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「次から次へと!」
苛立たしげに金華猫が叫ぶ。
それはびりびりと世界を揺らして、思わず蘇芳は膝をついた。
「お前が悪あがきを止めればいい」
「ふざけないで! 消されると解っていて止めると思ってるの」
瞬間、距離をつめた金華猫の蹴りを反射で右腕で受けて、木路蝋は左手で呪を放つ。
「はっ!」
けれどそれは飛びのいた金華猫が放った気迫でばらばらと地面に落ちた。
「ふん、こんなもの?」
「本当に、最悪だな」
呻くような木路蝋の言葉に、頭の中で白銀の舌打ちが混ざる。
「兎さん?」
『読みが甘い』
「え?」
『一陽来復』
「いちようらいふく?」
『陰気が一番強い日だ。人の力が弱まって、雑霊の力が強まる。しかもあの馬鹿、随分喰いこんでやがる』
視線を向けた先で、木路蝋が金華猫の拳を避けた。
けれどもぎりぎりだ。
優勢なのはどう見ても金華猫で、木路蝋は躱すのが精いっぱいに見える。
動きの良い金華猫に比べて、木路蝋は何処かもたもたと危うく飛びのく。
けれどよけきれずに、まともに蹴りを喰らった木路蝋が蘇芳の右横へ吹っ飛んだ。
「愚かな人間など敵ではないのよ! 今世こそ、私は全てを終わらせるわ。当主のあんたも喰ってなんかやらないわ。刃物を突き立てて、抉って抉って痛みを感じさせて、」
「木路蝋さん!」
『待て、小娘』
露草を床に降ろして、立ち上がろうとした蘇芳は鋭い静止に露草を掴んだまま動きを止める。
上半身をむくりと起こした木路蝋は、立ち上がらずうつむいたままだ。
「情けないわね! 飼い犬に手を噛まれるような気分は。」
蘇芳が木路蝋の唱える呪に気づいたのは、多分金華猫と同時だった。
はっと金華猫が顔色を変えたが、踵を返すのは遅い。
木路蝋がいつのまにか逃げ回りながら床に記した陣が、淡い光を放って、金華猫の廻りを取り囲んだ。




