DEADORALIVE ~侍女日記~
追加の部分で、侍女視点です。
わたくしは侍女のエミリア。トゥーア公爵家に支える使用人です。
トゥーア公爵夫妻には、一人娘のレスティーナお嬢様がおられます。陽の光でキラキラと輝く金の髪は、侍女達の間でもお手入れ係りと髪のセットの仕事は、ちょっとした争奪戦でございます。自信作が完成した時などは、こっそりと侍女達で陰から観賞しております。
そんなお嬢様は、奥様譲りの紫水晶の様なパープルアイズを向けて、ニコニコと笑顔で、わたくし達、侍女に「ありがとう」と上手く言えず「ありあとぅ」とたまに噛んでしまう姿もお可愛らしいのです!
そんな、可愛らしいく、ちょっとだけお転婆なお嬢様なのです。公爵夫妻もそれはそれは可愛がっておられます。
使用人一同も、とても微笑ましく、毎日をお嬢様と過ごしております。
現在、わたくし達使用人の、限られた人員ではありますが、公爵夫妻と共にトゥーア公爵領地の検閲と、魔物の被害や状況悪化が無いかを見回りを兼ねて、南の地域にある別荘へと来ております。
海沿いにある別荘から程近い、海岸へと護衛の剣士一名と、わたくし、レスティーナお嬢様、執事見習いの青年の四人で来ていおります。
海と砂浜が珍しいのでしょうか、お嬢様はとても楽しそうにキャッキャッと、砂浜をはしゃぎ回る。
「お嬢様! 遠くへ行ってはいけませんよ!」
「はぁい!」
ぶんぶん手を振っては、応え返すレスティーナお嬢様は、それ以上は遠くには行かないで、くるくるテトテト走る。
「っ!!」
レスティーナお嬢様がこちらを見て、目を見開き、ピタリと固まった。
「え?」
ハッと気付いた時には、時遅く横からわたくし達全員、凪ぎ払われていた。
一瞬、気を失ったかと思うが、顔を上げて眼前の光景に声を失う。
レスティーナお嬢様を襲うラミアの姿。半裸婦で胴からは蛇の様に伸びた二メートル程の尾は、レスティーナお嬢様をグルリと巻き上げていた。
「っっ! ラミア?!」
何故、こんな場所にラミアがいるのか、悪い夢を見ている気がした。ラミアは、水辺には出てこない魔物。海辺にいる事が殆ど無い。
『キシヤアアア』
ラミアが怪音波を発する。威圧スキルだ。
「「ッツ!!」」
ビクリとわたくし達は、体の自由が奪われてしまう。
ラミアのレベルが、わたくし達よりも上だと言う事である。単純なレベルの差異の他に、ステータスやスキルの抵抗力によって、それを振り払う事が出来る。
深呼吸して、威圧を払う様に意識を強く保つ。
「お嬢様!」
何とかわたくしは、立ち上がる事が出来たが、よろけてしまい足元が覚束ない。
「くそっ、ラミアめ! お嬢様を放せ!!」
護衛が剣を構えて、飛び掛かろうとしていた瞬間だったのか、その状態で動けない。
レスティーナお嬢様の体を尾で締め付けながら持ち上げて、ラミアは鋭利な歯を見せながら、ニタリと笑う。
「!!!」
悲鳴を上げそうになるその時、ザッと砂音が横でする。はっとなって、そちらを見ると。
赤い髪の青年がいた。ラミアを見詰める青い瞳は厳しい。彼はすっと、手を上げる。
「ホーリーランス!」
凛とした声が魔法を紡ぐ。白く光る聖なる槍が二つ出現し、一直線に飛んで行き、ラミアの頭部と腹部分に刺さる。
その勢いで、レスティーナお嬢様がラミアの口付近から離れる。
気付けば、青年はラミアの目の前に躍り出ていた。
「ホーリーソード!」
彼の持っている剣の刃が、白く輝いている。聖属性の魔法剣となっているのが分かる。
青年は剣を一閃させて、ザシュン! とラミアの尾を叩き斬る。レスティーナお嬢様の体が解放される。彼は片手で、お嬢様の体を抱き止めた。
それを見て、わたくしは安堵する。
「レスティーナお嬢様!」
ヨロヨロと足を縺れさせながらお嬢様へと向かう。
青年は優しく微笑んで、レスティーナお嬢様に声を掛ける。
「もう大丈夫だぞ。ヒール! 頑張ったな。よしよし」
彼はお嬢様の頭を撫でて、状況を理解出来る様に、また、安全だとゆっくり浸透させる様に告げた。
恐怖で言葉を失っている、レスティーナお嬢様の瞳から、ぽろり……ぽろりと、涙が零れた。
「怖かったな、もう、大丈夫だ。よしよし」
「っ……あ、ああああああああああああああああ」
お嬢様はその青年に、すがり付き大声で、泣いて泣いて泣き過ぎて、グッタリ意識を無くした。
その後、わたくし達は、青年を別荘へと招待した。
彼はやんわりと辞退したが、何分、命の恩人である青年を連れて行かないなど、主人である旦那様もお認めにならないでしょう。
そして、何よりレスティーナお嬢様が、彼を放さない事が決め手になった。
青年の名前は、アッシュ。家名は名乗らなかった(家名が邪魔をする時があるから、冒険者や使用人も名乗らない事が多い)が、聖騎士の職位を持ち、旅をしてきた冒険者で、たまたま「ラミアが海岸辺りまで下りてきたかもしれない」と言う噂を聞いて、見に来たら出くわしたと言う事だった。わたくし達には、正に救世主だったのだけど。