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プロローグ

 十年前、十五歳の時。子供心に憧れを抱いていた、叔父のユリアス・ラングハートが戦死した。


 (ほま)れ高き、アスファリア騎士団第一師団長であったユリアスが戦死したという事実は、葬儀に列席した際に、涙が零れるくらいにはショックだった。自分にも、そんな感情が隠れていたのかと驚いたことを覚えている。

 対して、ユリアスの実の息子である、七歳年下の従弟(いとこ)であるユアンが、涙の(ひと)(しずく)も流さないのが印象的だった。たった八歳にも関わらず、ユアンは自分の感情を押し殺していた。


 ユリアスの実兄にあたる父のクラウスは、すぐにユアンを引き取ることを決めた。

 クラウスは、ユリアスに生き写しであるユアンを気にいっていた。実の息子である、自分よりもずっと。時々本気でそう思った。


 ユリアスの息子として、またラングハート家にふさわしい男として教育するために、クラウスはユアンから母親を遠ざけた。ユアンを意のままに育てるために、邪魔だったからだ。

 ユアンの母親は抵抗したが、アスファリア王国の宰相であるクラウスに、逆らうことなどできなかった。

 クラウスの逆鱗(げきりん)に触れれば、母親だけでなくユアンも、アスファリアを追われる身となるだろう。それを悟ったのか、結局、失意のうちに母親はアスファリアを去った。


 ユアンは一人になった。それでも彼は、葬儀の時と同じように、涙を流すことはなかった。

 今になって思えば、ユアンは感情を押し殺していたというよりは、悲しみに心が麻痺していたのだ。感情を表に出すことすらできなかった。それだけのことだ。


 麻痺した心は、やがて深く(よど)んでいった。ユアンは何に対しても、興味を持たなかった。何かに喜び、夢中になるという感情も、悲しみと一緒に捨ててしまったようだった。

 クラウスは、それを無視した。ユアンは決して逆らわなかった。それでクラウスは満足し、ユアンの心がどうなろうと関係なかったのだろう。


 ユアンを不憫に思ったことは確かだ。

 だが、力のある人間には、それを行使する責任がある。自分自身がそう厳しく教えられた。そのことは、間違ってはいないと考えている。だからユアンも、能力があるというのならば、その力を尽くして欲しい。


 そう考える一方で、クラウスほど、ユアンの気持ちを無視するつもりもなかった。

 いつかユアンが自分で選択する日が来たのなら、彼の力になる。そう、決めていた。

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