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狙われたコデックス 04

「事件発生時、城門は開門前だった。門を破った形跡はない。つまりサラ・ルセルを(さら)った男たちは、アスファリア城下に潜伏していると判断できる。現在すべての門に検問を設けている。城下からは、一歩も出られないだろう」


 室内に、グレンの声が響いた。空気は静まり帰っていて、耳に痛いほどだ。


 グレンの目前には、負傷の手当を終えたユアンとルイスがいた。一緒にいたクラネスは、既にロヴェル家に帰している。


 現在、騎士長および第一師団長は、アスファリア国外である。その場合、第二師団長であるグレンが騎士長代理を務めることとなっており、グレンは責任者として早朝から騎士団本部に呼び出されていた。


「城下での捜索も、既に開始している。犯人は、必ず捕らえる」


 そう言い置いてから、グレンは目の前の二人を見る眼差しに力を込める。


「それでお前たちは、早朝から何をしていた」


 非難を含んだグレンの声に、ルイスは目を閉じて唇を噛んだ。


「……自分が、ユアンを呼び出しました。サラを連れていったのも、自分です」

「クラネスは」


 グレンが視線を送ると、ユアンはまっすぐにこちらに視線を返した。


「俺が」

「お前が、連れていったのか」


 ユアンが頷くのを確認して、グレンは腕を組みながら、ひとつため息をついた。


「お前たち二人は、約一カ月前にも騎士団内で口論をしているところを、ラウラ騎士長に止められているな」

「……はい」


 ルイスは両の拳を強く握って項垂(うなだ)れる。グレンは再び小さく息をついた。


「お前たちの馬鹿げた争いが原因とは言わない。だが責任を感じているのならば、結果を出せ。サラ・ルセルの救出に全力を注げ。いいな」


 ルイスは顔を上げて、悲壮な顔で頷いた。

 ユアンもゆっくりと頷く。その眼差しからは、はっきりと後悔と自責の念、そして怒りと決意が伝わってくる。


 その時、扉の向こうで、慌てた声が響いた。


「グレン師団長、失礼します」


 返事を待たずに扉は開けられ、血相を変えた騎士団員が一人、部屋に飛び込んでくる。


「何だ」

「今しがた、これが」


 差し出されたのは、矢に結び付けられた一枚の紙であった。グレンはすぐにそれを開く。


『女と引換に、レニング・コデックスを渡されたし。受渡しは夜六時、アリア通り(アヴェニュー)、金の小麦亭にて』


 文面の最後に、ファントムと署名があった。


「ファントム、だと」

「ええ。過去何度か、城下で小さな窃盗事件を起こしています。正体を隠すために、白い仮面をつけた男です」


 聞いたことのある特徴に、グレンは舌打ちした。


「ファントムが関わる事件を、リストにしてもってこい。それから他の師団長を呼べ。すぐにだ」

「はい」


 彼はすぐに部屋を出ていった。

 ユアンが眉根を寄せて、グレンに視線を向ける。


「仮面? エルネス離宮の時も、確か……」

「ああ、同一人物の可能性が高い」


 答えながらグレンは、手に持っていた紙を二人に見せた。


「レニング・コデックス?」


 見慣れない言葉に、ユアンがこちらに視線を寄越す。ルイスも同じだ。

 グレンは眉間の皺を深くしながら、二人に答える。


「コデックスとは、写本のことだ。おそらく蔵書館に保管されている」


 それを聞いたユアンが何かを理解し、その双眸を小さく見開いた。考えたことは、たぶん同じだろう。グレンは唇を噛んだ。


「……サラは、クラネスと間違えられた可能性が高い」

「どういうことですか」


 ルイスが悲鳴のような声を上げた。


「クラネスが襲われるのはこれで二度目だ。犯人の狙いがコデックスなら、司書であるクラネスを攫って、コデックスの在処を聞きだすつもりだった可能性がある。それがクラネスではなく、サラを連れかえってしまった。そこで計画を変更して、彼女と引換にコデックスを要求してきた」

「そんな……」


 グレンは、蒼白になるルイスを力づけるように、強い口調で続けた。


「計画の変更は、こちらにとっての好機だ。取引場所には十分な騎士団員を配置する。それから」


 一度グレンは言葉を切り、ユアンを見る。


「取引まではまだ時間がある。先にコデックスを調べあげる。これからロヴェル家に向かい、クラネスに協力を仰ぐ。ユアン、今の話を集まった師団長たちに伝えてくれ。いいな」


 グレンは手にしていた紙をユアンに渡し、そのまま足早に部屋を出た。


 これ以上、彼女を巻き込みたくはなかった。それがグレンの心を一番に占める偽りのない気持ちだった。

 しかし事件を解決するために、彼女の力が必要だ。傷つく彼女を、もう一度事件に関わらせることになってしまう。

 グレンは、小さく唇を噛んでいた。

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