トゥーア領 越境
隣の領地との境界線に入った所で、ペガサスを滑空させて降りる。
着地した場所は、街道沿いとかではなくてだだっ広い草原である。ちょっとばかり、草の丈があり鬱陶しいが。時間短縮とばかりにとりあえず、直線的に領地境に来たので致し方ない。
まぁ、誰かに見られる可能性が低い程良いのでそこは甘んじて受け入れる。
先にアレクサンダーが、ペガサスから降り立ち、私の腰を持って持ち上げて地面に立たせてくれる。
「有り難う、アレク」
お礼を言いつつ、ペガサスの方に身体を向ける。
私はペガサスの首輪に付いている記録石に触れる。
「転移陣展開」
シュイインと地面に、ペガサスの大きさ程の転移陣がぶぉんと広がり、ペガサスを包む様に光柱が立ち、次いで白虹色した柱が強く光り、ペガサスと共にその場から消え失せる。
「んじゃ、ガッツリ狩るぞー! オープン!」
私は拳を振り上げて一狩り行くぜ的な感じで宣言し、展開呪文を唱えた。
ぶわりと、指輪から展開される神具は、私の身体を温かく包み込んだ。
上衣の裾がふわり……と靡く。手中にはディバインロッド。腰のベルトには魔導銃。
戦闘準備は完璧である。ついでに言うと、背丈のある草で硬くてキズを負いやすいものもあり、尚且つ草などの汁で服も汚れてしまう。そんな面倒が一切解消された、汚れず破けない痒いところにてが届く、万能神具装備は持ってこいなのだ。洗濯とか手入れとかしなくても、汗かいても勝手に自浄作用働いて、何時でも着心地抜群☆ って半端ないわー。
大体数メートルくらい先が、領地の境界線で、うっすらと煙か、温泉地に良くある様な水蒸気か立ち上る感じで、膝くらいの高さの蜃気楼みたいな白っぽい光が両方向にずーーっと広がっている。
これは、領地の境を現す境界線でもあり、領地を護る守護神の結界でもある。
これを越えたら、隣の領地だ。
久方ぶりの越境である。アコライトの時は、地味に地味に頑張ってちまちまと戦闘をしていたので、今現在非常にどきどきワクワクしている。戦闘力がどれだけのものかが分かるのだから。神具開放状態の魔法も通常物理攻撃も、下手な所では出来ない。見られて詮索されて、使えると解ればスカウトがひっきりなしに来るだろう。面倒臭いのは御免である。
視界に入る境界線の向こうは、神に見放された地である。隣の領地は年に数回の魔物の討伐をして、魔物が溢れない様に調整している。
神が災禍の烙印をした地ゆえに、人は嫌煙する。その為、不毛の地に蔓延る魔物は実に多い。大半は、生け贄にされてアンデッド系のモンスターにされた領民や家畜などだが。魔術によって、縛られ解放されない憐れな者達。倒されても倒されても再生されると言う、悪夢を体現する者達。今の所は、この地に縛られた者達を解放する術は、今でも見付かっていない。多少解ってる事は、聖属性の攻撃により倒した時は、再生までの時間が長いと言う事だけだ。
「……よし、行こう」
そして、私は境界線を踏み越えた。