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パーティの夜に 03

 仕立てあがったばかりの薄い菫色のドレスを身にまとい、クラネスはグレンの到着を待っていた。

 首元にある、母も身に着けていたという宝石が随分重い。気分はそれよりもずっと重い。


「クラネス様、ラングハート家からお迎えの馬車が到着いたしました」


 呼ばれ、クラネスは普通の表情を取り戻そうとつとめて、玄関へと向かう。

 丁度馬車から降りてきたグレンの姿に、一瞬で目を奪われていた。


「とても綺麗だ。クラネス」


 自分を見て、ふわりと微笑んだグレンに、クラネスは声を返すこともできなかった。


 白を基調とした騎士団の正装。衣装を彩るボタンやタッセルは全て白銀で、羽織られた外套(マント)は深い群青色だ。美しい衣装に身を包んで、グレンは圧倒的に輝いていた。


「……グレン様。素敵です、とても」


 ようやく声を出すと、グレンは微笑んだままその手を差し出した。クラネスはそっと手をのせる。

 そのまま手を引かれ、馬車に乗りこむ。中には、同じく正装をしたユアンが座っていた。


 不機嫌な顔で、長い足を組んで腕を組んだユアンは、その態度にも関わらず、目を見張るほど美しかった。

 クラネスは二人の側で観念した。駄目だ。この二人と一緒にいて、視線を集めないはずがない。嫉妬されないわけがない。不釣合いだと嘲笑されないわけがない。

 機会を見て、逃げ出そう。そんなことさえ頭に浮かんでいた。


 王宮に隣接する、エルネス離宮に到着すると、クラネスはグレンのエスコートで会場に入る。ユアンはその後ろを歩いていた。


 予想通り、クラネスはかつて感じたことのない数の視線を感じた。ちらりと横を見上げると、グレンは平然としている。慣れているのだろうか、注目を集めていることすら感じていない様子だ。

 そのまま真っ直ぐに、三人を呼び出した人の元へと向かう。


「あら、本当に来てくれたのね。嬉しいわ」


 誰よりも美しいドレスと宝石を身にまとい、三人は座れるであろう大きなソファに、一人でゆったりとくつろぐラヴィニアは、こちらを見て優雅に微笑んだ。

 六十歳は超えているはずだが、ふくよかで艶やかな容貌は、身にまとう装飾に負けずに優美だ。


「ラヴィニア様、お招き感謝いたします」


 そう言ってグレンがソファの前に(ひざまず)くと、ヴィニアはゆっくりとその手を差し出した。手の甲に唇を重ね、グレンは立ちあがる。

 ラヴィニアがゆっくりとクラネスに視線を向ける。


「クラネスね。ミハエルの娘だとか」

「クラネス・ロヴェルと申します。ラヴィニア様」


 クラネスはドレスの裾をつまんで、膝を落とした。


「とても可愛らしいじゃない。グレン、良かったわね」

「ええ、ありがとうございます」


 グレンは微笑んで、クラネスと反対側の脇をすこしあける。ユアンがそこから進み出て、やはりソファの前で跪いた。


「ラヴィニア様におかれましては、ご機嫌麗しく」


 さっきまでの不機嫌な表情は綺麗に消し去って、ユアンはラヴィニアの手の甲に唇で触れる。


「成人したときに宰相が連れてきて以来ね。レガリスでは、良い働きをしたそうね。大義であったわ。陛下も喜んでいてよ」

「ありがとうございます」


 ラヴィニアは満足そうに、ゆっくりとあでやかに微笑んだ。


「ご覧なさい。あなた方とおしゃべりをしたい皆様がお待ちよ。今日はゆっくりしていきなさい」

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