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1.転生

「ああああ! ついに死んじゃったし! あんだけ力をもらって大口を叩いときながら結局これって……!ほんとマジあり得ないって感じだし。どう思うあんた?」


「……ああ、うん」


 薄型テレビから顔をあげて怒りながら質問する少女に、俺は適当な相槌しか返せなかった。


 気付くと知らない場所にいて、今時珍しい金髪ガングロギャル少女が自分は神様で、俺こと鈴木権蔵を異世界に転生させると言うのだ。

 拒否権はないらしい。


 最初はなんの冗談かと思ったが、腹パンされて内臓をぶちまけた俺を瞬時に治し、ギャル神が見せたテレビの録画映像の生々しさに信じるしかなかった。


 テレビには一人の少年の人生が映されていた。幼い頃から天才と周りに持て囃され、魔王を倒して姫様を救いだし、農民から貴族に成り上がった少年。

 少年は俺の前に転生した者だとギャル神は言う。

 まさに定番を踏襲した転生者だった。


 しかし十八歳という若さで死んだ。つまらない所は早送りしたが最後は裏切られて死んでしまった。


 チートな力を持っていたが、強制的に授けられた真実の言葉という本音しか喋れない力が原因で死んだ。本音しか喋れないため意図せず敵を作ることが多く、騙されて家族や恋人が殺され、少年は信じていた親友によって殺された。


 そんな鬱展開を六時間も見せられてまともな返事を返せるわけがない。


 「あはっ、何その気のない返事。キモいんだけど、マジ受けるしー」


 しかし俺の返答は何やらギャル神のツボに入ったようだ。

 先ほど怒っていたのが嘘のようにケラケラと笑い出す。

 どこが面白かったのか分からんが、今なら怖くて聞けなかったことも聞けるかもしれない。


「えっと、元の世界に戻ることって出来ませんか?」


 神とはいえ見た目年下の相手に敬語で話すのは違和感がある。しかし腹パンの恐怖が俺が格下の存在である教えてくれる。


「あーそれ無理だから。あんた既にあっちで死んじゃってるもん。過労死だっけ? 確かそんな死因らしいよ」


「そうですか」


 死んだと聞いてもあまり動揺はしなかった。


 転生と聞いて自分は死んだのかと思ったし、夜勤のブラック工場で休む暇なく働いていたのだ。なんだか肩の荷が降りた気持ちだった。

 三十路間近で童貞のまま死んだことは未練だが、死んだことに対して納得してしまう自分がいた。


「へぇ、あんま驚かないんだ」


 少し感心したように俺を見るギャル神。


「終わってしまった事は今更変えられませんからね。次のことを考えた方がまだ建設的です。それで転生とは具体的にどうすればいいんですか? このまま転生させられるんですか?」


 映像鑑賞中に聞いた話では転生者は俺を含めて六人選ばれていたらしく、一人ずつ前の転生者が死んでから転生していくらしい。俺は六番目の転生だった。


「とりあえずあんたら無作為に選んだ転生者には、あたしが共同管理してる世界に転生してもらってるから。なんつーの? 剣と魔法のファンタジー的な世界だっけ」


「なるほど。それで俺は転生するだけでいいんですか?」


 俺がそう尋ねると、ギャル神はそんなわけないじゃんと首を横に振る。


「そこでパパが創った能力を実地で確かめて欲しいんだよね。それ以外は前世の記憶を持ち越せるからあんたの好きに生きればいいや。あんたには運命の選択っていう能力が授けられるからさ。パパが自信作だって言ってたから期待しとけば?」


「運命の選択とやらの詳しい説明はないですか? というかパパって誰ですか?」


 前世の記憶ありで転生できるのはいいが、肝心の能力を名称だけ言われても困る。

 しかもどこぞのパパの自信作と言われても……。

 ギャル神のパパとか援助交際の言葉にしか聞こえない。


「あーなんだっけ? あたしもよく分かんないけど、ゲームでいう行動選択を選ぶみたいな感じの能力でぇ。データを取るからそれを使い続けて欲しいんだって。そんでパパはあたしのパパで、何でも創っちゃう創造主的な存在かな?」


「……そうですか」


 あまりにもアバウトな説明だった。

 正直転生する前から不安でいっぱいである。

 とにかくギャル神のパパである創造主が創った能力を異世界で使えばいいのだろう。


「でさ、あんたはどうする?」


「えっ、どうするって?」


 気分が沈んでいた間も話は続いていたらしい。

 敬語も忘れて問い返してしまった。


「だぁから転生特典は何がいいのかって聞いてんの! あんたら転生者はいろいろ力あげないとすぐ死んじゃうじゃん? わざわざ転生させてパパの創った力を使わせずに死ぬとかマジやってらんないしー。あたしゲームしてるから特典を決めたら教えろよな」


 そう言ってギャル神はスマホを取り出しアプリゲームをやりだした。

 

 しかしなるほど。確かにそうだ。映像で見た前任の転生者も強制付与された能力以外にチートな力をいくつか持っていた。

 神様側もそこら辺はちゃんと理解しているんだな。

 とはいえ転生特典か。


 何がいいかな?



▽ ▽ ▽



「あの、決まりました」


 俺はゲームに熱中しているギャル神に声を掛ける。


「あれ? もう決まったんだ。思ったより早いじゃん。そんじゃあ教えてよ」


 顔をあげたギャル神に俺は自分が望む転生特典を伝える。


 転生先は小国の貴族の三男坊。能力は言語理解、怪力、自己治癒。他にアイテムボックスとショッピングという能力をもらう。またサポートキャラを所望した。


 小国の貴族の三男坊は程よく安全に自由に暮らせると思ったからだ。

 言語理解はあちらの世界の言葉や文字の読み書きを理解する能力。

 怪力はそのまま力持ちになる能力。最低限の自衛能力だ。

 自己治癒は自分のケガや病気、毒などの状態異常を治す能力。

 アイテムボックスは周辺の空間から物を出し入れする能力。もちろん数や種類や容量は無制限だ。

 ショッピングは様々な物を金銭と還元して呼び出す能力。

 サポートキャラは異世界の知識を持ち優秀な魔法使いとして、俺を裏切ることなく助けてくれる存在だ。


「んー、こりゃ無理だわ。これじゃあ転生させらんないし」


 転生特典の希望を説明したらギャル神がそんなことを言い出した。


「無理ってどういうことですか?」


 ギャル神に理由を聞くと、転生特典が多すぎるとのことだった。

 転生特典は魂に情報を書き込んで異世界で現実にさせるという。これだけの数だと、俺の魂が情報過多でパンクして廃人状態で転生してしまうらしい。

 運命の選択という能力も同じ方法で付与するので、特典の数を減らすか内容をいくらか削らなければいけなかった。


 俺としてはどれも必要だと思ったんが無理な物は無理らしい。


「特にショッピングとサポートキャラがヤバいんだよねぇ。マジ重いんですけど。どっちか一つ諦めない?」


「……この二つは除外したくないんですが」


 ショッピングがあれば便利な生活が出来るだろうし、異世界で一人で生きる自信が無いからサポートキャラは必要だ。断言できる。


「あっそうだ! ショッピングの方を運命の選択と抱き合わせにすりゃいいんだ。これで少しは楽になるっしょ。ハイ決定ー」


 俺が何か言う前に決められてしまった。


 その結果、

 生まれ変わり先の指定はなし。

 言語理解は言葉のみ理解することになった。

 アイテムボックスは四畳半程度の異空間に物を出し入れする。ただし時の止まった空間で数や種類の制限はなし。

 ショッピングは金銭ではなく、運命の選択で得るポイントで還元することになった。

 怪力と自己治癒とサポートキャラは当初の予定通りである。

 

 特典の数を一つ減らし、半分の転生特典がスケールダウンしてしまった。

 当初のままの三つの能力は、何に生まれ変わるか分からない俺にとっての生命線である。

 運命の選択の検証が転生目的なので、生物として転生することが決まっていているのが唯一の救いだろうか。


「んじゃ転生させるからさぁ。覚悟はいい?」


「はい!」


 ギャル神に対して子供のように元気よく返事をする。

 不安は尽きないが、仕事の合間に読んだ数多くのネット小説に似た世界に行けるのだ。童心に帰ったかのような気分になっても仕方がない。


 だがギャル神はそんな俺をゴキブリでも見るような目で見る。


「うわ、マジキモいんですけど」


 そう呟いたギャル神は腕を引き、先ほど腹パンした時と同じモーションを取り始める。


「えっ、なんです!? 俺ってなんかやっちゃいましたか!」


「だ~いじょうぶだって。転生させるために腹パンするだけだからさぁ」


 そう言って強烈な右ストレートが俺に放たれる。ヤバいとは思っても体は急には動かない。


 ――ドパンッ――


 二度目ということもあり自分の体が腹パンされて爆散するのが分かった。一気に目の前が真っ暗になり意識が飛ぶ。


 ……くそ……また腹パンか……よ……

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