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その魔女、【困惑】

「起きてください、起きてください」

「…んぅ」


明朝、私は夢の中で声を聞いた。聞いたことがない美しく澄んだ声。消え入りそうで儚く、弱々しい。妖精が私に語りかけているようで、これは幻聴なのだろうか。夢の中、その声を離したくなくて、私はより深い微睡みにつく。


一方、澄んだ声は困惑していた。


「…起きませんね」


目の前には気持ち良さそうに寝る恩人。私には恩人の眠りを妨げることなど出来ないのだ。だが、無礼を承知で起こしに来た。それはこの感謝の気持ちをいち早く聴かせたかったのだ。


助けてくれてありがとう、と。


私は恩人の寝顔を暫く見つめた。唐突に私の体が震えた。


「さ…寒いです」


この時期は肌寒くないはずだったが、どこかおかしいのだろうか。やはり、この体は不便だ。だが、この姿でないと感謝の気持ちを伝えることが出来ない。私は恩人をもう一度見た。


そして、何故か私は奇妙な行動をとった。あろうことか恩人の布団に入り込んでしまった。心ではダメだダメだと言うが、行動が体が言うことをきかない。


私は何時しか感謝の気持ちを伝えることを忘れ、恩人の眠る布団で眠った。






早朝、私は鳥の囀ずりで目を覚ました。幸い、恩人はまだ寝ているようだった。私はホッと胸を撫で下ろした。


恩人が目覚めたのは私の少しあと。時間に換算すると三分後。恩人はその年齢と性別に似合わない艶やかな寝息をもらし、起きた。


「おはようございますです、恩人様」

「うん、おはよう」


恩人は寝惚けているようだ。焦点があっていなかった。ずっと虚空を見つめていた。そのあと、恩人は私を見た。


「君は?」


恩人のその問いに私は答えた。


「あなた様に命を助けられた者です、恩人様」


その言葉に嘘偽りなどない。恩人は私を助けてくれた。あのままだったら私は殺されていたか、殺される方が良い扱いを受けていたかもしれない。恩人は私の恩人であり私の救世主なのだ。


暫しの静寂、それを破るのは正気を取り戻した恩人の声だった。


「な、何で服を着てない!?」

「?」

「不思議そうな顔をするな!ほら、これを着て」


恩人はベットの横にある机の上に置かれた布を私に投げ渡した。私は渡された布を広げてみる。見たことのない形状だった。


「これは?」

「これはって、服だよ!取り合えず早く着て!」

「服を着るという行為がよくわからない。私は何時もこれです」

「あーもうっ!その服を貸してください!着せてあげますから!」


恐ろしい剣幕の恩人に戦きながら、私は布を渡した。


恩人は私にぐいっと近づいた。


「ほら、腕をあげて」

「はい」


恩人の息遣いが聞こえる。恩人の体温が感じれる。恩人の鼓動が私の鼓動と同期している。それがひどく嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。


「これで終わり。で、君はどうしてここに?」

「恩人様に恩返しをするためにです」

「いや、君みたいな子助けた覚えは」


目の前の恩人の表情が変わる。私を怪訝に見つめる。恩人の視線の先には、昨日治療したさいに巻いてもらった包帯が。すると、何か合点がいったようだ。


「君は昨日の馬か」

「はい、この度は誠に有難う御座いました。危うく命を落とすところでした」

「でも、何で君は彼処で襲われていたんだ?」


私の胸がドキリと跳ねた。もしそれを話せば私の素性がバレてしまう。それだけは絶対に避けなければならない。だが、命を助けてもらった身、隠し事などしてよいのかという疑問にも刈られる。今ごろ私の顔はおかしなことになっているはずだ。


恩人は何も話さない。部屋に先程と同じく静寂に包まれた。目の前の恩人は身動き一つとらなかった。それはまるで答えを待っているようだった。私は覚悟を決めた。


「恩人様は魔術をご存知でしょうか?」


一瞬、恩人の顔に驚愕の色が見えた。だが、それは一瞬で直ぐに「知っている」と答えた。


「魔術には触媒、つまり贄が必要なのです。それは生命や肉体、鉱物、高位の生き物の血。そして、あと一つ、もっとも魔術の触媒に適した神の遣いとされる生き物【聖獣】の血肉」

「それはつまり」

「はい、私はその【聖獣】に分類されています」


その時、止まっていた時間が動き出したような感覚を覚えました。


魔術と襲撃者と彼。それに何の因果があるのでしょうか。私には想像できませんでした。

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