだ。
依頼から解放された彼等は我が家に帰ろうと五人、皆出口に向かった。この依頼で五人のなかには絆が芽生えたのだ。
依頼人が住むこの館は古びていて、所々がたついている。他愛のない話をしながら、彼等は出口に続くがたついた扉を開けた。すると、肌寒い風が肌を撫でた。
「やっときましたか」
玄関の先から聞こえたのは、先程聞いたばかりの鋭い凶器のような声。その先には、先程彼等に退出の許可を出した美青年だった。
「な、何故あなたがここに!?」
困惑しながら問うが答えは返ってこない。その代わりに、彼の手に巨大で黒く禍々しい死神の鎌があった。
男五人は焦って扉を閉めようとしたが、その時に館の中から追い出すように強い風が吹いた。
「貴方達は良くやってくれました。貴方達のお陰で計画が一歩進んだことは感謝します」
「なら!」
「ですが、貴方達は私達を知ってしまった」
彼は薄気味悪い笑みを浮かべ「それは死を意味します」と言った。
「そうそう、貴方達の家族が患っている病気は、貴方方が思っている病気じゃありませんよ。あれの病名はペスト。通称黒死病。死を運ぶ病気です」
男達はその病名を知らなかった。まず、この情報を信じて良いのだろうか。
「知らないのも無理はありません。何故なら私は貴方達と違う人間ですから。世間話はこれまでにして…では、」
美青年から放たれる殺気で男達は声にならない悲鳴をあげる。
「さようなら」
斬られたことすらわからなかった。痛みがなかった。そのコンマ数秒後、男達の視界は天と地が逆になった。視界がどんどん黒に覆われる。視界が完全に黒に覆われる瞬間、声が聞こえた。
「早く逝かないと家族が待っていますよ」
その言葉を聞いて、視界が完全に黒に覆われた。
「除去いたしました」
青年はあの部屋に戻って、誰もいない方向、棺がある方向に報告した。
「良くやった、下がれ」
突如、そこから声がする。そして、独りでに棺が開けられる。
「お目様になりましたか」
「ああ、やはり棺の中は肩がこる」
そこから現れたのは、理科室にある骸骨を一回り大きくした骸骨だった。骸骨はテーブルに人差し指を指し、こいと指を曲げた。すると、テーブルの上に置かれた地図が骸骨の目の前に。
「次はここだ」
「ここは……王城ですか」
骸骨はコクンと頷く。
「ここに奴が現れる」
「了解しました」
「今回はお前が先頭にたって指示をしろ」
「何故?」
「あやつが本当に奴なのか確かめたくなっただけだ」
「御意に」
美青年は部屋を出て、部屋のなかには骸骨ただ一人。骸骨は月明かりに照らされ不気味な光を発し、その手には古びた本。
「また会う日が来るとはな」
骸骨は忌々しそうに歪むことのない顔を歪めた。自然と手に力がこもり、本をクチャクチャにする。
「獄炎の魔女!」