表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/28

球技大会は弱肉強食


 日海学園はどんな些細なイベントにも手を抜いたりしない。


 球技大会も体育祭並みに盛り上がりを見せることでおなじみだ。クラスの情報通が言っていたのだから間違いない。


 参加種目はサッカー、バレー、バスケ、ソフトボール、クラス全員参加のドッジボールと定番を揃えて種目によっては男女混合も有り。


「やるからには全て勝つのだ。負けたら屈辱の罰ゲームだからな」


 よろり考案の罰ゲームは毎回子どもじみている上にしょうもない。当然不平不満の声が上がる。


「全て勝つとか無理だろ」

「私たち一年生だよ?」

「てか、この学校の球技大会、部活と同じ種目選んでいいらしいし」


 よろりの恫喝が始まるかな、と俺は身構えたが、予想に反して奴は流した。


「あー、分かった分かった。お前たちにいいものをやろう。これをパワーにして今日の球技大会を乗り切るのだ」


 そうしてよろりがアニマルクラスに配ったのは、真っ赤なTシャツだった。いわゆるクラスTシャツというやつだ。どのクラスもオリジナルを自主的に作っており、クラスの士気を高め団結を強くするために、必要不可欠なアイテムである。


 気が利くじゃないかとほんの少しよろりを見直して袖を通した途端、みんなは一斉に裏切られた。


 Tシャツの表には力強い字で『弱肉強食☆焼肉定食』の文字。

 そして裏には『みんなみんな生きているんだアニマルクラス♪』の文字。


 史上最悪のデザインだった。

 このTシャツを着て球技大会に臨むこと自体がすでに罰ゲーム。情熱的な赤に悪ふざけとしか思えないプリント。嫌がおうにも目立つ。


 いくら猫田さんでもこのTシャツは嫌がるだろうと視線を向けると、彼女はTシャツの赤を隠すように上からジャージを羽織っていた。ずるい。


「ごめんね、みんな。体の調子が悪くて医者から止められてるの。応援頑張るから許してね」


 いかにも深窓のお嬢様っぽい猫田さんにそう言われれば、深く追求はできない。いつもツインテールにしている髪をポニーテールにしているだけで、男子連中は目を輝かせている。

 まあ、下手に参加して遠足のようにおかしなことを起こされても困る。


「気に入らねえ。あの猫かぶり女……」


 忠弥だけはふつふつと燃え上がる怒りを滲ませて、ある意味熱い視線を猫田さんに浴びせていた。

 あのラブレターの筆者である元橋先輩には、交際を断られたという結果だけを伝えたらしい。破られたことも暴言を吐かれたことも内緒である。口が裂けても言えない。


「断られたはらいせに部内で変なことになってないか? 八つ当たりされたり、先輩に目をつけられたりは……」

「お前も心配症だな。いつまでも中学の時と一緒にするなっての」


 忠弥は忌々しげに答えた。まあ、こう言うからには大丈夫なのだろう。


 Tシャツに集まる視線をやり過ごして屈辱的な開会式を終えた一同は、さっそく各自の種目会場へ足を運んだ。天気予報では一日中くもりだったが、空を見ると暗雲が迫ってきていたので、少しでも早く試合を消化させようと係の生徒が忙しく走り回る。


 俺は中学時代に野球部だった経験を生かしてソフトボールを選び、運動全般が壊滅的にできない響子ちゃんも数合わせでソフトボールだ。忠弥は当然男子バスケである。


 試合にはまだまだ時間があったので、ソフトボールチームは男子バスケの応援に体育館へ。歓声が轟いて、床が揺れている。


 男子バスケ一回戦、アニマルクラス対三年五組。

 結果から言えば見事な快勝だった。

 男子バスケには運動神経の良いメンバーを集めたので簡単に負けやしないのは分かっていたが、現役バスケ部員が二人もいる三年生に勝てたのはやはり忠弥の活躍によるところが大きい。さすが全国クラス。電光石火のドリブルだった。


「すごーい。忠弥くん、かっこ良かったねー」


 小熊さんが手を叩いて喜んでいる。少しジェラシー。

 遠足以降、俺は気づけば小熊さんを目で追っている。

 いつ見てもかわいい。癒される。多分彼女の周りにはマイナスイオンが出ている。


 俺にもう少し勇気があれば、話しかけたり、連絡先聞いたり、積極的に動くんだけどな。

 一度意識してしまうと、近づけなくなる。

 ソフトボールの練習のときも、あまり関われなかった。

 何とかこの球技大会本番で良いところを見せて、存在感をアピールしたい。


「ほう、ネズミも少しは役に立つではないか」


 ぬっと背後からよろりが顔を出し、ソフトボール組に圧力をかけた。


「お前達はソフトボールだったな。必勝、いや、必殺だ」

「任せて下さい、よろり先生。忠弥にだけ歓声をやるわけにはいきません……」


 響子ちゃんが何故か自信満々に胸を張る。練習であれだけエラーを繰り返したのに何を偉そうに、と俺は呆れた目。

 しかし気持ちは分かる。俺だっていいところを見せたい。


「うん。頑張ろうね。わたしも久しぶりの試合楽しみー」


 小熊さんが無邪気に声を上げる。そうだ、小熊さんの足を引っ張るわけにはいかない。必ず勝利をプレゼントして見せる。

 

 俺は固い決意を胸に、グラウンドに向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ