095
遥か天に届く霊峰の洞に、女が一人。
透き通る妙なる霊泉の畔に、男が一人。
敷地内に建てられた霊祠の横に、青年が一人。
円盤の札と翡翠を洞の奥に置いて、女は祈るように息をつめる。
六角の札と翡翠を泉に沈めて、男は硬い表情のままそれを見つめる。
立法の札と翡翠を地に埋めて、青年はまだ足りないというように口の中で呪を呟く。
同じ瞬間に、三人は空を仰いで目を閉じた。
『目を閉じろ!』
「!?」
反論するまもなく、閉じた瞼の向こうで何かが、唐突に弾けた。
目をあけてそう思った瞬間には、露草が投げ出されるように金華猫の手を離れる。
反射条件的に、蘇芳は飛びつくように露草の腕を掴んでその場を飛びのいた。
「邪魔するな!」
片目を抑えた金華猫が忌々しげに入口を睨んだ。
気を失ったらしい露草をぎゅっと抱きしめた蘇芳の耳に、穏やかな声が届く。
「女性に優しく、が私の信条だけれど、君には適応できないようだ」
入口に寄り掛かるように立つ鴇の様子に、顔を上げた蘇芳は驚いた。
いつも整っている髪は乱れ、制服もぼろぼろになっている。
すでに、満身創痍と言った様子だ。
「やあ。蘇芳君、大丈夫かい?」
「会長さんこそ、」
「思った以上に、あやつられてる人間が多くてね。元を立たねば駄目らしい」
鴇の手には、白い紙のようなものが握られていて、それに注がれた視線に気づいたのか、掌を広げて見せた鴇は、露草に視線を落とす。
「露草君が、私を呼んでくれたんだよ。御蔭で、なんとか案内もできた」
「会長さん!」
がくんと膝をついた鴇に、蘇芳が思わず声をあげると、鴇の後ろから伸びてきた手が、彼を支えた。
「最悪の展開だな」
届いた声に、蘇芳は思わず泣きそうになる。
「遅いですよ、木路蝋さん」
「二週間を縮めたんだ。早いくらいだろ」
金華猫を睨んで、そこには相変わらずの着流し姿で学校には妙に場違いな木路蝋が立っていた。




