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よつあめ

さぁ、出発だ。

今、眠気来る。


ちゃんちゃらちゃららー

ちゃらちゃちゃちゃららー。


先生のいる、あの保健室。

安眠ベッド、めーざーせぇー。


(替え歌)









「…吉津音先生」

「っわぁぁ!!び、ビックリしたっ…」


保健室に入って来ようとした吉津音先生を、私は中で待ち受けていた。扉を開けたら私。さぞ、吉津音先生は驚いたことだろう。


だが驚いたのは束の間。


「如月さん、またですか」


吉津音先生はそう言って私の横をするりとすり抜け保健室に入る。吉津音先生は怒りも呆れも通り越し、あきらめの境地に達してきたようだ。

諦められました。

ついに私、諦められました。


「また、って言わないで下さいよ。病み病みな生徒に失礼な」


私は吉津音先生の背中に言う。


「如月さんの場合は、病みっていうのとは少し事情が違うじゃないですか。ここではなく家で寝ることだって可能なはずです」

「眠れないんだもん」


ぶー、とぶーたれた私に吉津音先生は真顔で「可能なはずですよ」とまた言った。


「如月さんなら努力すれば可能です」

「…努力なんて嫌いだし」


それより、と私は話題を反らし、びしりとある一点を指差す。


「誰ですか。私のベッドで寝ているのは」


びしりと私が指差した先はベッド。

保健室の一つしかないベッドは今、白いカーテンで仕切られ、中には誰かがいて寝ているみたいなのだ。

その誰かのせいで私は保健室に来たというのに寝ることもできず、こうして吉津音先生が帰ってくるのを待っていたのだ。起きて。

起きて。


起きて。


「誰ですかっ、私の睡眠妨害はっ!」

「如月さん、しっ」


吉津音先生は誰がいるのか知っていたらしく、人差し指を口に当て、静かにという仕草をした。

だがこれが静かにしていられますか。

私のベッド。

私のベッドなのに。

すると吉津音先生は呆れたように口を開く。


「如月さんと同じ一年生の長月君です」

「…吉津音先生、私一年じゃなく二年ですけど」

「えっ!?ホントですかっ!!」

「いえ、嘘です」

「………」


しかし、一年のくせに私のベッドを占領するとはなんて不届き者だ。なんて千万な奴なんだ。


「起こしてもいいですか」

「駄目に決まってるじゃないですか」


くそう。

腹が立つ。

誰だよ、長月君って。


「その、にゃららら君はどうしてここで寝てるんですか。サボりですか」

「如月さんと一緒にしないで下さい」


その後、じゃあ何でなんですか何でなんですかと問い詰める私に折れた吉津音先生の説明によると、どうやらその長月君。学校に来ず家に引き込もってはや幾日の不登校児らしい。


「…引き込もり」

「今日は何とか学校には来れたそうなんですが、やっぱり教室には行けなかったみたいで」

「で、ここで私のベッドで私の睡眠を妨害して無駄な惰眠を貪っているということですか」

「ここのベッドは如月さんのベッドではないですし、いつも惰眠を貪っているのは如月さんですよね」

「てへ」


可愛子ぶったが駄目だった。


「だから如月さん。仲良くしてあげて下さいね」


吉津音先生はそう言った。

私と長月君とやらを仲良くさせて長月君の不登校を解消させたいのだろう。


「まぁ、吉津音先生に頼まれたら…」


断る事など出来はしない。私は頷いた。

そんな私に吉津音先生は微笑する。


「ありがとうございます」

「いえ。吉津音先生にはお世話になってますし。とりあえずツケときますね」

「……………」


それにしても不登校とは。

いじめなのだろうか。


「吉津音先生」


私が長月君の不登校理由を聞こうと吉津音先生の名前を呼んだ時、シャッ、と音がしてベッドのカーテンが開け放たれた。

長月君、起きたのかと私が振り向くとそこには。


「………………」


鼻眼鏡をかけ、制服の上から羽織ったパーカーのフードを深く被った男がいた。


「長月君、起きましたか」


吉津音先生がそう言ったので、間違いなく鼻眼鏡の彼は長月君らしい。何故鼻眼鏡。何故鼻眼鏡。


「鼻眼鏡が分からない人のために説明しよう。鼻眼鏡とは、余興などで使う小道具である。誰でも笑える顔になるという便利グッズなのである。けして不登校児がかけるような代物ではないはずなのである」

「…何ですか、急に」


そんな鼻眼鏡、いや長月君は吉津音先生の言葉に黙ったまま頷いた。


「すみません。煩かったですか?」


長月君は首を横に振る。


「そうですか。教室に行きますか?」


長月君は首を横に振る。


「分かりました。では、どうしますか?まだここにいますか?」


長月君は首を横に振る。


「家に帰りますか?」


長月君は首を縦に振る。


「分かりました。昇降口まで送りますね」


長月君は……、って、めんどくさいので割愛。


長月君はその後一言も発せず帰っていった。


鼻眼鏡をつけたままで。



「…鼻眼鏡」


絶対不登校児じゃないよ。

あれ、リア充だよ。絶対。


私の呟きに吉津音先生は。


「ああ、あれですか。あれは長月君が顔を隠す物をと望まれたので僕が彼にあげたんですよ」


と、あっけらかんと言った。


「何ゆえ」


何故それをチョイスするのですか吉津音先生。

私は吉津音先生の満足げな笑顔を見る。


つまりいじめでしょうか。

いわゆるいじめってやつなのでしょうか。

先生から生徒へのいじめでしょうか。

間接的ないじめでしょうか。


「顔が隠れるのって言ったらあれかな、と思いまして。普通の眼鏡だと目しか隠れないですし。あれだと顔の半分は隠れますから。長月君も気に入ってくれているようで良かったです」

「…………」


果たして、長月君は気に入っているのだろうか。まぁ、ちゃんと付けてた辺り満更でもないのだろうが。多分。

というか、顔隠すだけなら別にお面とかでも良かったのでは?とは吉津音先生には言わないでおいた。


そんな中、何処に潜んでいたのか狐の二郎がひょこりと出てきた。


「二郎」


二郎はててて、と歩いてきてジャンプして私の胸に飛び込んで来た。

ところを、吉津音先生に邪魔されあえなく捕まった。


「二郎」


吉津音先生が低い声でたしなめる。

二郎はツンとしたままそっぽを向いた。


相変わらずの二人がそこにいた。






《鼻眼鏡の君》


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