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「ひっ」
金華猫が息を飲む。
光は陣から鞭のようにしなって金華猫の手足を搦め捕った。
「かかったな」
「っ」
声にならない悲鳴をあげて金華猫が膝をつく。
荒い息のままに、木路蝋が呪をつむいで蘇芳を振り向いた。
「木路蝋さん、これ」
「止めは頼むぞ。氏神、夢獣の祖」
『言われなくても』
「兎さん」
頭の中で響いた呪。
蘇芳と露草を取り巻くように、似たような陣が淡い翡翠陣に光を放つ。
ふわりと重力に逆らって蘇芳の髪が浮かんだ。
「嫌よ!消えたくないっ!」
「何!?」
ぶちりと、金華猫の右手の拘束が契れて、衝撃波に窓ガラスが砕けて降り注ぐ。
それと同時に、蘇芳の周りの空気が圧力を変えた。
「!?」
息苦しさに慌てて露草を見た蘇芳の頭の中で、冷静な白銀の声がする。
『反動だ。手順をかなり省いたな。陣の力が足りない』
「そんな。どうしたら」
『手は、なくもない』
歯切れの悪い言葉。
けれど、問わずにはいられないのだ。
陣を抑えるように力を注ぎつづける木路蝋をちらりと見て、蘇芳は尋ねる。
「なんですか?」
『ここにいる連中から糧を得る。それぞれからなら、酷い量にはならないはずだ』
答えは殆ど想定内で、蘇芳は思わず少しだけ笑ってしまった。
視線の先で、エネルギーを奪われた露草と山吹の血の気のない顔と、戦い疲れた鴇と鈍、そして木路蝋の顔が揺れる。
もう充分だ。
そのために、蘇芳はここにいる。
「兎さん、任せます。だから、そのかわり、露草達は助けてください」
『どういう意味だ』
「全部、私がもらいます。だから、この世界は、護ってください」
『おい!』
ぶちりと、金華猫の左足が自由になった。
蘇芳は慌てて叫ぶ。
「兎さん、早く!」
『分かってるのか!?そんなことすれば、お前は』
「勿論です」
焦ったような声に、蘇芳が静かに頷くと、不意に苦笑するような気配がして、露草が目を開いた。
「勇ましい娘子よの」
「氏神、様」
その瞳の色をみるのは、二度目。
それは、確かに織の物だった。




