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DEAD OR ALIVE ~封印されし記憶~

追加部分です。

 今、思えばあの時の私達はもっとよく考えて行動に移すべきだった。そうすれば、今とは違った未来があったかもしれない。今頃、日本と言う国で、オタク文化にまみれたり、アイドルにはまってライブに行ったり、ゲーム三昧な休日を過ごしたりしていただろう。


 けれど、あの時の私は……いいえ、私達生徒の殆どが海外旅行で、美しい海も堪能出来るクルージングに皆が皆、舞い上がっていたのは紛れもない事実。高校生の修学旅行で、ヨーロッパクルージングなんて夢にも思わなかったし、海外なんて行ける機会がこの先あるかなんて思えないから、その時の私の気持ちを正直に言えば「超ラッキー!」だった。苦い顔をするのはお金を出す親だけだったから。


――――そう、あんな事が起こらなければ……。


 運命の日の前日の夕方は、少しだけ天気が悪かった。長時間のフライトを終えて私達生徒は、飛行機から大型客船へと乗り換えた。少し曇っている程度の天気で、海は荒れていなかったので、船は定刻通りに港を出た。

 そして、目的地である、小さなヨーロッパの島へ向かった。

 翌日の朝に到着予定だった、真っ白な家々、青い空、青い海の綺麗な島の絶景と地元の料理を私達は楽しみにしていた。

 けれど、朝陽と一緒に観れる筈だった、島の光景のお楽しみは一転した。


ーーーーそれは、深夜2時頃に起きた。

 ギギギギギギギギギィィィ、ガガガガガガガッッと二種類の異音がした。

 寝静まっていたから、その音は余計に響いたのかもしれない。

 その音で慌てて飛び起きたのは、4人部屋の同室の子でクラスメイトの元気キャラな花菜ちゃんだった。ショートカットの茶髪で運動神経が、私達の中で一番良い子である。

「ねぇねぇ! 起きてよ! 変な音がするよ」

 真っ暗な部屋中、焦った声で私達を起こした。

「んー。音ぉ?」

「そう、音! 変な音なのっ!」

「廊下に出て見てくれば?」

 他の二人が、花菜ちゃんに声を掛けた。


「ねむぃーー」

 二時間前くらいにやっと寝付いた私は、ベッドの上で丸くなって花菜ちゃんの声に一番反応を示せずにいた。

「見てくる! 皆も起きてね!」

 そう言って花菜ちゃんは、部屋のドアを開けて廊下へ出て行ったみたいだ。

「んんん、夜中でしょ? 騒ぐほどのことなのぉ?」

 叩き起こされて不機嫌な感情を露にして、私は言った。

「まぁまぁ、本当に何かあったら大変でしょう?」

 正論を返したのは、クラスメイトの真面目な美紀ちゃんだ。真面目なキャラに似合いのストレートな黒髪と、優しげな瞳が印象的な子だ

「そうだね、何もなければ寝直せば良いだけだしね」

 うんうん、と美紀ちゃんに同意するのは、大人しい咲ちゃんだ。天然パーマがトレードマークでふわふわの髪と、ちょっとつり目だけど見た目がキツそうだけど違う、ギャップ萌えの子だ。

「取りあえず、電気つけよっか」

「だねー」

 そう言って二人は部屋の明かりを灯した。

 パッとついた明かりが眩しくて、枕に顔を押し当てて私は唸る。

「うー、まぶしいいいい」

「ねぇ、なんかホントにあったと思う?」

「うーん、どうだろう? 変な音は一回だけ? まだ音する?」

「……今は、しないね……」

「うううう。眠い……」

 私はやっとの思いで、目を開けて体を起こした。

 それと同時位にドアが開けられ、パジャマ姿の花菜ちゃんは部屋に戻って来た。


「で、花菜ちゃん。どうだったの?」

「先生が乗務員に聞きに行ってくるから、騒がないで部屋で待ってなさいって」

「待ってる?」

「ねぇ、美紀ちゃん、外のデッキに出ちゃって、待ってたら怒られるかな?」

「咲ちゃん、それは怒られるんじゃない?」

「花菜ちゃんはどう思う?」

「先生来るって言ってたし……」

「麗奈ちゃんは?」

「私は寝たい」

 欲求に忠実な、私はそう本音を言った瞬間だった。


 ドカンッ! とくぐもった音だけど、地響きの様な振動も一緒に体感できた。

「「「「えっ!?」」」」

 私達は顔を見合わせて、絶句した。時が止まったかの様な時間だった。

 何が起こったか? 何があったのか? どうすればいいのか? を考えなければいけないのに、脳がそれを拒否した。


「ね、ねえ!! 逃げよう!!」

 花菜ちゃんが悲鳴染みた声を上げた。

「逃げるってどこに!?」

 咲ちゃんが叫んだ。

「デッキに行く?!」

 美紀ちゃんが、声を荒げて言う。


 そんな中で、船内に緊急放送が掛かる。

『皆さん、落ち着いて下さい。船内に異常が発生しましたが、対処をしております。騒がず、待って下さい。次のアナウンスが入るまでお待ちください』

 イタリア語、英語、日本語で、繰り返し案内が放送された。


「とととと、取りあえず、着替えてまっとく?」

 あわあわしながら花菜ちゃんが言う。こくこくと頷いて咲ちゃんも言う。

「き、着替えよう! 逃げるときこのままじゃこまるもん」

 そう言って咲ちゃんはバッグから、着替えを取り出して先に着替え始める。花菜ちゃんも自分の服装を見て同じ様に着替え始める。

「私達も着替えよう、ね、麗奈ちゃん」

「うん……」

 促された私は、ヨロヨロと立ち上がる。カタカタと震えながら私達は着替えた。殆どの服が頭から、ずぽっと被って着るタイプだったので気付かなかった。自分達の指先がまともに言うことを聞いてくれない事に。

「やだやだっ! カーディガンのボタンがはまらないー」

 咲ちゃんが涙目になって叫ぶ。咲ちゃんに美紀ちゃんが告げる。

「ボタンとめられないなら、羽織るだけにしてればいいよ。私も指が震えて上手く出来ないや……」

「ねぇ、救命艇とかないんだっけ?」

「デッキにあるんじゃなかったっけ?」

「勝手に出ても大丈夫?」

「……どうしよう」

「どうしよう……」

 着替え終えた私達は、震えながら身を寄せ合う。

 そんな中、バリバリバリッドカーーンと、天井から突き抜ける音と振動。


「キャアアアーーー」

「いやああああああ」

 悲鳴を上げる私達を翻弄するように、電気が消えた。

 雷だろうか、小さな小窓から光が、明滅して室内に入る。

「うそ……」

 もう一度、轟音が落ちると同時に、大きな横揺れが来る。


「「「「きゃああああああああああああああ」」」」

 悲鳴を上げながら私達は、ベッドや壁に叩きつけられた。

 ガツン! と私はベッドの角か、他のどこかに頭を打ち付けた事は理解出来たが、それ以上の思考は続かなかった。

 ずきずきとする痛みだけを残して、私『麗奈』の一生は幕を閉じた。




 


ーーーー苦しい、苦しい、痛い、痛い痛い。


 全身をギリギリと締め付けられる痛み。

 朦朧とする意識。

 誰かが自分を呼ぶ声。


「お嬢様!」

「くそっ、ラミアめ! お嬢様を放せ!!」

 薄く目を開けると、蛇の尾に自分は巻き付かれた上、締め上げられている。視界の先には尾の持ち主であろう、上半身裸の女性の様なラミアと呼ばれた生き物が、私の体を尾で締め付けながら、持ち上げてニタアアと笑う。ゾロリと並んだ歯はまるで鮫のように鋭利だ。

「っ!!!」

 恐怖が私を襲った。


ーーーー私は死ぬの? また? また、死ぬの?

 ラミアの顔が近付いてくる。声も出ない、体も動かない、怖い怖い怖い怖い。嫌嫌嫌嫌。目をぎゅっと瞑る。


「ホーリーランス!」

 凛とした若い男性の声が、その場に響いた。

 ドスリと私の目の前で、何かが刺さるような音がする。


「ホーリーソード!」

 同じ若い男性の声が、私の近くで聞こえた。

 ザシュン! と私の周囲で音がしたと、同時に体を縛っていた戒めが解けたのを感じた後に、小さな私の体が温かい腕に抱かれたのが分かる。ラミアの体温はとても冷たく、気持ち悪かったからだ。


「レスティーナお嬢様!」

 安堵が混じる、使用人の叫び声が聞こえる。


「もう大丈夫だぞ。ヒール!」

 ポカポカした温かさが体に染み込んでくる。

 ゆっくりと目を開けると、青い瞳、赤い髪の青年がにっこり笑い掛けてくれる。

「頑張ったな。よしよし」

 そう言って、笑って私の頭を撫でてくれる。

 ぽろり……ぽろりと、勝手に私の両目から涙が落ちてくる。

「怖かったな、もう、大丈夫だ。よしよし」

 優しく笑い掛けて、撫でてくれて、今と昔が交錯する。


「っ……あ、ああああああああああああああああ」

 私は大声で泣いて、その青年にすがり付いていた。  

 泣いて泣いて泣きわめいて、グッタリ意識を無くすまで泣いていた。




 あの日、使用人数人と別荘近くの湖畔へピクニックに行った。そこで滅多なことでは遭遇しない筈のモンスター【ラミア】に出会い、食い殺されそうになった。ラミアは、下半身大きい蛇、上半身は裸婦の魔物。コイツの好物は子供の肉だ。狙われたのは、私。まだ、四歳の私だった。

 この時助けてくれた男性は、たまたまトゥーア領を訪れてた冒険者で、聖騎士の職位を持つ人だった。彼が通り掛かってくれたおかげで、私は助かった。

 実際、ラミアの尾によって締め付けられて、何本か肋骨が折れてたり、腕や足も骨折やヒビもいってたらしい。

 彼が掛けてくれたヒールのおかげで、本当に命拾いしたのだ。


 この出来事を切っ掛けに私は、前世を思い出し、この世界の一端を知ったのだった。 


もう、1話追加予定です。

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