表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/32

狙われたコデックス 06

 しかしレニング・コデックスは、王宮の蔵書館には存在しなかった。


 王宮の蔵書館で、グレン、ユアン、ルイスを含む騎士団員たちを前にして、王宮が所有する膨大な蔵書リストを前にしたクラネスの表情は、いつもの彼女とは全く違っていた。

 クラネスは蔵書リストをくまなく探し、レニング・コデックスの行く末を探す。


「ありました! レニング・コデックスは、四十年前まではたしかにこの蔵書館に収められていたようです。けれど、国王陛下から臣下に下賜(かし)されて、今は――」


 クラネスはそこにある文字にこくりと息を呑んだ。


「……ラングハート家、です」


 こちらを見たクラネスに、グレンは僅かに目を見開いて、蔵書リストを確かめる。

 確かにそこには書かれてあった。


『国王ラドルファス八世よりケネス・ラングハートへ』


 グレンとユアンの祖父だ。現在も健在だが、今はアスファリアにはいない。

 クラネスが気に入ったラングハート家の蔵書室も、ケネスが作ったものだった。祖父はクラネスと同じように、本を愛する人だった。レニング・コデックスも、あの部屋の中に存在しているはずだ。


「レニング・コデックスは、作曲家のゴッドフリート・レニングが、死の間際に彼自身で編纂させたもので、制作年は、今から約二〇〇年前の、大陸暦八〇〇年頃だといわれています。譜面とそれにあわせて造られた詩歌、それに挿絵から構成されていて、彼が生前作曲した五〇〇曲以上の中から、特に彼が気に入っていた二〇曲が収められています」


 蔵書リストから概要を読み取ってクラネスが説明した。


「罪を犯してまで盗むほどの価値があるのか」


 ユアンの問いに、クラネスは躊躇(ためら)いながらも、頷く。


「蔵書として、または美術品としての価値は高いわ。レニング・コデックスは、ゴットフリート・レニングが自身の子孫へ伝えるために遺したもので、一点ものなの」


 その説明に、グレンの隣に立っていた第四師団長のアルバートが、グレンに視線を向けた。


「ゴットフリート・レニングの子孫は、まだアスファリアで生活しているはずです」


 グレンはそれに頷く。


「レニング家は、ゴットフリートが作曲家として蓄えた富を、たった数代で食いつぶした。生活資金を得るために、コデックスも市場に放出したんだ。それが回り回ってアスファリア王家のものとなり、そして我が祖父の手に渡ったというわけか」

「レニング家の子孫が、一度失ったコデックスを取り戻そうとしているとしても、不思議ではありませんね」

「ファントムが関わった、その他の盗品リストは」

「こちらです」


 グレンは渡されたリストに目を通す。どれもこれも、言いかたは悪いが大した品ではなかった。人を攫ったり、人を傷つけたりということもない。


「……はっきりとした関係性は見えないか。とにかく、すぐにレニング家を調べろ」

「わかりました。第四師団は一緒に来い」


 アルバートはユアンを含む第四師団員を伴い、すぐに部屋から出ていった。

 グレンはクラネスに向き直った。


「時間まで、あと四時間だ。それまでに、コデックスを狙う理由が他にないか、きみにはそれを調べてほしい。すぐに来てくれるか」

「はい、もちろんです」


 二人は共に、ラングハート家へと向かう。


 屋敷に向かう馬車の中で、グレンはクラネスを見やった。クラネスは蔵書館から持ちだした、ゴットフリートに関する書物を真剣に眺めている。

 犯人の狙いがコデックスで、それがラングハート家にあることを知っていての犯行だとしたら。そのために、か弱いクラネスが狙われたのだとしたら。しかも、一度ならず二度までも。


 胸の中に湧き起こる怒りを抑えようと、グレンは膝の上の拳を握りしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ