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トゥーア領 公爵家の団欒…?


「お帰りなさい、ティーナちゃん!」

 お家に戻っていきなり、私はお母様のむぎゅむぎゅっと抱擁を受ける。

 私の隣には、うむうむと満足気なお父様が居る。

 一見するととても微笑ましい家族の再会図かもしれないが……。


ーーーー甚だ不本意な現状だと、私は述べておきたい!



 遡ることほんの数分前、私は城門前で入り口を警備する騎士と話していた。


「ただいまー」

「へ? れれれレスティーナお嬢様?!」

 簡素な鎧を身に纏っている、彼の名はエルク。私が小さい頃から当家で働いている。

 琥珀色の髪と新緑を思わせる瞳と、体格は騎士らしく細マッチョの部類である。頑張ってもムキムキにはなれなかったと、エルクの名誉のためにも追記しておこう。

「うん」

「お、お帰りなさいませ!」

「ただいま、エルク~」

 にこやかに私は応えて、すたすたと城門を潜ってそのまま歩いていこうとすると。

「ああああ! 待ってください! レスティーナお嬢様っ!」

 慌てて私を止めるエルク。

「なんで?」

「旦那様に、ご命令されてまして、レスティーナお嬢様がお帰りになったら門で待つようにと……」

 焦りながら、エルクが答える。

「えー、私、散歩しながら帰りたいんだけど? お庭も散策したいし」

「駄目で御座います。城内まで辿り着くのにお時間が掛かりすぎるとの事で、留め置くように旦那様より言われております」

「う……否定できないわ」

 夕陽を見ながら庭園の散策もオツ、なーんて思っていたからである。

「今、魔法石を光らせたので、直ぐこちらに来られます」

 魔導具のなかでも単純な合図用の魔法石なら、欠片を持つもの全てに合図を送れるような物もある。


「まったく、レスティーナお嬢様は、寄り道し過ぎなんですよ! 奥様はお嬢様のドレスの新調するのを、それはそれは楽しみにしておいででしたよ。数日間は外にでれないと思いますよ」

 エルクが言うことも一理ある。鉄砲玉の如く外に出るとあっちこっちへ行き、予定時間そっちのけでギリギリまで遊び倒すのだ。

 出来ることなら、ドレスの着せ替えとかしたくないので良く逃げ回った。だって、あれ一日がかりなんだもの。ぐったりしちゃうもの。

「えええー」

 不満すぎるのでぼやく私に、背後から声が掛かった。

「えーじゃない!」

「っ!?」

 ばっと振り返ると、そこには私のお父様が立っている。

「お父様?!」

「お帰り、レスティーナ。さぁ、母様が、お前の帰りを待っているから、迎えに来た」

 ニコニコ笑って言うが、目が微妙に笑っていない。門限を破った娘を待ち構える父親に近い。


 がっと腕を取られたかと思うと、お父様によって私も一緒に城内に転移した。


 そして、冒頭へと至るのである。



 さて、お家とは言っても日本の前世のお家と、比べたら月とすっぽんです。はい。今、居るのは家族用のダイニングだけど、広々ですのよー。(笑)


 お家の外観も、普通に(?)当たり前の如くお城でございます。公爵家ですからね、お金掛かってる物を造ってますわ。前世で似たお城で言えばシャンボール城ですね。白くて丸みの帯びた外観は似てますが、尖塔の屋根の色はスカイブルーな色合いをしています。ウチのも綺麗なお城ですよ。ええ。

 中はヨーロッパのお城内部と似てる所も多々ありますが、大きい違いもある。広間やダイニングなど、外からの人を迎える部屋は土足なんですが、個人部屋は違うのですよ。なんと! 入り口の所に、小スペースの椅子付きの足湯があるのです!! 蓋付きの掛け流しの温泉が……どうやって引いているのかは良く分からない。一度城内地図とかひっくり返したけど、その時は見付からなくて謎のままです。まぁ、もしかすると魔法関係で、構造してるのかもしれません。だって、蓋閉めてあると、水蒸気とか全然感じられないんだよ? 物理的に変過ぎる。蓋触ると温かいとかないし、温泉臭くもないのね。部屋に浴室が付いていないからなのか。はたまた、後から室内に、浴室が付けられないからなのか。物理的に後から改装って難しいから、折衷案的にやったのかもしれない。

 いずれにせよ、ある意味執念で設置したのをひしひしと感じます。


 でもって、スリッパとか、スリッポンみたいな室内履きの靴があるのね。足湯で足を綺麗にして、室内履きに履き替えて部屋で寛ぐと言う感じです。

 寒い冬場はマジでお役立ちです! いやはや、御先祖様、ありがとうございます。




ーーーーって、現実逃避をしてる場合じゃ無い。些か不本意過ぎる展開に、脳ミソが拒絶反応を起こしてしまったわ。そうこうしている間に、お母様は私から離れて定位置のお父様の隣に立っている。


「……えーと、お母様、お父様、ただいまです……」

 とりあえず、まだ帰宅の挨拶をしていないのに思い至り、しどもどろながら口にしてみる。


「「お帰り、レスティーナ」」

 ダンディーなお父様は、相好を崩し、お母様は思春期の乙女の如くな笑顔で嬉しそうに言う。家族大好きな感じが、全面に出ています。


ーーーーあぁ、何だろうこのこそばゆい感じ。背中がムズムズするよー! めちゃめちゃ恥ずかしわ! そうね、そうよね。記憶封じの反動だわ。前世の私が頭の中でごろごろ転がりながら「いやぁぁんー!」と、奇声を叫び床を叩く姿が横切ります。


 私が顔面の筋肉を総動員して、ニッコリ笑って押し切った。

「お父様、お母様、私はまだ旅装のままですから、着替えて来ても良いでしょうか?」


「あ、ティーナちゃん。浴場の方に準備は全部してありますわよ」

 ウフフと笑うお母様に、ビシリと私は固まる。

「え? お母様? それはどういう……?」


「あちらでは勉学に励むばかりで、女性としてのお手入れなどしていなかったでしょう? 侍女達も貴女を磨けるとあって、気合入っていましたよ」

 お手入れとはマッサージとか、爪の手入れだとか諸々の事である。セレブなら当たり前の事であるが、今の私には拷問に近い。オイル全身に塗られるマッサージって、恥ずかしいじゃん! 記憶関係はそれなりに融和しているのだけど、ちょっとした事は慣れている部分もある筈なんだけども、久しぶりのインパクトで羞恥が先に来るのです。

 マジでヤバいわ。お父様とお母様のラブラブっぷりを見せ付けられて、何時ものアレよねー。ふぅん、そう……的な余裕かませる自信が無いわ。


「では、奥さま」

 戸口の所にいたお母様付きの侍女頭が、ずいっと前に出た。彼女はマイヤーと言う名で、古株の使用人でもあります。厳格な性格を表したかの様な、鋭角な眼鏡をして灰色な髪はひっつめている。公爵家のお仕着せの制服を着ているが、上級職を示す金のラインと金刺繍が服の縁などに施してある。上から金銀青赤白色なしの順で、新人か古参かが判る仕様になっている。


「ええ、マイヤー頼むわね。ティーナちゃんをとっても可愛くしてね」

「お任せ下さい」

 厳格に主人のお願いを遂行する意思が、ありありと分かるマイヤーさんの返答だった。


「行きましょうか、お嬢様」

 私はドナドナよろしく、豪華絢爛な浴室へ連行されて行った。


 ゆったりのんびりと浸かって豪華な浴室を楽しむ訳もなく。その後、私が晩餐までに疲労困憊になったのは言うまでもない。




 磨きに磨かれて、鏡に映る私は誰よコレ状態である。天使の輪が艶やかな金の髪を飾り、サイドの髪を後ろで編み込み、宝石の付いた髪飾りで留めている。鏡の向こうで、きょとんと見詰め返す紫水晶の瞳の持ち主は、淡いパープルカラーのグラデーションの生地で作られたドレスを身に纏っている。襟は詰め襟っぽい感じで作られている。デコルテの部分は薄い濃さが違うレースを四枚重ねてあり、上の部分は胸の辺りから左右に分かれ、波の様にウエーブを裾までに至る。レースが空いた部分は純白の生地に、金糸で幾つもの花が咲いている。

 更に言えば、一番上のレースにはキラキラ光る何かが沢山付いている。ガラス的な、スワロフスキーみたいな何かであるといいな。宝石だったら、正直コワイ。



「お綺麗ですわ、お嬢様!」

「最高の出来映えですね、マイヤーさん!」

「ええ、これならば奥様も旦那様もご満足されます」

「ご招待されている殿方も魅了できますわ!」

「寧ろ私のお嬢様でいて欲しい!」

「レスティーナお嬢様可愛いー!」

「分かる分かる! 持って帰りたいくらいの可愛いさよね!」

「「「「ねー!」」」」

 女性が三人寄れば姦しいとか言うが、十人いる場合は喧しいと表現すれば良いのだろうか。

 マイヤー筆頭に、各担当者も好き勝手に褒め称えまくる。



 しかし、一点だけ耳が拾った、それは。

「は????」

 とんでもなく、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。


「今、殿方? って聞こえたんだけど?」

 ばっと振り向き様に、侍女達を私は睨め付けた。


「ええ、言いましたね」

 しれっと淡々に口にするのは、マイヤーだった。


「旦那様と奥様の親心です。呼ばれている殿方は数人いらっしゃいます。先方にはお見合いの初期段階と伝えてありますが、御本人には代理で参加するように、と言う話で通っています。旦那様と奥様がお選びになっていますから、及第点の男性ですよ。気に入らないのであれば、それまでですし、只の晩餐会兼、仕事上の付き合いだと思っているでしょうからご安心下さい。それに、今回が初めての晩餐会ではありませんからね」

 企み顔でにこやかに、微笑みを浮かべるマイヤーは、ちょっと近寄り難い。


「そうですよ、レスティーナお嬢様! 仕事上での人となりや、この街での私的な振る舞いなどをチェックされた上での招待ですから頭の弱い方はおられませんし、わたくし達使用人にも、丁寧な方ばかりですわ!」

「ええ、素敵な方ですわ」

「狙っては駄目よ! 先ずはお嬢様が先ですわよ!」

「分かってますし、寧ろ向こうから来るような男性でしたら、報告してます!」

 力説する侍女数人。


「……あのね、やっと婚約破棄出来て自由を噛み締めているのに、何でお付き合いする人を探さないといけないのよ?」

 心底冷めた声で私は告げる。

 だって、時間を作って、アレクサンダーとのラブラブ(?)冒険探索レベル上げを敢行したいのにぃ。ジタバタしたい気持ちが前面に出る。


 しかし、敵もさることながら上手である。私をじっと見詰め、どや顔で言い切る。

「決まっています、その理由は虫除けです」

 流石、マイヤーである、一切ブレない。

「一応、お見合いの体を為してますが、お嬢様に気に入られなければ、仕事上の付き合い程度ないし、いって友人に留まります。友人であっても十分虫除け効果はあるでしょう」

「それは、利用しろと言う事なのね?」

「はい。選ばれた方は、貴族でも上位に、また有力者にも顔が利きますから、何かと便利ですよ?」

 マイヤーの眼鏡がキラリと光る。お母様の意図をしっかりと汲んだ上での解答だ。



ーーーー気が合う友人位でも居れば、結果的にでも抑止力になることは歓迎されると言う事か。

 まあ、確かにバカ王子の相手にされた時は、そんな仲良しな男の子いなかったなぁ……いたら、上手く言い訳に使って、断ると言う方法も出来たのか。主に冒険オタク化してた弊害と言えなくもない。



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