第壱話 邂逅
初投稿、初執筆なので何かと至らぬ点が多いかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。
_________ひどくつらい頭痛によって、目が覚めた。
少しして頭痛が幾分かましになったところで、俺はけだるい体に鞭打ち上半身を起こし注意深く周りを見渡してみる。
部屋は綺麗に整えられてはいるが、どことなく違和感を感じる。
例えるなら、半世紀以上前の家が新品同然の状態に置かれている感じである。
しかし、先ほどまでいた自分が場所とはまるで違う。
確か自分は、大学のキャンパスの一角にあるベンチで睡眠をとっていたはずであった。
誰かがここまで俺を運んできたと考えるのが妥当だろう。
しかし、それに何のメリットがあるのだろう。
「おお、目が覚めたか」
不意に後ろから声が聞こえる。
振り返り、軽く会釈しようとしたところで俺は目を疑う。
声をかけてきたその人物に、俺は見覚えがあった。
しかし、俺の記憶にある人物は半世紀以上も過去の人間である
「・・・お名前は、何と言いますか?」
自然にその言葉が出たが、言い終えた後で我ながら失礼な発言だと思った。
「私の名か?私の名は永田鉄山だ。大日本帝国陸軍所属、階級は大佐だ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は目が点になった。
「・・・失礼ですが、今は何年何月の何日でしょうか?」
「1928年12月21日だが」
___絶句___
今の俺の状態をもっともよくあらわしているのがこの言葉であろう。
永田鉄山と名乗る人物、そして今の年月。
それは俺を放心状態に追いやるのに十分すぎる力を持っていた。
「大丈夫かね?ここに戻る途中に倒れている君を見つけたんだが。
君はどこの人間だね?あまりなじみのない服装をしているし」
その言葉で我に返る。
自らが何者かを、おそらく介抱してくれたこの人物に伝えなければならない。
だが、信じてくれるのだろうか。
自分が未来から来たということなど。
しかし、伝えなければならないという気持ちが自分の心を支配していく。
意を決する。
ここで信じてもらえな来ればそれまでだ。
自分はおそらくサナトリウム行きだろう。
最も、この時代にサナトリウムがあればの話だが。
「・・・信じてもらえないかもしれませんが」
「なんだね?」
「・・・私は未来から来ました」
そう告げると彼は眉間にしわを寄せる。
「・・・確かに、その珍妙な服装は未来の服装に見えなくもない。
だがそれだけでその言葉を信じるほど、私は夢見がちな人間ではない」
当然だろう。陸軍三羽鳥と言われた永田鉄山がこんな突拍子もないことを易々とは信じないだろう。
しかし、今はそれを信じてもらわなければならない。
(そうだ、スマートフォンを見せれば信じてもらえるだろう)
そう思い立ちズボンのポケットに手を入れる。
しかし、どのポケットにもスマートフォンはおろか何も入ってはいなかった。
「介抱するときに、私のポケットから物を取り出しましたか?」
「そんな盗人じみたことはしとらんよ」
つまり、過去に来た時になくなったのだろう。俺を過去に連れてきたのが神だとしたなら、ずいぶんと意地の悪い神らしい。
少し思案した後、俺はあることを思いつく。しかし、それは危険な賭けでもあった。
一歩間違えればスパイ容疑で憲兵に引き渡されるだろう。
しかし、他に方法も思いつかなかった。
「永田さん」
「なんだね?」
「この世界でも、永田さんはバーデンバーデンで誓いをたてているのでしょうか」
そう言った後、一瞬永田鉄山の眉がピクリと動いた。
「・・・誰と、何のために誓いをたてたのかね」
そう言い放つと、憮然とした表情で俺を見つめる。
「・・・小畑敏四郎、岡村寧次とともに。人事刷新と軍制改革を断行、軍の近代化と国家総動員体制の確立、真崎甚三郎・荒木貞夫・林銑十郎らの擁立、陸軍における長州閥打倒、各期の有能な同志の獲得・結集などの陸軍の改革、満蒙問題の早期解決、革新運動の断行を行うために誓った・・・違いますか」
言い終えた後、永田鉄山の顔を見上げる。信じられないといった風な感じで目を丸くしている。
少しの沈黙の後、少し震えた声で言葉が紡ぎだされる。
「・・・お前は、本当に未来から来たのか・・・?」
その言葉には、畏怖と恐怖の感情が交じっているように思えた。
当然だろう。未来から来たと自称する変な服を着た人間が、突然自分が秘密にしていたことを話し始めたのだ。誰だって不気味に思うはずだ。
「・・・信じて、もらえましたか」
「・・・まだ、すべては信じきれん。しかし、君が嘘をついているようにも思えない」
「・・・君がいた、未来のことを話してくれるか?」
「わかりました」
「ありがとう。長い話になりそうだ、お茶を入れてこよう」
「ありがとうございます」
そう言い終えると、永田鉄山は部屋を後にした。
「・・・未来のこと、か・・・」
未来の日本のことを知った時、永田鉄山はどのような反応をするのだろうか。
それはわからなかった。
ふと窓の外に目を向けてみる。夜空には煌々を輝く満月があった。
「・・・長い夜になりそうだ」
そう呟き、俺は未来のことについてどこから話すか考え始めることにした。