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トゥーア領 家族サービス

「疲れたよ~~。アレクー」

「お疲れさま、レスティーナ」

 ちんまいアレクサンダーが、目の前で苦笑して、テシテシと額を叩いて労ってくれる。


ーーーーああ、かわゆいー、癒されるううう!


「もぅぅ、アレクだいすきーぃ」

「うん、知ってるし、僕も大好き♪」

 にこっと、可愛い笑顔で両手を私の頬にてしっと当てて、ちゅーとキスをしてくれる。


ーーーーきゅんきゅんしてまうわー! ちっちゃいアレクサンダーはラブリー過ぎるぅ! 頬擦りしたいー!


 ぎゅっと、シーツを掴んで衝動を押さえ込む。そうでなければ、ベッドからゴロゴロと転がって落ちる、間違いなくッッ! まあ、足はジタバタしてますがねっ! ○○たん、カワユスー的な、フィギュアオタクがフィギュアにすりすりと頬擦りをする、気持ちが解るわー。ホント、マジで。


「ふぅ……」

 一呼吸して、私はゴロンと横になる。目に入る夜着の手首の袖部分は、シースルーのレース。

肩から身衣は丈は膝下までの、真白いシルクの様な触り心地の良い生地で、ワンピースの様なネグリジェである。


「ねぇ、ティーナ。明日はどうするの?」

 唐突にアレクサンダーは、アダルトバージョンに変化して目の前で横たわる。じっと見詰めてくる瞳を見返し、私は唇を開く。

「たぶん、脱走は無理な感じだと思うし、家族サービスはしといて損はないと思うのね。逃げたら延々と、ねちっこく言われそうだもん」

「じゃぁ、僕は小さくなってずっと引っ付いてていい?」

「良いよー。私も癒しがないと乗り越えられないしねー」

 考えただけでも、気が滅入りそうになる。今日の弄くられ度に、お母様が入るんだから、グレードアップは必至ではなかろうか。

「考えても仕方ないね、寝よ寝よ」

 そう結論を出し、私達は布団に潜り込む。


「ティーナが、良い夢を見ます様に」

 アレクサンダーは、私を抱き寄せて額に、祝福のキスをくれる。


「おやすみ、アレク」

 私もアレクサンダーに、御返しのキスを頬に贈る。



 そして、今日もアレクサンダーの腕の中で眠るのだった。




 明くる日の朝、侍女達に起こされ、惰眠を貪る事もなく、用意された服装に着替えた。

 本日のオレンジ色のワンピースは膝丈までのもので、手の込んだレースと、刺繍がふんだんに飾られている。ドレス寄りの仕様だった。

 腰はベルトの代わりに、赤と金糸で編まれた帯には、キラキラしい宝石の様なものが一緒に編み込まれてある。グルリと二重に腰に巻き付け、臍の所でクロスさせて留める。


 服を着替えている間、粛々と今日の予定とやらを聞かされた。


 その1、朝食の後はお父様の執務室で、お話があるとの事。

 その2、お母様が仕立屋を呼んだので、仕立屋とドレスデザイナーが来たら客間にて採寸との事。拒否不可。終了時間は未定。


ーーーー家族サービス、家族サービス! 頑張れ、私っ!!


 顔がひきつりそうになりながら「ええ、分かりました」と、答えたのは言うまでもない。



 予定通りに私は、お父様の執務室に現在居る。重厚感のある机や壁にかけられた装飾品や暖炉などが、目についた。

 ソファーに座って、お父様の顔を伺う。私の眼下、膝の上にはちっちゃいアレクサンダーが、ちょこんといる。太股の上に置いた私の手を、アレクサンダーは宥める様にてしてし叩いてくれる。


「……」

「……レスティーナ」

「はい、お父様」

「学園で勉強をしたいと思っているか?」

「するのであれば、飛び級で卒業したいです。その後、私は冒険者として各地を巡りたいと思っています」

 思いっきり、私はぶっちゃけてみる。


「……やはり、そうきたか」

 ダンディーなお父様の眉間に、くっきりと皺が寄る。

「私が居ない間、お母様と仲良くされていたと思いますし、公爵家の跡取りが、出来ていてもおかしくはないと思うのですが……」

「うぐっ……」

 図星だったようで、苦虫を踏み潰した様な顔付きに一瞬なる。うーん、イケメンダンディーは微妙な顔しても似合うなぁと、意味の無い事を考えた。


 神妙な顔付きのままで固まる、お父様に声を掛ける。

「お父様?」

「あのな、レスティーナ」

「はい、何でしょうか」

「神託を受けた時、管理神様と聖癒神様から祝福を頂いた。嫡男が望みなら叶えてやろうと……」

「まぁ! それは喜ばしい事ですね! 流石は、管理神と聖癒神様ですね」

 あんだけ大盤振る舞いをかました神様である、その様な事わけないであろう。

「お母様も喜ばれたのではありませんか?」

「う……まぁ……な」

「では、トゥーア公爵家は安泰ですわね」

 にっこりと笑って私は告げる。


「そうは言ってもな、レスティーナ……お前に色々背負わせてしまったからな……」

 しょぼんとした声音で、お父様が私に告げる。神具の呪いで記憶障害が有ったし、裏契約であるが婚約はさせられたし、その負い目がありありとお父様を苛んでいるのが理解出来る。その青海色の瞳は、苦渋の色が滲んでいる。

「今更ですが、実際お父様の詰めが甘かったのは仕方が無いでしょう。国王と宰相と盗神ロキの企みに、引っ掛かったのですから……王妃様に異議を唱えていたら、阻止出来たとは思いますがそれだって今更です」

 バッサリとお父様の負い目に止めを刺す。

「……」

「なので、出来るだけ私のしたいことをさせて下さい。それで差し引き無しです!」

 お父様の気持ちを考えると可哀想だけど、私のしたいことをする為には陥落させておかなければならない重要人物だからだ。

 弱点は使える時につついておかないとね。


「レスティーナ……」

「駄目ですか? お父様に許可を頂ければ、黙って行くと言う事もありませんし、私も心置きなく冒険出来ますもの」

 これでもかってくらいにだめ押しをしてみる。

「分かった。レスティーナの好きにしなさい。ただし、定期的に帰ってくるように。それが守れないのであれば駄目だ」

 不満そうにしながらも、お父様は私に告げていく。


ーーーーやったぁ!! 許可ゲットーーーーっ!


 思い切り満面の笑顔で、私にお父様に感謝を伝える。

「ありがとう!! お父様、大好きよ!」

「う、うむ」

 でれっとする、イケメンダンディーなお父様であった。



 さあて、皆様! 強敵とのバトル……じゃなかった、お母様と侍女軍団による、着せ替え人形と化す時間がやって参りました!


 侍女の後ろを歩き、目的の客室へ向かう。客室と言っても、採寸は勿論の事、鏡もあるし、化粧室の様な客室である。それぞれの用途に合わせた客室が幾つかあるのだ。余談だが、部屋数多すぎて、実際何部屋(20は数えたが)あるのか分からない。使用人部屋もあるし、そちらは入っちゃ駄目だって言われてて、こっそり探検しようとして、捕まった事がある。何回かトライしたが、バレた。感知魔法でもあるのかもしれない。流石に、怒られそうだったから、それ以来トライしていない。

 分かったことは、お城パネエ!! ですな。(笑)



 侍女が部屋の戸を叩き、声を掛ける。

「お嬢様をお連れ致しました」

「入りなさい」


 部屋の中から声が聞こえて、扉が開いた。私は室内に足を踏み入れる。客室は白を基調とした壁色なので、窓から入る日差しにより明るい。天井の空間部分には、天使達と聖癒神の続き画が描かれている。画と画の隙間のラインはピンク色で分かれているが、違和感なくマッチングしてて、室内の造形美を増す効果に一役買っている。

 何時も思うが一つ一つの部屋が、美術館の様だ。美術専用の間もあるんだけどね。それぞれの部屋のコンセプト的なのものがあるっぽい。重厚感や落ち着いた感じの部屋や、キンキラな豪華絢爛な部屋や、乙女チックな部屋や、海や空や森などをイメージした部屋などなどがある。


 さて、中ではお母様が、白色のソファで寛いでいた。お父様の執務室のソファと正反対の乙女チックな、丸みを帯びた作りのものだった。白とピンク色で作られた部屋にとても似合う。

「待っていたわ、レスティーナ」

 ニッコリと微笑む、お母様である。背後には、侍女を6人従えている。その斜め奥の部屋の隅よりに設置されている4人掛けのテーブルに仕立て屋であろうかと思われる、人達が4人座っていた。


 お母様は美しい白魚の様な手を上げて、私を呼んだ。

「こちらにいらっしゃい」

「はい、お母様」

 私は言われた通りに、お母様の側へと歩み寄った。



ーーーーその後の事は、正直言って思い出したくない。だって! お母様筆頭に、私の意見一切聞いてくれないんだもん! こう言うの欲しいのって言っても、お嬢様にお似合いなのはとか何とか言って、スルーされてしまうのよ。酷いと思わない? 着物とか浴衣とか着たら面白いじゃん。でも、誰も食いついてくれないのは、かなり堪える。

 採寸後はそれはもう、着せ替え人形ごっこ(本人無視の)と言う……フルコースであった。(涙)



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