さぁ、ざまぁタイムだ! 3
はらはらはらと、舞い散る。紅葉狩りではなく、髪狩りな風景。
国王のサラサラキューティクルヘアと、宰相の薄毛が綺麗サッパリ舞い散っていく。床に落ちる前に光の泡となって消えていく。一見すると幻想的だが、残されたのは。つるっつるのハゲ二人。良く見ると眉毛も睫毛もない!
「ぶっ! ふぐっ!」
私は大慌てで両手で口を塞ぎ、笑い声を堪える為に アレクサンダーに抱き付く。
――――ヤバイ、やばい、ヤバすぎいいい! 笑えるぅぅぅ!
「ぶぶッ!」
酸欠になりそうなりながら、隙間からこっそり見てまた笑いそうになる。
――――こ、呼吸がッ! お腹いたいーーー! ひいいっっ。おもろすぎやー、何この超展開!
「へ、陛下?」
「宰相?」
互いに見合せ、お互いに頭を撫であい、愕然とする二人。
「「な、なんじゃこりぁあああ!!!」」
「フッ、ざまあみろ」
ニヤリとものっそい悪い笑みを浮かべてアレクサンダーが、ぼそりと呟く。
――――もしや、アレクの入れ知恵? ケレスには、アレクサンダーの意識は筒抜けだもんねぇ。素晴らしい辱しめだわ。
『ふむ、確かに妾の御使いの絶望感と同じ位ではあるな。むしり取れる毛と言う毛は取って正解だのう。鬘を被っても消えるからのう、無駄な足掻きはせぬことだ。毎日鏡を見て己の所業を反省するがよい。それと、足りない分は、そなたらの伴侶が仕置きしてくれるから、楽しみに待つがよい』
「そそそれだけは!」
「お、お待ちください!」
聖癒神ケレスの言葉に、慌てまくるハゲ国王とハゲ宰相。
『無理じゃな。もう知っておる。妾と契約しておるからのう。筒抜けじゃ』
「「っ!」」
愉悦を帯びた声でばっさりと、切って捨てる聖癒神ケレスの言葉に、燃え尽きた様に白くなって、ガックリと膝を着くハゲ二人。ヤバイ面白いわ。
「母上が知っている?」
ハゲの喜劇劇場を観劇していた、実の息子である王子は思わぬ所で出た母親の事に反応する。
『何故すんなり、誓約書を持ち出せたのかと疑問に思わぬか?』
「そ、それは! 母上と叔父上の愛情の賜物で!」
『そなたは、ほんに馬鹿じゃな。不当に妾の愛し子を縛るものなぞ、破棄する様に神託しておいたに決まっておろう。ただ、神具の発動条件と、介入制限により表立って動けなかっただけじゃ』
くつくつと笑う聖癒神ケレスの言い分に、母と叔父と神がグルという実態に呆然とするカイン王子。神様に馬鹿認定されてるのに、ツッコミを入れる余裕がないのか、はたまた、おバカだからスルー機能が働いてるのかは、微妙な所である。
そして、白猫の瞳が次の獲物を見詰め、キラーンと光る。
『次はお前じゃのう、ロキよ』
『げげげ、ちょっ、待って! ケレスちゃん? バルキリーちゃん!』
じたばたと黒ネズミが暴れ出す。キイと、伝令鳥が鳴くと、嘴に挟まれた見た事のある腕輪が出現した。そう、私が引っ掛かった忌まわしきプレゼントだ。
『ロキ、お前が造った神具は、確かに逸品だな。指定した意識のみを自然な形で切り離せるとはな』
『そりゃぁ、盗神だからね! 精神に異常をきたさない様に、それだけを拐うって凄いでしょ?』
ロキは自慢気に言うが、化身の黒ネズミはじたじたばたばたしながら、器用に焦っている。
伝令鳥は頭を振りかぶり、嘴にある腕輪を黒ネズミにスポンと被せる。上手い具合にと言うか、大きさが変化してキッチリと首輪の様にはまる。
『バルキリーちゃん? 何をするん?』
冷や汗をだらだら流す黒ネズミの首輪と化した、腕輪を伝令鳥が嘴でつつく。
『仕置きだ。これをこうして……』
『ちょっ、ゴメン! ご免なさい! ケレスちゃん、バルキリーちゃん、謝るから許してーーッ!』
『許さぬわ! 妾の気が済むまで悪いコのロキは、下界で過ごしておれ! 一応、救済措置はしてやるぞ。心置き無く、大好きな暇潰しを楽しむがよいわ!』
『待って待って! 封じられたら、転職とかする人間が困るから!』
『以前なら困っただろうが、お前が作成したこの神具のお蔭で問題外だ。悪さをしないお前を本体に残し、残りを黒鼠に封じれば良いのだからな。早く封じを解きたければ、善行を行うか、マスターの資格を持つ者の使い魔になるかだな。精々励むと良いだろう。管理神としても、此度の一件の始末は着けねばなるまい。甘んじて受けよ』
『わーーーーーー! 助けてええええ!!』
ロキの懇願が響き渡る。
『『神秘の鳥籠』』
聖癒神ケレスと、管理神バルキリーの凛とした声が歌う様に広がった。
一拍の後、黒ネズミがバリバリと放電したかのようになり、パタリと力尽きる。
『……きゅーーううぅ』
踏んづけたまま、睥睨する白猫。
『ふむ、馴染むまで時間が掛かる様じゃな』
伝令鳥がこちらを向いて、バルキリーが言った。
『アレクサンダーよ、我らの頼みを聞いてくれるか?』
「はい、どんな事でしょうか?」
アレクサンダーは返事をしつつ、私の肩をトントンと叩いて落ち着く様にと促す。キッチリとバルキリーの化身の伝令鳥と、ケレスの化身の白猫に向き直り、姿勢を正してアレクサンダーは言葉を待つ。
『とても簡単な事だ。この鼠を掴んではくれないか?』
「はい、こうでしょうか?」
言われるままに右手で、むんずと黒ネズミを掴むアレクサンダー。
『そのまま、天井に向かって力一杯投げよ』
「はい」
大きく振りかぶって、ネズミを放り投げた。
『飛べ、遥か彼方に』
白猫が黒ネズミの行き先に、追加注文を付け加えると、白く光る輪の様な魔方陣がネズミを取り囲んだかと思うと、グンと速度を増して天井にぶつかる瞬間に黒ネズミごと消えた。