その魔女、巡り逢う魔方陣と苦戦~It struggled with its witch, Tour of meet magic square
やって来ました翌日。
いつものように、朝食を食べて剣の鍛練。それが終わると自由時間。私はこの時間を有意義に過ごすため、用意をしている。机の上にはインクとペンと紙。技術の進歩からか紙は出回っているらしい。昔は王族や貴族しか使っていなかったのだ。私からすれば素晴らしいことだ。
私は紙に黒い本に書いてある通りに魔方陣を描き写す。
「ムッ」
直線はいいのだ。曲線もまぁ、及第点。一番の問題が曲線と曲線の間に書かれた文字。魔法文字だとは思うが、こんな意味不明な文字は私は知らない。三角のような形とか……訳がわからん。
黒い本に詳細が載ってあるかを確認するが、その部分は滲んだインクのせいで読むことができない。
無い物ねだりは時間の無駄だ。私はもう一度黒い本を読み返すことにした。
もう一度読み返すと、これは本当に良くできた書物だ。こんなに良くできた書物なのに、何故こんなボロボロかは気になるがまあいい。今は読み返さないと。
魔方陣の由来は知っているからスルーで、召喚魔法の儀式の詳細も知っている。魔力の込め方も熟知している。
あっという間に最後の頁。私は諦め半分で最後の頁を捲った。
【魔方陣の文字】の意味。
「ビンゴ!」
なになに、魔方陣の魔法文字は普通の魔方文字とは違う。これはかつて冤罪の末、断罪された魔女、獄炎の魔女が使っていたとされる魔法文字。私は再現することが出来たがこれはまだまだ不完全だ。
調べれば調べるほど、獄炎の魔女は天才とわからせられる。それは常人が到底及ぶことのない神のような領域。自分自身で創り上げたもっとも魔素効率のよい魔法文字。
それは、私たちが今までやって来たことを全否定するものだ。私とて、やって来たことを否定されるのは好ましくない。だが、私は一人の人間であり研究者だ。私はもっと知りたくなった。これを創った獄炎の魔女とこの文字の意味を。
研究は当然難航した。何せ彼女は大罪人としてこの世を追われた。資料など残っているはずはなく、私は困りに困り果てた。そんなときだ。私に天啓が下ったのだ。
もしかしたら彼女は何か意味のある単語を、使っていたのかも知れない。もしかしたら文字の一つ一つに、意味などないかも知れない。
私は早速その線で研究を続けた。すると、魔方陣が見事に起動した。5回に1回の確率だがちゃんと魔方陣は動いた。私はその日の夜は、眠れなかったのを覚えている。
私は文字を創ることにした。彼女に習い自分自身で創ることにした。魔法文字造りは十年の歳月をかけた。文字は不完全だが、完成した。私はその魔法文字の名前を獄炎の魔女からとることにした。
名前を調べるのも難航した。調べるととある資料にちょこっとだけ載っていた。私は見つけたとたん名付けた。
【アルファベット】と
彼女の名前はアルファ。私の名前はベット。彼女と私でアルファベット。安易だろうか。だが、妙にしっくりくるのだ。それは元々存在しているような文字のように。そんなことはあるわけないか。これは彼女と私が知っている文字なのだから。
最後に、私は老いた。もうじき死ぬであろう。私は彼女の名前を後世に遺すために一冊だけこの本を書いた。よき人に巡り逢えることを願っている。
ベット・ケリネ
私は書物の余韻に浸っていた。
ベット・ケリネは天才だ。一から文字を創った。彼は正真正銘の天才。私なんかを遥かに凌駕する天才。
これは運命なのか。彼と私は巡り逢うべくして巡り逢ったのだろうか。この本と私は見えない糸で繋がれているのだろうか。私は素直にそうであってほしいと思う。何故なら、彼は唯一私を記憶から消そうとしなかった人だから。
「やはり私を忘れることなど不可能なのだ」
「さて、謎が解けたことだし魔方陣書きを再開しようか」
仕組みがわかれば後は簡単なことだ。ベット氏が創った文字を私が知っている英語に直して、せっせと英単語を作ればいい。
「う~ん、じゃあLight lit」
魔方陣に英単語を書く。で、どうやって起動するんだ?ちょっと待って、使い勝手悪くない。魔方陣と英単語を書きます。で、どうする?
私はもう一度黒い本を読む。この体が器用なお陰で魔方陣は完璧。だが、魔術が発動しないとなるともっと別の事なのか?
例えば、魔力を込めるとか……ないな。本に書いていたことで魔素効率のよい物体を使うか。けど、それだけでは魔術は発動するわけないか。ラノベ的要素は魔方陣を二重にすることか。
魔素効率のよい物体は近くにないから、この紙を二重にすればいいか。重ねてみたら案の定起動した。
魔方陣は淡い青の光を発する。その青の光が最大限に光輝いた直後、変化が起きた。
「あ……れ?れれれ?」
魔方陣の上をビー玉ぐらいの大きさの球体が、ふわふわと浮いている。その球体からは微力な光が発せられている。
う~ん、これは……使い勝手も悪く、威力も魔法より幾分と劣る。私は頭を抱え込んだ。
「貧乏クジ引かされたんじゃないの?これ」
そんな私を尻目に、魔術はいつまでも続いていた。