トゥーア領 森の精霊
終わった時は、悲しいかなパチンコで無駄玉を打って、財布の中身がすっからかんの、オッサンの気持ちを理解した感覚だった。(笑)
そして周りは……水浸しアンド氷付けの、無惨な景色になっていた。私の銃弾ストック事情も無残な事に……。泣けるっっ!
慈善消火活動は、しっかりと達成したが懐事情には、とーっても優しくない現実である。こう言う時には魔法使いであれば、消費するのは魔力だけだから疲れるだけなので、懐は痛くないので羨ましく思う。まあ、逆に怪我してたりしたら回復に必要な薬などで懐が淋しい事にもなるんだろうけど。
「どっと疲れたぁーーっ!」
のほほんな採集クエストの筈が、森林火災消火隊になってしまい、複雑な気持ちである。
「お疲れ様、ティーナ」
頭を撫で撫でして、私のささくれだった心を癒してくれるアレクサンダーである。
「討伐クエストでもないから、報酬でないよねぇ?」
はぁ、と溜め息を吐きつつ私は言う。
「そうだろうね、それにフレイムウルフの残骸の一部すら残っていないから、証明できる物がないし」
「木っ端微塵の自爆かあー、もーめっちゃ迷惑! 自爆だと貰える経験値は半分以下だし!」
顔を手で覆い、私は上を向いてぼやき捲った。旨味が無さすぎのバトル程、悲しく切ないものはない。だからといって、火災になりそうなモノを見過ごして、領地に損害を与えるなど論外で、そうなると自動的に率先してやらねばならないと言うオチしかない。
科学が進んでいる地球上でも、森林火災の恐ろしさはそれなりに知っている。拡大すれば洒落にならない事態を引き起こす。ましてや、属性の魔物がいる世界だ、何が起こるか未知数だ。
「リハビリバトルが……はぁ」
結局、納得出来るが納得したくなくて、溜め息を漏らして肩を落とす。目的通りにいかないのは、世の常だろうけども、気持ちと懐事情は裏腹なんだから仕方ないじゃん!
「あれ? ティーナ」
「ん~~?」
アレクサンダーの声に、私は微妙な反応しか出来ない。
「ティーナ、ほら、あれ!」
「んんーーん?」
肩を揺さぶられ、のろのろとアレクサンダーを見詰める。
「ティーナってば! ほら、あそこ!」
ぐるんとアレクサンダーが見ている方向へ、身体を強制的に向かされる。
「ふぇ?」
飛び込んでくる、景色の中には異質なモノをがあった。
火災の後にはそぐわない、綺麗な光。人の顔位の大きさの緑と青の光玉が、ふわりふわりとこちらへ来るのだ。
私達の目の前で止まり、ぽふんと光が弾ける。すると、小さな人の形の生き物(?)が眼前にいた。緑色の髪と目ちとんがり耳を持つ者と、青の髪と目と透き通る四枚羽を持つ者だ。
「え?!」
初めて見るので、私はびっくりする。二匹(?)は、ぱくぱく口を開いて何かを伝えようとしているのだけど、何も聞こえないのでサッパリ理解出来ない。
「ふむふむ。なるほど」
コクコクと頷いて、反応するのはアレクサンダーのみ。
「あの~アレク?」
「ティーナ、手を出して」
「え?」
「ほら、早く!」
今一つ分からない私の手をアレクサンダーは掴むと、掌を彼等の前に差し出させた。
二匹(?)は、ぱあっっと嬉しそうに笑顔を浮かべ、私の掌に近付くと小さな両手を翳した。
彼等の両手からポゥッと金の光が出て、キュッと凝縮したように一瞬だけ強く光り、コロンと私の掌に磨き抜かれた宝石の様な石が一つ転がった。石は緑と青のグラデーションを纏った色合いの結晶だ。
私の方を向き、彼等は満面の笑顔で口を開いた。
「「ありがとう! お礼にコレあげる!」」
「えええ?」
声が聞こえた事に驚く私に。
「もらっておきなよ、ティーナ」
アレクサンダーが、のほほんと告げた。
「それがあれば、精霊や妖精の声を聞き、意志疎通が図れるよ」
「これって、スピリットクリスタル?」
まじまじと手の中の宝石を見詰める。日の光りを反射して煌めく結晶体は、綺麗だった。
掌にある結晶は、妖精石とも、妖聖晶石とも、呼ばれている。素養を持たない者でも、精霊や妖精とコミュニケーションを取れる所謂、翻訳機のような物である。
因みに素養を持つ事が出来るのは、魔導神ミネルヴァと契約した者だ。ミネルヴァの契約者になると、職位の中で召喚師や、錬金術師になる事も出来る。召喚はそのまま、ズバリ精霊や幻獣や聖獣を使役して、バトル事が出来る。錬金術では、ホムンクルスを造り出し、擬似精霊や使役獣を扱える様になる。契約者でないと素養を持つ事は出来ないのである。
純真さながらの、キラッキラッ笑顔を彼等は私に向けてくる。
「お礼! 森、助けてくれた」
「うんうん、ありがとう!」
「いいの?」
私は手の中のスピリットクリスタルと彼等を交互に見ながら問い掛ける。
「神様のご加護ある人、悪い人じゃないよね」
「そう、良い人だね。だから、あげる」
「それに、がっかりしてた」
「人間、お金いる」
「コレ買うと高い」
「持ってればお得ね!」
「火消してくれた、お礼!」
「ありがとう!」
「じゃーねー」
彼等は漫才の様に持論を展開して、バイバイと手を振って森の奥へと勝手に帰って行った。
ぽつんと残された私としては、複雑な気持ちだった。
「ねえ、アレク、あの子達、私ががっかりしてたって言ってたよね?」
「うん、そうだね」
「ガッツリ見られてたって事?」
「だね」
「そんなに可哀想に見えたのかな?」
「う~ん、どうかな? どちらかと言うと、興味津々って感じだったから見てたのが先かもね。神様からの加護付き装備とかしてるからね」
「あー、で、凹んでるからお礼しても害がないと思われたってところかな?」
「そうだろうね」
ニコニコと爽やかな微笑みを浮かべて、アレクサンダーは私の問い掛けに答えていく。
「そっかー、じゃあ、このスピリットクリスタルは、親方に頼んでアクセサリーにしてもらおっかな。折角のお礼の品だし、レア物だしね!」
懐は淋しいが、それ以上の物をゲットしたから、帳消しでいいやーと気持ちを切り替えて言う。
「よし! 帰ろう、アレク!」