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童話

がまのトメ

作者: 桜井あんじ

 むかし、むかしのことです。

 とある国のとある港町に、一軒の豆腐屋がありました。

 13歳になる豆腐屋の末息子トメは、近所でも有名などら息子です。頭が少し足りない上に、怠け者の乱暴者。近所の悪ガキどもの先頭に立っては悪戯ばかりしていたので、評判もすこぶる悪く、トメの両親はいつも頭を抱えておりました。

 トメは毎日夕方になると、ぶうぶう不平を言いながらも、豆腐のたくさん入った重たい天秤を担ぎ、街を歩いて豆腐を売りに行きます。そんな時トメを見かけた人々は皆口々に、「ほら、またあの豆腐屋のどら息子が通るよ」と、陰でくすくす笑いながら噂し合ったものでした。

 

 ある夕方、いつもよりずいぶん早い時間に、トメの豆腐は全部きれいに売れてしまいました。お得意さんの家でお祝い事があり、宴会が催されるので、その家の料理人がたくさんの豆腐をいっぺんに買ってくれたのでした。

 トメは空っぽの天秤を担ぎ、豆腐の代金が入った巾着袋を腰に下げ、軽やかに家路についておりました。

「よう、トメじゃねえか」

 往来の真ん中で声をかけられて振り向けば、それは、近所に住むトメより幾つか年上の兄やでした。この兄やも近所では有名な不良息子でしたが、トメの事は子供の頃から可愛がってくれていました。

「どこ行くんだい」

 兄やはトメに尋ねました。

「家に帰んのさ。今日は豆腐が全部売り切れちまったもんで、店じまいだ」

 トメは言いました。

「ふうん、そうか」

 兄やは、トメの腰にぶら下がった重そうな巾着袋をちらりと眺めました。

「じゃあ、おめえ、ちょっとついて来いや。面白えとこに連れてってやるぞ」

 兄やが言いました。時間もまだ早い事ですし、トメは兄やについて行くことにしました。


 いくつかの狭い薄暗い通りを抜け、兄やは目立たない場所にある一軒の怪しげな家に入りました。トメも兄やの後について、そっと入り口をくぐりました。

 そこでは幾人かの屈強そうな男たちが、板の間に敷かれたゴザにだらしなく座りこんでおりました。一座の真ん中に上半身裸の男がおり、手元に小さなツボとサイコロを持っています。

 真ん中の男がツボにサイコロを投げ入れ、ゴザの上にツボを伏せました。他の男たちはそれを熱心に見つめていたかと思うと、口々に何か叫び始めました。

「兄や。みんな、何してるんだい?」

 傍らにいた男と何やら小声で囁き合っていた兄やは、トメの方を振り向いて答えました。

「これかい。これはな、金をかけてるんだ」

「ふうん。おもしろいのかい」

「そりゃあ、世の中にこれより面白えもんはねえなあ!」

 兄やは笑いました。

「まあ、見ててみろや」

 兄やはそう言うと、居並ぶ男たちの間に身体を滑りこませました。

 やがて真ん中の男がサイコロを振りました。兄やも他の男たちも、大声で何か叫んでいます。ツボが退けられてサイコロが現れると、皆、笑ったり唸ったり大変な騒ぎです。それが幾度も繰り返されました。途中で何度も、チャリンチャリンと気持ちの良い音を立て、ゴザの上に銭が放られました。

「ふうん・・・・」

 どうやら、サイコロの目を当てた人がこの金をもらえるというしくみなのだな、と、トメはすぐに理解しました。

 男たちの様子はとても楽しそうですし、大人っぽく粋でもありました。

「ねえ、おれも仲間に入れておくれよ」

 トメは兄やに頼みました。

 兄やの側にいた男たちは、顔を見合わせてげらげら笑い出しました。

「ちび助、お前みたいな子供にはまだ早いぜ!だいたいお前は金を持ってないだろう」

 トメは腹を立てました。

「子供だと思って馬鹿にすんな!銭ならあるぞ!」

 トメは豆腐の代金が入った巾着袋を掴むと、それを逆さにして、ゴザの上にちゃらちゃらと銭をばら撒きました。

「ほおお」

「景気がいいなあ、坊主」

「よおし、じゃあ勝負だ」

 男たちはトメを座に付かせました・・・・。


 兄やと分かれての帰り道、トメはニヤニヤ笑いが止まりませんでした。

 巾着袋はもうこれ以上入らないくらい、銭でいっぱいです。

 トメは何度も立て続けに勝負に勝って、男たちからそれだけの金を手に入れたのでした。


 それからというもの毎日のように、トメは仕事が終わると賭場に通いつめるようになりました。

 勝ったり負けたり、大騒ぎしたり、それはとても楽しいことでした。

 しかし、勝負事はいつでも勝てるものではありません。ある日、トメは豆腐の代金をすっかり使い果たしてしましました。

「親父に、怒られるだろうなあ・・・・」

 トメは溜息をつきながら、家に帰りました。

「おかえり、トメ」

 トメの親父さんが言いました。

「どうした?」

 トメがよっぽどしょんぼりしていたのでしょう。親父さんは不思議に思って尋ねました。

「あの・・・実は・・・・」

 トメは息を吸い込むと、言いました。

「豆腐の代金を落としちまった」

 親父さんはしばらくの間、黙って目をぱちくりさせていましたが、やがて静かに言いました。

「そうかい、そういう事もあるさ。だけど明日からは気をつけるんだぞ」

「はい。分かりました、お父っつあん」


 しかしトメはそれからも、やはり博打を続けたのでした。

 トメは次第に腕が上がっていき、たいていいつも勝つことができました。しかし時には巾着袋を空にしてしまう日があり、そんな時は、「金を落とした」だとか、「悪い奴が来て、金を盗られた」だとか、うまいこと言い逃れをしていたのでした。

 しかしそんな事も長くは続きません。トメの親父さんは、「ちょっとおかしいぞ」と、思い始めました。

 そしてある日ついにトメは、こっそり後をつけてきた親父さんに賭場でとっ捕まってしまったのでした。

「ガキのくせに、賭博とは何事だ!」

 親父さんはかんかんです。トメは必死に謝りましたが許してもらえず、とうとう家を追い出されてしまいました。

 すっかり途方にくれたトメでしたが、どうにかしてねぐらを見つけました。トメは頭が足りないぶん、いつまでもくよくよするたちではなかったのです。

 そうして毎日賭博で稼いでは、その日暮らしをしていました。

 そのうち、勝てない時にはいかさまをするようになりました。しかしある時、賭場の男たちにそれが見つかってしまい、さあ大変。

「この野郎、賭博でイカサマした奴はな、こうなるんだ!」

 男たちはトメをすまきにして、河に放り込んでしまいました。

 普通ならそこで溺れてしまうのですが、トメが水の中でしばらくもがいているうちに縄が外れ、トメは泳いで岸に辿り着きました。

 そしてそのまま逃げればよいものを、すっかり憤慨したトメは賭場に殴りこんだのでした。

「こら、おまえら!」

 賭場に飛び込むなり、トメは男たちに怒鳴りました。

「どうせすまきにするなら、もっとしっかり縛りやがれ!こんなんでトメ様をやっつけられると思うなよ!」

 男たちは、ポカーン。口をあんぐり開けてトメを見つめました。

「ははははは」

 その時、大きな笑い声が響きました。

 見れば、一人の男が大声で笑っています。それは、この街を牛耳っているやくざの親分さんでした。

「おまえ、おもしろい奴だなあ」

 親分さんはのんびりと言いました。

「おまえ、俺の子分になれよ」


 こうしてトメは親分さんの子分になりました。

 トメは醜男で背が低い上に首がとても短く、まるでガマガエルのようだったので、いつしか「がまのトメ」と呼ばれるようになりました。

 トメは度胸の良さで他の子分たちから一目置かれ、「がまのトメ」と言えば街で知らぬ者のない有名人になりました。

 泥棒、けんか、なんでもござれ。でも弱いものいじめは大嫌いでした。

 トメは皆に好かれ、とうとう何年か後に親分さんが亡くなった時には、その後を継ぐまでになったのでした。

 亡くなる前、親分さんは、

「どこの街にもな、俺達のようなはぐれ者がいるもんなんだ。俺は今までそういうやつらの面倒をみてきた。そのために色んな悪い事もやってきた。どんな言い訳したって許されることじゃねえけどよ。まあこれから俺は、神様のところにちょっくら謝りに行くからよ、後のことはよろしく頼むぜ」

と、トメに言い残してゆきました。

 親分さんの後をついだ「がまのトメ親分」は、たくさんの子分たちに囲まれ、幸せな日々を送っておりました。


 そのころ、トメの住んでいる国では、国が二つに別れて争っておりました。国の西側には尊い天子様、東側には偉い殿様が住んでおりましたが、このふたりのうちどちらが国を治めるべきかで皆の意見がまとまらず、人々は長い間争っていたのです。

 しかし長い長い争いの末、偉い殿様は歳をとって疲れてしまい、ついには尊い天子様に国の事を任せて引退することになりました。

がまのトメが住む街は東にあり、今までは殿様が治めておりました。そこへ今度天子様がいらして、これからはそこにお住まいになることになったのです。

「尊い天子さまがやってくるぞ」と、街の人々は口々に噂し始めました。

 

 その日、街の人たちは皆仕事をお休みにして、朝早くから街の目抜き通りの両脇に陣取りました。宮にお入りになる天子様が、今日お通りになるのです。

 人々には、誰にでも別け隔てなく、お酒が振る舞われました。街中の通りという通りには、この機会に一儲けしてやろうというたくましい人々の屋台が数限りなく立ち並び、様々な食べ物が競い合うように良い匂いをさせています。街のいたるところに歌や踊りを披露する者がおり、どこへ行っても軽やかな楽の音が聞こえるのでした。花や色紙で飾った華やかな山車を引く者もあり、街はすっかりお祭り騒ぎです。

「まだかなあ」

 人々は口々に言いながら、天子様の行列がやって来るのを今か今かと待ち構えておりました。

 やがて、遠くから微かに鈴の音が聞こえてきました。

 シャン、シャン、と響く澄んだ鈴の音に、群衆の中の誰かが、「しいっ」と唇に指を当てて言いました。

 鈴の音が少しづつ近づくに従って、大騒ぎしていた人々は次第に静かになりました。やがて、高らかな鈴の音と共に、行列に付き従う大勢の人の足音も聞こえてきました。低く静かに、笛や鼓の音も聞こえます。

 そしてついに、行列の先頭が見えてきました。鈴や楽の音が確かに聞こえているにも関わらず、不思議なことに、その行列は静かに静かに進んでいるように、人々には思えました。

 行列が近づいてきました。皆は小声で、「おおっ」と口々に囁きました。

 人々の身体の隙間から一生懸命覗いていた、がまのトメの目にも、行列が見えました。

 大勢の人達が、天子様のお乗りになった輿に付き添っています。皆、不思議な形に髪を結い、繊細な細工の飾りを付けています。綺羅びやかなその衣装は、海の魚のように色とりどりで、トメは、「今までこんなにたくさんの色をいっぺんに見たことがないぞ」と、心の中で呟き、思わず溜息をつきました。

 お付きの人達の前後には、立派な鎧姿の兵士たちが、凛々しい顔つきで行列を守っています。重たく静かな足どりで、全員がぴたりと同じ動きをしています。兵士たちが動くたび、その鎧に、初春の朧な太陽が反射して光りました。

 行列はまるで空を滑るかのように進み、先頭がトメの眼前にさしかかりました。それまで小声でいろいろ言い合っていた人々も、しんと静まりかえりました。一人一人がごくりと唾を飲み込む音まで、聞こえてくるようでした。

 お輿が、トメの前をしずしずと横切ってゆきます。お輿は御簾で囲まれており、天子様の尊いお姿を直接見ることはできません。しかし、その影をうっすらと御簾ごしに伺うことができました。トメの前を通った時、一瞬、天子様はその御髪を微かに動かされたようでした。御簾ごしのその影はまるで、しゃらりと音を立てるかのように動きました。

 行列が行ってしまった後、トメはぼんやりと道端に突っ立って、またお祭り騒ぎを始めた人々を見るとはなしに眺めておりました。

 トメは、考えました。

「これからこの街には、あの天子さまがいらっしゃる。尊いお方のお膝下で、やくざな稼業を続けていくのは、いかがなものか」


 考えた末、トメは、仲間たちを解散させることにしました。

 行くあてのある者にはまとまった金をやり、送り出してやりました。

 そして後には、トメと、どこにも行くあてのない幾人かの子分たちが残りました。

「さてこれから、どうしたものか」

 トメは、不安そうな顔をした子分どもの顔を見回しながら考えました。とにかく、どうにかして子分どもを食わせてやらねばなりません。

 トメは一人でふらりと外に出てみました。

 桜の季節です。街の真ん中を流れる大きな河の両岸には、その美しさを誇ろうともしない儚げな桜が立ち並び、風に身を任せて花びらの雪を降らせています。

 もう数日もすれば、この満開の桜も全て散ってしまうのでしょう。そして葉桜の季節となるのです。

「この世の中も、この桜も、同じなのかもしれないな」

 見上げていたトメの肩先に、桜の花びらが一枚舞い落ちました。

「きっと、全ては変わってゆくものなんだろう」

 肩先の小さな花びらは、ふわりと去ってゆきました。それを見ていたトメの頭に、ふと、ある思いつきが浮かびました。

「そうだ、花屋をやろう」


 大通りのど真ん中。街中でも一番賑やかな所に、トメの花屋は開店しました。

 トメと子分たちは張り切って、赤、白、黄、紫、色とりどりの花を店先に並べました。

「いらっしゃい、いらっしゃい」

 大声を出して、道行く人々を呼び止めます。

 しかし。

 人々は、店の前を足早に通り過ぎて行くだけでした。花に目を止める者は誰もいません。顔を伏せ、店先のトメや子分たちと目を合わせないようにしている者すらいるしまつです。そしてそういう人たちは、店の前を通り過ぎると顔を上げ、歩みを緩めるのでした。

「おかしいな」

 トメは首を傾げました。こんなに美しい季節の花々に、人々が目もくれないなんて。

 来る日も来る日も、トメと子分たちは一生懸命働きました。しかしいくら待っても、誰も来ないのでした。花はだんだんしおれてゆき、とうとう売り物にならなくなってしまいました。最初は張り切っていた子分たちも、枯れた花と同じようにしょんぼりとうなだれています。

 そしてトメには、お客さんが来ない訳がなんとなく分かってきました。

 子分たちも自分も、根っからのやくざ者。長い間に慣れ親しんだその生活で、みんなとても険しい顔つきをしています。頬に大きな傷のある子分もいます。ケンカで、片目になってしまった子分もいます。大きな身体に、立派すぎる力こぶのついた子分もいます。

 街の人々は、すっかり怯えているのでした。

「腹へったなあ・・・・」

 子分たちは店の奥で、小さな声で呟きあっています。花が売れないので金がなく、ここ何日もろくな物を食べていないのでした。

 そんな子分どもの様子に、トメは胸がつまりました。

「やっぱり、おれは間違っていたのだろうか」

 トメも、うなだれてしまいました。


「おう。トメじゃねえか。何してんだ」

 突然誰かが、店先からトメに声をかけました。トメが顔を上げると、通りかかったのは顔なじみの隣町の親分でした。

「そういや、花屋を始めたんだってな。景気はどうだい」

「・・・・それが、さっぱりでさあ」

 トメは小さな声で、親分さんに答えました。

 親分さんは店の様子をちょっと見回すと、察したようでした。

「なるほどなあ」

「花は枯れちまうし、良いことなしさ。このままじゃ、俺も子分どもも飢え死にだ」

「はっはっはっ」

 親分さんは豪快に笑いました。

「そりゃおめえ、花だもんな。食えもしねえのに傷むもんなんて、いいとこなしよ。綺麗なもんは食えねえのが世の中の決まりじゃねえか。食いたかったら、食い物屋をやればいいのさ」

 親分さんの言葉に、トメははっとしました。しかし、

「食い物屋って、いったい何をすればいいのか・・・・」

「そうだなあ。俺の街にある老舗の蕎麦屋から、職人を寄越してやるよ。そいつから蕎麦作りを習ったらどうだい」

「そいつはいい。親分さん、頼みます」


 こうしてトメは花屋を早々に店じまいし、代わりに蕎麦屋を始めたのでした。

 店はやはり閑古鳥でしたが、ともかく売れ残った蕎麦で腹だけはいっぱいなので、子分どももあまりしょぼくれる事はありませんでした。

 隣町の親分さんが寄越してくれたのは、たいへん腕の良い蕎麦職人でした。子分たちもトメもうまい蕎麦に舌鼓を打ちながら、「なあに。こんなにうまい蕎麦だ。そのうち皆食べにくるさ」と、気楽に考え、一生懸命働きました。そうしているうちに、子分たちの顔つきも明るくなっていきました。皆、胸を張ってお天道さまの下で働ける事が嬉しかったのです。

 その頃、街の港には外国からたくさんの船がやって来ておりました。今までは外国の船はその港につくことを許されていなかったのですが、世の中が変わって、それができるようになったのです。街の人々は、初めて見る大きな大きな外国船や、異国の船員たちにたいそう驚きました。

 ある日のお昼時、外国船に乗っていた船員の一人が、トメの蕎麦屋にふらりと入ってきました。きっと異国の食べ物に興味があったのでしょう。トメたちは恐る恐るその船員に蕎麦を出しました。よく陽に焼けた金色の髪に、浅黒い肌をした異国の大男が蕎麦を食べている様を、子分どもは物陰から眺めました。そしてヒソヒソ声で囁きあいました。

 しかし異国の船員は、蕎麦をたいへん気に入ったようでした。言葉が分からないものの身振り手振りと笑顔で、たいへんおいしかったと言っているようでした。そして船員は上機嫌で、代金を払うと帰っていきました。

 次の日も、その次の日も、船員は姿を見せました。船が出港してしまうまで毎日、時には仲間の船員も大勢連れて、蕎麦を食べにやってきたのでした。

 トメの蕎麦がうまいという噂が、船員たちの間で広まったのでしょう。トメの蕎麦屋はだんだん船員のお客で賑わうようになりました。そして異国の船員たちだけでなく、街の人々も皆次第に、蕎麦を食べにやってくるようになりました。

 

 その後トメの商売はうまくゆき、トメも子分たちも、それぞれお嫁さんをもらって皆で助けあって暮らしました。トメが死んだ後はトメの息子が、トメの息子が死んだ後はまたその息子が、と、代々トメの蕎麦屋は繁盛しました。外国との大きな戦争があったりして、街の様子はいくらか変わりましたが、今でもトメの子孫たちはその港町で蕎麦屋を営んでいます。

 トメは今、街を見下ろす小高い丘に建てられた墓に眠っています。きっと春にはそこから、満開の桜でものんびり眺めていることでしょう。

 

 それから、もうひとつ。

「花屋はだめだ」

 それが今も、トメの子孫に代々伝えられている教えだそうです。





おしまい。

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