その魔女鍛練を開始す~To start the witch wrought
現状を説明しよう。
私は男爵家の跡取りらしい。私の目覚めを聞いて、駆け付けた両親に聞いた。両親は変な目で私を見たが、記憶がないと言ったら悲しそうな顔で教えてくれた。
父はガイル。王の直属の部下の近衛騎士団の副騎士長らしい。10年前の戦争でただならぬ戦功をあげたとか。まぁ、所詮英雄ってやつだ。
母はマリア。名門モースキー公爵家の次女で超絶美人さん。両親はラブラブらしい。目の前でイチャイチャを見せつけられた。
私の名前はシルバというらしい。中々のネーミングセンス。因みに私は三歳らしい。
ちょっと家族が英雄なんだが。私は大丈夫なのか?
憑依してから一ヶ月経った。私は自由に動けるようになり、何故か殆ど家にいる父に、剣の鍛練を見てもらっている。
因みに私の家はマルカス家と言うらしい。
で、何で魔法使いの私が剣の鍛練をしているかというと、護身用にと、よい魔法を使うにはまずは器から、と言われている。そう言うことだ。
前世で幾千と繰り返し続けていた素振り。剣は鍛錬用に刃が潰されていて重さもかなり軽い。私は体?(魂)に染み着いた素振りを繰り出す。
剣の風切る音がする。それは三歳の子供が繰り出す音にしては、あまりにもおかしい音だった。だが、それも直ぐに止む。私はその場に座り込む。
前世の私よりちょっと下の筋力。前世の私はそれほどまでに力がなかった。だからなるべく軽く、そして疾く降る方法を見つけた結果、こうなった。だが、今は三歳しかも病み上がり。体力が無さすぎる。わずか十回で座り込んでしまった。
私は満足していないが、父は驚愕で言葉がでないようだ。
「シ、シルバその剣は一体?」
ドキッとする。バレるはずはないがそれでも焦ってしまう。私は聞かれると予想して、予め用意していた答えを出した。
「本に書いていたんです。父様が騎士だと聞いて私は努力しなければと思いまして、剣の勉強をしていました。父様の名に相応しい息子になるためにです」
「シルバお前ってやつは」
フッ、チョロい。父は私が考えた答えで泣き出した。騙す罪悪感はあるが後悔はしていない。気づかれたくないのだ。
父が泣き止むまで、私は掌に魔力を集め消す、集め消すを繰り返していた。その行為は魔力を高める為の鍛練だ。私は魔力を増やすためにせっせと鍛練に明け暮れた。
父は魔力の鍛練に気づき、何故知っている?と聞いてきたので、これもまた本で読みましたと答えた。
鍛練が終わり、家に戻って昼食を食べた。この家には使用人は三人しかいない。メイド長のノンノさんと見習いのアリー。執事のダスター。食事はノンノさんとアリー、母が作っている。
昼食を食べ終わり、自由時間になった。私は家にある書庫に籠り、読書していた。
難しそうな魔法書から歴史書、絵本等様々な本を一ヶ月掛けて読んだ。書庫にはそれほど本はなく、あと数日で読みを終えれる。
私は六法全書並みに分厚い本を読み終え、本棚に直す。そこで私はあるものに気づいた。
「んっ?これは」
魔法書にしてはかなり薄かった。黒一色のその本はボロボロで、表紙が読みにくい。しかも題名は全て魔法文字。魔法文字とは、魔法詠唱の時に使う言語。一部の人間は精霊文字と読んでいる。その読者に読ませる気がない本。私はその本の題名を見て息を飲んだ。
【魔法が使えない人へ】
私は無我夢中でその本を開いた。だが、頁は保存状態が悪かったのかボロボロで、文字が掠れてよく読めない。だが、要点は無事だったので良しとしよう。
「魔方陣にそんな使い方が…」
私は素直に凄いと思った。私の知っている魔方陣は、召喚魔法にしか使わない儀式用。だが、この本には最高の素質をもった、人類史上もっとも優れた発明品だと書いている。
魔方陣を使う魔法を魔術というらしい。魔術は魔方陣を触媒として、空気中に浮かぶ魔素を集め活性化させ、それを放出させる。その威力は魔法と遜色ない威力。
魔術を使う際は魔方陣が描いたものを身に付けるか、頭のなかで魔方陣の想像をして、微力な魔力で空中に放出する。一ヶ月は魔方陣を書く練習をしなければならないと書いていた。ぶっつけ本番でやると暴発するらしく、命の危険に陥るらしい。
私は本に書かれている知識を貪るように読んだ。私は熱中すると時間を忘れるらしい。いつの間にか外は夕焼け。あと少しで夕食の時間だ。
私はある程度のところで区切りをつけ、その本をもって一度部屋に戻った。
夕食の時間が過ぎ、風呂に入り、私は部屋に戻った。規則正しい生活は魔法使いの基本らしい。それが理由で私は九時に就寝する。本当は今からでも魔術の鍛練に明け暮れたい。私は寝る前に魔力を測定するのが日課だ。
掌に魔力を集める。最初は何もなかった掌にビー玉ぐらいのサイズの魔力が、ちょこんと鎮座していた。数字で表すと153。一日に魔力が5ずつ増えている。
「まあまあかな?」
計測を終え、私は布団にはいる。ワクワクが止まらない。早く明日が来てほしい。
私は目を閉じた。今日私は魔術を使いこなす夢を見たのであった。